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第九話 回復

「美味しいです……」

「ホントウに……」


 よほどお腹が減っていたのか、えらい勢いでカツサンドを頬張る巫女さんとシスターさん。俺の料理スキル、かなり高レベルなので当然といや当然だけど。そんな彼女らはどちらも二十歳前後といったところか。

 名前は巫女さんが刀使夏向(かたなしかなた)、シスターさんが蘭華(ランカ)・ラーン・ラドクリフ。どちらも政府からの要請で動いている、退魔師的な存在らしい。長い黒髪な、いかにも清楚な感じの巫女さんと、銀髪で緑の瞳の北欧系ハーフな修道女とはいい趣味してるじゃねえか公的機関。


霊鎮め(たましずめ)悪魔祓い(エクソシスム)ねぇ」


 どちらも大昔から連綿と受け継がれているおしごと、らしい。いやまじで元の世界にオカルト能力者的なのがリアルに存在していたとか、ちょっと嬉し恥ずかしな気分になってくるわ。でもなぁ。弱くね?


(じゃな。あんな雑魚に囲まれておったが、こっちの術師は雑魚以下なのかの?)

「うーん、魔犬やら魔猪、魔牛の強さって、それほどでもないよな? たいした数の群れでもなかったし」


 ひき逃げアタック(物理)で倒せたしな。


(儂らの世界でも、たしかに普通の農民やらでは太刀打ちできんかったが、それ専業の者であれば初心者パーティー御用達じゃったはずじゃ)


 ですよね。うん、正直わかんね。この人達がこっちでどのくらいの腕前を持ってるか、とかも比較対象すら無い状態じゃあなんとも、だし。


「こ、これでも私達は若手のホープと言われてるんです! 戦闘に入った時は、百をゆうに超える数の群れで、多勢に無勢でした」

「そうデース。他のヒトタチもチリヂリになってしまってレンケイもクソもなかったンです。ソモソモワタシたち近接格闘戦(CQC)はホンショクじゃないデス」

「ホープ……ホープカッコ笑いとかじゃなくて?」

「ちっ! 違いマース! 私達本当にっ!」

「雑魚い魔物もどきも追い払えなかったのに?」


 異世界じゃ、後衛の回復専業でもあの程度ならソロで無双してたけどなぁ……。


「あれを雑魚って……『穢れ』によってあやかし(、、、、)と化した生物は常識では考えられない力を持つに至るのですよ!?」

「ソーです。悪魔憑きはジンチをコエた能力を得るのデスヨ」


 巫女さん曰く穢れであやかしになった生き物、シスターさん曰く悪魔付き。公式発表、生体兵器。うむ、さっぱりわからん。


「まあ細かいこたぁいいや。とりあえず食え、腹いっぱい食え。腹が減っては戦ができん」

「はぁ」

「ソレはありがたいデスけどぉ。いただくデス」


 そう言って食事を再開する。とんかつビフカツ両のせ定食を食い終わったら次はカツ丼だ。たまごでとじるもよし、ソースにどっぷり付けて千切りキャベツとともにご飯に乗せるもよし。どんぶり物の王様と言っても差し支えなかろう。異論は認める。なお当然どっちも作る。

 ちゃっちゃと作っていると、二人がこっちを凝視してくる。あんたらさっきカツサンド食べたばっかりでしょ! まあしゃあない、乗りかかった船だ。


「……食うか?」

「え、とその」

「アリガトございまーす!イタダきますデース!」

「蘭花っ!?」

「ココまでミスタ神川お世話になっててイマサラでーす。そもそもワタシタチのケガ、ナオッてるんですヨ?」


 そうシスターが言うと、今まで気がついてなかったのか巫女さんは自分の身体を触り始めた。


「うそ、あんな大怪我だったのに……」

「ベリーベリー高位なヒーラー(治癒術士)でも、この短時間でアレだけのケガをナオスなんてシナンのわざヨ!」

「よほどの触媒(代償)を用いなければ、治せないでしょうね……」


 二人してそう言い合い、こちらを問い詰めたそうにしているが。いや、別にアレッくらいのケガ、異世界の神聖魔法術者なら大抵は苦もなく治せるぞ?

(いやいや、あっち(異世界)でお主の周りにおった連中を基準にしてやるなよ? どいつもこいつもお主にあてられたのか、常識からだいぶ外れておったからな?)

 そう言われても、俺があっちで組んだやつって、自称落ちこぼれとか、役立たずとか、ハミ出し物とか、劣等生とか、素行不良で婚約破棄されて追放されたとか、そんなのばっかりだったぞ?


(ワシじゃって穀潰しの邪神じゃぞ? 邪神の仕事しとらんかったけどな!)


 ……そう言われりゃそう、なのか? まあ異世界は異世界、こっちはこっち、か。


「あの、どうやって私達を回復させたのでしょうか。貴重な触媒(代償)を用いたのでしたら、対価をお支払いさせていただきますので……」


 邪神と脳内会話していたら、何やら神妙な顔つきでそう尋ねてくる巫女さん。触媒っていうかなんていうか。まあこっちで代わりになるようなのなんて無いと思うんだけどなぁ。


「エリクサー」

「は……はい?」

「だから、エリクサー。命の水、エリクシャー、エリクシール、神の酒。賢者の石とか仙丹、変若水(をちみず)、ソーマ、アムリタ、ネクタール。色々呼び方はあるらしいけど、いわゆる完全回復薬だな」

「なっ……」

「oh……」


 なんかすっごい驚いてる。いやまあわからなくもないけれど。ゲームとかだと、ついついもったいなくて使わないままクリアしちゃうほどの貴重品だし。でも異世界だと、結構楽に手に入るんだけどな、エリクサー。あ、なんで普通の回復薬(ポーション)じゃないかっていうと。あっちの世界の回復薬、ゲーム的に言えば割合回復じゃなくて一定の決まった数値分HPが戻るって感じの奴だった。HP回復量30固定、みたいな。なので、俺だと腹いっぱい飲んでもほんのちょっぴりしか回復しないのだ。なので、回復用にはエリクサー一択だった。某ゲームでも「やくそう」じゃ終盤回復追いつかないじゃん?

 だからそれしか持ち歩いてなかったわけだが……今じゃろくに敵の攻撃なんて当たらないし当たっても自然回復で多少の怪我なら治るし。大怪我レベルでも自力で回復魔法使ったりするから、正直死蔵品だったんだよな。

 だからそういう意味でも気にしなくていいよって言ったのに、二人共すげえ神妙な顔してはる。

 まあとりあえず食え。腹減ってると嫌な考えしか出てこなくなるからさ。

 でも今さっきの俺って、ラノベの主人公っぽくなかった?こう、特定の系統魔法を看板にしてる実家から無能呼ばわりされて追放されたけど実は他の系統の能力がすごかった系の主人公みたいな。


(お主は何を言っとるんじゃ)


 ……邪神、お前さ。妄想に突っ込まないでくれる?


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― 新着の感想 ―
[一言] 無能なんで特定の系統の家から追放されたけど別系統で凄い才能が……商業作品だと風の聖痕とかですね しかし地球側術師?たち多分練度が足りないんでしょうなぁ……後は根本的なヒーラーの力不足。回復…
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