逃亡生活開始
やっと逃亡開始します。執筆は本当に行き当たりばったりです。いつか矛盾で崩壊したら打ち切ります。
『出ていかないなら今からあぶり出すぞ。』
治安維持隊、しかも特殊部隊装備に似た装備の連中が5、6人準備にかかる。その様子をモニター越しに見ていた僕はすぐに逃げる準備を始めた。
「リサさん、ここは逃げましょう。まだ乾いてないでしょうが急いで支度を。」
と言いながら先ほど洗濯して干していたタイツと靴をリサさんに渡す。と同時にモニターがブラックアウトした。モニターだけではない、我が家にある精密機器のほぼすべてが動きを止めていた。EMPを撃ってきたようだ。
『これで貴様の家にある電子機器は死んだ。もう電子銃は打てない。持っているか知らないけどな。車もだめだろう。諦めて出てくることだ。』
外から聞き取りやすいよう投降を促す声が聞こえる。何やらゴソゴソしているリサさんに視線をやるとスカートを捲り太ももにつけていた水鉄砲を抜くとグリップ部分のスイッチを入れる。しかし反応はない。
「本当です。レールガン式のデリンジャーなんですが電源が入りません。」
それあんたの注文だったのか、と心の中で突っ込みつつ答えた。
「電源制御用のICが焼かれたんでしょう。これを使ってみてください。時間を稼いでもらえるとありがたいです。」
そういいながら僕はおそらく先祖のものと思われるリボルバー式拳銃を渡す。二十六年式拳銃と言うらしい。ここには現在からみて考古学的、機械遺産的なものが多数ある。なんとなくで使い方を把握したらしいリサさんは表のEMP発生用の昇圧機に向けて撃つ。すると「カン」という音のあとに火を噴いた。うまくショートしたらしく連中は大慌て、そしてこちらに使える武器があることがわかり下手に近づけなくなったようでにらみ合いが始まった。
「私が出ていってひきつけますから、その間にアキさんは逃げてください。」
「だめです。一緒に逃げましょう。考えがあります。幸いにも時間はまだありそうですから。」
そういって僕はガチャと音を立てジーコ、ジーコとダイヤルを回す。すこしして呼び出し音が鳴り始める。よかった、アナログ回線は無事だ。もうすでに絶滅危惧種のメタルIPを引いていて助かった。リサさんはなんでこの電話だけがつながるのか不そ思議そうに見るので、これはICチップを使わない古い電話、黒電話だと説明し電話の相手が出るのを待つ。
「はいもしもしスズキです。」
「アキです。緊急です。うちの店の裏のトラックを地下都市間高速道の下りに回してください。今から1時間後に1,742行き出口で落ち合いましょう。」
とだけ伝えると「おいまってくれ。さっきから店の前に変な連中が。」と聞こえたものの電話を切る。そして僕は次の行動に出る。リサさんに見張りを頼みガレージに入る。現代の車はほぼすべてEVで内燃機関を積んでいるものでもコントロールはECUに頼るがこれは違う。キャブ、デスビ等々ほぼ機械的に動かしているので先ほどのEMPは効果なしとみていい。ただし連中から逃げるにはリミッター解除が必要だ。まずは燃料をバイオ燃料からガソリンに替える。同時にキャブレターとディストリビューターをバイオ用の設定からガソリン設定に、スーパーチャージャーの封印も解く。これで60km/h制限がある自動運転のEVは振り切れるはず。必要なものを積んで車に二人で乗り込む。
「準備ができたのですね。忘れ物はありませんか。」
などと旅行にでも行くようなノリで聞いてくる。
「ええ、訳あって準備は前もってしていましたから。遅かれ早かれこうなるだろうと。いきますよ。」
僕はチョークを引きエンジンをかける。久々に仕事をするスーパーチャージャー、頼みますよ。ガレージの扉を開けて飛び出した。
「おいエンジンの音じゃねえか。壊れてないぞ。」
「どういうことだ、EMPが効かなかったのか。」
ざわめく連中のなかに隙間ができ、そこをめがけて僕はアクセルを全開に踏んだ。加速はまあまあだが伸びがいい。7,500rpmまで引っ張るとギヤを2ndに上げる。音に驚いたのか人と人の隙間が広がり車が通れるだけの幅になる。通り抜けざまにリサさんが拳銃でEVに2発づつ打ち込み1台は動かなくなった様だった。
