157話 冤罪
傲慢の欠片の一件も落着し、カトレアちゃんとサーカスデートをするのは私ことサクラ・トレイルである。
カトレアちゃんが産んだ? 卵はそれ用の鞄を作って中に入れ、カトレアちゃんが背負っている。
「いつ産まれるのかしら」
「気長に待つしか無いでしょ」
何となくまだ産まれない気がする。セレスがいれば分かったかも知れないんだけどないものねだりしてもしょうがないから気持ちを切り替えよう。
「サーカスっていつからだっけ」
「午後からよ。午前中は街の散策でもしましょう」
カトレアちゃんの一声で街中を歩くことになった。
「不思議な街並みだよね」
「ええ、野性的ね。家が少なければ神秘的に見えたかもしれないけど……」
あちこちに生えてる木やいかにも隙間があったから建てたと言わんばかりの家々にため息をつく。
「門から城までの大通り以外の道が機能してないわ……」
「むしろ車が通れる大通りを作れたことに驚きだよ」
その道もガタガタしすぎて通れると言っていいかは分からないけどね。
そのまま二人で獣道を歩いていると前から狼の獣人が五人ほどやってきた。
「回り込まれているね」
「殴ってもいいのかしら?」
「相談しに来ただけで良い人達かもよ?」
後ろにも五人程の気配を感じ、カトレアちゃんと二人でコソコソ話をしていると一番体格のいいリーダーらしき人が一歩前に出た。もちろん囲ってきてる時点で良い人だなんて思っていない。
「嬢ちゃん達。こんな場所に来るなんて迷子だろう? 危ないからお兄さん達が安全な場所まで送ってあげようか?」
「結構よ。私達は散策してるだけで迷子じゃないわ」
カトレアちゃんが返事をして私は回り込んでいるメンバーを無力化する。
「ここは危険なんだ。痛い目を見る前に着いてくるといい」
「痛い目を見せようとしてるのはあなた達でしょう? 女の子二人に十人がかりなんていい度胸してるじゃない」
「なっ!」
イライラし始めたリーダーに対して挑発すると驚かれた。この人達大丈夫かな? か弱い女の子二人を十人で囲っておいて悪意ないが通じると思ってるのかな?
「あ、あいつらは見張りだ。護衛がいた方が安心するだろう?」
「危険な人じゃなくて私達の見張りでしょう。それに護衛だとしても隠れてたら気付かないし安心出来るわけ無いでしょ」
話しても時間の無駄な気がしてきた。ため息をついているカトレアちゃんを見るに私と同意見みたいだね。さっさと捕まえてライアスに引き渡そう。
「う、うるさい。お前らは黙って俺達についてくれば良いんだよ!」
「相手はもっと選ぶべきだったね」
カトレアちゃんと二人で狼の獣人をしばく。
「弱かったわね」
「門番に引き渡してからサーカスに向かおうか」
時間的にもそろそろ会場に向かうと暇潰しにはちょうど良かったかな? 十人を紐でぐるぐる巻きにして門番の前に転がす。門番さんも私達のことを覚えていたらしく丁寧に対応してくれた。
その後大通りに向かって大きなテントに近付く。
「いつの間に用意したんだろう」
「空の魔法では無いと思うけど……」
「お客様ですかな? かな?」
午前中には何も無かったところに突然現れたテントを見て二人で話していると突然後ろから声をかけられた。私の感知に反応しなかったんだけど!?
「え、ええ。……独特なメイクをしてるのね」
「ピエロってやつだね」
「ピエロをご存知でしたか。物知りなようだね。だね?」
顔の動きが気持ち悪い……。縦横斜めに回りまくっている。首の骨折れないのかな。
「中に入っていいの?」
「招待状かお金が必要になります。持っていますかな? かな?」
「招待状……。そんなの必要なら教えてくれれば良かったのに」
「一先ずお金でいいかな」
無くても入れるなら問題ないか。いくら掛かるのか聞こうとするとピエロは目をパチパチさせた。
「なんとなんとなんと! 貰わずに撃退していましましたか。これは驚きだね。だね?」
撃退? もしや……。
「狼の獣人はサーカスの関係者だった?」
「そうですよ。知らずに撃退しちゃったのかな? かな?」
「「…………」」
二人でそっと目を逸らす。怪しさ満点だったのだから仕方ないじゃん! でも言われてみれば確かに口調は悪かったけど私達を気遣っていたような?
「彼らは口下手ですから。しかたありません。でも困ったな。困ったんだよ?」
「……なにをして欲しいの?」
にやりと笑うピエロに顔が引きつる。今回の件は向こうが怪しかったとはいえこちらが悪いから余程の事じゃないと断れないね……。
「このままではサーカスを開催できなくなってしまいますから。お二人には演者として出ていただきたいんだよ。だよ?」
「演者?」
「十人で二つの空中ブランコを飛んで火の輪をくぐる演目をしていたんだけど二人で代役となるともっとインパクトのあるものが欲しいよね。よね?」
空中ブランコと火の輪くぐりの合体演目ってことか。かなり壮観だよね……。
「ちなみに魔法はありかな? かな?」
「口癖が移ってるわよ」
「面白ければオールオーケー! ただし、お客様を萎えさせたときは……」
ふふふと不気味な笑いをするピエロ。メイクも併せてめっちゃ怖いんだけど……。
「えっと、私の考えだと……」
「いいですよ。採用です! 期待してるんだよ。だよ?」
私の案を聞いたピエロは目をきらりと光らせながら私達を楽屋裏へと案内してくれた。
次話は明日の17時投稿予定です
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