06
兄から送られた本で私は前世の記憶を思い出す、そしてこの世界が前世友人がはまっていた乙女ゲームの世界だと気づく。
だが私は前世乙女ゲームの話をちゃんと聞いてもいなければ、プレーもした事もなく初っ端から積んでいる状態だった。
そこで私は攻略対象者と関わらなければ悪役令嬢をやらなくて済むのではないかと考えついて、彼等と関わらないようにと心に誓って学園に入学した。
だが私の思惑とは違い攻略対象者である殿下のほうから私に関わってきた事で少々厄介なことになる、だがそれを第二の選択によって回避しようと思ったら、まさかの攻略対象者であるテオ様と関わることになった、だが神が私に味方したのかテオ様の提案により私は穏やかな日々を手に入れることが出来たはずなのに・・・
「入学式からもう三ヵ月以上たったのか・・・」
枕を抱えてベッドの上で小さく呟き、天井を見つめて私は深いため息を吐き出す。
ゲームの攻略をしていない私はヒロインと攻略者対象者達のイベントがどんなものなのか知らない、知っているのは至る所でヒロインと攻略対象者が致すという事だけ。
私の現状を考えるとヒロインと攻略対象者とのイベントはまだ発生していないと考えられる、もし発生していたら今頃私の事など気にせずヒロインとイチャイチャしているはずだ、乙女ゲームで有り攻略対象者が複数人居ることを考えればどのルートをヒロインが選択したかで色々と変わるのだろう、もしかしたらヒロインは攻略対象を一人に絞っているのかもしれない、その攻略対象はロビン殿下ではない他の人だと考えると殿下が私に興味を示したままなのも頷ける。
アルノルト様なのかヘルムート様なのかテオ様なのか分からない、私にとってはヒロインが誰を選ぼうともいいのだけど、私の今後に関わるのなら誰ルートを選んだのか知る必要がある。
その他で考えつくのは逆ハーレムルートをヒロインが失敗している状態ではないかと言うもの。
どんな乙女ゲームでも全員に愛されちゃって私こまっちゃ~うなんてくだらないENDがあるもんだろう、乙女ゲームをあまりやったことがない私なのでそうだとは一概に言い切れないけど・・・
もし逆ハーレムルートがあるとしてヒロインがこれを選んだとしたら、そのルートを成功しているなら私は忘れられた婚約者になれているはずだ、殿下も私なんか興味を失いヒロインに興味を示しているはずだ、だが同棲まがいな引っ越しを強行していることを考えると成功しているとは考えられない、殿下は明らかにまだ私に興味を示している。
「ヒロイン頑張れよ・・・」
私の中の本音がポロリと漏れたがそれを聞いている人物はいない、だから気にしなくていいよね。
しかし色々予想するのはいいが実際現状がどうなっているのか全く分からない、兄が最後に言い残した言葉も気になる。
「ヒロインに聞いてみる?」
情報を得ようと思えば調べればいい、だけど私は余りにも人付き合いがなさ過ぎてどこから情報を仕入れればいいのかも分からない、直接攻略対象者に聞くなんてこともしたくはないし、彼らが何を考えているのかもわからない、ならばこのゲームの世界の事を知っている可能性のあるヒロインに聞くのが早い気がするが、もし彼女が転生者でなかったら頭のおかしい人扱いされるだろうし、ヒロインと関わると悪役令嬢扱いされる可能性もある。
「積んでる・・・色々と積んでる・・・」
出だしから積んでいる状態だったが今はさらに積んでいると思えてならない、現状を打破するにはやはり情報を仕入れる必要があるが、情報を得ようにも兄が送ってくれた本くらいしか情報を得る方法がない。
私は深いため息を吐き出し、どうしたものかと頭を抱えた、その瞬間誰か人の気配を室内で感じる、誰かが部屋に入ってきた?しかもノックもなしに部屋主の許可もなく?そんな事をやれるのはこの寮の主である殿下だけだ、私は恐る恐る気配のする方向に視線を向けて驚愕する。
そこには殿下ではなく燃えるような赤い髪に深い緑色の瞳を持つナルシストヘルムート様が「やっと気づいた?」なんて軽口をたたきながら笑顔でソファーに座っていた。
淑女の部屋に部屋主の許可もなく入ってきたヘルムート様はソファーで長い足を組みながら、ニコニコと笑顔でこちらを見ている。
何時もなら手鏡を見ながら自分の顔にうっとりしている彼が、こんなに人懐っこい笑顔をするなんて知らなかった。
「いつからいらっしゃるのかしら?」
彼の非礼に文句を言うのではなく私は彼がいつからこの部屋に居たのかが気になった。
「ヒロイン頑張れよ・・・て君が呟いたくらいから居るけど」
さも当たり前なんて顔で言うヘルムート様だが、許可もなく勝手に部屋の中に入ってくるのは紳士たる貴族子息がやっていい事ではないはずですけど?
