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第八草:ザッソン刈りから始まった少年譚 参 (変革と更なる希望)

 少年はもう、疲労困憊のような状態だった。

 緊張が解れ、力が抜けつつある。

 目的地の扉の前に立つ。

 震える手を押さえつけながら、両手でドアノブを回す。

「ただ家を訪問するだけなのに、ここまで大変だったとは…。」

 少年はそう思いながら、力一杯に扉を開ける。

「すいませーーーん‼︎」

 少年はありったけの声量を出して訪ねた。

「封印した『魔具』を貸してください!村が、村がぁぁ!」

 泣き崩れる少年を見て、やはりただ事ではないと思ったおばあちゃんたち。

「あれ⁉︎確かフィレック君じゃあない…。やっぱり村が大変なことになっているの⁉︎」

 心配そうな顔をする柚子。

 柚子の奥にいたおばあちゃんが用件を把握してから、すぐさま行動を起こす。

「蜜柑や。あの木箱を持って来てはくれぬかの〜?」

 おばあちゃんが柚子の母親、蜜柑に『魔具』を持って来てもらうようにお願いする。

「分かったわ、おばあちゃん。ちょっと待っててください。」

 急いで封印していた魔具を農具小屋から取り出しに向かう蜜柑。

「それで、村はどうなっているかの〜?」

 おばあちゃんは、フィレックを家に招き入れ、椅子に腰掛けさせた。

 おばあちゃんとフィレックが席につくなり、柚子はお水を二人の前に置く。

 フィレックは置かれたコップを持ち上げ、中に入っていた水を一気飲みする。

「ぷっはあぁぁ。」

 生き返ったように思えるフィレックは調子を取り戻したかのように、村で起きた出来事を早口で話す。

「おばあちゃん、持って来たわよ。」

「おお、ありがとうの。蜜柑。」

 おばあちゃんは小さな木箱を受け取ると、すぐさま少年の方へ向き直す。

 少年の両手に木箱ごと託す。

 託した手を離す前におばあちゃんが、少年を悲しそうな表情で見つめる。


「いいかえ、フィレック。この軍手には恐ろしい力がある。装備者の命を奪うまでか、はたまたザッソンを刈り尽くすまでか。それまでにその身、その命が尽きないようにすることを約束してくれないかい?」


