非公式諜報機関
その後は特にトラブルもなく順調に進み、出発から3日後の夕方に目的地まで数キロというところまできた。
「見えた来ました。あれが目的の原子力発電所です。」
サキさんが望遠カメラでいち早く発見して教えてくれた。昨夜発電所内部のつくりと燃料格納庫内の図面をもらい、未使用の燃料の保管場所も確認済みだ。ただし、警備に関しては現在も行われているのかすらわからない。一応は政府が管理していることになっているので監視されている可能性はある。
「では偵察に出ます。」
事前に決めていた通りリサさんが偵察に出る。少し先に見える発電所に徒歩で近づき、監視や警備の有無ともしされているならどの程度のものか調べてきてもらう。
「どうか気を付けてください。」
「ゆっくりでいいぞ。俺は寝てるから。」
スズキは緊張感のないあくびを一つして仮眠を取り始めた。確かにこれからは万一のことを考えて、無線も使わないことにしているから居残り組はやることがない。
「はい、無理はしないようにします。」
そう言うとリサさんは小型のリュックを背負って歩いて行った。ちなみに上下迷彩服で半長靴を履いて、ところどころに木の枝を切ってつけている。ヘルメットも被り森の中を進むすリサさんの姿が見えなくなってきた。
足場が悪く歩きにくいですが小一時間ほどで発電所を見渡せる場所に到着しました。匍匐前進で近づいて見たところ、特に警戒されている様子もなく完全に無人のようです。監視カメラ等も特になく熱源探知機も燃料保管庫以外は反応なし。
「うっ。」
首筋に鈍い痛みが走り、体から力が抜けうつぶせに倒れます。倒れ方がよかったので幸いにも顔をぶつけることはありませんでした。
足元の方からガラン、ゴロゴロと近くのマンホールがあく音がします。するとそこから人が出てきたような音がしました。
「そう警戒しないでほしい。私は君にいい話を持ってきたんだ。」
男がタブレット端末を私の顔の前に持ってきて再生をタップしました。
『サキ、サキなの。ここにきてはだめよ。』
「ひひっ。驚いたか。お前の育ての母親は生きているんだ。身柄は先生が保護されている。再会したければ言うことを聞いてもらおう。」
まさかそんなはずはないとわかっていながら、どこか生きていてほしいという思いで混乱しそうです。
「その映像が本物かどうか確かめさせて。」
口だけは動くようになったので話し始めました。すると気配だけは感じていましたが、もう1人男がいて驚いた様子でつぶやきました。
「そんなバカな。こんなに早く毒が抜けるなんて。」
「お前は黙ってろ。さすがはあの訓練を短期間で修了しただけのことはある。」
どうやら昔の私のことを知っているようですが、今はお母さんのことです。
「いいから本物かどうか確かめさせて。」
「いいのか、そんなに強く出て。お前の態度次第ではすぐに殺してもいいんだ。これを置いていこう。常に音声と映像を送り続ける機械だ、液晶にはこちらからの指示が表示される。指示に従わなかったり仲間にばらしたり、そのほかに不審な行動をしたら母親の命はないと思え。」
目の前にライター程度の端末が投げられました。そこには小さな穴が二つと液晶画面があります。
「まず手始めにお前らの拠点に戻ったら、仲間に異常なしと伝えておびき出せ。何に使うか知らんが、核燃料を盗む気だろ。従わなければ分かってるな。」
そう言い残すとすぐに気配が消えてしまいました。5分ほどで体の自由が戻ったのでもと来た道を戻っていきます。道中さっそく機械にメッセージが届きました。読んでみると『今朝お前の母親が好物のイナゴの佃煮を食べていたそうだ。』と出ており、適当に書いて当たる好物ではないものを書かれて先ほどより動揺してしまいます。どうすればいいのか考えながら歩いているといつの間にか戻ってきてしまいました。まだ答えが出ないまま。
「ただいま帰りました。」
「おかえりなさい。どうでした。」
僕は冷えた水を渡しながら偵察の成果を聞く。
「…特に何も。」
「じゃあ簡単だな。このまま近づいて燃料をいただいて帰る。」
さっきまでいびきをかいて寝ていたスズキは、いつの間にか起きて出発の準備をしている。僕も助手席に乗り込もうとするがリサさんが袖を引っ張ってきた。
「どうかしたんですか。」
「…じつは、いえ…なんでもありません。」
「…そうですか。何かあったらいつでも言ってください。」
僕たちはほとんどけもの道を無理やり進む。多少の木ならそのままなぎ倒し、そうでないなら毎回手作業で切り倒しながら進んだ。かなり時間がかかってしまいすでに辺りは暗くなっている。
「このまま格納庫に入って明日積み込んで出発しよう。」
