第九草:ザッソン刈りから始まった少年譚 伍(雑草は侮れない)
「ついに、この俺にも希望の日差しが現れたぁぁ‼︎」
そこから、裕もやる気がより一層芽生えた。
「一草目!二草目!三草目!!」
一草ずつ対処していく。
フィレックの攻撃は単調で雑さがあったため、軌道矯正を裕の方で行っていく。
だが、正面のみしか対応ができない分、他方から来るザッソンの攻撃にガードできず、フィレックの身体にダメージが蓄積していく。
鞭のようにしなる草部分がフィレックの素肌に真赤な曲線を複数刻み付ける。
「っくそ!くそ、くそぉおおぉぉぉ‼︎」
裕もフィレックも徐々に自棄になっていく。
フィレックの攻撃も雑さがより一層目立ち、攻撃は裕の軌道矯正をもってしても、空を引き裂くことでしかできない。
「ごめん、みんな。ごめんなさい、柚子のおばあちゃん。約束、守れなかった…。」
フィレックは、戦闘時の緊張感から来る精神的な疲労、戦闘ダメージやここまでの肉体的疲労が蓄積しているせいか、弱気になっている。
幼い子どもの精神力など高が知れているかもしれない。
それでも、フィレックは家族を思う力だけでここまで戦っていた。
「ああ。フィレックとか言う少年。もうあと数回しか草刈り鎌を振れないだろうな…。きっと、少年のHPバーが底を尽きそうになっている状態だろうし…。」
フィレックの呼吸も徐々に荒く、頻度が増していくのが分かる。
それでも鎌を精一杯に振り回して、ザッソンへ攻撃や牽制を行い続ける。
「…。」
もう、フィレックの口から言葉が出なくなってきた。
「多分、次の一撃か、二撃目が最後の攻撃になるだろうな。」
その一撃、二撃に裕は全力で集中する。
フィレックは残った力をすべて振り絞り、草刈り鎌に覚悟と渾身の力を乗せて振り切った。
その一振りは、今まで見たことがない真っ赤な閃光を残すような一振りになるとは露も知らずに。
ギゥウイィィン。
燃えるような赤さは、ザッソンを切り裂くなり、真っ赤にザッソンを包み込む。
燃え上がったザッソンは、その熱さに耐えれずに悶える。
その火種はまた別のザッソンに移り込み、火はやがて大きな火の海となっていった。
どうやら、数匹刈っていくに連れて、徐々に熟練度と使用者のレベルが上がっていたようだ。
スキル欄にあったスキルを見直す裕。
・武器強化
熟練度によって、装備者のステータス補正値+
特殊スキルの向上、追加が行われる。
そこには、初めてのレベル上げを行ったからであろうか?『武器強化』のスキルが追加さいた。
そのスキルは熟練度によって、持ち主のステータス補正値の向上や武器の特殊スキルが追加されるらしい。
改めて、自身のステータスを確認する裕。
北村 裕 (キタムラ ユウ)
Lv6(熟練度)
HP34(武器耐久値)
Job:農具(草刈り鎌)
STR:15(装備者のステータスへ加えられる攻撃の補正値)
スキル
・ウェポンチェンジ
使用者変更時に Lv+装備品(種類)+付属効果(属性や特殊属性など)の変更。
・武器強化
熟練度によって、装備者のステータス補正値+特殊スキルの向上、追加が行われる。
特殊スキル
・焚き火:Lv1
斬撃時に火属性付与が30%の確率で発生する。(熟練度に応じて、発生確率が向上する。)
裕のステータスには、いくつかの項目の変更があった。
どうやら、先程出現した火属性攻撃は、この焚き火によるものであろう。
熟練度が最低ランクなため、あの時に出現したのは奇跡的なものなのかもしれない。
「やっと…終わった…。」
不意に聞こえた少年の声に裕も、安堵する。
「ああ。終わったな。お疲れ様、俺の小さいご主人様。自動操作は今回、軌道修正のみのため、少年の身体の負担は低いはず。だが、それでも急な軌道変更が起きれば、身体も変に捻れる。きっと、明日辺りは、酷い筋肉痛が少年を襲うのであろうな…。」
今はアドレナリンが分泌されて、痛みだけは感じていない様子のフィレック。
残った体力を振り絞り自宅の方ではなく、おばあちゃんの約束を果たしに向かうフィレック。
その道中で、裕は考えていた。
「俺がやったのは軌道修正のみだった。」
その言葉が何を意味するかというと、フィレックは自身のスタミナだけでここまで戦ったことを指す。
この激闘をこの幼い身体で生き残ったのは先程の特殊スキル発動並み、あるいはそれ以上の奇跡的に近い。
「まったく。大した男だったぜ!」
ここまで共に戦った小さい勇者を誇り、激励する裕。
のどかであったであろう村は、メラメラと音を立てている。
背後から熱気が伝わってくる。
「前世と言えばいいのか?前の世界で感じた真夏の熱気そのものだな…。オレは、この真夏の熱気に当てられて、異世界強制転生を果たして、軍手になり、今に至るわけか…。なんだろうこれ…この先、不幸が起きるか、問題が起きる予測しか立たないのだが…。ああ、憂鬱だ〜。」
一人でブツブツ小言を言う裕。
背後の熱気も裕の小言もお構いなしに、フィレックはただ約束だけを果たしに進む。
もう意識は朦朧としており、ただ意識が薄れる前に、たった一つのことだけを遂行しようと動いていた。
その足取りがいつ途切れたのであろうか。
いつに間にか、裕の身体は地面に放り投げられていた。
そこから見える景色は、お伽話でよく言う地獄なのかもしれない。
真っ黒な煙が空を覆い隠し、地は真っ赤に染まっている。
煮えたぎるような熱さがそよ風に乗って身体を撫でる。
ザッソンたちを包み込んでいる火の海は徐々に弱まり、やがて焼け野原と化し、燃え切ったザッソンたちの灰が山のように積もっていた。
第一束:真夏の熱気に当てられて 完
第一束(章)までご愛読ありがとうございました。
次回まで少し猶予期間を設けます。
目標としては、せめて一巻分までは掲載を頑張ろうかと思います。
今後とも、よろしくお願いします。