仲間割れ
最近忙しくて仕事中の妄想ができないです。
「いいえ、それには及びません。自分はついていっても何もできませんので、ここで殺してください。」
一同言葉を失った。結構な極論ですな、必要ないから殺すとは。
「そんな必要ないですよ。一緒に行きましょうおふたりもそれでいいですよね。」
リサさんが少し慌てて説得を始めた。
「第一お前さんが居なくなったら、俺たちはこの後どうすればいいかわからねぇぞ。」
「そこは大丈夫です。クローン計画が…失敗したと思っていたので…私の代替として研究所のコンピュータに…自分の知りうる限りの…知識をコピーしておきました。そしてAIを使って…現在も知識量を増やし続けています…ので多少面倒とは思いますが…知りたいことがあれば…そちらで調べてください。」
「だからって死ぬことはないですよ。私はもっとお話がしたいんです。」
長らく家族が居なかったリサさんは、やっとできた母兼姉に殺してほしいといわれて混乱している。クローンを勝手に作ってバックアップにしようとしていたのだから逆に恨んでもおかしくないと思うが、リサさんはそうは思わないようだ。すると梨沙さんは母親のように話し始めた。
「わがままは…いけませんよ。1人動けない仲間がいるのは…それだけで、2人分損しているのですから。私がついていけば…食料は4人分必要…ですが働けるのは…3人だけで、そのうち一人は…私の世話で手がふさがります。実質2人しか…働けなくなるんです。」
確かにその通りなのだが、そうもいかないでしょう。だってあのリサさんが涙目になってるじゃないですか。
「では僕らで手分けして、3人で4人分働けば問題ないですね。」
「…全く解決策に…なってないですね。」
「それに、僕はリサさんのことが好きなんです。どうしてもと言うなら、これは所長としての命令です。」
僕は梨沙さんだけに聞こえるようにささやいた。それはずるいという顔をしたものの、所長命令というところにはしぶしぶ納得したようだ。
「わかりました。それでは…もうしばらく…生きてみましょう。」
それから出発の準備を始めた。まずは核燃料の輸送手段だが、今乗っているトラックをフルトレーラーに仕立てて輸送することにする。往路は後ろに燃料と食料を満載して、復路では往路で消費して空になった空間にMOX燃料を積んでくることにする。僕は改造に精を出すことになる。4人での話し合いの結果、リサさんは食料調達、スズキと梨沙さんは情報収集をすることになった。梨沙さんの話によると研究所にはパワードスーツがあるというので改造に使わせてもらうことにする。
「こんなんでどうだ。フルトレーラーの連結部分の設計図だ。」
「なるほど。これなら簡単に再現できる。」
とても簡単で分かりやすい連結器だ。鉄骨を溶接して三角を作って先端にポールをつける。ブレーキなどはエアーホースを分岐させて何とかなるはず。電装系は車検を取るわけでもないし、特に気にしないことにする。
「ところでよ、梨沙の事なんだが…。」
「梨沙と言うとここの梨沙さんか。」
僕は下を指さして研究所にいた梨沙さんか、と聞いてみる。
「そうだ。で、その梨沙なんだけどな。俺に面倒見させてくれないか。もちろん女じゃないとできないことはリサに頼むけどよ、それ以外は俺に任せてくれよ。」
「それ自体は一向にかまわないが…さては気があるのか。」
僕は一向に構わないのだが、それをリサさんが知ったらどう反応するのか少し楽しみな気もする。
「うっ、まぁあっちのリサじゃ俺と歳が離れてて、恋愛対象というよりは姪っ子っていう感じに見てたけどな。可愛いからついきになっちまってたんだが、こっちの梨沙は俺と同じくらいに見えるだろ。」
「まあ見た目はな。歳で言ったらリサさんよりもかなり離れてるけど。なんたって彼女はカプセルぐふぉっ。」
スズキは僕の口を押えて黙らせた。
「そういう野暮は言うもんじゃねえ。特に女性の年齢は口に出さないほうがいいぞ。」
お前いつもそんなに紳士的じゃねぇだろうが、と口まで出るが口はふさがってるので目で訴えることにする。僕はすぐ解放されたのでまだ目から出してない方の言葉を出す。
