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逃亡中の元貴族  作者: お猫様の従者
10/13

お酒に注意

最近忙しくてなかなか妄想がはかどりませんです。脳内の映像はできていたりするんですが、なかなか文章に書き起こせなかったりして…。

あと番外編にでもしそうな18禁内容ははかどりますね。

「惚れた女に不自由して欲しくないだけだ。」

 ぼそぼそと小さめのつぶやきをして答えた。

「それなんだけど、やっぱり複雑な気分だな。別に邪魔する気はないけどさ、リサさん、えっとややこしいな便宜上親子ってことにするけど。僕が娘の方を好きで、お前が母親を好きで2人はそっくり。なんだか変な気分だよ。」

「まぁ、俺も良くわからんが、気にしたら駄目な気がすんだよ。いいじゃねぇか何となく好きなんだから。俺が娘の方を好きになったらそれこそヤバいだろうし。だって本当に娘が居たらあのくらいの歳だぞ。」

「じゃあ梨沙さん母とお前が結婚したら、僕は義理の息子になるのか。そもそも梨沙さんの戸籍はどうなってるんだろう。死亡届は出してないかもしれないけど、果たして生きていることになってるのかな。」

 何しろ実年齢は3桁という恐ろしい人だから、戸籍の扱いはどうなってるのか全くの未知数だ。

「その辺も後だ。調べて抹消されてたら、俺が勝手に書き加えてやる。」

 スズキは半分振り返って不敵な笑みで宣言した。こいつは本当にやるだろうな。

「そんなことはいいから、手を動かせ。明日には完成させてくれよ。俺も今日は徹夜だ。」

「えっ、明日っ。本気で言ってるのか。」

「当り前だ。なんたって明日は梨沙の誕生日みたいだからな。祝われるのはしばらくぶりだろうから、プレゼントは必須だろう。リサ娘の方にも何か甘味を作ってくれるように言っておいた。」

「初耳だけど、どこで聞いた。」

「昼間、研究所のデータベースを見てたら、梨沙母の履歴書があってそこの生年月日を見た。」

「じゃあ歳も分かったのか。」

「それがよ、年月日の年部分だけが文字化けしててわからなかった。」

「…。」

 僕はプラグからの信号の増幅器に取り掛かるのだった。


 次の日の朝、何とか仕上がった。

「できたぞ。ソフトはできたか。」

「おう、何とかな。もともとあったプログラムを改変して間に合わせた。ただソフトもハードもぶっつけ本番だな。」

 昼には良い香りがして、何か甘いものができたことがわかった。僕はリサさんの背後から声をかけた。

「美味しそうですね。」

「ほわっ。もう、びっくりしましたよ。」

「パンケーキですか。」

「はい。今はこれが精いっぱいですね。生クリームや果物がないので小麦粉と砂糖、牛乳、卵それから膨らし粉でできる簡単なもので間に合わさせていただきました。」

 リサさんはすまなそうな顔をするが、十分だと思う。そもそも砂糖や牛乳だって、リサさんが朝早くに闇市に行って買っていた。

「さて、始めましょうか。」

 そう言って盛り付けた皿を両手に持って、さらにお茶の入ったお盆までもっている。フリフリのついたエプロンも相まって、さながら喫茶店の女給さんといったところだろうか。僕はリサさんのあとを手ぶらでついていった。


 テーブルにつくと梨沙さんとスズキは、何やら難しい話をしていた。さっきまでプロトコルがどうとか言っていたと思ったら、今度はブレインファックの利用方法はどうとか素人にはさっぱりだ。

「はい、出来ましたよ。」

 リサさんは一瞬迷ったようだが、会話を止めてお皿を並べていく。

「おぉ、すまねえな。」

「これは、豪勢ですね。なにか…あったんですか。」

 梨沙さんが贅沢品をたくさん使ったケーキを前に首を傾げた。スズキが立ち上がり、僕、リサさん、スズキの順で並ぶとスズキが口を開いた。

「えぇと、今日は梨沙、あっ…そっちの梨沙の誕生日ということで、俺らで簡単にだが祝わせてもらうことにした。こっちのリサからはこのケーキ、俺とアキからはこれを贈る。」

