第八話 メシ
ああ、周囲に集っていた魔物もどきはとりあえずひき逃げアタックしといた。元野犬っぽいのとか猪っぽいのとか牛っぽいのまで色々居たが、どれも仲良く一網打尽だ。猪っぽいのと牛っぽいのはちゃんと食えるように枝肉にして収納したけど。解体魔法便利、超便利。
「……しかし、どうするべこれ」
(放置で、と言いたいところじゃが……)
「そう言うわけにもいかんだろ、まだかろうじて生きてるし」
二人の内どっちがこの結界を張ったのか、はたまた他の誰かなのかは知らないが。雑魚ばかりしか居なかったからなんとか保った、ってところである。
街から街をつなぐ山間部の道路脇、といった場所で怪我人を放置して立ち去るとかちょっと人としてどうなの? ってなるし。とりあえず、結界を壊さないように手を突っ込み、ゆっくりと結界の中に身体を潜り込ませる。
「掘っ立て小屋並みの雑さ加減だな、この結界」
(とはいえ、術者が気を失っても維持できておる。なんの依代もない様子、そこそこ難易度は高いぞ?)
そう言われれば、なるほどそうだ。結界を維持させる要となる物がない場合は、術者自身がそれを行うのが普通なんだけれど。
「確かに、結界石的な物も御札とかも無いな……。まあいいけど」
ざっと結界内部を探査した俺は、これと言ったモノが無いことを確認して、結界を再構築して展開した。
自慢じゃないが俺の結界は、直ぐ側で真竜がドラゴンブレスを吐いても内部にはこれっぽっちも影響が出ない上に寝てても維持できるし内部空間は快適な気温と湿度が保たれるのだ。
「よし、んじゃあちょこっと世話焼くか。ちょうど腹も減ってきたところだし、今さっきふっ飛ばした猪と牛でも食ってさ」
(相変わらずお人好しじゃのう)
「謎のお人好し邪神に言われると誇らしいね」
怪我の治療の必要は、っと。うーむ、擦過傷に切創、挫創、咬傷、刺創。全身至るところ外傷だらけ。それに加えて肋骨に数箇所、脚に亀裂骨折と、内蔵にも損傷がある、と。ほっといたら死ぬ、かな。しゃーない、大盤振る舞いだ。収納していた在庫の回復薬を二人にブッカケて、後は放置。目が覚めるのを待ちつつ、野営の準備をする。そこら辺はもう慣れたものだ。異世界じゃ日常茶飯事だったからな。
必要に迫られて野営用システムキッチンとか作ったし。火も水もどこでだってちゃんと使える魔道具仕様だ。持ち運びは収納魔法。いいよね、収納魔法。めっちゃ便利。
「さて、とりあえず。焼くか!」
(わし焼くよりアレがええのう、じゅわーってするやつ)
「カツか? まあ良いけど」
邪神からリクエストがあったので予定変更、トンカツとビフカツです。ごはん炊かないといかんな。いや、カツサンドというのも一興。そういやパンは収納してたっけか? あ、あった。パン粉作らなきゃ。
「よし、どっちも作ろう」
(せやろな)
うるさいだまれ、腹が減っては戦ができんのだ。どうも異世界でレベルアップした弊害か、必要カロリーが凄まじいのかして食欲と言うか食う量がまさしく鯨飲馬食なのである。そりゃあんだけ馬鹿みたいな力とか出るんだし、燃費が悪くなるのは仕方がない。
野外用のテーブルやコンロを出して調理の準備。コンロに鍋をのせ、猪っぽいのを枝肉にした時にでた脂身と少量の水を鍋に放り込んで、じっくり油を抽出する。
「うーん、この油の匂いだけでもメシが食えるな」
(わかる)
邪神に同意されつつ、油が出きってカリカリになった脂身を取り出して収納。あとでうどん作った時にでも使おう。油かすうどんだ。
「ご飯は土鍋で炊くか。トンカツ、カツサンド、とくれば千切りキャベツは必須だよな」
(そおすとまよねえずもたっぷり頼むのじゃ! あとからし!)
「わかってるわかってる」
洗って収納しておいた米を土鍋に仕込んで、キャベツ(のような異世界野菜)も素早く千切りに。剣技便利。そしてカツの準備を始める。パンを削って粉にして、もちろん玉子もよくかき混ぜて、と。
「衣は二度付け、揚げ始めるのは衣を落ち着かせるのにしばらく置いてから。低温でじっくり揚げて、一旦上げて。油の温度を少々上げて、さっと2度揚げ出来上がりっと」
うほっ、カリッとサクッといい感じに揚げ上がったぜ。
「さてさて、先ずはサンドを二種、ビフカツサンドにトンカツサンドを作ってだな。こっちは一旦寝かせて馴染ませる、と」
(はよ! はよ!)
落ち着け邪神。瘴気が漏れてるぞ。
(おっといかん、メシが不味うなる)
お次は千キャベツを皿に盛り、ざっくりと切ったカツを二種、そっと乗せる。カラシ(的な何か)となんだかよくわからない異世界の柑橘系っぽい果実を櫛切りにして添えて、炊きあがったご飯をどんぶりに盛れば出来上がりだ。おっと、異世界産とんかつソース的なタレも忘れずに、と。乾燥味噌と具を使った即席味噌汁も用意して。強いて言えば、ビフカツにはデミグラスソース的なのが欲しいところだが、あいにく在庫がない。あ、お新香出さなきゃ。
「うむ、完璧。これ食ったらすぐカツ丼作ってやっからな」
(まずはてーしょくからじゃな! はよ!)
おちつけ邪神。では、いただきます。
柑橘系果実を絞り、ソースをカツにたっぷりかけて、ちょいとカラシを付けまして。
がぶり、ざくりと噛みしめる。じゅわっと口腔に広がる幸せな味わいを感じながら、炊きたての飯を頬張り、頬も破れよとばかりに咀嚼する。
「かぁ〜! やっぱりカツには飯! そしてぇ!」
(みそしるじゃな! うむ、美味し!)
俺の脳内に居候し始めて以来、邪神もすっかり食いしん坊になってしまわれたが、善き哉善き哉。こうして俺の脳内で騒いでるウチは、どこにも被害が及ばんのだから。せいぜい俺が倍ほど腹が減るだけで。
ぐぎゅるるるるる〜〜〜!
「なんだ?」
(なんじゃ?)
自作の料理の味を堪能していたところ、どこからか怪しい音色が聞こえてきた……が。
「……す、すいません」
「ソ、ソーリー、ハシタないデス……」
すっかり忘れていたが、ぶっ倒れていた巫女さんとシスターの二人が目を覚まし、こちらをじっと見つめていたのである。……めっちゃよだれ拭きながら。