3rdに上げた今は既に50km/hを超えていてもう振り切ったも同然だ。そのままトップまで上げ巡航に入る。60km/hで2,800rpmといったところ、もう少しスピードを上げよう。スズキと合流するために高速道路に向かう道すがらリサさんと話す。
「実はまだ隠してたことがあって、父は死んでない、らしいのです。その真偽を確かめるために探しに行く準備をしていまして。そしてこれがうちに伝わってきた秘密兵器とでも言いましょうか、役に立ちそうなものの隠し場所です。」
いくつかのファイルを見せる。
「しかしまだ情報が足らなくて。大体このあたりぐらいとしかわかってないんです。」
「それなら大丈夫かもしれません。」
そう言うとリサさんはブラウスのボタンをはずし始め、服の中から取り出したのはペンダントにしたハードディスクだった。0.85インチ…どうやら胸に挟んでいたようで深い谷間が視界の端に入ってくる。もっと見たいが運転中、今ほど自動運転が欲しいと思ったことはない。しかもしっかりと黒タイツを履いてらっしゃる。あれは110デニール、最高です。嗚呼シフトノブと間違えた風を装おって触りたい。おっとこれ以上は規制が入りかねないので自重しましょう。
「実は解雇前、奥様からこの不思議なペンダントを預かっていまして、肌身離さず持っていてもう一度アキさんに会ったら渡すようにと。大切な物の場所が入っているそうです。」
リサさんは僕の左手に渡してくるが運転中だし、このHDD温かいんですが。
「これが『そんなはずない』と言った理由ですか。トラックに積んである機械で読み込めると思います。それまで持っていてください。」
HDDを返すとまた胸にしまう。そこ定位置なんですか。
しばらく走ると合流予定の場所が見えてくる。見えたあのトラック。今、第1,742地下都市行の道を走っている。最近はみんな公共交通機関で移動するので、道は空いていた。トラックに追いつき並走するとスズキも気が付いたようで無線機に手をかける。
『いったいどうなってるんだ。詳しく説明しろ。』
無線機からそう聞こえてきたので返事をする。
「とりあえず1,742に入ったらどこか止めてそっちに乗せてくれ。話はそれからしよう。」
第1,742地下都市に入ってすぐに停車できる場所があり、そこでトラックに乗せてもらう。まずトラックのコンテナ部分、後部ドアを開けて道板を出す。そしてコンテナの中に乗り入れる。車の後部ハッチから脱出してコンテナのドアをロック。トラックキャビンは2人乗りなので僕は後ろの仮眠室に入る。リサさんは自分が座席に座り僕が仮眠室なのに抵抗があったようだがここは押し切った。しかしリサさんは一息ついたからかすぐに寝たようで、それなら仮眠室でも良かったのかな。
今までのあらすじを後ろからスズキに伝えると意外なことにノリノリで、
「よし。じゃあまずそのHDDの解析からだな。もっと遠くに逃げてから落ち着いてやろう。」
「まきこんで済まない。」
「かまわねぇさ。どうせあんな所に居たって嫁が居るわけでもねえし、愛着は少しあるがはっきり言って暇だしな。そこ行くとおまえはイイ女連れてるよな。気があるんだろ元貴族さん。」
「やめてくれ。貴族って言ったってただの成金に毛が生えた、血統も何もない家だよ。」
「気があるのを否定しないところを見ると…。気を付けねえと夜中に襲われるかもな姉ちゃん。」
リサさんが寝ているのをいいことに男同士でこんなことを言っている。寝てる…よね、たぶん…。
それから5時間ほど走り第2,000地下都市へ入ったところで、しばらくはここを拠点にすることにした。ここまでくると無法地帯のようなもので見つかる確率はほぼ無いだろう。指名手配もそもそも僕が生きているのがばれると都合が悪いからできない。
「お嬢さんは外歩かないほうがいい。こんなところにかわいい女の子がいたら5分もしないうちに連れていかれる。そのあとは想像にお任せする。」
「確かに心配だ。相手が。言ってなかったが、このリサさんはお掃除屋さんなんだ。君も掃除されないようにセクハラはしないほうがいいよ。」
「そのくらいではしませんよ、掃除。お触りがあったらします。」
「…さて解析でも始めるか。HDDをくれ。」
