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 殿下と同じ屋敷に住むようになって早くも一年近くが過ぎている、殿下との接点はそこまで無い、有るとしても夕食後のお茶の時間のおしゃべり程度、彼は学園の教室に通っているし私は彼の用意してくれた研究所に引っ越してそこを拠点に研究を続けている。

 学年は一学年上がり十六歳になって何か大きく変わったこともない、ただ私が記憶している彼と今の殿下は全然違う、それはヘルムート様も同じで確かに彼はナルシストなのだが意外に優しい、アルノルト様とテオ様については今も謎のままだ。


 私は殿下達の事を考えながら殿下が手配してくれた助手の方達に指示書を渡す。


 殿下が手配してくれた助手の方達は凄く優秀な方達ばかり、本来なら王都の薬学研究所で研究をしているような方達で、こんな私の思い付きの研究に彼等を助手として使って良いものかと当初は遠慮していたのだが、彼等が「マリーア様のレポートを読んで感銘を受けた」なんて私を褒めまくるもんだから、今は遠慮なく使いまくっている。

 優秀な助手と広い施設に最新の設備それだけでなく殿下に申請すれば研究に必要な薬草などが直ぐに手に入る環境の良さ、頭が悪いが研究馬鹿な私には最高の場所を殿下が手配してくれたことに感謝してもしきれない。


 乙女ゲームの悪役令嬢フラグは折れてはいないと思う、でもフラグがビンビンに立っているという訳でも無い、攻略対象者で関りが有るのは殿下とヘルムート様だけで、アルノルト様とテオ様とは今も関わりは無いに等しい。

 殿下の周りにあの二人も常についているのかと思ったが、そうではないようで殿下はヘルムート様と私の兄と一緒に過ごしている方が多い気がする。

 兄は学園は卒業してしまったが殿下の側近として王宮に勤務している、王宮勤務と言っても殿下は今学園で勉学に勤しみながら寮で生活しているので兄は殿下の寮に出勤している。

 殿下の寮に兄が出勤するという事はそこに住んでいる私とも顔を合わせる機会が必然的に増えることになる、そのおかげなのか希薄だった兄との関係性は最近兄妹になりつつある。

 そして兄は学園を首席で卒業するほど優秀な人だった、あの分厚い辞書のような本をマジで一回読んだら覚えられる人だったことに、同じ両親から産まれたのに何故こんなにも頭の出来が違うのだと悲しくなった。


「やーマリーア嬢元気にしてるか?」


 研究所のドアを遠慮なしに開けて私に話しかけてきたのは、この半年で私に気楽に話しかけるようになったヘルムート様、彼はこうやって定期的に研究所にやってきては教室の様子を教えてくれる。


「これはヘルムート様ごきげんよう、今日はどうされましたの?」

「殿下とは仲良くやってるかい?」


 私が返事をするとヘルムート様は毎回同じセリフを言う、何故毎回殿下と仲良くしているのかと聞いてくるのか謎だ。


「仲良くですか?そうですねそれなりに仲良くやっていますよ、昨日は研究の中間報告的なものを報告して、何が足りないか次は何に力を入れればいいか等話しました」

「相変わらず色気が全くないね君達は」


 私と殿下の間に色気を求める方がおかしいと思う、殿下と私は確かに婚約者同士ではあるが今の関係性はパトロンと研究者的な関係で、そこに愛だ恋だと言ったものは一切ない。


「私達に色恋の話を求められるヘルムート様がおかしいのです」

「普通婚約しているんだから、色恋の話はするもんだろ?まっ君達は普通じゃないか・・・」


 失礼である、私は普通ですいたって普通です、殿下も見た目や振る舞いが美しく王族であるという以外は普通だと思う、もっと病んだ性格だと思っていたが彼は真面目に勉学と執務をこなすいたって普通の王子様・・・王子様な時点で普通ではないが・・・


「殿下クソ真面目だからな・・・」


 確かに殿下は真面目だ前世の記憶だと腹黒ヤンデレなはずなのだが、親友からの聞きかじりの記憶より今目の前の彼が本当の姿だと思う、思う事にした。

 一緒の寮に住むことになった時はどうなるかと、貞操の危機かと思ったが、彼が真面目でしかも契約魔法までやってくれたのは私にとっては誤算だったけど、これは良い誤算だった。


