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逃亡中の元貴族  作者: お猫様の従者
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隣国の野望

読みにくくて申し訳無いです。あくまで、私の妄想のメモ書きですのでお許し下さい。

「これは、写真で見たことがある。昔使われていた国の(しるし)だ。」

 僕は葉っぱのマークを指してそう言った。

「これは何でしょうか。」

 リサさんは扉の横に倒れていた大きな木の板を指さす。扉の横には釘のようなものが打ち付けてあり、木の板には穴が開いている。僕とスズキがその板をひっくり返すとそこには毛筆で『特殊兵器研究所 歴史研究部』とあった。

「これは…。」

「お前、なんか知ってるのか。」

「たぶん祖父から聞いた話がここのことだと思う。」

「お爺様はなんと仰っていたんですか。」

 二人とも勿体つけるなと目で訴えてくる。別に勿体ぶっているわけではなく、記憶があいまいで自信がないだけなんですが。

「記憶が正しければ、ここはうちの先祖が開所した研究所だと思う。祖父の話によると、とてつもなく大きい鉄でできた戦闘艦で水爆を真上で受けても航行可能なものや、電磁パルス攻撃に対応する武器なんかの研究開発、製造をしていたらしい。リサさんにお渡しした銃火器類もその関係でうちの倉庫にしまってあったらしいですよ。」

「じゃあ役に立つものはそのころの武器ってことか。こんなところで突っ立っててもしょうがねぇ、はいろうぜ。」

 スズキは早くも扉を開けにかかる。すると見た目のわりにすんなりと空いた扉の先にはものすごい光景が広がっていた。


 扉が開くと同時に手前から段階的に明かりがついていき、奥まで20秒程かけて全灯した。そこには幅30メートル以上、全長も200メートル以上あるかというような船が横たわっていた。船首には扉の上に飾ってあった黄金に輝く飾りと同じ形をしたものが、船にあわせて大きくしてつけてある。

「こりゃすげえ。でもこんなデカくて戦えるのか。」

「さあ、普通は小さく速く見つからないように、が基本だからね。これじゃすぐ敵に見つかりそうだ。」

「ステルス性もなさそうですし。不思議な船ですね。」

 それぞれが感想を言って見上げる。近くに寄って乗船できるところを探そうとしたが、入り口の扉の左側、入ってきた方を見て右側に部屋がありそこから大きな物音がしたため一同固まる。何か大きいものが倒れる音がした後に大量の水が流れ出たようだ。無言のまま目だけで会話をして僕ら3人は扉の近くに忍び寄っていく。頼りないことにここにいる男どもは戦闘能力が皆無なので、リサさんが拳銃を構え僕が扉のノブに手をかける。スズキはリサさんのうしろで消火器を鈍器の代わりにするように構えている。みんなが一度頷いた瞬間一気に扉を開けた。

 リサさんは素早い動作で部屋を見渡し、目下危険が少ないことを確認。それに続きスズキも入っていく。僕も一瞬待ってそれに続く。すると僕たちは中の光景にあっけにとられ、棒立ちになってしまった。


 そこには卵型の大きなカプセルとその蓋が床に転がっていた。カプセルの中は何かの液体で満たされていた様で、先ほどの音はこのカプセルが開いて中の液体が流れ出た音だったらしい。そして一番目を引くのがその近くに倒れている女性だ。全身が濡れているところを見るに、おそらくはこの女性がカプセルの中にいたものと思われる。そして最も驚きなのがその姿がリサさんに似ている。ただし歳はリサさんよりも上に見える。もしリサさんのお母さんだと言われれば、誰もが納得するかもしれないがそれにしては少々似すぎな気がする。一番に言葉を発したのはリサさんだ。

「大丈夫、ですか。」

 恐る恐る銃を下げながら近付いていく。まだ敵か味方か判断がつかないといった様子だがおそらく問題ない。倒れている彼女は息をするのがやっとといた風で敵対行動はとれないだろう。さらに彼女はほぼ裸で下着のようなものしかつけていない。がしかし全くいやらしさはなく、まるで芸術品を見ているような感覚に陥る。その原因は病的な肌の白さと線の薄さだろう。

「おい、これを使え。」

 そう言ってスズキが投げてよこしたのは真空でパックされた毛布だった。僕はその袋を破りリサさんに渡す。部屋の中をスズキと探索している間に、リサさんは彼女を毛布にくるみソファーに寝かせていた。