 スズキは携帯端末とそれにつながっているプラグをコンテナから取り出した。

「それは、カプセル内で…私が接続していた、プラグ…ですか。」

「おう、それを俺とアキでこの端末につながるように改造した。これで指が不自由でもパソコンがいじれる、はずだ。まだテストはしてないから、不良がないかわからないが。」

「これでスズキと一緒に仕事をしてください。」

 人間は生きるために何かすることが欲しいのだ。ただ生きていて上げ膳据え膳で不自由がなくても心が死ぬ。まれにそれでも気にしない人もいるようだが勿論梨沙さんは違う。役に立たないから殺してほしいと言っていた。これでスズキといろいろやって生きる意味を持ってもらえれば幸いだ。

「では、さっそく…。リサさん…申し訳ありませんが、プラグの装着を…お願いします。できれば…お2人は、少し離れていて…もらえませんか。」

「別にいいがどうしたんだ。」

 スズキは不思議そうに梨沙さんに尋ねた。

「実は、装着時…神経に微弱な…電流が流れて、安定まで…その、声が漏れて…しまいますので。」

 恥ずかしそうに赤くなって答えた。

「なんだ声が出るだけか。気にしなくてもいいが、とりあえず席を外すか。」


 僕らは隣の部屋に退避したのだが、隣から聞こえてくる声は確かに恥ずかしいかもしれない。むしろかすかに聞こえてくるせいで一層変な気分になる。

『んっ…。あぁっ。ふぅ…ふぅ…。あぁん。』

「なあ、アキ。」

「言うな。」

「でもなぁ。」

「いいから一緒にこれでも読んでろ。」

 僕は般若波羅蜜多心経と書かれた短冊状の冊子を渡した。

「俺、無宗教なんだが。」

「じゃあ入れ。今だけでもいいから悟りを開くぞ。」


 人間そう簡単に悟りを開くことも、欲をなくすことも出来ない。

「遅かったですね。もう準備できてますよ。」

 リサさんがマグカップを置きながら立ち上がった。

「すまない。少し男同士でやることがあってな。」

 すると梨沙さんは目を見開いて、口も半開きで驚いて『まさか』とつぶやいている。

「違います、やることと言っても、その、宗教観について話していただけですから。」

 女性二人は眉を潜めて首をかしげているが、とりあえず『ヤる』を『やる』に訂正して変な誤解は解けたと思う。

「で、どうだ。変なエラーとか出てないか。」

「はい、現在…正常に動作しています。」

 すると部屋の外から小人(こびと)が入ってきた。身長60㎝くらいか。肌は精密に作られたシリコーンゴム製でよく見なければ生身と見分けがつかない。

「試しに、このアンドロイドを…動かしていますが。ラグもなく、快適です。」

「それはよかったです。」

「それから1つ提案があるんだが、誕生日を機に名前を元の沙子に戻す気はないか。昨夜(ゆうべ)アキと話してたんだが、同じ音の名前がふたりいるとややこしくってな。」

「名前を変えるのは…構いませんが、…沙子は使えません。何か…適当に考えてください。」

「適当にって言われてもなぁ。何かあるか。」

 そんなこと言われてもポチとかタマみたいに決めるわけにもいかないでしょうし、すぐには思いつかない。するとリサさんが申し訳なさそうに謝ってきた。

「なんか、ごめんなさい。」

「そういえばリサさんの名前は梨沙さんに関係あるんですか。」

「いえ、全く関係ないと思います。母…、育ててくださった母が言うには、外人さんにも覚えてもらいやすいようにって言ってました。私の住んでいた都市には外国の基地が近くにあって、町にも外国の兵隊さんが多く居ましたので。ちなみにマリアと悩んだみたいですが、そっちは宗教がどうとかいってやめたみたいです。」