発電所のゲートを開けて敷地内に入ってゆく。このゲートがなかなかあかず苦労した。さすがに核燃料を置いてあるだけのことはあり、二人いないと開門のボタンが押せなかった。格納庫前に来ると大きな扉があり開けようとするがびくともしないので、ワイヤーを使いトラックで引いて開けた。中に入ると1辺が2メートルほどある箱がずらっと並んでいた。
「あれが燃料です。箱は鉛の外郭で耐圧カプセルを覆ったものでその中に燃料があります。」
「冷却とかは大丈夫なんですか。」
僕は以前資料で見たような、大きなプールに入れて冷却しているのを想像していた。しかしここにあるものはすべて地べたにおいてあるだけなのだ。
「ここにあるのはすべて乾式貯蔵ですので大丈夫です。わざわざ遠くまで来たのも実はこの乾式貯蔵でないと我々の力では搬送が困難だからなんです。」
「なるほど。」
会話が終わるとそれぞれがトラックから降りて夕食をとった。明日も朝から大変そうなので早めに寝ることにする。しかしいつもそばに来て寝ているリサさんが、今日は離れたところで寝転がっていた。いつも襲われるんじゃないかと少し緊張して寝ている僕だが、いないとなると少し寂しく思う。まぁいずれにしろこちらから近づくのもどうかと思うので、今日はこのまま寝てしまおう。
「よし。積み込みは終わったぞ。」
スズキがフォークリフトを戻し終えて手袋を外しながら戻ってきた。
「で、では私は外のゲートを開けて待ってます。」
「じゃあ僕も。あとは荷物の固定だけだし大丈夫だよね。」
スズキに確認すると顔を縦に振るのでリサさんに付き合うことにする。心なしかリサさんの表情が暗い気がする。格納庫を出て少し歩くとリサさんは出口の方に走り始めてしまった。
「ちょっと待ってください。」
もちろん僕なんかが追いつけるわけもなく少し遅れてゲートにつくと管理棟からリサさんが出てきた。
「いきなりどうしたんです…か。」
何が起こったのかわからない。
「リサさんどういうことですか。」
リサさんは僕に向かって銃を向けている。僕は両手を挙げてゆっくり後ずさりながら質問をした。
「どうもこうもこれが私の仕事です。もともと私は少女兵として別班と呼ばれる組織に育てられました。そして私はあなたの家に送り込まれ、内定と処理を命じられました。これはその仕上げです。」
そう言うとリサさんの目つきが変わる。これは本気で撃つときの目だ。僕はたまらずに回れ右をしながら閃光煙幕弾を投げたが遅かった。射撃モードのリサさんの命中率は99%以上で外したことはほぼないらしい。すでに狙いをつけて引き金を引いていたのだろう、僕には何が起こったか理解できないまま背中からお腹にかけて熱く痛みが走る。倒れた僕はまだ動けるので仰向けになり上半身を起こし時間を稼ごうとする。稼いだところで勝算はないが、しないよりはましだろう。
「では今までのことは全て演技だったんですか。はじめて手をつないだ時、僕はとても幸せな気分になりました。リサさんもおなじだたはずです。」
「はっ、バカバカしいですね。あんなことで虜にできるとは、『パンッ』とっても簡単なハニートラップでした。最速記録じゃないですかね。『パンッ』」
しゃべりながら2回撃ってきた。腹に当たって口の中に血の味が広がて来た。もう上半身を起こしているのも辛い。寝転がると途端に血が上がってくる。
「ゴホッゴホッ。でも…逃亡を、始めてから…いろいろと、話してくれた、じゃないですか。昔のこととか。あれは、心を、許してくれたから…じゃないんですか。」
「作り話に決まってるじゃないですか。『パンッ』髪の色だって見つからないように染めるの大変だったんですよ。『パンッ』」
足の動きだけで距離を取ろうとする僕の太ももにさらに2発。残りは1発もうとどめを刺されるだろう。
「そ…れでも、ぼ、くは、リサ…さん、の、こと…が、すき…で、す。」
『パパァン』とトラックの警笛の音が鳴り響いた。『きぃぃぃぃ』とブレーキの音が聞こえ、『ぷしゅぅ』とエアーの音がした。スズキがリサさんと僕の間にトラックを滑り込ませたのだ。残った腕の力だけで這い上がろうとするが手間取ってしまう。このままではリサさんにとどめを刺されてしまうと警戒したものの、なぜか来ない。スズキの助けもあり何とか乗りこめた。すぐに発進し視界がかすむ中、僕はミラー越しに倒れているリサさんを見た。
「おい、轢い、た、のか。」
「ああ、そうしなきゃお前が死んでた。」
「なん、て…こと、した、んだ。」
「安心しろあれは気を失ってるだけだろうよ。きっちり受け身を取ってたからな。それよりお前だ、もうしゃべるな、はっきり言って助かる確率の方が低そうだぞ。とにかくここから逃げるが落ち着いたら後ろでサキに診てもらえ。」
そして僕は意識を失った。