 一通り部屋を見終わったころ彼女の様子はだいぶ落ち着いたようで、目を細めて僕らの顔を見ている。しかし本当によく似ている。当のリサさんは少し気味が悪いようで一歩離れたところにおり、少し困惑している。

「なあ、人って自分にそっくりなのがこの世にいてそいつに会うとどちらかが死ぬとかって聞くがほんとかね。」

 おいスズキその話は今じゃないだろう。リサさんが銃に手をかけてしまったじゃないか。

「まぁ、単なる都市伝説ですよ。僕はアキ、こちらがスズキで向こうがリサです。あなたはどこから来たんですか。ずっとここにいたんでしょうか。」

 僕は怖がるリサさんをなだめつつ、彼女に話しかけてみた。するとかすれて聞き取れるかどうかギリギリの大きさで返事が来た。

「私は、梨沙(りさ)…といいます。ここの管理を…していました。ずっとここで…暮らしています。いえ、いました。ここしばらく…は肉体を保存して…意識を電子世界…においていました。」

 おっとこれは衝撃、開いた口がふさがらない。まず名前は梨沙、近くにあったロッカーのネームプレートにもそう書いてありそれ以外のロッカーは無記名だ。さらに肉体を保存していたと言った。おそらくはカプセルに入って肉体の老化を止めていたのだろう。大昔にそんな研究がされていたと聞いたことがある。そして意識だけは別に活動を続けていたとか。驚きが多すぎて、もうお腹いっぱいです。

「ですから私の…体は久しぶりに…動かすので、うまく動かないんです。実は目もぼんやりとしか…見えてなくて。手は…この通り関節が固まってます。」

 毛布から少し出ている手をピクッと動かしたように見えた。次はなにを聞けばいいかわからず固まっていると梨沙さんは続けた。

「私の…仕事は所長の身…の回りのお世話を…することでしたが、核の雨が…降る少し前この研究所は…閉鎖になりました。所長は必ず戻ると…言い残しそれまでの…管理を私に…まかせてくれたのです。それから一年ほどは…掃除や機器のメンテナンスを…していましたが所長は…戻らずにメインコンピュータあてに…メールが届きました。その暗号文を…解読したところ『キカンメド タタズ。シンセイフ キケン。ジキショチョウ イチゾクノモノ シメイスル。カプセルシヨウ ヒキツギ チタイナク』とのことでしたので…カプセルにて肉体の保存…と遅滞なく引継ぎを行うため…電子世界での情報収集を…先ほどまでしておりました。そして本日所長…の血を受け継ぐ方の…ご来訪を感知いたしました…のでカプセルから…出てまいりました。」

やっとのことで言い終えると僕のことを見ているのか目を細めている。

「てぇことは、アキが所長とやらの子孫なのか。」

「はい、その通りです。」

「1ついいですか。リサさんと梨沙さんには何か関係があるんでしょうか。」

 僕は今のところ一番聞きたいことを質問してみた。リサさんもとても気になっているようだ。

「そうですね。お伝えしても…いいものか考えていましたが、ご本人にはきちんと…お話ししなくてはいけないでしょう。リサ、あなあたは…私のクローンです。」

 いや、薄々そんな気はしていたものの認めたくないという気持ちが強く避けていた結論をすんなりと提示されてしまう。当のリサさんはまだ受け入れてないようだが梨沙さんの話は続く。

「原理的には…一卵性双生児と同じですので、姉妹ですが…私の年齢から考えると…娘のようですね。それからあなたの母は、代理母…ということになります。」

 ちなみにヒトのクローンは国際法で禁じられている。どこぞの国の政策で遺伝子レベルでのドーピングをしてスポーツの国際大会に出場させたのを皮切りに優秀な運動神経を持った人間の完全なるクローンを量産し、特に成績の良いもの以外は廃棄するという方法が公になってだいぶ騒ぎになった。特にペアで出場する競技は双子率が異常に上がったことがある。その双子はみんなクローンだったという落ちだ。

 現在行われているクローンは書類上は体外受精による代理母出産であるため問題ないが、受精卵を作る段階でかなり怪しいことをしている。これは現在の政治家が自分の面影を色濃く残し支持地盤を簡単に継承するために使っていると噂になっている。実際DNAの個人識別鑑定をすると同一人物と出てしまうらしいのでほぼ黒だが。