「じゃあこれからは僕らを茶化さないことだね。特にセクハラ発言は禁物。」
「わかってるよ。」
やれやれこれから面倒なことにならなければいいけど。
それから少しの間は平和な日々が続いたが、ある朝突然平和は終わりを迎えた。その日の朝はリサさんがどこからか地下都市に降りて買い物をしてきた。そしてとても珍しいことに生卵が3つも手に入ったというのだ。
「見てください、生みたての卵らしいですよ。今日の朝ごはんに卵を出しますね。」
とても嬉しそうにタオルでくるんだ卵をみんなに見せるリサさん。スズキは難しい顔をしており、リサさんはまだ本調子ではない目を凝らしてみている。
「で、どうやって料理する気だ。」
凄く真剣な顔つきでスズキが口を開いた。
「はい、卵焼きを作るつもりですが。」
「ふざけるな。目玉焼きに決まってる。せっかく新鮮な卵なんだ黄身のおいしさを味わうのは当然だろ。」
目を見開いて主張するスズキに、リサさんは負けずに鋭い眼光で返す。
「何を言っているのですか。卵は3つ、人数は4人、これを均等に分けるには卵焼きにして当分するのが最適です。目玉焼きにしたら分けられないじゃないですか。」
ごもっともだ。卵は貴重で人数分はないので、それを分けるには卵焼きがベストだろう。
「…確かにそうだ、けどよ…。わぁかったよ。卵焼きでいい。」
「ではそうしますね。すみませんが砂糖を取ってください。私では届かないので。」
棚に乗せてあった砂糖の袋を取ろうとするとまた問題が起きた。
「ちょっと待て、砂糖なんか取ってどうするんだ。」
スズキがリサさんに聞いた。
「卵焼きの味付けですけど、何か問題でもありますか。」
「ああ、大ありだ。なんでご飯のおかずを甘くするんだ。普通に考えて出汁と醤油で味付けだろう。」
第二次たまご戦争とでも名付けようか。またしても卵をめぐり戦いが始まる。
「アキさんはどちらがいいですか。しょっぱい卵焼きと、あまい卵焼き。」
嫌なパスをもらってしまった。スズキもこちらを見て圧力をかけてくる。
「僕はどちらでも大丈夫ですよ。」
「なにぃ。お前甘いもので飯が食えるのか。」
「うっ、うん、桜でんぶでご飯食べたり、あんこ乗せたり大学芋でだって食べられるよ。」
僕は結構何でもいけることを披露したがリサさんまで少し引いてる。
「大学芋でですか。さすがにそれはおやつか、デザートにしませんか。」
「あんたもこんな風になりたくなかったら、今のうちに卵焼きに砂糖を入れるのをやめろ。」
失礼な、僕はそんなに偏食ではないし、味覚もちゃんとしてるはずだ。
「それとこれとは話が別です。だいたい出汁って何の出汁を使うんですか。ここには鰹節も昆布もいりこもないです。」
「しかしなぁ、甘いのはどうしたっておかずにはならねぇよ。そうだ卵かけご飯はどうだ。もうしばらく食べてないからそれでもいい。」
「すみません。それはちょっと難しいかもしれません。正規の市場から買えばできるかもしれませんが、今日の卵は衛生基準を順守しているか怪しいものですので。」
リサさんが卵かけご飯を却下した。確かにどこで採れて、どういう風に保管していたのかわからない卵を食べて食中毒になるのはごめんだ。採れたて言ったとしても卵の中にサルモネラ菌が居たらどうしようもないし。そもそも採れたてより少し置いた方がおいしいらしい、比べたことないけど。
それからもリサさんとスズキのにらみ合いが続いた。その間に梨沙さんが卵と砂糖、脱脂粉乳をもってどこかに行ってしまったが2人は気づかない。今もやれ炒飯だ、卵サラダだと献立を議論している。そんなに卵が好きなんですか。
10数分がたった。
「あれ、なんかいい香りがしませんか。」
いまだに話し合いをしている2人に僕は割って入った。なんだか甘くていい香りがしてきた。
「ほんとですね。何の香でしょうか。」
「バニラじゃねえかこの香り。」
そこに梨沙さんが現れて、車椅子の膝の上に乗せたお盆からみんなにカップを配った。プリンだ。
「どうしたんですかこれ。」
「つくり…ました。」
僕たち3人は驚いてカップの中を覗き込んだ。カラメルもかかっていておいしそうだ。
「手はどうした。もう自由に動くのか。」
