137話 カトレアとの戦い
一難去ってまた一難。そんな言葉が頭の中を巡っているのは私ことサクラ・トレイルである。カトレアちゃんが取り押さえられているのを見て激昂しかけたけど直ぐにカトレアちゃんの異変に気付く。目が血走ってるしいつもよりケモ度が高い。触るとモフモフで気持ちよさそう……じゃなくて何が起きたか確認しないと!
「ジーベットさん! アイリちゃん! カトレアに何が?」
「あれがカトレア!?」
マジュリーが驚いてるけど説明は後だ。
「サクラさん! カトレアさんはほんの五分前まで眠っていたはずなんだけど突然起きて暴れだしたんだ。このままだと危険だったから一先ず取り押さえて貰ったんだけど今までもこんなことあったのかい?」
「いえ、私とカトレアは幼馴染で三歳くらいの頃から知っていますが今までこんなことは一度も起きてないです」
「そうか。何が原因だろうね」
ジーベットさんは分かってないみたいだけど今のカトレアちゃんからは別の気配が滲み出ている。先程まで私達が戦っていたクジラ……嫉妬の欠片の気配だ。
「リヴィ!」
「仕方ないわね。私も同じ考えよ」
緊急事態にリヴィも姿を現し二人でカトレアちゃんに向き合う。私の言いたい事が伝わったらしく、嫉妬の欠片がいることに同意してくれた。日本でも狐は嫉妬深いと言うしカトレアちゃんは囚われやすかったのかもしれないね。
「サクラ。どうするの?」
「カトレアの事を攻撃したくないから別の手段でいくよ」
マジュリーの問いに答えつつ構えをとるとカトレアちゃんがコッチを向いた。
『ズルイ……』
私を見て一瞬表情が和らいだカトレアちゃんだったが私の横にリヴィが、後ろにマジュリーが立っているのを見て目のハイライトが消える。
「良く表情の違いが分かるわね……」
リヴィが呆れてるけど私がカトレアちゃんの事を分からないわけないでしょう? 例え大きな狐になっていたとしても! というかあなた達神霊も猫なのに表情豊かでしょうが!
狐形態となり二本になっていたカトレアちゃんの尻尾の数が三本に増え、カトレアちゃんの内包する魔力量が増大する。尻尾が増えるほど強くなのか。最終的には九本になりそうだよね。
なんて考えているとカトレアちゃんが抑えつけていた近衛兵を吹き飛ばしてリヴィに襲いかかる。
「リヴィ、カトレアに攻撃したら怒るからね」
「ちょっと! 最低限の自衛ならいいでしょう?」
「……………………カトレアに傷一つ残らないなら」
「めちゃめちゃ悩んだわね!? しかも無茶ぶり」
当たり前でしょう。本当はダメだって言いたいんだから。
さて、カトレアちゃんを嫉妬から解放してあげるためには何に嫉妬してるかを知る必要があるよね?
「リヴィ、神殿に来る前にカトレアに何かした?」
「付いてこないように気絶させたわ」
「へぇ?」
「ひっ! その声止めて! 危険な目に合わせないようにするためなんだからいいでしょう?」
思ったよりもドスの効いた声が出た。ふぅん? カトレアちゃんを攻撃したとね? これは後でおしおきかな? ふふふ。
「嫌な予感がするんだけど……」
「勘がいいね」
「そこは隠すところじゃないの?」
リヴィだけでなくマジュリーやアイリちゃん、ジーベットさんまで震えてるけどどうしたのかな? 冗談に決まってるでしょう? ふふふふふ。
「ならその笑みを止めなさいよ!」
「マジュリー、歌の魔法でカトレアの動きを遅くできる? 後、回復効果も乗せてあげて」
「回復も?」
「もちろん。嫉妬の大罪の適用範囲が嫉妬の欠片だけなのかカトレアも含むのか分からないし」
なんて言いつつもカトレアちゃんまで無効化の適用範囲なのは見ていれば分かる。どちらかと言うとマジュリーの歌が綺麗だからカトレアちゃんに届かないかな? とか思ってる事の方が大きい。
「〜〜♪」
『ズルイズルイズルイズルイ!』
私の指示を聞いたマジュリーが歌を歌い始めるとカトレアちゃんのヘイトがリヴィからマジュリーに移った。なるほど? なんとなく見えてきたね。
歌を歌いつつもカトレアちゃんから逃げ回るマジュリーの間にリヴィが入りマジュリーを守る。あ、不味いかも。
「リヴィ、今は攻撃したらダメ!」
「なんで……いやなんでよ!」
なんでなんで言いすぎだね。まあ、前者のなんでは私の指示に対してで後者のなんでは嫉妬の大罪の対象がマジュリーに移ってることに対してだろうけどね。普通に考えると逃げるだけの相手ではなく反撃してくる相手に対して使う魔法だから驚くのは分かるけどカトレアちゃんが今狙ってるのは私の指示で|動きを変えたものだ。
「次はリヴィに攻撃が向かうよ。気をつけて」
私が言うと共にカトレアちゃんの標的がリヴィに移る。これでリヴィがうっかりしてもカトレアちゃんが傷付いたりはしないだろう。後やるべきことは……。
「カトレア! 正気に戻って! 嫉妬に負けちゃダメだよ!!」
とりあえず声をかける! 声が届けば正気に戻るはず! だって定番だもの!
テンプレを信じて声をかけ続ける。リヴィもカトレアちゃんの動きに慣れてきて周りに被害が出ないように、そしてカトレアちゃんに負担がかからないように攻撃を捌いている。ジーベットさん達はマジュリーの元へ移動して近衛兵達に守られている。ありがたいことに攻撃する意思はなさそうだ。
しかし、いつまで経ってもカトレアちゃんは正気に戻らない……どころか尻尾が四本に増えて攻撃が苛烈になっている。
「サクラ! これ以上強化されるとキツイわよ!」
「分かった! 一つ賭けにでるよ!」
リヴィの言葉に腹を括る。ごめんねカトレアちゃん! でもカトレアちゃんのためだから許してね! ぐへへ。
私はリヴィと相対するカトレアちゃんに近付いていく。……手をワキワキさせながら。
次話は明日の17時投稿予定です
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