 しかし今の問題はそこではなく、なぜそれを梨沙さんで行ったかだ。当然その説明もあるものと思っていた。

「そんなことよりも現在大変なことが起きています。」

 まだリサさんの気持ちが整理しきれてないのを汲み取ってか、話題をそらしてきた。リサさんは現実逃避のためか()()()()()に食いついた。

「大変なこととは何でしょうか。」

「現在、C国が戦争の準備…を完了させつつあります。目的は列島の…占領と実効支配です。現在C国は潜水艦や空母を…含む海軍力の増強を図っていますが、太平洋に進出するためには…航路が限られており発見される…リスクが高い状態にあります。そこで列島を占領し…軍港を建設することにより…海軍の運用がしやすくなる…という計算のようです。」

「そんなことできんのか。」

「現在この国は…地上にほとんど人がいない状況です。そこに機械化兵師団を送り込んでくるようです。」

「機械化兵師団とは何ですか。」

 聞いたことがない言葉に僕も興味を抱く。

「簡単に言えば…サイボーグ兵ですね。それを10万単位で…送り込んでくるようです。」

「しかしいくら人手不足とは言え、さすがにその規模では国防が動くでしょう。」

 いくら荒廃したとはいえ一応自衛のために戦力は持っているので同盟国の応援が到着するまでは持ちこたえるはずだ、と思いたいが。

「今の国防大臣は…あちらの国出身です。向こう側の手引きをしており、巡視船等の…警戒の穴、レーダーの穴、一番戦力の減る…タイミングはC国に筒抜けです。」

 あぁ、昔政策仕分けの時に『下から二番じゃダメなんですか。なぜ上を目指すんですか。』と発言して炎上したあの議員か。なんでもいまだにC国籍を持っているとか。

「そして、護衛艦隊が…一番弱体化するのが…今より2ヶ月後、防衛ソフトウエア一斉アップデートの…時です。この一斉アップデートも…大臣が予算を減らした結果、日程が詰まって…一斉になってしまったようです。」

「なんだってそんな事になってるんだ。だいたい防衛関係にそんなやつを使ったらまずいだろう。」

 スズキの言うとおりだが実際政治家のほとんどは腑抜け。真に国を思う人間は公職追放にあって久しい。僕は以前問題になった事件を思い出した。

「おそらくは彼女を国防大臣に指名した総理もグルでしょう。以前核ミサイルを迎撃した時、相手国のロケットの実験だったとかいう戯言に対して謝罪と賠償を行っていましたからね。」

「俺らにどうしろと。」

 もっともな意見だ。だいたい個人でどうにかできる範疇を大きく超えているし、そもそも父の捜索だってしたい。

「皆さんなら…何とかできるはずです。ここにある兵器を…使ってこの国を護ってください。」

「何とかできるって言われましても困ります。だいたい国を護るとかなぜ梨沙さんが頼むのですか。理由を聞かせてください。それに僕にはやることもありますからご期待に沿えるかはなんとも。」

「理由ですか…。まず私の名前は…所長に頂いたものです。以前の名は…月宮(つきのみや)沙子(いさこ)でした。この国を約2700年に渡り…現人神として導いてきた…一族の縁者として生まれましたが核の雨が…降るよりも25年ほど前の戦乱の折、どんな状況であっても…臣民より絶大な支持を得ていた祖父を…敵視した諸外国の策略により…一族はその大半を臣籍降下…させられました。その一人が私の父です。そして野に下った者たちは…次々に謎の死を遂げることになります。父は私を逃がすために当時、重工業の会社を…営んでいた所長に預けたそうです。」

 長くしゃべったために疲れたのだろうか、目を閉じで休息をとっている梨沙さんにスズキは話しかけた。

「梨沙が偉い人の孫だってことと、育ちはわかったがそれとこれとは関係ないだろう。」

 確かに梨沙さん個人がどう育ったかや、生まれがどうとかは関係ないと思うのだがこの梨沙さんは見た目こそ若いが超昔の人。僕らとは感覚が少し違うようで首を横に振る。

「そうはいきません。なぜ一族は2700年以上も…国を導いてこられたのか、それは真に国と臣民を思う心があったためです。その子孫たる私が国を、臣民を思うことに…何の不思議がありますか、このまま死んでしまっては…神霊に顔向けできません。そのことにあなた方を…巻き込んでしまっていることは…深く謝罪申し上げます。しかしアキさんあなたの…父上を探すためには避けては通れないことだと思いますよ。」