リサさんがHDDを出す。胸から。それを受け取ったスズキは何か呟いてトラックのコンテナへ乗り込んでいった。唇の形が『あったけぇ』と動いていたような気がした。
暇になった僕らはトラックから車を下ろして買い物に出かける。まずはリサさんの服をどうにかしないといけない。なにせ僕の家に来た時のままところどころ汚れているし、靴もきちんと洗わないと気持ち悪いだろうから替えが必要だ。この都市の中心に近いエリアにてお店を探す。
「何を探しているのですか。」
「服や靴を売っているところを探しています。」
「それでしたら先ほど紳士服店らしきお店がありましたが。」
「いや、僕ではなくリサさんの服ですよ。着の身着のまま連れ出してしまったので着替えや靴も必要でしょう。」
リサさんは少し困ったような顔をして、
「そんな、私はいいんです。そもそもお金がもうないです。」
「お金は僕を探すために使ったんでしょう。ですから僕からの贈り物として受け取ってください。」
リサさんは少し考えてから「それなら生地問屋さんに行きましょう。」と提案してきた。
生地問屋の隣には下着などを扱う店もあった。しかもどちらの店も現金対応で、逃亡中で電子決済が使いにくい僕らにはありがたい。まず生地を見に店の中にはいる。するとリサさんが僕の好みを聞いてくるので「リサさんの好きにしてください。」と返す。隣の下着店の前でもにたようなやり取りの末、一人で買ってきてもらった。一緒に選ぶとか駄目だと思います。
「お弁当の中身は分からない方が楽しみが増えますよね。」
リサさんが下着の入っているだろうと思われる紙袋を抱きながら話しかけてくる。
「僕はお弁当を作ってもらったことがないからよく分からないです。」
「…では今夜にでも。」
「お弁当は昼食に食べることが多いと聞きますが。」
「…。」
微妙にかみ合ってないような気がするし、リサさんの態度もすこしぎこちない気がする。続いては靴を買いに行く。ここでは買うものを決めていたようですぐに決まった。
「それは歩きにくくないですか。」
僕が聞くと、いたずらっ子のような笑みをして、
「お洋服に合わせようと思いまして。これでも大丈夫です、少しブランクはありますが1年ほど前までは毎日履いていましたから。」
そんなことを言いつつ食料品を買いに闇市街に向かうのであった。
一人暮らしの僕はいつも適当なご飯を食べている。しかし今夜は久しぶりにまともな食事が摂れそうだ。少し心配なことはリサさんは先ほど露店の前で献立を考えていたがゲテモノとしか思えないもの、スッポンやマムシなんかまで買い込んでいる。写真でしか見たことがないが元気が出るとか書いてあった。久々のきちんとした食事が楽しみのような、そうでないような。
買い物を終え、車に荷物を積み込んで出発する。
「今晩がたのしみだ。」
僕は何が食べられるか気になってつぶやいたが、少しピックっとしてリサさんがおずおずとこちらを向いた。変にプレッシャーをかけてしまっただろうか。しかし、これが『お弁当の中身は分からない方が楽しい。』と言うことなんだろう。今まで食事のことでこんなにワクワクしたことはない。こんなこと思うのは…「初めてだな。」と独り言をつぶやいたつもりが案外大きかったようで、
「私も初めてですが宜しくお願いします。」
とリサさんが恥ずかしそうに言ってきた。料理経験がないのだろうか。そんなはずはないのだが、それなら一緒に作ろうかと思ったが僕もやったことがない。
「すいません。僕が教えられることがあればいいんですが、一人暮らしをしていた間、全くしたことが無くて。」
「はじめてが私でいいんでしょうか。」
何がだろうか。と考えようとしたとき行く手に子供が飛び出してきた。10歳そこそこの見た目で痩せている。寸でのところで止まったが後ろにも人が立っている。こっちは少し大人びたような15,6歳の男の子で手にはどこからか拾ってきたと思われるレーザー銃を握っている。まずい。追い剥ぎの類かさらに2、3人増えてかこまれた。僕の頭を銃でねらって持ち、窓越しに話しかけてきた。
「手を上げて出てこい。」
読んでいただきありがとうございます。
車両、武器や道具などは実在するものを思い浮かべて書いています。排気量、大きさなどメモして極力破綻しないように書いてますが間違いがあったら所詮フィクションとしてご容赦ください。