「人の名前なんて考えたことないですからね。子供もいないですし。」

 するとスズキはブツブツと何かつぶやき始めた。

「うぅん。梨沙、リサ、りさ、沙子…さ、サ…桜、咲…。サキでどうだ。」

「今、しりとりと連想ゲームの掛け合わせで名前を考えなかったか。」

 僕ジト目でスズキに尋ねると開き直って、

「名前なんて直感が一番だ。俺はそうするね。」

「それで春に飼い始めた猫は、サクラだったんだ。」

「うるせぇ。今はそれはどうでもいいだろう。で、どうだサキで。一応初めの名前の沙の字は受け継ぐように考えたんだが。」

 梨沙さんにお伺いを立てる。するとかなりさっぱりと、

「かまいませんよ。名前は…個人を識別…することを目的…としていますから。それが…達成できれば…問題ありません。」

「前のお名前に愛着はないのですか。」

 リサさんが聴く。

「そもそも、ここ何十年…私は名前を…呼んでいただいた…ことはありませんし、…ネットワーク上では…数字の羅列が…名前のようなもの…でしたので。」

 本人がこだわらないというので決まりでいいだろうか。

「でもこれだとスズキが名付け親ってことになっちゃいますね。」

「あぁん。悪いか。」

「いやそんなことはないけど。」

「じゃあ黙ってろ。り、じゃなくてサキはそれでいいと言っているんだからよ。」

 まあ深く考えないようにするのがいいだろう。少しすねたスズキの機嫌取りのためにもとっておきを出すか。

「じゃあ梨沙改めサキさんの誕生日を祝って、これでも開けますか。」

 僕は倉庫の奥底から発見したウイスキーのボトルをテーブルの上に置いた。以前酒で散々な目にあったが、今日はせっかくの誕生会だし皆で楽しく飲もうと思う。スズキは目を白黒させて驚いている。

「おいっ、これは本物か…。間違いない、封も切ってない。こんなものどこで。」

 手が震えていて傍から眺めていると、アル中にしか見えない。

「それは…懐かしいですね。前所長と…一緒に飲もうと思って…取っておいたものです。」

「すいませんそんな大切なものだったんですか。」

 勝手に持ち出してしまたため謝罪をしたが、サキさんはまったく気にしておらずむしろ喜んでいた。

「いいんですよ。すっかり…忘れていました。どうやら保存状態も…いいようですし…おいしく頂けるうちに…いただきましょう。」

「おぉ、サキもいける口か。水割り、ハイボールそれかロックもできるぞ。」

 さすがにサキさんにロックはきついんじゃないだろうか、そう思ったがそんなことはなく。

「駄目ですよ…。この銘柄は…ストレートが…一番です。チェイサーに水を…お願いします。」

 まさかのストレートだそうで、ショットグラスと水の入ったグラスを先ほどのアンドロイドが和風のお盆に乗せて持ってきた。クルミとドライオレンジと書かれた2つの真空パックと共に。

「ちょっと、さすがにストレートはやめた方が、体の調子もありますし。」

 止めに入ったが酒を見せたこと自体失敗だった。既にリサさんも乗り気で、スズキはもう一杯目を注いでいる。

「私ウイスキーって初めてです。」

 と言うかそもそも、この間初めて酒飲んだばかりでしょう。あれはとは比べられないアルコール度数ですが…45度ですよコレ。いつの間にか人数分のグラスにワンショットづつ注がれて配られた。しまったッ。僕はおそらく下戸(げこ)だと思う。だから極々薄めに水割りにするつもりだったのに。

「じゃあ、乾杯。」

 スズキが音頭を取り3人がグイッと飲み干す。

「あぁ。凄いですね、喉が焼けてるみたいです。でも最後に残る香りと甘くて苦い不思議な味です。」

「子供にはまだ早かったかな。」

 スズキがリサさんを少しからかうように尋ねた。

「いいえ、気に入りました。もう一杯お願いします。」

 その後銘々に水を飲んだりクルミを食べたり、オレンジをしゃぶったりしている。

「オメェも飲めよ。ほら。」

「いや、僕はだめだって…。」

 気分が良くなったのかスズキに無理に飲まされた。まずいな、いや酒は美味いけど状況がまずい。アルコールのせいで貧血、に…なって…。そのまま卒倒した。

 以前観たSF映画でウイスキーを飲んでぶっ倒れてるのを見たが、こういう事だったんだろう。きっとこの後特製の『スペシャルドリンク』を飲まされるんだ、洗濯バサミで鼻をつままれて。そうだ、近くに水桶あったかな。


「うぅっ。痛たた。」

 僕は痛む頭をこらえてゆっくり目を開けた。なんだか体が重い。息も苦しく暑さも感じる。天井を見ていた視線を(あご)を引くように自分の体に向けると鼻腔内の細胞が歓喜の声を上げ、その声はすぐ後に脳に到達した。なんていい香りなんだろう。最強の気付け薬と言っても過言ではなく、実際に僕はシラフ同然かそれ以上に頭がさえて居る。

