08
私の変わった目について書いてある本は確かに学園の図書館にもあった、内容的には珍しい種族の末柄という事らしく薄紫の髪色に不思議な目を兼ね揃えて生まれてくる者はこの時代では奇跡に近い存在だという事が分かった。
太古の昔私の祖先は今は亡き国を治めた王だったようだ、彼らが王族になったのは髪色と目が深く関係している。
私と同じ髪色に不思議な目の者は魔力量が通常よりも多く、正しく見る力があったと本に記されていた。
魔力量は確かにその通りだと思う、確かに私の魔力量は多い、だが正しく見る力と言うものが分からない。
髪色だけを言うならば兄も母も同じ色をしている、確かに二人も私ほどではないが魔力量は多いでも正しく見る力が有るのかどうかは分からない、だいたいにして正しく何が見えるのかを書いておけよと思う、そこが分からなければ意味がないではにか。
自分の事を知れば悪役令嬢フラグ回避も出来るのではないかと思ったがこれでは何の役にも立たない、だいたい何故この力があると次の王の妻になる事が確定するのかもわからない、そもそも魔力量だけで言えばテオ様は私と同じ髪色ではないが多い、彼の魔力量はおそらく国内で一番だと思う、だとすると正しく見る力が重要なのだと思うのだがそこは謎すぎてこの図書館の本では解読できそうにない。
私は深いため息を吐き出し、明日は研究に必要な調べものがあると学園に申請して王都の図書館に行くしかないなと思う。
「そろそろ学園の授業も終わるころだし研究所に戻って研究の続きでもしましょうかしら?」
本棚から出した本を元の場所に戻し私が研究所に戻ろうとしたその時ふと私の先をふさぐ人影に気付き立ち止まる。
「マリーアこんなところに居たのか、寮に居ないからどこに行ったのかと思ったよ」
少し変声期に差し掛かった高くもなく低くもない心地い声、声と見た目は最高に麗しいのだが私が最も会いたくなかった人物がそこに居る。
「あら?殿下ではありませんか、どうかされましたか?」
にこやかな淑女の笑みを浮かべて返事を返すと殿下は少し困った顔をしながら私を見つめてくる。
「相変わらず君は私に対して冷たいな、事後報告にはなったが陛下達に君と一緒に住む許可が下りたよ、それと君が今まで使っていた部屋は空きがなく狭い部屋に入ることになってしまった他の侯爵令嬢が入ることが決まったから君があの部屋に戻ることは不可能だから」
再びの最悪オブ最悪である。
私はどれだけ前世で悪行を積んできたのだろう、どれだけ回避しても彼から離れることが出来ない、この際狭い部屋だって相部屋だっていいからあの部屋から抜け出したい、だがそれはおそらく不可能なのだろう、これが強制力なの?
「安心してほしい侍女や従者もそれなりの数あの屋敷にいる、常にだれかの目がある中で君に無体な事をするつもりはないよ、だからそんなに嫌そうな顔をしないでくれるか」
困った顔をしている殿下だがその瞳は相変わらず何の感情も見えていない、これは安心しろと言われても安心なできるはずがない、それに侍女が従者など所詮は王族に雇われている者達だ殿下が一言『何もなかった』と言えばそれで何もなかったことにされてしまうに決まっている。
「信用してもらえないか・・・そうだな婚約しているとはいえお互いの事を深く知らない男女が一つ屋根の下に住むのだから身の危険を感じるのは当たり前だろうな、ではこうしよう」
殿下はいきなり私の前で跪くと私の制服のスカートを手に取りそれを唇に当てると何か詠唱し始めた、すると殿下と私の足元に魔法陣が現れた。
「契約魔法に誓いマリーア、君と契約しよう、無理やり君に酷い事はしない」
普通このての魔法はそう簡単にするものでは無い、契約魔法はそう簡単には解除することが不可能なのだから。
殿下は視線だけを私に向けて早く契約をしろと訴えてくるが、そんな簡単に頷いていいものかと考えてしまう、だがこの契約は私にとっては大変ありがたいものだ、あの部屋から抜け出す方法が今はまだ見つからない、ならしばらくはあの部屋で生活をするしかないのだから無体な事をされないに越したことがない、しかも契約魔法で契約すれば私の許可なくその契約は解除されることはない、契約がある限り私の貞操は守られるという事だ。
「その誓い受け入れました」
私が答えると私達を囲うように現れた魔法陣が消えた。
「これで少しは安心できるだろ?私は婚約者として君の事が知りたいだけだ」
今まで婚約者として何もしてこなかったくせに今になって私を知りたいとは何だと思う、しかも私が避けたとはいえ強制的に同棲させるなどもっての外ではないか、そう思うのだが目上の人相手に無礼にならない文句のつけようが頭がお気の毒な私に無い。
「でわ、帰って一緒に夕食でも取ろう」
王族らしい笑みを浮かべて殿下が私の前に手を差し出してくる、私はその手に自分の手を重ね彼にエスコートされる形で寮の部屋に二人で帰ることになった。
夕食を食べ終わった私と殿下はサロンで机を挟んで向かい合わせに座り彼の侍女が紅茶を入れてくれるのを待っている。
