第一草:あれから村では
【第一束(章):真夏の熱気に当てられて】終了後の続編
※第二束(章)の第一草(話)ですので、お間違えなく!
あれから数日過ぎ、村は復興へ向けて動いていた。
村は各自の家の修復や、畑などの整理。
中でも一番手がかかっているのは、ザッソンの燃えカスをかき集める作業。
村全域の地面はすべて黒一色。
その量は壮大で、村中のシャベルやスコップを持ってしても、手は足りないであろう。
村人たちは各自の目的を持って、村中を右往左方している。
その中で一人。
椅子に座って俯く女性がいた。
女性はため息を吐く。
ため息の原因は今回の騒動で一役買ったフィレックにある。
ザッソンを狩るだけに止まらず、ザッソンを燃やして一掃したからだ。
「まあ、『魔具』を使うということは、後にも先にも被害しか生まない状況であるから、仕方がないことだよ。」
彼女に声をかける優しい村人。
中には、「ザッソンついでにやってくれたな。」「『魔具』を使うからこうなるのだ。」「しっかり教育しないからいけないのよ。」などの罵声を吐く村人たちもいた。
その声は彼女の耳へ確かに届いていた。
彼女には、後者の声が痛いほど胸に突き刺さる。
「私は…。私の息子は、勇敢だったはず…。なのに、どうして、どうしてこうなるの…?」
彼女は酷く傷ついていた。
心が折れそうだった。
騒動を治めた張本人は、いまだに目を覚まさない。
彼女は、打ち呑められそうになっていたが、不意にフィレックの笑顔を思い出す。
彼が目を閉じる最後、彼女に託し事を思い出す。
彼との約束を果たさないと…と思った彼女は立ち上がった。
「あの子が頑張ったのだから、私も頑張らなくては!」
母は強し。
その言葉が、今の彼女ほどぴったりな人はこの村にはいないであろう。
彼女は動き出した。
それは、止まっていた時間が動き出したように…。
########
柚子家では、ザッソン騒動の余波は来てはいないが、村の復興を手伝っていた。
暑い日差しが照り返す時期。
柚子たちの生活費を稼ぐべく、柚子の母親は亡き柚子の父親の代わりに町に出稼ぎへ行く準備をしていた。
「食糧よし、地図よし、コンパスよし、服もよし…えーと、あとは水分だけかしら?」
準備を着々と整える。
その背後から、幼い声が聞こえる。
「お母さん、水だよ。」
「ありがとうね、柚子。…これでいいかしらね。準備はできたし…それじゃあ、行ってくるわね。おばあちゃん、柚子。二人とも気をつけて手伝うのよ。無理はしないでね。いいわよね?」
心配性の母親に柚子は満面の笑みで頷く。
「任せて、お母さん。私、立派な塀を作って、みんなを笑顔いっぱいにして見せるから!」
「本当に大丈夫かしら…。」
柚子の元気が空回りしないか心配しか感じ取れない母親は、少々暗い表情をしていた。
「大丈夫じゃよ。わたしゃが付いとるでの〜。」
「はっはぁ〜。頼みますよ、おばあちゃん。」
おばあちゃんが付いていても心配は治らない蜜柑。
理由は、おばあちゃんも『魔具』によって、最近まで瀕死に近いほど疲弊していたため、その身体は回復しても、この炎天下で倒れないか体力を疑っていた母親。
家の畑で育てた野菜たちを売らないと、祭りや冬を越せない場合もあるため、母親は割り切って前を向いて出て行く。
「今は、私しか稼ぎ頭はいないから。私が頑張らなくてはいけないわ。」
柚子の頭を撫で、おばあちゃんに微笑み、家を後にした。
残された柚子は、父の意思を受け継いで、塀の修繕に手を出す。
「こういう時こそ、頑張るぞ!」
せっせと、愛らしい軍手をはめて出かける。
今日も塀の修復を村人たちと分配して行うのだ。
大きな麦わら帽子を被った可愛い孫娘の行動に心を打たれ、一緒に塀を直しに向かうおばあちゃん。
「ほら、柚子や。そんなに先走ると転んで怪我をしてしまうでの〜。」
「分かってるわ、おばあちゃん。私は大丈夫よ。」
三人は、各々の目的の向かって行動していた。
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塀を直す者たちがいる中、一部の村人たちは移住の準備をする。
大半が移住する理由は明白である。
二度も壊れた塀など、当てにする者は少ない。
塀とは、村を囲む壁や板、木材などを用いたもの。
この村では、木材を骨組みにした構成になっている。
その全長は約3m。
村一帯を囲むように設置されており、その面積からだいたい2ha。
東京ドームの約半分満たすか満たさないかの大きさである。
塀は結界の役目を果たしており、モンスターたちを寄せ付けない効果を持っている。
塀は壊れれば再度作り直しは可能。
今の村で塀の修復をするためには、材料が足らない状況である。
その材料を取りに行くにも、男手が必要だ。
そこで、出稼ぎに向かった柚子の母親は、町にいる親戚にお願いするらしい。
だが、町からこの村までに距離はかなりあるらしく、そんな辺境な場所にわざわざ赴く偽善者がいるであろうか?
…きっと難しいであろう。
村人たちは、今ある材料のみでできる範囲内をひたすら見つけては修復をする作業を繰り返していた。
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村や柚子家がそのような状況の中、裕は農具小屋の片隅で苛立っていた。
「なあ。フィレック少年と友情の覚醒で大逆転勝利を収めた俺に、なんでこの扱いなのだ?納得がいかん!」
そう、相変わらずの木箱生活である。
なぜ木箱生活に再び戻ってしまったのか?
その経緯は以下のようなものであった。
まず、裕の覚醒による大逆転勝利を収めたフィレックたち。
その戦闘は村に多罪な被害をもたらしていた。
火の海。
ザッソンたちが焼失していく中、村にある家屋にもその被害は拡大していたのだ。
全焼した家は跡形も無い。
家が全焼した住人は、再建築する者もいれば、塀の再度崩壊やモンスターの襲来が起きるかも知れないと気にして、もう再建築するのが馬鹿らしいと嘆き、諦めて移住する者も少なからずいた。
家を一軒建てるのには、この世界では死ぬ気で稼がないと無理らしい。
それだけ世知辛い世の中だ。
幸いにも、全焼した家は四軒で事は済んでいた。
が、その四軒は、この小さな町では半数近くが焼けたことを示す。
柚子たちは村外れのため、被害から逃れているから裕を悪くは思ってはいない。
だが、村人たちは思う。
「この『魔具』は災いを起こす農具であると…。」
その経緯から、裕は再び木箱送りになったのだ。
裕は、今回の県について一応反省はしている。
「さすがに家を数件焼失してしまったことは、申し訳ないと思っている。」
しかし—--。
「明らかにザッソンたちの襲撃の方が被害的に大きいし、むしろ救世主として崇めろとまでは言わないが、この木箱から通常運用まで昇格はして欲しい。」
と内心ぶつくさ文句を言っていた。