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4話 怪獣と高校生 vol.4

 爬虫類を思わせるような体表が夕日に染められ赤く聳え立つ。

 高さ100mはあるその巨影は何にも脅かされない難攻不落の要塞そのものだった。

 頭には二本の巨大な角は今にも校舎を破壊せんとする勢いで左右に揺れている。

 口からは何や熱気のようなものが伝わってくる。さらにその勢いは徐々に強まっている。


 「マリー!何をする気だ!?」


 マリーは眉をひそめると怪獣の方を向いた。


 「決まっているじゃない。

  今からこのフレイが町を焼き尽くすのよ。」

 「なぜそんなことを!?」

 「なぜ?

  あなたが本当のことをすぐに言わないからでしょ?」


 怪獣を飼っているなんて普通いえるわけがない。

 だが思う。この場合どうなるのだろうか。

 脅しにしろ、本気にしろ、ここは正直に言うべきなのではないか。

 そう思った。だがマリーは俺の言葉を待つような人間ではなかった。


 マリーが一言だけ言葉を放つ。

 「フレイ?」


 名を呼ばれた怪獣は従順なペットのように、火球を町へ放った。

 熱気と火の粉が散り、一瞬全身が超高温にさらされる。

 体を丸めてコンクリートの地面にうつ伏せになる。


 背後で爆音が響く。直後、悲鳴のような声と爆風や衝撃派が飛んでくる。

 吹き飛びそうになる身体を必死に地に押さえつける。


 起き上がって背後を見ると、悲惨な光景が広がっていた。

 これは夢だ。そうさ、悪い夢に決まっている。

 あんなところにたくさん人はいない。

 よく行く人が集まるショッピングセンターの近くのような気がする。

 でもそんなものは気のせいに決まっている。

 焦りと不安が内側からこみあげてくる。それが収まらない。抑えられない。

 どうしても考えてしまう。五感を通じて可能性が囁いてくる。

 今聞こえてくるこれは人間の悲鳴なんじゃないか、と。


 「雅也、あなたが悪いのよ?」

 

 マリーの言葉が胸に突き刺さる。

 意識が背後の爆炎が上がる町に向かう。

 俺が悪いのか。

 俺がずっと、小さい頃からずっとメテオのことを、友達のことを隠してきたからなのか。

 これからもずっと、誰にも知られないままメテオとの生活がゆっくりと続いていくものと思っていたのに。

 真実を言うことは容易い。誰にだってそんなことはできる。

 だが、この状況でそれは、感情を捨て去った人間の友達に対する裏切り行為に他ならない。

 そんなのは人でなしだ。そう、自分に言い聞かせることにした。

 結局、俺には友達と街への被害を天秤にかけることができなかった。


 「そう。あなた優しいんだね。」


 彼女は確かにそう呟いた。その言葉には悲しさの念が籠っているようだった。

 彼女はパチンっと指を鳴らした。同時に目の前にいたはずの巨影が消えた。

 背後で聞こえていた爆音や悲鳴も消えた。


 「あ~あ!!!つまらなかった!!!」


 マリーは大きな声を上げ、先ほどまでの時間を忘れさせるように床に上向きに倒れた。


 「ドッキリだよ。一度やってみたかったの。

  私お金持ちで凄いから。今みたいなこともやろうと思えば簡単にできちゃうんだ。」


 その言葉は不思議と信じてしまえた。

 目の前で起きていた超常的な事象がすべて一瞬で消失してしまったからだ。

 今の科学文明はそこまで進んでいるのかと思い知らされる一言だった。

 そしてそんなことを実際にやってしまえる彼女に俺は凄味を感じた。


 「雅也、一緒に帰らない?」


 その日、俺はマリーのドッキリの仕掛けを知りたくて一緒に帰ることにした。


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