02
まさか入学初日から私の予定にないことが続いてしまったが、だからと言って焦る必要はない、何故なら私には彼等と関わらない方法が他にもあるからだ。
まさか入学して早々にこのカードを切ることになるとは思ってもいなかったが、状態が状態だ致し方がないだろう。
私の秘策その二それは研究者として研究所に籠る事。
貴族の子息令嬢が強制的に通わされる王立魔法学院ではあるがその勉学の内容は貴族の秩序を学ぶだけではない、貴族の子息令嬢と言っても皆が長男長女で家督を継ぐものばかりではない、次男や三男なども多くいる、その全員が爵位を貰えるわけではない、中には爵位を複数有していてそれを息子達に与える貴族もいるがそれは限られた家だけ、多くの家が家督を継げない息子達の将来をどうするかと悩んでいる。
多くの次男三男は魔術学院の騎士科に行き騎士として身を立てる将来を選ぶのだが、次男三男達が皆騎士に向いているとは限らない、頭は良いが運動はからっきしなんていうのはざらにいる、そこでこの学院には優秀な者には研究所に通う権利がある、クラスは普通科に属することが義務付けられているが、権利を有している者は教室に通わずに研究者として研究所に通うことが許されている。
侯爵家の長女である私ではあるが、しかも第一王子の婚約者ではある私だがちゃんとこの権利を持っている。
魔術学園には一応入学試験がある、貴族の子供なら強制的に通わされる学校ではあるが、貴族以外の者もこの入試試験で合格すれば通う事が出来る、現に今期の入学制の三分の一は平民のはず?
研究所に通う権利も平民にもちゃんと与えられる入学試験を合格したうえで通いたい研究所の試験を受けて合格すれば通う権利を貰えるのである。
私は貴族の娘なので入学試験自体は簡単な面接のみで受かっている。
問題は研究所に通う権利を得るための試験だった、前世の私もそうだが今の私も勉強がそれほど得意なわけではない、だが私には他の人よりも優れた能力があった、それがこの世界では普通にある魔力、魔法と言うやつですよ。
前世の世界にはなかった能力だけど、これが不思議なくらい私は得意、持って生まれた魔力も平均より多くそれを操る技術も一般の子よりも優れている、これを利用しない手はないではないか、転生するとチート能力を持ってることが多いと聞いたがチート能力最高だな。
しかしこれのせいで魔力量が少ない殿下の婚約者に選ばれたんだから、チート能力最高とは手放しには喜べない悲しみ・・・
そんなわけで私はこの魔力で薬草をいじり薬を作り出すことに成功している、その功績が認められて薬学研究所に通う権利を貰った、だから殿下達と同じクラスになってしまったが今日からはあの教室には行かずに研究所に通い、私の平穏な学園生活が取り戻すのみ!
殿下達のことはきっとヒロインが何とかしてくれるはずだ、彼女ならきっと彼等の抱える闇を癒す事も出来るだろう、私には無理だけど。
そんなこんなで私は薬学研究所に足を踏み入れた、そして私はそこに居た人物に頭を抱えた。
何故いる・・・
私は攻略対象者全員と関わりたくないのだ、なのに頑張ってもぎ取った権利であり私の安息の場所で有るはずの研究所に殿下の異母兄弟であるテオ様が研究所の上座の席に座っていますけど?そこの席研究所のリーダー的な人が座る席じゃないですかね?
ゲームを攻略していない私です彼等のことなど知りもしませんよ、どんな設定とかそんなもの露ほども知りませんよ、だからって数ある研究所からピンポイントで攻略対象者がいる研究所を引き当てるとかおかしくないですか?おかしいですよね?これが強制力と言うやつなのですか?慈悲はそこにはないのですか?
どんなに嘆いたどころで彼がこの研究所に居る事は間違えようのない事実で、今日からこの研究所に通う新人研究者として挨拶しないわけにはいかない。
意を決して上座の席に座るテオ様に声を掛けたら凄く嫌な顔をしたのち睨まれた、他の研究員達は彼のそんな行動に驚いたのか意外そうな表情を浮かべた。
私は知らないがテオ様は外面がきっと良いのだろう、どんなキャラ設定だったか全く覚えていないがこの世界の唯一のまとも枠だと親友が言っていたのだから普段の彼は穏やかで他人に邪険な態度はとらない人物なんだろう。
魔力量が多すぎしかも平民との間に生まれたことで彼は王族であることを隠されている、それでもその多い魔力量と器用さで魔術者として確か認められ、王宮魔術者としての地位を与えられているはず?記憶が曖昧だからあれだけど・・・
これでも高位貴族の娘として生まれ育っている、前世の記憶を思い出してからは貴族令嬢と些か不安なところも多いけど、だから王位継承権争いのことはそれなりに知っている、彼が王族だという事を隠されているのもそれが関係している事も。
「シュトルツェ侯爵令嬢丁度良かった君とはゆっくりと話がしたいと思っていたんだ」
入学二日目にして不穏すぎる空気に私の頭は激しい痛みを覚えたが逃げるという選択肢が無い状態なので貴族令嬢らしい笑みを浮かべることしかできやしない。
誰か助けてください、私は別に彼を攻略したい訳では無いのです、ただ平穏な日常を過ごしたいだけなんです、悪役令嬢ポジションの私ですができれば悪役令嬢にはなりたくないんです、だいたい私は悪役令嬢マリーアがどんな最後を迎えるかも知らない、だがどんな乙女ゲームでも小説でも悪役令嬢とは碌な最後を迎えない、よくて婚約破棄からの国外追放悪けりゃ死罪だよね・・・
そこまで考えた私は酷くなる頭痛に体調不良を理由にこの場から逃げ出したいと思う、思うがそんなことは許されないらしい、テオ様は怪しい笑みを浮かべて席を立ちあがると、隣の部屋に続くドアを開けてこちらに来るように促してきた。
従う以外の選択肢は恐らくない、彼がこの研究所のどの立場に居るのかも知らない、知らないがきっと私の上司だろう、入所早々上司の指示に従わないとかありえないだろう、どんな世界だって結局権力には勝てやしないんだ。