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第二話 敵なるモノ

 東富士演習場。

 富士の裾野に広がるそこは、陸上自衛隊が管理する本州最大の面積を誇る演習場である。


「撃て! 撃ちまくれ!」

「畜生! なんで主力が出払ってて、定年間近の俺ら(ロートル)と新兵しか居ないこんな時に!」


 今そこで、小火器を手にした普通科の部隊が奮闘していた。

 富士山の裾野に広がる広大な野戦演習場に展開した彼らは、携えた火器の引き金を一心に引き続け、突如として出現した生体兵器(、、、、)相手に絶望的な戦闘を繰り広げていたのだ。


「下がりましょう! |89式5.56mm小銃ハチキュウじゃ、あの不明生物には効きません!」

「牽制ぐらいにはなる! 今、仕舞い込んでるお古の|64式7.62mm小銃ロクヨン対戦車小銃てき弾(M31)を引っ張り出させてる! それまでもたせろ!」

06式小銃てき弾(まるろく)の水平発射じゃこれっぽっちも効かなかったですからねぇ。『施設』対応で数減らしてる上に、よりによって戦闘車両にタンクバスター系装備、全部持ってかれちゃってる時に出るとか。一両くらい残しといてくれよ……せめて74式戦車(ナナヨン)用途廃止され(捨てられ)てなきゃなぁ」


 そう愚痴る彼らの目の前に迫るのは、大型トラック程もある体躯を持つ、巨大な爬虫類のサイ、とでも言うような生物だった。

 ただ、あくまでも「のような」姿なだけであり、太く分厚い体躯に左右合わせて6本3対の脚、頭頂部には一本真っ直ぐに生えた巨大な角と、その周囲に二対4つの巨大な赤黒い目という、およそ地球に生息している生物とは思えない奇怪な怪物とでも言うべき存在がそこに居た。

 鱗に覆われた全身は生半可な強度ではないようで、その戦車すら踏み潰せそうなその巨躯には、陸自隊員の持つ小銃では牽制にすらならなかった。


「なんとしてもここで食い止めるんだ! ここが抜かれたら、市街地まで一直線だぞ! せめて避難が終わるまでは!」


 指揮をしている壮年の男性自衛官が言うとおり、彼らの背後には障害となりうるものは無い。せめて要請した航空支援の空自機が到着するまで持ちこたえねば、市街地が蹂躙されるだろうことは明白であった。


()はなんて言ってる? 百里からの航空支援は?」

「例の式部職関連の件で全部出払ってるそうで、小松から飛ばすとのことです」

「……到着予定は?」

スクランブル待機中(対空装備)のF2を対地装備に(換装)してからになるとのことで、あと30分はかかる、と」

「250kmが準備含めて30分か。羨ましいな、空さんは。けどあれだな――もたんような気がするな」

「ちょっと無理目かもでありますな」


 ゆっくりとした動きではあるが、着実に歩みを進める相手に対し、彼らの手持ち武器はほぼ役に立たない。予備装備を引っ張り出してなんとか保たせることができればいいが、それもやってみなければわからない。


「興梠1尉! ロクヨンとM31、一式有るだけ持ってきました!」


 頭を悩ませていたところに土煙を上げて迫ってきた屋根なし高機動車が地面をえぐりながら急停車し、助手席から飛び降りた隊員が抱え持った装備を見せつけるようにして声を張り上げた。

 その手にしている銃は、今現在使われている小銃よりも若干長く、更には2割ほど重い。ただし、使用する弾薬は5.56mmよりも高威力の7.62mmで、なおかつ現行のてき弾よりも装甲貫通能力の高いM31対戦車てき弾が使用できる。


「いくつある」

「とりあえず引っ張り出せたのは、ロクヨンが10、M31は20ってところです」

「かなり心もとないが……無いよりましか。経験者優先で配れ!」


 指揮官である興梠1尉は、その数を聞くと即座に行動に移るよう指示した。



「……ひっさしぶりですわ、ロクヨン触るのなんて」

「各自2発ずつ、専用の薬包も同数しか無い。しくじるなよ」

「昔とった杵柄ですわ、任しといてください」


 部隊でも古参の隊員たちに任されたロクヨンとM31に、彼らは苦笑いを浮かべながらも慣れた手付きでてき弾発射の準備に取り掛かった。


「半数ずつ、交互に発射する。ハチキュウは適時牽制。M31水平発射、用意!」


 のんびりと、しかしながら着実に歩みを進める相手に対し、必中を期するためにギリギリまで距離を詰める。と言いたいところだが、十分な距離を開けるためにそれ以上下がろうにも、すでに余裕のないのが実情であった。


撃て(テッ)!」


 まずは5名が一斉に発射。そして入れ替わるように次の5名が号令に合わせて即座に発射、そこでようやく初弾が目標に着弾。意外に軽い連続した破裂音とともに、目標は白い煙に包まれた。


「どうだっ」

「効果不明! 外皮に若干の損傷を認む!」


 1射目に続いて2射目も着弾するが、効果の程はその厚い表皮には薄く傷がついたのが目視できる程度であった。

 撃ち終えた者は即座に次弾装填、次の号令を待つ。


「もう一度だ。出来ればあのでかい目玉を狙え!」

「狙ってはみますけどね、流石に精密射撃は――」


 ロクヨンを構えた壮年の隊員が、興梠にそう訴えながらも引き金に指をかけようとしたその時。

 側方から目の前の怪物に向かって、派手な土煙が演習地を横切り巻き上がったのだ。


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