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第六草:ザッソン刈りから始まった少年譚 壱 (決意の時)

 村では結界である塀が再び壊れ、村にザッソン(雑草)の群れの襲撃に遭っていた。


「そんな!せっかく、新しくできた結界が壊れたのかよ!」


 一人の少年が壊れた塀の方角を睨みつける。

 視認できる範囲で分かったことは、塀を構成していた木材がばらばらになり、周囲の家や畑などを覆い被さっている状況。

 その崩れた部分から、湧き上がるように緑が蠢いている。

 その正体は村の畑を狙って塀の隙間を潜り抜けるザッソンたち。

 ザッソンの群れが村へ押し寄せて来たのだ。

 そのあまりの多さに、村人たちは対処しきれずに困惑していた。

 村の畑や家にザッソンが突き刺さり、そこを苗床として根を張る。

 自身の住処を見つけたザッソンは、根から栄養を吸収して、増殖の準備に取り掛かる。

 こうして、ザッソンの大増殖が村を襲い始めた。

「一体何が起きたと言うのだ?塀は以前に修復し終えて、塀の結界機能は順調に効力を発揮していたはずじゃ。なのにどうして今なのだ?」

 少年は避難所へ走る中、近くにいたおじいちゃんが苦虫でも噛んだような怖い表情を浮かべていた。

「おじいさん。そんなこと言ってないで、早く走って!私たちも、もしかしたら苗床にされてしまうかも知れないから、早く走って!」

 少年の母親が近所に住むおじいさんに叱る。

「けど、どうして塀が壊れたの?前に直した分なのに…。」

 少年の素朴な質問に周囲の人間は黙り込む。

 ふと、少年はまた後ろを振り向いた。

 次々と消える村の光景。

 村人たちは、避難所である丘の上に辿り着いた。

 普段ならば、そこから見えるのは絶景であるであろう。

 今はこの場所で見えるのは、絶景とは程遠いものであった。

 辺りはザッソンが生い茂って、緑一面になっていた。

 村人たちは、その光景に恐怖した。

 村でこのような惨事が起きたのは初めてだったからだ。

 丘の上には、一軒のハウスがある。

 ハウスとは、以前に説明した通り、雑草を中へ入れないために作られたものである。

 ハウス内は、逃げ込んできた村人たちで溢れかえっていた。

 ハウス内では、ザッソンの群れに恐怖し、その恐怖は伝染し、村人全員が絶望していた。

 少年たちもハウスの中へ入る。

 ハウスが小さいせいか、村人たちは寿司詰め状態である。

 藁にもすがりたい思いの村人たち。

「誰かが、あの『魔具』を使って、ザッソンを根絶やしにしたらいいのに…。」

 絶望する中、村人の一人が『魔具』のことを口走る。

 村人たちは考え始めた。

 その『魔具』を使うべきかどうか。

 村人たちは『魔具』の恐ろしさを知っている。

 その恐ろしさは簡単だ。

 装備すれば命がなくなるかもしれないというもの。

 そして村人たちは悩んだ。


 誰を装備者にすべきかを…。

 悩んでいる暇はないはずなのに、村人たちは避難所で沈黙していた。

 中には、なすりつけ合いをしている者が出現する始末だ。

 老人、女性、子供。

 その中で切るとすれば老人たちになるのかもしれない。

 だが、老人たちはその身可愛さに立ち向かおうとはしない。

 まして、次に行くべきは成人女性たちになるが、こちらも同様である。

 各自が相手の批判や問題点を言い合い、人間として低い価値のものがいくように仕向け合っている。


「じゃあ、ボクが行ってくるよ。」


 ハウスの出入口に立つ一人の少年が、『魔具』を所持するおばあちゃんの家に向かおうと決意する。

 呆気にとられる大人たち。

 青髪の少年はこの村が誇るわんぱく者でよく知られている。

 その元気さで、幼い妹と母親の二人をいつも心配かけていた。

「止めておきなさい。タダでは済まないわよ?これは遊びじゃあないわよ。」

「お兄ちゃん、大丈夫なの?お外は怖いモンスターたちでいっぱいだよ。」

 案の定、いつも通りに心配する少年の母親と妹。

 少年は、心配する妹に頭の上に手を差し伸べる。


「大丈夫だ。任せておけ。兄ちゃんが必ず、お前を助けるからな!」


 差し伸べた手は妹の頭を撫で、ゆっくりとドアノブの方へ向ける。

 ドアノブを掴んだ手は、これから起きるかもしれない恐怖で震えていた。

「妹の前で情けない姿はダメだ。兄ちゃんになった以上、下の子を不安にしてはいけない。」

 胸の内で自分に言い聞かせる少年。

 決意を新たにした少年は、もう一方の片手を添えて、ドアノブを回した。


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