スズキがどさくさ紛れに梨沙さんの手を触る。ここ数日、梨沙さんは手のリハビリをしていてほんの少しだけ動くようになったのだが、まだ料理はできないはずだ。
「奥に…調理用の…補助ロボットが…ありますので、それを…これで動かして…作りました。」
首の後ろのプラグを見せながら説明した。カプセルの中で意識だけ起きていた時に使っていた出力用のプラグのようだ。直径1センチぐらいのマグネットでくっつくタイプだ。
「これで卵戦争は終わりですね。いただきます。」
僕はそういいながら朝ごはんの前ではあるが、先に甘味をいただく。おいしい、少し硬めの卵プリンは卵の香りがきちんとして食べ応えがある。カラメルも苦みと香りでいい感じにプリンの引締め役を務めている。
「とても美味しいです。紅茶かコーヒーが欲しいですね。」
「コーヒーならできるぞ。」
「お前の飲んでる代用コーヒーはいらないよ。」
「では緑茶でもいかかですか。」
リサさんはグリーンティーと書かれた袋に入った顆粒をお湯で溶いている。さながらブレックファーストティーと言ったところか。だけど、食べてるものはプリンでアフタヌーンティーみたいだ。飲んでるのは緑茶だし、もう何でもいいか。
僕は、つかの間の休息を楽しむのであった。
その日の昼、スズキの提案で船の内部を見て回ることになった。現在は船主右舷側にいる。
「それにしても大きいなぁ。この船はどのくらいの大きさなんですか。」
僕は梨沙さんに尋ねた。
「全長、約225m…全幅約35m…です。」
「はぁん。で速度はどのくらい出るんだ。」
「まだ、実際には…動かして…ないですが、計算上は…40ノットほど…です。」
僕とスズキは驚いて顔を見合わせた。リサさんはピンと来ていない様で、
「すいません。それってどのくらい速いんですか。」
「時速74キロぐらいですかね。」
「あぁ、この巨体をそんな速さで動かせるなんて恐ろしいぞ。俺たち素人じゃまともに動かせないんじゃないか。」
「そんなこと…ありません。見た目は…古いですが、兵員室には…コンピュータが詰まっていて、ほとんど…自動で航行できます。艦橋に居れば、航行から射撃まで…指一本で動かせます。」
「なぜ古い船をモデルにしたんですか。新しい船なんですから新たに設計すればよかったのに。」
こんな何世紀前の設計だかわからない形じゃなく、もっとステルス性を考えた新しい設計にすればよかったのにとつくづく思う。
「それはこの船の、モデルになった…戦艦が水爆にも…耐えたからです。」
「それは聞いたことありますが、他にも無事だった艦はあったと聞きましたが。」
「はい、でもそのとき…この艦のモデル…は満身創痍で…やっと浮いている…状態で、さらに機雷などを…撒かれて…実験と言うよりは…ただの見せしめ…のようだった…らしいです。それでも沈まずに…耐えた姿は…多くの人に希望を…与えたと聞いています。所長はそのことを…気に入ってモデルに…したみたいですね。これが仕様書です。」
冊子になっている仕様書を渡された。ページをめくるといろいろ書いてあるが機密とかいいのだろうか。『主砲は41糎連装砲4基だよ。約1トンの砲弾を最大約40キロ先まで飛ばせるんだ。』とかわいいマスコットともに書かれている。ほかにも『主砲の防盾は約450粍以上あるよ。』と書いてある。
「こんなに詳細を載せていいんですか。」
「重要な数値は…曖昧に書いてあります。広報用に…用意していた…パンフレットです。」
これを見るに他には、14センチ単装砲といくつかの連装機銃、レーザー兵器が乗っている。
「それから…主砲からは、砲弾とは別に…荷電粒子が…出せます。」
話しているうちに艦橋についた。中には目立つ舵輪があるほかいろんなレバーやボタンが並んでいる。
「結構ごちゃごちゃしてますね。」
「あぁ、指一本で良いんじゃなかったのか。」
とて簡単に動かせるとは思えないが。
「ここにあるのは…ほとんど使いません。使うのは、このタッチパネルと…音声入力です。そっちは、機能はしますが…非常時だけで、普段は…つかいません。」