目を開けると明かりが見える。ここはトラックのコンテナ内だというのがわかる。
「気が付き…ましたか。今インカムに…切り替えます。」
どうやらサキさんが見ていてくれたらしい。サキさんがスピーカーの電源を入れるとすぐにスズキの声が流れた。
『無事だったか。詳しいことはサキから聞いてくれ。いま研究所に向かって半分くらい戻ってきたところだ。』
「丸一日くらい寝てらしたんですよ。」
起き上がろうとするが全く力が入らない。
「ダメですよ、動いては。奇跡的にすべての弾が急所を外れていたとはいえ先ほど傷を縫い終えたばかりですから。」
目だけを動かすと全身包帯だらけでミイラのようになっていた。
「こんなに必要ないでしょう、包帯。それから奇跡ではなく必然です。」
「どういうことですか。」
「おそらくリサさんは急所を狙って外したんです。」
「つまり、わざと外したと。」
「えぇ、本当に殺す気なら頭を吹き飛ばされてますよ。だからリサさんは僕を殺すつもりはなかった。うわっ。」
突然のブレーキで危うくベッドから落ちるところだった。
『すまん。いきなり人が飛び出てきた。』
「こんなところに人がいるなんて。」
サキさんがすぐにモニターで確認したところ、先日のリサさんと同じ様な上下迷彩の男がたっているのが見えた。
『いきなり出てきてあぶねぇだろう。』
よせばいいのに怒鳴っているスズキの声が聞こえてくる。すると何やら外から声がして、スズキと話をしているようだ。
『なにっ。ちょっと待ってろ…。おい聞こえてるか。何でも俺達のやっている事を手伝いたいと言ってきている。向こうは両手を上待ってるぞ。』
僕はサキさんに判断を任せる、と目で訴えるとサキさんは話を聞くことにした。
外で話を聞くスズキ、中でその話を聞きながら裏どりをするサキさん。サキさんのデスクの隣でミイラみたいになっている僕。
『それで、俺らのやっていることを手伝うとか言ってたな。』
『はい、まずは自己紹介をさせていただきます。といってもほとんどお伝え出来ないのですが。自分は政府非公式の諜報組織に所属しています。名前等は一切話せないのですが、拠点が旧東京の中野区にあるということでお察しください。お手伝いというのは原子力戦艦の運用に関してです。』
『なっ、どこまで知ってるんだ。』
『あなた方が原子力戦艦を所有し、それを使ってC国の侵略を止めるため現在は核燃料を輸送中だということです。それからコンテナ内で聞いている君。君の可愛いい彼女さんは脅されている。我々とは無関係だから安心するように。すべては現防衛相の筋書きです。』
僕たちはすべて見通されているという事実を見せつけられた。
『さらに現在の与党は今上のエンペラーを幽閉し、リサという女性に数代前のエンペラーのDNAがあることを利用するため女系エンペラーの即位を可能とする典範の改悪を実施しようとしています。』
『結局のところ何が言いたいんだ。』
『今この国は国の体を成していない。外身だけ整えた操り人形だ。我々の母体の国防軍は国に使える団体、故にその命令はどんなに間違っていても実行せざるをえない。しかしながら自分の所属は非公式な部隊、そのためこのように自由に活動ができる。半面戦力は少なく正直お手上げ状態だったが、あなた方のやっていることを支援すれば今の状況を好転させられるのではないかと踏んだ。』
男の語気が増して演説のように聞こえてきた。
『小難しくていけねぇ。要は今まで通り俺たちがC国と一戦やればいいんだろ。』
『あぁ、その代わりといっては何だがリサ嬢の救出は自分にまかせていただこう。派手な戦いはできないが、諜報活動や要人救出なら本職だからな。』
会話の間、目をつぶっていたサキさんがゆっくりと目を開けると話し始めた。
「その方の言っていることは嘘ではないようです。彼の声紋から個人を特定し経歴を調べましたが信頼に値する経歴の持ち主のようです。」
どうやらただじっと目を閉じていたのではなく男の素性を調べていたようだ。
『そろそろ自分の素性を調べ終わったころではないですか。』
一息ついたのか男の口調が元に戻った。さらにこちらで調べていたのは想定の範囲内だったようだ。
「分かりました。では私たちはこのまま研究所に戻り予定通り行動します。そちらはリサのことをよろしくお願いします。」
サキさんがインカムから外部スピーカーに出力を切り替えて承諾した。
最近Dreamcastにはまっていてパソコンを立ち上げなくなりました。
ペンペントライアイスロンとかソニックアドベンチャーとか北へ。white illumination、Photo Memories ちゃんとしたサクラ大戦シリーズ(1~4)とか。あとはプリンセスソフトさんのコンシューマー版などなど始めたらきりがなくなりました。