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第七草:ザッソン狩りから始まった少年譚 弍 (現実の厳しさ)

 ザッソンたちに気づかれぬよう、慎重に進む。

 その片手には、お手伝いでよく使う愛刀(薪割り用のなた)を持つ。

 全身に滲み出る汗が、彼の心情を物語っている。

 物陰に隠れて進むにつれて、段々と身を隠せれるスペースが減って行く。

 すると、不意に後ろを通り抜けたザッソンの気配に思わず声が出てしまう。

「しまった!…今の声を聞いたのであろうか?」

 音を拾う器官はザッソンには、おそらくない。

 だが、その長い葉の部分が空気振動を察知したのであろう。

 通り抜けたザッソンが少年の存在を知るや否や、襲いかかる。

「うわぁああぁぁぁ‼︎」

 叫んでも、誰も来ない。

 来るはずがない。

 意を決めた少年は、持っていた鉈を額の前まで持ち上げて、大きく振り下ろした。

 ザッスン。

 少年は、真っ向から襲いかかってきたザッソンを真っ二つに切りつけた。

 少年の心臓が激しく脈を打っている。

 まるで心臓が口元から出そうな錯覚を起こすほどに少年の心臓は必死に動いていた。

 少年は、息が乱れていることに今更気がつく。

 それほどまでに、不意に起きた出来事は、少年の意識を恐怖へ染め上げていたのだ。

「これが、farmers(ファーマーズ)…。」

 少年はファーマーズに憧れていた。

 だから、戦いでよく狩られる下級モンスターなら大丈夫だと思い込んでいた。

 自分にもそれくらいはできると…。

 軽く見積もっていたその代償が今、その身に降り注ぐ。

 恐怖、緊張、生死、緊迫。

 どの言葉が今の少年にふさわしいのであろうか。

 答えはどれでもない。

 そう、少年は戦いの経験をしてないが故に敵に対する緊張感や恐怖心が低かった。

 お話程度で知った知識で、勝てるとたかを括っていたからだ。

 そんな少年にふさわしい言葉は、ただ一つ。

『侮り』

 人間がよくする失敗の原因要素の一つ。

 少年はそれを肌で実感したのだ。

 今回の体験で少年は、慎重になるべきだと自覚できた。

 その後、少年は周囲に注意を配り、気配を消し、まるで隠密部隊のように動く。

 ゴールラインの塀の外まであと少し。

「はぁはぁはぁ。そろそろか…?」

 見覚えのある通りが見えてきた。

 村の外へ通じる一本道。

 その近辺にはザッソンの群れが蠢いていた。

 次々と村の中へ入ってくるザッソン。

 村の土に埋れては、仲間を増やしていく。

「っく!そこは、ボクたちの村なのに…!」

 見れば見るほど、胸の奥から苛立ちが湧き上がってくる。

 少年は自身の行動一つで、村や自分の立場が左右することを先ほどの体験で痛いほどわかっている。

「っく!」

 少年は、ザッソンたちに何もできない自身の無力さと無様さが許せないでいる。

 唇を噛み、その憤りを抑えるのに必死のようだ。

「仕方がない。別ルートから行こう。さいやく、壊れた塀は機能を果たせていないから、適当なところを壊して出れば、なんとかなるはず…。」

 少年は身を潜めて、別ルートを探る。

 周囲を見渡すと、近くに僅かに欠損した塀があった。

 そこは、子どもの力でも壊せそうなほど脆くなっている。

「あそこから行くしかないな。」

 少年は、脆くなった塀へ向かって行く。

 持っていた相棒(薪割り専用斧)を使って、脆くなった塀を壊す。

 斧一回で壊れた塀は、木屑と破片を散らし、子ども一人が通れそうなほどの通り道を作った。

 匍匐ほふく前進をしながら、そこから村の外へ出た少年。

 柚子のおばあちゃんの家まではもう少し。

 幸いにも、村を出てからはモンスターの襲撃は無く、無事に村外れの一軒の家に着いた。

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