「そうだ!君の目について分ったかい?」


 ヘルムート様の突然の会話の転換に少々苦笑いが漏れるが、彼はいつでもこんな感じだ。


 私の目に関しての情報は一年前とさほど変わっていない、学園の図書館も王都のと図書館も隅の隅まで調べたが、目に関しての事を詳しく書いてある本は見つからなかった、ヘルムート様にも何度か聞いたが「頑張れ」と励まされるだけで知っているくせに教えてくれない。

 彼がダメならと兄に聞いてみたが兄も目に関してはそれほど詳しくは無いようだ、そして殿下にも聞いたのだが『真実を見抜き正せる目』としか分からないと言われてしまった。

 私を娶るものが次の王になるとか大層な事を言うのだから、次期国王の後継者候補なら何か知っていると思ったのに・・・

 時期国王候補で目に関して確実に何かを知っているのは今目の前で鏡を取り出し自分の顔をうっとり見つめだしたヘルムート様だけ。


 そんな目の前の彼に 『教えてくれても良いじゃないか!』などと心の中で叫んでみたが、心の中で叫んでもつうじるはずが無い。


「前に殿下から伺った『真実を見抜き正せる目』しか情報らしい情報は無いですね・・・」

「なるほどねーでもそれが答えなんだけどね、マリーア嬢はまだその目の本当の力を開放できていない、解放できれば殿下の言ったことが全てだと分かるはずだよ」


 あぁその美しい顔を引っ搔いてやりたい・・・


 そんな遠回しな言い方しなくても良いと思う、素直に教えてくれれば私も悪役令嬢回避方法が思い浮かぶかもしれないのに、目一つで回避されるとは思っているわけではないけど、少しでも悪役令嬢フラグを折りたい。

 でも前世の記憶だとか乙女ゲームだとか誰かに言う訳にもいかない、だから私が目に関して知りたいのはあくまでも『私を娶るものが次の王になる』とされているのが何故なのかを知る為にしなければならない。

 まどろっこしいと思うのだが、仕方がない。


「そうそう、マリーア面白い話があるんだ、今日はそれを言いに来たんだった」


 重要な案件があるならさっさとそれを言えばいいのに、ヘルムート様はいつも世間話から会話を始める。


 私はヘルムート様の言葉の意味する事を理解して、助手の皆様に部屋から出るように指示し、彼等が全員いなくなったのを確認して私と彼を囲うように結界を張る。


「面白い話とはなんですか?」

「入学式の日に殿下の前で派手に転んだカーリンて子がいただろ?」


 心臓がヒロインの名前を聞いてドキッとする。


 ヒロインが何か行動を起こしてイベントでも発生したのか?イベントが発生したとなればどの攻略者とのイベントなのか気になるところ、私の予想ではアルノルト様かテオ様の可能性が高いと思っている、ヘルムート様は彼女と深く関わろうとはしていない気がするし、殿下は勉学に執務にと色々と忙しそうで彼女との接点は薄そう、なら残るのは二人だけ。


「彼女とテオが度々裏庭で話し込んでいる姿が確認されてるんだ」


 なるほどヒロインは攻略対象をテオ様に絞ったのか、なら今後はテオ様に近づかなければ悪役令嬢回避も可能では?


「二人が会っている姿を見た者は皆魔力が平均値より高い事を考えるとテオが結界を張っているのは確かなんだけど」


 そこまで話したヘルムート様はそこでいったん話をやめ、何か考えるような表情を浮かべた。

 彼が何を考えているのかは知らないが、テオ様ほどの魔力持ちなら平均よりも魔力が高いだけの人に彼らの姿を認知されるはずが無いと私は思う、だからきっと彼もそこを考えているのだろう。


「テオは魔力量も多いうえに天才なんだよな、王宮魔術師の資格も持っているし学園の研究所は全てテオが最高責任者になってる、だけど俺はあいつの魔力はなんかチグハグだと感じるんだよ」