それから一通り説明を受けたが、操作は実に簡単で行きたいところを座標で入力するかパネルにある加減速のボタンと操舵ボタンでゲームのように動かすだけだ。迎撃は自動だし、攻撃も設定すれば相手が行動不能になるまで最適な攻撃を行ってくれる。非常時のみアナログな方法で操作するらしい。
機関室にも寄ったがこちらは何が何だかわからない。原子炉と粒子加速器だそうだ。そろそろお腹もすいたし戻っておひるごはんにするとしよう。リサさんは艦橋に入った後から昼食の献立を考えていた。
船から戻るとすぐに昼食の準備にかかったリサさんと、疲れて休んでいる梨沙さんそれから船のコンピュータの仕様書を読み込むスズキと三者三様。僕はリサさんの手伝いか邪魔か分からないが一緒に昼食の準備をすることにした。
「あら、手伝ってくださるんですか。」
「手伝いか邪魔かわかりませんが、出来る限りはします。何を作る予定ですか。」
「鶏のから揚げにしようかと思います。実は朝、卵と一緒に鶏を買って絞めておいたので。油をとってきましょう。」
研究所の倉庫に食用油があったので2人で取りに行く。油は棚の上に置いてあってリサさんの手に届くが、少し無理な姿勢になって不安定だった。
「あの缶を取っていただけますか。」
役に立てると思ったものの、僕は実に頼りないことに油の重さに負けてよろけた。僕は縦長の缶の下を掴んでいたため、そこを支点にして油の缶が後ろに傾いていく。蓋はもちろん上面についているので僕の真後ろにドバっと油がこぼれ、後ろにいたリサさんに直撃した。
「すみませんっ。」
後ろを振り向くと油にまみれたリサさんが目を開けたところだった。
「こう言ったプレイがお望みですかですか。」
リサさんはシャツのボタンを2つほど外して、あれとあれの間にある谷間を強調してきた。少し油が溜まっていてそれを人差し指で拭い、目を細める。
「断じて違います。本当に申し訳ありません。」
僕は180度ほどお辞儀をして謝ると同時に、視界を強制的に足元に落とした。だって油でシャツの下の黒っぽいものが、よく見えるようになっていたのだから仕方がない。しかも図星を突かれて焦っている。お好みのプレイです。
「まぁ冗談ですよアキさん。ただ着替えはどうしましょうか。朝のうちにまとめて洗濯しちゃいましたし。…あっ。アキさん油を台所にお願いします。私は着替えてきますから。」
リサさんは何かを思い出して浴場に小走りで向かってい行く。僕は言いつけ通り油を台所に運んでいくことにした。
「お待たせしました。」
台所で時間を潰していると、着替えたリサさんが帰ってきた。あれはいつぞやにまた着てくれると言っていた学生服、しかもエプロン付き。あんなの大人のビデオでしか見たこと無いですよ。しかも仕草までなんとなくいつもの大人っぽいリサさんとは違い、少し子供っぽいような動きが多い。
「…。」
「いかがですか。」
くるんと1回転するリサさん。ふわっとスカートがひらいてみえっ。
「えっっ…。じゃなくてそれしかないですか。」
「だめですか。」
「いや、だめじゃないですが、目のやり場に困るというか。スカートが際どすぎませんか。」
動くたびに視線が吸い寄せられそうだ。引力より強い何かにひかれている。
「そういうお店のコスチュームですから。見てもいいんですよ。中には何もっ。」
「だぁぁぁ、待ってください。それ以上は勘弁してください。」
いろいろあったが何とか料理をはじめられた。油が跳ねても微動だにしないリサさんを心配しつつ、下を見ないようにしていたが実はペチパンを履いていたことが分かったので少し安心して手伝いを終えたのだった。
その日の夜の事、スズキがある機械の設計図とともにプラグを持ってきた。
「これを作れれば梨沙がパソコンを使えるようになると思うんだが。どうだ作れるか。」
梨沙さんの首にあるプラグを介して、入出力を行えるようにする機械だ。
「ここにあるものを使えば、何とかなると思う。」
「じゃあハードは任せた。俺はソフトを改造する。」
そう言うと手に持った光ディスクを見せ、研究所のパソコンでプログラムを書き始めた。僕は反対の作業台に向かい、スズキとは背を向けあう形になって、聴いた。
「でも急にどうして。」
「惚れた女に不自由して欲しくないだけだ。」
ありがとうございました。