第七草:ああ、これぞ異世界…だよな?
森の木々を縫うように走る幼い足は、もうあっちこっちに傷と汚れが目立っていた。
柚子はそれでもめげずに走った。
そこでようやく、見覚えのある道に出た。
「やった。あとは塀を潜るだけだ。」
喜びも束の間だった。
背後から爆弾でも落ちたかのような大きな音と土煙を立ててリリンゴたちが出てきたのだ。
「はぴっぱぁぁ‼︎なんで、まだ付いてくるのよー‼︎」
泣き叫びながら塀へ向かう柚子。
柚子は必死に走っていると、もう少しの場所で石につまずく。
ズッササアァァ。
綺麗で激しい土埃を立ててヘッドスライディングをするが、まだ塀内という名のホームベースまで距離があった。
腹部と顎を強打したせいか、身体が重く動かない柚子。
「そ、そんな…ここまできたのに…。」
塀の上にいる者たちに助けを求めて手を伸ばすが、塀の上の者たちの顔は恐怖で怯えており、それどころではない様子。
諦めずに最後まで塀の内側へ入り込もうと匍匐前進をする柚子。
それよりも先に魔の手が伸びた。
ガッブリンコ。
リリンゴに柚子が食べられてしまった。
真丸と大きくなったリリンゴの影が傾く。
あたりは徐々に暗くなっていた。
まるで少女の物語が終幕したように…。
闇夜から他のリリンゴの二体が、柚子の村目掛けて襲いかかる。
塀を修復していた者たちも顔を暗くしていた。
何もかもが暗くなっていくところで、響く詠唱。
「疾風の如く切り裂き、鎌鼬のように舞え!トルネード‼︎」
どこからともなく、声がするや否。
リリンゴは先程まで居たであろう位置を中心として、弧を描く。
そして、弧はやがて円のような動きとなり、徐々に綺麗な風の渦が出現した。
それはまさに竜巻のようであった。
その竜巻にリリンゴは舞い、綺麗に皮が剥がれていく。
「ぬぐうぅぅうわあぁぁ!」
少女のポケットから顔を…軍手の指部分を出していた裕は洗濯機に放り込まれたかのような感覚に陥った。
その激しさゆえに、ポケットから放り出され、地面に叩きつけられる裕。
「なんでオレが、こんな目に合うのだ!まったく、揺られ、投げられ、叩きつけられる。とんだ災難日だぜ。…って、なんだあれ?」
裕は思い出した。
少女が詠唱していたことに。
リリンゴたちが宙で竜巻のように回転している。
一瞬、魔法がこの世界にもあるのだと裕は勝手に思い込んだのも束の間…。
トルネードと言ったものの、現実に起きた現象は、似ても似つかぬものであった…。
「これは…⁉︎ ただのリンゴの皮剥きじゃあねえーかぁ‼︎‼︎」
そう、リリンゴが突如現れた少女の小刀で、まるで職人の如く、それは鮮やかな切り口で、実が一ミリも削られていない素晴らしい皮捲りを披露してくれた。




