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ショートショート集

素直に好きと言える場所

作者: 青樹空良

 女子トイレは、赤。男子トイレは、青。

 誰もが知っている常識だ。


 最近ではかなり様々な色が選べるようになってきたランドセル。

 これも一昔前までは、女の子が赤で男の子が黒なのが当たり前だった。

 今でもやっぱり女の子のランドセルは赤が多い。

 逆に、自由に選べるからといって男の子が赤を背負っていたら、好奇の目で見られる。


 そもそも一体誰が赤は女子の色などと決めたのだろうか。


 赤は女の子の色。

 そんな強烈な刷り込みが、今、僕を悩ませている。


 男たちよ、思い出して欲しい。


 赤とは。

 レッドとは。

 僕たちにとって特別な色では無かったのか!


 そう、レッドは子どもの頃の僕にとって特別な色だった。


 日曜日なのに早起きしてテレビの前でわくわくと待っていたあの頃。

 ひらがなの字幕に合わせてオープニングを熱唱し、決めポーズを一緒に取る。

 心を躍らせていたあの時間。


 戦隊もののリーダーは!

 常にレッドだったじゃないか!!


 レッドは最高にかっこいい色だ。


 それなのに、それなのに。

 周りのものを赤で揃えようとしたら、母親に女の子みたいだから止めなさいと言われた。

 好きな色は赤だと言うと、友だちには馬鹿にされた。


 おかしいじゃないかと思わずにはいられなかった。

 赤は、レッドは、最高にかっこいい色なのではないかと叫びたかった。


 というわけで、僕は目の前の問題に直面していた。

 目の前には陳列された色とりどりの真新しい車たち。

 隣には彼女。


「まだ色、悩んでるの?」

「あ、ああ、うん」


 スポーツカーならまだいいかもしれない。だけど、普通の乗用車で赤なんか選んだらまた何か言われるんじゃないかと不安になる。

 前の彼女には言われた。

 今みたいに一緒に新車を見に行ったときのことだ。


『え、赤? 女子っぽくない?』


 ああ、やっぱりそうなんだ。と、落胆したことをまるで昨日のことのように憶えている。

 おかげで、今乗っている車は渋い青なんかを選んでしまった。

 気が弱くて嫌になる。


 本当は!

 赤が!

 好きなのに!


「……赤とか、どうかな」


 さりげなく聞こえるように、呟くように言ってみる。


「いいんじゃない?」


 さらりとした答えに僕は思わず耳を疑って、彼女の顔をまじまじと見てしまった。


「どうしたの?」

「あ、いや。僕もそろそろおっさんだし、もっと青とか黒とか渋い色の方がいいのかなと。それに赤って女子が乗ってるイメージがあるような気がして」

「そう?」


 彼女は首を傾げる。


「別に。私は女だけど青とか渋い色の方が好きだし、性別なんて関係ないんじゃない?」


 彼女はドライに答える。

 その横顔は僕よりもずっとかっこいい。


   ※ ※ ※


 念願の赤い車に乗り始めてから、すでに数年が経った。

 そして、


「パパ! 見て見て!!」

「おお! かっこいい!!」

「えへへ」


 僕の目の前では今、お気に入りのグレーの服に身を包んだ娘が、今ハマっている戦隊もののポーズを得意気に取っている。

 娘は戦隊の中のシルバーがお気に入りなのだ。グレーはそれに一番近いということで大好きらしい。

 途中から出てきた謎の戦士シルバーに目を止めるとは、我が娘ながらなかなか渋い。


「ほんと、二人とも戦隊もの好きなんだから」


 僕の隣では、妻がにこにこと笑っている。

 娘が女の子向けのアニメに見向きもせずに、戦隊ものを観ていることに関しては、


『別に。本人が好きな方を観ればいいんじゃない?』


 とのことだ。


 妻にはあの赤い車を契約したその日にプロポーズした。


 一緒にいるのなら、好きなものを好きと言える人がいい。

 そう思ったから。

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