 突然のフリに驚いた。

「い、いったいどう言うことですか。」

「あなたの父は…C国と大臣の関係を早くから…危険視していてその対策を…講じようとしていた矢先、あの事件が起きました。彼は情報戦でことを収めようと…していたようですが敵のほうが…一枚上手だったようです。あなたの父は…皆神山近くのA級犯罪者用牢獄に…投獄されています。今はもう実力行使しか…手段が残されていませんが、内通している大臣を…絞り上げれば冤罪は…証明されるでしょう。それにはまず政府との…パイプが必要だと思いませんか。あなたたちで…C国の全軍を足止めすれば…相手を交渉のテーブルに引き出すには…十分な餌になると思いますが。」

「なんだかとんでもねぇ事になってきたな。」

「お伺いしたいのですが、私を作った理由は何なんでしょうか。なぜ私は代理母と二人で生活をしていたのでしょうか。」

リサさんは先ほどの現実逃避から帰還。もう腹をくくったらしく、いつもと変わらない様子で聞いた。

「作った理由は…私の代わりです。私はカプセルを…長く使いすぎました。もうカプセル内での…延命は難しい段階に来ています。ですから次期所長への…引き継ぎを行える者が必要で、秘匿だらけの…内容の引き継ぎなど…他人に頼めません。そのため私の縁者と言える…存在をつくったのですが、クローン研究所から誕生の報告を…受けた後に研究禁止の法令施行と…全実験体破棄が行われ…死んだものと思っていたのですが…。」

「もととなる梨沙さんの細胞はどうやってとったんですか。」

 僕は素朴な疑問をぶつけてみた。だんだんと梨沙さんの調子も良くなって来た様で声につやが出てきたように感じる。

「細胞は自分で…ここの機械を動かして…カプセル内から取り出しました。」

 なるほど、カプセルの中にはアームのようなものがあり動かせるようだ。

「なぁ、そっちの話も大事だけどよ、どうするよ。2ヶ月後俺らが何もしないとどうなる。」

「計算によると…C国の作戦が成功する確率は90%に…なると予想されます。皆さんが対応してくださる…場合は成功率50%になります。」

「…俺らの負ける可能性も50%あるじゃねぇか。」

「あくまでも…現段階でのシミュレーション…ですので、これからの行動で…確立は変わります。」

「具体的には何をしますか。僕らでできることでしたらできる限りはします。」

「まずはドックの船です。あれを完璧な…状態にできれば勝率は10%上がります。」

「おいおい、参戦決定かよ。で、どこか壊れてるのか。」

「燃料が足りません。」

 1番重要なとこじゃないか。

「燃料と言うと重油とかですか。」

 リサさんが小さく手を挙げて質問した。重油だった場合結構、面倒くさい。原油が高騰していて下手すると出航すらできないくらいだ。

「いいえ、重油ではありません。MOX(モックス)です。あの船には…高速増殖炉が搭載されていますので。」

「「「えっ。」」」

「か、核燃料ですか。しかし僕にはどこで手に入れるのか見当もつきませんが。」

「ここから…600キロ離れたとことに…保管されています。昔研究用原子炉があったので。」

 これはとりに行くしかないみたいだ。また遠いな。地上経由で行くとなるとさらに時間がかかる。

「よし、いくか。ところでそっちの梨沙はどうする、一緒に行くか。」

 スズキは発音が同じ梨沙さんを指してこれからどうするか聞いている。まだ体は自由に動けないしカプセルは使えないんじゃ一緒に行くしかないだろう。リサさんもそう思ったらしく少しうれしそうに。

「まだ実感は湧きませんが、お母さんでいいんでしょうか。それともお姉さんですか。」

 などと言っているが当の梨沙さんは違った。

「いいえ、それには及びません。私はついていっても…何もできませんので、ここで殺してください。」

 お読み頂きありがとう御座います。

 もしも楽しみにして下さっている奇特な方が居られたら幸いです。

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