しかしヘルムート様はかなり前からこの部屋にいたようだ、だが私はこの部屋のドアが開いた気配すら感じなかった、彼はどうやってこの部屋に入ってきたのだろうか。
「俺さ得意なんだ、気配を消して転移魔法使うの、テオだって気づかないんだ、だから安心して密室に男女が二人居るなんて誰も気づきはしないからさ」
今凄く恐ろしい事を彼が言った気がする、密室に男女が二人・・・そんな事が誰かにばれて知れ渡れば色々と問題だ、しかもここはロビン殿下の寮で有る。
「そんな怯えた顔しないでくれるかな?俺は俺にしか興味ないからマリーア嬢を襲うとかないから」
それは知っている、ナルシストのヘルムート様は自分にしか興味が無い、だから貞操の危機だとは感じていない、だが男女が二人密室に居る事が誰かにばれるのは大問題以外の何物でもない。
あれ?ヘルムート様は攻略者の一人だよね?そうなるとヒロインと致しているという事じゃない?貞操の危機もあり得るのかな?
そんな前世の記憶を思い出したりしていたら、ヘルムート様が立ち上がった。
私は「ひっ!」なんて令嬢らしからぬ声を出してベットの端の方に慌てて移動する。
「だから安心してて、俺は君を襲う気はないから、俺はさアルト様が色々と説明してない気がしたからここに来ただけだし、それにロビン殿下やアルノルトは陛下に呼び出されて王宮に行ったから直ぐにここに来ることもないだろうし、彼らの行動が気になるテオもきっと二人の行動を探りに王宮に居るだろうからこの部屋に二人でいることがバレることはない無いはず」
そこまで話し終えたヘルムート様は魔法でお湯を沸かすと、テーポットに適当な茶葉を放り込み紅茶を入れだした。
「マリーアはさ色々と知ら無すぎじゃないかな?何で自分がロビン殿下の婚約者なのかとか分かってる?」
「それは私の魔力量が多いからではないのですか?」
「確かにそれもあるけど、そこはそれほど重要じゃないかな?君がロビン殿下の婚約者になったのはその瞳があるからだよ」
「私の瞳・・・」
私の瞳は人と違う、兄は薄い紫色の瞳をしている母も同じ色の瞳だ父親は確か髪色は茶色で瞳は薄茶色だったはず、でも私の瞳はどの色でもない、私の瞳の色は何色だと断言するのは難しい、見る人や見る角度によって瞳の色が変わるのだ、だから何色の瞳とは言い切れない。
「薄紫の髪に不思議な瞳を持つ君を娶る事それすなわち次の王を約束されるという事だ、でも無理やり娶っても意味がない君が選ぶんだ次の王に相応しい男を」
ヘルムート様の言葉の意味が分からない、私は悪役令嬢であり不幸な最期を迎える立場なのではないのか?それを回避するために私はヘルムート様達と関わらない事を選んだ、だがヘルムート様の話では私が彼等と関わらないでいることは不可能になる。
だいたい私がそんな重要な人物なのだとしたら、殿下が入学するまで私に興味を持たなかったのは何故?次の王になりたいと思っているなら殿下は何らかの動きを見せていたはずだ。
「その表情を見ると意味わかってないようだろ、でもそこまで俺も優しくはないから説明はしてやんない、自分で調べると良い、王立図書館でもこの学園の図書館でも君の髪色と瞳に関して詳しく書き記した本はあると思うから」
いたずらっ子のような笑みを浮かべたヘルムート様は紅茶を二つのティーカップにそそぐと一つを自分の前に置き、もう一つを私に向けて差し出してきた。
ベッドの上に居る私とソファーの側に居るヘルムート様では紅茶を受け取るには少々距離がある為、私は仕方なしにベッドから立ち上がりヘルムート様の側まで行くとテーカップを受け取り、机を挟んでヘルムート様の前に位置するソファーに腰かけた。
「俺はさ俺が一番好きだし、この完璧な俺を生み出してくれた両親の事も好きなんだよ、父親譲りの赤い髪に深い緑の瞳、母親譲りのこの美しい顔、二人が結ばれなかったら俺は生まれてないわけだしね」
ニコニコ笑顔を崩さずに自分の美しさを語るヘルムート様は安定のナルシストぶりで、何故か安心してしまう。
「そうですね・・・」
あきれ顔の私の返事にヘルムート様は些か不満気だが、ナルシストの気持ちなど私に分かるはずがない。
「この国には王位継承権を持ってる人間が四人いる、ロビン殿下は第一王子だし分かるよな?では後の三人は誰だと思う?」
ヘルムート様の問いかけに私は思案顔をする、王族だけでなく貴族の事も興味が無かった私は誰に王位継承権があるのか分かっていない、ロビン殿下の異母兄弟であるテオ様は王族であることを隠されているとはいえ継承権があるだろう、では後二人は誰なのか?