「…リサさん、起きてください。」

 僕の上で寝ているリサさんに声をかけた。

「はっ、すみません寝てしまいました。お加減はいかかですか。」

「大変元気になりました。それよりも降りてもらえますか。」

「重ね重ね申し訳ありません。」

 元気になったのは本当だが、知られたくないところも元気になりそうだったので名残惜しいがどいてもらうことにする。

「ここは医務室ですか。」

「はい。アキさんが急に倒れられたので、私はショットグラス3杯ほどで切り上げてこちらに運んできました。」

「大変ご迷惑をおかけしました。」

「いえ、アキさんのお力になれることは大変うれしいことです。それにもとはスズキさんが無理にお酒を勧めたのが原因ですから。軽く教育をしておきました。」

 リサさんは笑顔で握りこぶしを作った。体罰は良くないですよ。

「少し疑問に思うのですが、なぜ僕を慕うのですか。いつも僕のことになると見境がなくなるというか…。」

 僕が誘拐されたときもそうだったが、リサさんは僕のことになると少々荒っぽいことでも平気でしてしまう。そこまで好かれるようなことは、した覚えがない。するとリサさんはかなり真剣な表情で話し始めた。

「私、知っているんです。アキさんが私を助けて下さったこと。あれは私が16歳の時だったと思います。無知な子供のふりをして人をだまし、標的に近寄り殺して逃げる。すると次の指令が届く。殺しても殺しても終わりはなく、ある日自分のすべてが嫌になりました。そして私は仕事中に逃げ出しました、組織の内部文章を各所にばらまいて。そのかいあって組織自体は壊滅しましたが私も居場所をなくしてしまい、空き家に忍び込んで生活していましたが捕まってしまいました。」

 だいぶ苦労しているんだな、捕まったのは知ってたけど。

「よくリサさんを捕まえましたね。その辺の警察じゃ返り討ちにあいそうなものですが。」

「その時は数日何も食べて居なくて逃げるのをあきらめたんです。そして捕まった後は雑居房に入れられましたが牢名主に渡すものがなかったので散々なぶられました。その時私宛に荷物が届いて中にはタバコが入っていて、それで私は人並みの待遇を与えられるようになりました。あの荷物が数日おきに届かなければ私は牢の中で死んでいたと思います。」

「へ、へぇ。いい人もいるもんだね。」

「…アキさんですよね。牢にタバコを送ってくださったのは。釈放後すぐに働き口を紹介されたのもアキさんが手配してくださったんですよね。紹介所に行ったら直ぐに紹介状が渡されましたから。」

「知ってたんですか…。でもいつから。」

 家に来てすぐのころは特に変わった様子もなかったと思うが、いつばれたのだろうか。

「解雇直前に奥様から伺いました。アキさんが夜な夜な小包をどこかに送っているので心配になり調査したとおっしゃっていました。それに仕事の紹介所も無理に話をつけていたと聞きました。」

「そうですか。」

「私も伺いたいことがあります。なぜ私だったんですか。」

 言えない。僕は小説のヒロインを好きになり、その見た目がそっくりなリサさんを好きになったなんて言えるわけがない。どうにか取り繕うと言葉を考える。

「一目ぼれですかね。護送される直前、現場の前を通ってリサさんを見た瞬間好きになりました。」

 リサさんはきょとんとして固まっている。選択を間違えただろうか。

「それだけですか。」

「いけませんか。それにうちに勤め始めてから見ていましたが、見た目だけでなく内面も完璧でした。」

 心の中で小説のヒロインと性格もそっくりで完ぺきだった、と補完しておく。

「…もう・・ですか。・・んしなくて。」

 リサさんは下を向いてブツブツとつぶやいている。選択肢を間違えたかと僕は慌てて近寄り尋ねる。

「どうしたんですか。」

 近づくとつぶやいていることが聞こえてきた。

「もう我慢しなくていいですよね。」

「何がです。」

「こんなに好き同士ならもう我慢しなくていいですよね。」

 一瞬の出来事だったが二度目なのでよくわかる。リサさんの近接格闘術が炸裂し、僕は一瞬にして地球と背中合わせになってしまった。そして僕が発した言葉はやまびこのように響くことはなく、深い渓谷に吸い込まれるようにしてかろうじて聞こえてくるのだった。

「いひはへひなひ。(息ができない。)」

若干のSっ気がある私は本作のヒロインにも暗い過去やつらい体験を多く設定してしまいます。基本ハッピーエンドが好きなので何とかなると思います。

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