 それは、装備したことがある者から助言でもあり、心配でもあり、約束でもあった。

「ありがとうございます。必ず生きて、生きてお返しにきます。」

 フィレックは涙を服でぬぐい、受け取った小さな木箱を大事に抱いて来た道を引き返す。

 その小さな身体に大きな勇気と希望を持って……。


#########


 時は少し巻き戻る。


「さ、寒い…。夏だよな…?」

 光が入らない農具小屋では、夏の夜は涼しいのを通り越して寒さを感じさせるほど冷え切っていた。

 暗い中で、裕は急に身体が浮いたような感覚に陥る。

 断続的に起こるそれは、地震の前触れである初期微動に似たものに感じる裕だったが、どうやら違うことに気づく。

 地震ではなく、人が走ってこちらに向かってくる振動だった。

「はぁ…はぁ。これね。」

 裕は、聞き覚えのある女性の声が少し息遣いが荒かったことに、少々嫌な予感を感じる。

「何かが起きているらしいし、嫌だな〜この展開は…。」

 蜜柑は裕を持ち上げて、玄関方面に走っていく。

「うおぉぉおおおお!」

 木箱内が激しく揺れ動く。

「人を閉じ込めるわ、激しく動かすわ、異臭地獄に、洗濯地獄…この世界は一体、俺に何を望んでいる⁉︎こんな仕打ちしかない世界は大っ嫌いだー!」

 喚き散らす裕のことなど世界はお構い無しらしい。

 それは柚子の母親、蜜柑にも当てはまっていた。

 慌ただしく動き回る中、急に止まったと思いきや、木箱の僅かな隙間から、おばあちゃんが謎の少年に木箱ごと託す姿が裕の目に映る。

「おい。一体何が起きている?」

 状況が掴めないまま、裕はフィレックと呼ばれる少年に抱きしめられながら、村の方へ進んでいた。

 またしても、激しく揺れ動く木箱内。

 もう、木箱内は安全バーの無い絶叫アトラクションそのものである。

 ようやく落ち着いたらしく、木箱の隙間から僅かに見える外の景色。

「そ、そんな…。」

 少し気落ちして崩れるフィレック。

「これが、あの村なのか?」

 村についた頃には、あたり一面を草が敷き詰められてできた草原が広がっていた。

 すべてザッソンである。

「おいおいおい。何だよ、この芝生は?いや、よく見ると、芝生にしては荒くお粗末だな…って、雑草畑じゃあないか⁉︎」

 裕にとっては、たった数日前に全部刈り上げた雑草が全て元通り…を上回る勢いで、雑草たちは奮闘した光景が映った。

「たった数日前に刈ったのに、またそれ以上に生えてくるのかよ!髭か!剛毛髭かよ!」

 裕はツッコミながら、事態が緊急事態であることを悟った。

「「このままではマズい。」」

 そう思ったフィレックは、抱いていた木箱を開けて、『魔具』と恐れられていた軍手を出そうとする。

 裕はフィレックが木箱の蓋を掴んだと同時に、気合を入れた。

「ったく。ようやくオレの出番ってわけか。久しぶりにシャバに出る囚人の気分だ。まあ、罪人であることには変わりがない。罪滅ぼしには丁度いいかもな。」


「頼む!お前の力を貸してくれ。ボクの命に代えても、この村は…妹たちは、ボクが守りたい!守ってみせる!」


 覚悟はとうにできている者は、決断が早い。

 木箱から眩い光が軍手に突き刺さる。

「っく。久しぶりの光はちょっと目に染みるな…。」

 フィレックは木箱から取り出した軍手を両手に装備した瞬間であった。

 軍手は光り輝き始め、フィレックは眩しさのあまり目を瞑る。

 次に目を開けた時には、フィレックの両手には軍手ではなく、一本の草刈り鎌があった。


「なんだよ、これ…。」


 動揺を隠せない台詞。

 それはフィレックだけではなかった。

 裕もまた、自身の身体が変形したことに驚きを隠せないでいた。


「なんじゃ、コレはーーー‼︎‼︎」


 身体の感触が違い、視界がクリアに見える。

 以前とは比べ物にならないくらい調子が良い。

「これでオレも前線で戦える!」

 そう思ったのも束の間だった。

 変身したてのホヤホヤな草刈り鎌一本では、到底群がるザッソンを一掃できるわけもなく、危険な現状を打破したわけではない。

 フィレックが草刈り鎌を用いて戦っても、ザッソンには歯が立たない。

 それは目に見えていることだ。


「まさか⁉︎変身しても、レベルが低いのか?」


 その言葉が出てきたところで思い出す。

 ここは以前の世界とは違い、雑草モンスターがいる異世界。

 もしかしたら、ゲーム設定みたいなお決まりのステータス情報が分かるのかもしれない。

 裕はステータスの出し方が分からず、色々試す。


「ステータス、ステータス、ステータス!」

 違うな。

「オープン・ザ・ステータス。」

 違うか。

「プロパディ。」

 ダメか。

 ならば念押しで呼んでみるかと、試行を変える。

 すると、脳内に表示されるかのように、薄い青の一枚板が出現した。

 そこには自身の名前や職業(Job)、ステータス数値、レベルなどが記載されていた。


 北村 裕 (キタムラ ユウ)

 Lv1(熟練度)

 HP10(武器耐久値)

 Job:農具(草刈り鎌)

 STR:3(装備者のステータスへ加えられる攻撃の

 補正値)

 スキル

 ・ウェポンチェンジ

 使用者変更時に Lv(レベル)+装備品(種類)+

 付属効果(属性や特殊属性など)の変更。


 この時、初めて希望が見えてきた。

 装備者によって変わる武器。

 それは上手くいけば、喋る武器や動く武器になれる可能性があり、自立できるかもしれないという希望だった。

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