 今ヘルムート様はテオ様の事をあいつと言った気がする、隠されているとはいえ彼は王族の一人、殿下の腹違いの弟、そんな彼をあいつと言ってしまうという事はヘルムート様の中でテオ様の評価はかなり低いと考えるのが妥当だろう。


「チグハグですか?」

「うーっ・・・なんて言い現わせばいいのか分かんないんだが、なんだろ?他人の魔力を借りているとでも言えばいいのかな?魔力は体の一部みたいなもんだろ?だから馴染むというか、自分の意志のままに扱えると言うか・・・魔力暴走て例外はあるけど、あれは頭で色々考えすぎて混乱してるのと一緒だから常ではないし・・・なんていい現わせば本当に分からないんだが、ニュアンスで感じ取ってくれ」


 何となくだがヘルムート様が何を言いたいのかは分かった気がする、義手や義足みたいなものだという事だと思う。

 本当なら自分の意のままに動くはずの手足が、何らかの理由で欠損してしまいそれを補うための義手や義足は借り物の手や足と言ったところだと思う、器用に体に馴染ませられている人もいるけど、それでも意のままにそれらを動かすことは難しい、体の欠けた物を何かで補うと言えば身近なものなら眼鏡やコンタクトもそうだ、確かに眼鏡やコンタクトにより視力は補うことが出来るが不便さが伴う。

  この世界にコンタクトは無いんだけども・・・


「何となく理解はできます、私はテオ様が魔術や魔法を使っている所を見た事が無いので分かりませんが、彼に対して違和感は感じます」


 テオ様とは入学の時と研究所でのやり取り以外で実は会っていない、だから半年以上前の話になるけど、あの時私は違和感を感じていた。

 攻略者達と関わらない事に集中してその違和感は今まで無視してきたが、こうしてヘルムート様に話を聞くとその違和感が気になりだしてしまう。


「へーつ見ただけで違和感を感じるんだ、その目の力を完全に開放される日も近いかな?」


 私はヘルムート様の話に真面目に答えたのにニタニタ笑いながら話す彼にむかつく。


「話が逸れたな、それで二人を目撃した者によると二人は親密な関係で密会しているという訳ではなさそうなんだ」


 それはヒロインがテオ様攻略を進めているという訳ではないという事か?それともイベントが発生したばかりで好感度がまだ上がってないだけか?


「カーリンは終始顔を俯かせて反省しているような姿勢で、テオは叱り飛ばしているという感じらしい」


 ?????それはテオ様を攻略しようと思ったヒロインがテオ様のイベントを発生させようと思って、好感度も上がってないけど失礼な事をしたのか?だとするとテオ様が結界を張る理由が無い、だいたいそうならばヒロインがテオ様に失礼な事をした時点で直ぐに怒ればいい事だし。


 今どうなってんの?


「それで俺なりに調べたんだが、どうもカーリンとテオは知り合いなようだ、テオは陛下と平民との間の子でカーリンは平民ではあるが高位貴族が囲っている娼婦の娘あいつらがどこで知り合ったかは知らないけど、知り合いだとしてもおかしくは無いと思う」


 なんか私のおもつていたのと違う、違いすぎて頭が付いて行かない。


「相変わらずカーリンは俺を含め殿下やマティアスに接触しようと変な事を繰り返している、それを踏まえて考えるとハニートラップか何かで俺達をテオが失脚させたいと考えての行動かも知れない」


 ハニートラップ?益々分からなくなってきた、私がヒロインだと思ってる彼女はヒロインではなく何?いったい何?

 こうなってくると本当に前世の記憶してる聞きかじりの話など全く意味がない気がする、もう好きに生きていい気がしてきた。


「とりあえず言えることはマリーア嬢はテオとカーリンに気を付けるんだな、それと殿下が体調不良みたいなんだ、殿下真面目だから直ぐ無理するから夕食後は寝るように君からも助言しといて」


 自分の言いたいことだけを話したヘルムート様は「じゃ、またね」の言葉を残して部屋から出ていった。


 なんだか思ってたんと違う状態で私は今後どうすれば良いのか分からなくなってしまった。


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