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第四草:これが異世界の果実

 あれから目を覚ました一行(+ウサギ一羽)。

 うさうっさを捕獲して、満足そうに微笑むおばあちゃんたち。

「さあ、わたしゃが責任を取って持つけ。」

「待でぇ、待でぇ。ファンに任せたら良くないでぇ。代わりに私に任せるといいでぇ。」

「いやいや。待つけ!ファンもお主も信用ならんけ。ここはわしに託すけ。」

 うさうっさを囲うように話し合うおばあちゃんたち。

 うさうっさは逃げ出す機会を窺っていた。

 あの後、各自が目を覚ましてから、誰がうさうっさを責任を持って担ぐのかを議論していた。

 しかし、『クチナシ』の副作用か?

 記憶が曖昧な部分が多く、うさうっさを捕獲して、拘束できるアイテム素材がないかどうか探索した辺りから記憶がない一行。

「待つでの〜。うさうっさをもう一度眠らせてからでどうだろうかの?こやつは、さっきから逃げ出す機会を窺っているようだしの〜。」

 この老婆め、いい勘してやがるな!と言わんばかりにうさうっさは、その愛らしさに反して鋭い眼光で花梨を睨みつける。

「本当だけ。また、先の香りで眠らせるしかないけ。」

 再び甘く濃厚なグリーンフローラルの香りが周囲に漂う。

 さすがに学習するであろう。

 うさうっさもおばあちゃんたちもなんとか嗅がないように工夫を凝らす。

 うさうっさは息を止め、おばあちゃんたちは布切れで顔下半分を覆い隠す。

 根気負けてしまったうさうっさは息を引き取るように夢の世界へ。

「さっきは花梨さんのお陰で、獲物が逃げずに済んだでぇ。花梨さんが担ぐといいでぇ。」

 他のおばあちゃんたちも異議を唱えず、自動的に花梨がうさうっさを担ぐことになった。

「さあ、再出発するけ!」

 一行は引き続き、引き摺った跡を追いかけて、さらに奥へ奥へと進む。

 草枝をかき分けて獣道を進んでいくと、急に開けた場所に辿り着いた。

「急に開けたの〜。」

「そうじゃの、そうじゃの。この広さからして、何かここで行われていたけん?……うん?なんじゃあ、なんじゃあ。何かさっきまで嗅いでいたような香りが…匂いがするけん。」

 開けた場所一帯を包み込むようにとても甘い香りが充満していた。

 その匂いはおばあちゃんたちのお腹を誘惑する。

 ぐぅううぅ。

「おほ、おほ。ここでお腹が空くのけん?」

 今の腹の虫が引金になるとは露知らず、呑気に笑う。

「この感じ…まさか⁉︎総員、警戒態勢のはいじ…」

 ガブゥリンコ。

 何かが捕食されたような音が聞こえた。

 より一層に甘ったるい匂いが充満する。

 捕食音がした方へ視線がゆく。

 そこには元ファーマーズの片割れの姿ではなく、炎のように赤い球体状の物体があった。

 ガッブリ、ガッブリ。

「ここ、この独特の咀嚼音に真赤な球体状の身体でぇ。特徴的な甘い香りを漂わせて、獲物を捕食する植物……間違いようがない、リリンゴだでぇーーー‼︎」

 上空から落下してきたリリンゴを凝視する一行。

 だが、頭上で木々が揺れる音が徐々に大きく、そして多くなっていく。

 上空を見上げたおばあちゃんたちは、腰を抜かした。

 目に見える範囲でも、至る所で真赤な果実が実っていた。

 まるで、獲物を待っていたかのように…。

「そうじゃったか…。あの石碑付近での噂…それは地獄の業火を体現したかのように赤く実ったリリンゴがおるって言う…話じゃったわの〜。」

「今、言うべき情報じゃあなかとけーーー‼︎」


 リンゴから伸びる枝葉はリリンゴの腕であり、その腕で枝にぶら下がっていた。

 その手を離して、リリンゴが次々とおばあちゃんたちを狙って、落ちてくる。

 リンゴ部分は半分にぱかりと割れ、口が開く。

 唾液の代わりにリンゴ汁が飛び散る。

 リンゴの大きな口から舌ベラのようなものが伸びて、左右に揺れるのが見える。

「こうなったら、やるしかないけ!覚悟を決めるけ。」

「なら皆、顔を布で覆い隠せでぇ。わたしゃがまた『クチナシ』で眠らせるでぇ。」

「分かったけ。…っておい、大丈夫け⁉︎花梨。しっかりとせい、覚悟していたことじゃけ。」

 腰が抜けたままの花梨は、顔面蒼白で真上にいるリリンゴの群れを見上げていた。

 きっと、その耳にはファンの声さえも届いていないであろう。

 恐怖が花梨を覆い尽くしたからだ。

「あんたがここで立ち止まるはいいが、柚子やわたしゃたちを巻き込むのはよしてくれでぇ。」

 そう言いながらも、『クチナシ』で周囲のリリンゴを眠らせる。

 その前になんとか間に合ったファンは、自分と花梨の口元に布を当てる。

「しっかりとしなけ!あんた、ここで終わってもええのけ⁉︎」

 深く眠るリリンゴに囲まれたところで、ぽつりと真上を見上げていた花梨は、その手足に力を入れ、立ち上がろうとした。

「こんなところで足を引っぱている場合じゃない!腰が抜けた拍子にギックリ腰で追い討ちかけられてたくらいで、負けてられぬ!」

 そう、花梨はただのギックリ腰で動けないでいたのだ。

「「って、ギックリ()

(でぇ)‼︎」」

 二人のおばあちゃんは赤面した。

 先程までの激励した自分が恥ずかしかったらしい。

 思い込みで言い終えた名言集は、的を外れてしまっていた。

 それはある意味、地獄である。

 恥ずかしさで、誰の顔も見れない二人を他所に、花梨はギックリ腰と健闘していた。

 激励によって、根性を見せる花梨。

「ぬっぐぅわぁああぁああ‼︎」

 立ち上がったその姿は、まるで燃え尽きた灰のようだった。

「…すまぬの。まだ…動けんぬの。」

 ギックリ腰の持続効果はまだ続く。

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