「本当にアルト様の言うとおりに君は王族や貴族に関して興味が無いんだな、驚きを通り越して感心する」
なかなか答えを言わない私にヘルムート様は呆れ顔をしている。
「王族であることを隠されているけどテオはロビン殿下の異母兄弟だから王位継承権はある、そしてあとの二人は俺とアルノルトだよ」
これは攻略対象者全員が王位継承権を持っているという事になる、アルノルト様は確かに王族の血を引いた公爵家の嫡男なのでわかる、だけどヘルムート様は騎士団長の息子で確か伯爵家のはず、何故彼も王位継承権を持っているのかそこが分からない。
「今の宰相はアルノルトの父親であるマレク公爵なんだが、彼は今の国王陛下の従弟だから王位継承権を持ってたんだけど、彼の策略は失敗に終わって王にはなれず公爵家に婿入れさせられ陛下の臣下になるはめになった」
そこまで話し終えたヘルムート様は自分で入れた紅茶を一口飲んで複雑な顔をする。
「紅茶はやっぱり入れなれてる人間が入れるべきだな、まずい」
ヘルムート様はそういってテーカップを早々に置き、私へと視線を向ける。
「陛下の息子は二人だ、正妃の息子であるロビン殿下と平民の娘との間に生まれたテオだけ、王なんて立場の人間にはいつ何時何があるか分からない、スペアは沢山あるに越したことはない、なんて御託を並べてマレク公爵は自分の息子であるアルノルトにも王位継承権を持たせることに成功した、だけど正妃様であるロビン殿下の母親はそれを良しとは思っていなかった、できれば自分の息子を次の王にしたいと思うのは当たり前だからね」
そこでヘルムート様は長い足を組む、まだ成長途中の十五歳だと言うのに彼の足はやたらと長い、今後彼の足はどこまで伸びるのだろう。
「そこで正妃様は保険を掛けることにした、俺の母上は父上と大恋愛して結婚した本当ならもっと位の高い国内の貴族か他国の王子と結婚することが望ましいだろうけど、母上は自分の愛した男と結婚することを選び当時の王の反対を押し切り結ばれたんだ、そんな母上は今の陛下の双子の妹だから俺にも王家の血が流れている、アルノルトよりも俺の方が王家の血は濃いから正妃様によって無理やり俺にまで王位継承権が与えられることになった」
ヘルムート様の話を聞いて私は王宮に渦巻く闇を見た気がする、色々と暗躍しているのは想像していたけど、まさかここまでとは思わなかった。
「言っておくけど俺は王になんてなりたくない、王なんて仕事で寝る暇もなければストレスがたまる、俺の美しい肌が寝不足とストレスで荒れるなんて許せないからね」
自分大好きなヘルムート様らしい考えだと思う。
「それとロビン殿下も王になる気はない、殿下は第一王子で王位継承権第一位ではあるが優しすぎる、自分でもそれに気づいているから殿下は王になりたいなどとは思っていない、だからこそ婚約者で有るマリーア嬢に興味を示さなかった、だが君と出会いあまりにも君が王族や貴族に興味を持っていなかったことに殿下は王になるとかうんぬんかんぬん関係なく君に興味を持ってしまった」
ヘルムート様の言葉に意外だと思った、ロビン殿下は次の王になりたのだと思っていたからだ。
「俺としては次の王が俺以外だったら誰だっていいんだけど、俺や俺の家族達の今後の事を考えるとロビン殿下が次の王になるのが好ましい、だからロビン殿下が君に興味を持ってくれたことはこちらとしては好ましい兆候だったりする」
好ましい兆候・・・私にはまったく好ましくない兆候だが?
「俺が言えた話じゃないけど、アルノルトは性的思考が色々と問題がありすぎるし、それに父親のマレク公爵は色々と問題がありすぎる、彼がこれ以上の力を持つのは好ましくない、テオは論外だな、天才だけど彼は天才過ぎて自分と同じだけの事を他人にも望む傾向が強すぎる、臣下だけでなく民にも同じだけの結果を望むだろう、それに彼の母親はクズだ、テオが王家の特徴を受け継いだから陛下の子供だと認められたが、あの女は不特定多数の男と関係を持っているから汚い」
アルノルト様の性的思考は確かに問題ありだろう、そして父親のマレク公爵は現在宰相を務めていることを考えれば、確かにこれ以上彼が王宮で権力を持つことは好ましくない。
テオ様に関しては意外な評価だと思う、ブラコンを大いに拗らせているテオ様が天才がゆへに自分と同じだけの物を他者に求めるなんて思いもしなかった、研究所で話した時彼は殿下の事を褒めまくっていた、自分と同じだけを他者に望むのならそれは兄である殿下にもだろう、殿下がどこまで優秀な人間なのかは知らない、兄やヘルムート様はロビン殿下を次の王に望んでいることを考えると、意外にも人格者なのかもしれない、まっ評価してる人が二人なので分からないけど。
テオ様の母親の事は私は全く知らない、兄の送ってくれた本にも彼女の名前はなかった、テオ様の両親に関して本では不明と書かれていた、陛下の隠し子であることすら書かれていなかった。
前世の記憶があったから私はテオ様を殿下の異母兄弟だと認識していただけ。
そう考えるとテオ様が一番謎に満ちているという事なのかな?友人曰くのこのゲームの世界のまとも枠なはずなのだが、拗らせたブラコンだったし謎だし一番危険人物だったりするのだろうか?