第四草:草毟りから見えた希望?
ザッソンとは、雑草に小さな手足が生えたような生き物。
まあ、雑草型の下級モンスターである。(いわゆる始まりの町とかに出現するスライム級モンスター)
その手足を使って、自身にあった土地を探し、そこに埋まる習性がある。
その目的は子孫繁栄。いわゆる増殖である。
その増殖力は強く、色んなところから生えたり、栄養吸収をして育つ生態がある。
「ふうぃ〜。やっと半分刈れたかの〜。」
おばあちゃんの日課の一つとして、このザッソン刈りがある。
しかし、裕はその刈り方が気に食わない。
根元からごっそりではなく、表面上の草のみを毟っているからである。
その刈り方では、ただの見た目刈りもいいところ。
問題点を消しても、根源が残っていては意味がないのと同じである。
初対面の時に褒めたワンカット分(職人手と褒めた事)を返してほしいくらいに、裕は誰も見ていないはずなのに赤面していた。
まあ、軍手なので赤面していても誰も分からないのが幸いしている。
裕の視界で作業効率の悪い草刈りが行われる。
「なぜ、非効率な方法を取るんだ?明らかに根本から摘み取る方が適切で効率の良い方法だと言うのに…。」
裕は歯痒い思いを押し殺してきたが、もう彼の限界は上限を超えたらしい。
思いは爆発してしまい、咄嗟に強い念のようなものを送ってしまった。
届くかどうかも考えずに…。
「根元から、根元から、根元から。」
思いが伝わったのか、おばあちゃんの手先は、根元からごっそり取るために、軽く地面を掘り、根元から抜き始めたのだ。
「まさか…伝わったのか?いや、何かがおかしい。」
おばあちゃんも不思議そうな表情を一瞬浮かべるが、すぐさま気のせいと割り振って作業を再開する。
裕の思いが伝わったと一瞬思ったが、その念による動作が起きたと言うより、むしろ自身で誘導したように見えた。
裕は確認のためにもう一度、おばあちゃんがザッソンを毟る瞬間に意識を集中させる。
ザッソンを抜きに手が地面に伸びた時、その指先が地面を抉るように仕向ける。
おばあちゃんの指が地面にしっかりと食い込み、地面ごとザッソンを掬い上げるように毟り取る。
「あらま!」
思わず声に出るおばあちゃん。
それもそのはず、自分が思ってもない行動をする身体など普通はありえない。
その体験を一日にインターバル無しで二度もしているのだから、声が上がるのは納得がいく。
それは、裕にも当てはまる。
裕もまた、他人を思い通りに動かす体験を二度もしているからだ。
二回の試行の末、裕は確信した。
「オレは装備状態でいれば、オレの思う通りに装備者の身体を動かすことができるのではないか⁉︎」
思わぬ収穫に喜びを押し殺すことはできない。
装備時におばあちゃんの装備部分である手を操作できる。
「これは、使い用によっては、オレ自身の意思を伝える手段にもできるし、ピンチ時にオレが動いて攻撃や防御などができる。ある意味、オートガードやアタックといったAI的機能武器。そうなると、オレは一種の伝説の武器系列に所属するのではないだろうか?その説が正しければ、オレはある意味チート機能を有した存在だ。だが、『伝説の軍手』って、どうなんだろうか?弱くないか?まあ、今はいい。それよりも、おばあちゃんに見せてやろう。本当の草刈りを!」
そこからは、裕の快進撃が始まった。
「はひぃえぇぇぇ⁉︎」
奇声がどこかで聞こえてくるがお構なしに、裕はおばあちゃんたちの仕事を少しでも減らせるように奮闘した。
今までのザッソン刈りでは、イタチごっこが関の山だった。
このままでは、いずれ人手がなくなった頃には、この家周辺はこのザッソンたちの縄張りになってしまう。
そうなる前にやらなくてはいけない。
ザッソンたちも先程とは打って違うおばあちゃんの攻撃に恐怖心を芽生える。
それもそうだ。
今までは葉の部分のみが刈られ、生命線である根本は無傷だったからだ。
その生命線を狙われると知ったザッソンたちは、いっせいに戯けさがなくなり、必死に地面を掻き、もっと深くに根を地面に深くに張り巡らせて耐久性に特化するザッソンもいれば、逃げるか戦うか迷うザッソン、隠れようと思考を巡らせるザッソンや地面から飛び出して逃走するザッソンもいた。
これらのザッソンはともかく、一番厄介なのは反撃してくるザッソンたちである。
腰が重くて持ち上がらないおばあちゃん相手に反撃を試みるザッソンは、裕やおばあちゃんからすれば、慈悲の無い悪魔にしか見えない。
あの小さい雑草が悪魔のように見えたのはきっと、異世界転生者では裕が始めてであろう。
「ここは心を鬼のして、…おばあちゃんには申し訳ないが、襲ってくるザッソンたちを鷲掴み、引き千切る!」
迫り来るザッソンを一騎当千をするように根こそぎ毟り、引き千切るその姿は、もはや狂戦士そのものであった。