夕食の内容はあまり覚えていない、王宮お抱えの料理人による食事だったのだからきっと凄いものだったと思うが、向かいに座る殿下があまりにもキラキラしすぎて変に緊張してしまいそれどころではなかったのだ。
さすが王族と言っていいのだろうか見た目だけでなく食事をとるその姿までも高貴すぎて直視できなかったのだが、だからと言って食事に集中できる状態でもなかった。
自分の前にあの完璧な生き物がいるそう考えると馬鹿なことは出来ないなどと変なプレッシャーを感じていつものように気楽に食事を楽しむことが出来なかった。
私がくだらない事を考えているうちに彼の侍女が紅茶の入ったテーカップを私達の前に置いて部屋の隅へと控える。
侯爵家の侍女も洗礼されているが王宮で雇われている彼女達はそれ以上に洗礼され、隙さえ感じられない、彼女達は皆それなりの爵位を持つ貴族の令嬢達なのだから洗礼されているのは当たり前なのだが、その隙の無さはどこから生まれてくるのかと少々疑問を感じないわけでもない。
「マリーアのやっている研究について聞きたいのだがいいだろうか?」
侍女の入れた紅茶を一口飲むと殿下は王族らしい笑みを浮かべて私に話しかけてきた。
彼のような高位の男性が私の研究の話を聞きたいなんて言うとは思わなかった。
この世界は貴族社会をモデルにしているせいか女性が社会進出する事はあまり良い事とはされていない、その考えは特に高位貴族になるほど強い傾向にある、第一王子である彼もその傾向は強いはずなのに私の研究の話を聞きたがるとはいったい何を考えているのか。
「私の研究の話ですか?」
「あぁ、君が何を研究しているのか知りたいんだ」
興味ありげな表情を見せ私に話しかける殿下が何を考えているのか全く分からない。
そもそも私の研究は貧しい者達にも健康になって欲しいと言う安直な私の思い付きから始まつたものだ。
研究と言えば王家や貴族達の役に立つもの支流で有るし現にこの学園の研究所も王都に数多存在する研究所もそうである、貧しい者達のための研究をしているのはおそらく私くらいだろう。
そんな私の研究に殿下が興味を持つとは考えられない、何か思惑があるのだろうか、それとも私を馬鹿にするために聞きたいのだろうか。
貴族ではなく貧しい者達の研究など意味がないこれだから女はとコケにしたいのだろうか?そう考えると殿下が私の研究の話を聞きたいというのも理解できるが、私をコケにして殿下に何の得があるだろう・・・
「私の研究は薬についてなのですが、今流通している薬はどれも高価で市井の者達が手を出しにくい物ばかりです、ですから重篤な症状で無い方たち向けの安価な薬が作れないだろうかと思いまして」
「なるほど、安価な薬が出回れば軽い風邪などは薬で何とかなるな、だが自己判断で薬を飲むのは危険なのではないか?」
「そうなんです・・・だから重篤な方以外のための薬に着目したのです、日常的な軽い怪我や頭痛や軽い風邪などを軽減できれば市井の者達の生活を少しは潤うでしょう?それに薬師ほどの知識が無くとも自分の症状が分かる程度で飲める薬ならば市井の方でも薬に手を出しやすくなります」
「確かにその程度の知識で手が出せる薬があるのなら市井の者達も手に取りやすいな」
「医療体制が整い市井の方達も気楽に医者に行けるようになればそれが一番なのですが、それはずっと先の話でしょうし、それなら先ずは自己判断でなんとななる範囲からと思いまして」
「医療体制の充実か、確かにまだまだ先の話だな・・・母上達が今取り掛かりはしているが人材育成からだからないかなりの時間がかかるだろうな」
殿下は難しい顔で何かを考えている。
しかし彼が私の考えに賛同してくれるとは思わなかった、庶民など履いて捨てるほどいる貴族だけが大事なのだと考えているものだとばかり思っていたから私の考えなど鼻で笑われると思っていた。
彼は私が思い込んでるほど傲慢で病んでる王子ではないのかもしれない。
でもあの乙女ゲームが此処まで細かく設定を作り上げているとは思わなかった、エロ中心の内容の無いゲームだとばかり思い込んでいた。
「医療体制の事は母上達大人に今は任せるとして、君は研究を続けると良い、今の研究所は本格的に量産できるようになったら手狭になるだろう、それに助手も必要だろうから、寮の近くの施設を使うと良い」
今の研究所に不満は無いだが本格的に薬を生産できるようになれば確かに手狭になるし私一人でとなると無理だ、だから彼の提案は凄くありがたいが、私の悪役令嬢フラグが立っている気がする・・・
当初の関わらない計画はもう破綻している、それをもう一度行使するのは難しい、ならフラグをへし折りたいのにそれすら出来そうにない、これなら研究者の道を選ばず教室に通い彼等と適当に関わってフラグを折る方を選んでいたほうのが良かった気がする・・・
「では、明日にでも研究所の引っ越しと助手の手配をして君の侍女に指示を出しておくよ、君はそれに従って研究に必要な物などを書き出しておいてくれ」
そう言うと殿下は王族らしい笑みを浮かべて「執務が残っているので今日はこれで失礼するよ」と言い残し部屋を出ていった。