ー始まりー
みなさま初めまして。雪ノ音リンリンと申します。
初投稿です。温かい目で見守ってください。
どこまで逃げればいいんだろう?
「はぁ、はぁ、はぁ」
ここがどこかも分からない。暗闇の中をただひたすらに走る。夜の闇よりも更に昏いものから逃げるために。
『ぎぎっぐるっあぅぐあああ』
おぞましい声をあげて迫ってきている。助けを呼びたいのに喉が震えて声が出ない。
-お願い、誰か助けて!
「伏せて」
聞こえるや否や、私の耳のすぐ横を疾風が駆け抜ける。矢のような風が向かった先を目で追うと、そこにはさっきまで私を追いかけていたものたちが風によって霧散していた。
「た、助かった、の?」
ざっざっざっと後ろから迫る足音に肩がビクつくが、聞こえてきた声にひどく安堵し、地面に座り込んだ。
「君、大丈夫?ケガは?」
「助けてくださってありが、っ!」
ありがとうございます、と言おうと振り返って驚いた。
暗闇のなかで若草色に淡く光る髪と瞳。服装はなんといえばいいのだろうか。昔、何かの映画で見たような真っ白な狩衣のようなものに身を包んでいる。左手にはさっき使ったものであろう弓が握られていた。何よりも一番驚いたのは、顔。なんというイケメン。これぞまさしく人外の美しさ。顔の造形が神。
まさか、わたし死んだ!?うそっ!引っ越してきて今度こそ学生生活エンジョイしようと思ってたのに・・・!でも、最後に見るのがこの神のごとき顔なら満更でもないなーなどといったことを心のなかではわいわい喋っているが、私の顔は無表情である。仕事しろ、私の表情筋。とりあえず
「神よ。15年という短い人生でしたが、最後にとてつもなく美しい顔を私めに見せてくださりありがとうございます。亡くなった母に良い自慢話ができます。」
と拝む。
「先に言っておくけど、君死んでないからね!?あと無表情だから冗談かどうかもよくわからないよ!」
「死んでない?なっ!現実にこのような美しい顔が存在する、だと!?」
とバトル漫画の死亡フラグを建てるキャラのような発言をしているが、要は混乱しているのである。
「そんなに喋れるのならケガはないね。立てる?」
差し伸べられる手。ここで自分が地面に座り込んだままだと気づいた。
「ありがとうございます。」
掴んだ手はとても暖かくて。体に残っていた恐怖を溶かしてくれた。一瞬で離れていく彼の手を名残惜しく見つめながら、もし私がか弱い女の子だったら恐怖で腰抜けて立てなくて、おんぶとかしてもらえたのかなー?とか、けしからん妄想をしていると
「おい、青龍!いつまで俺を一人にするつもりだ!うっかり死んだらどうしてくれるんだ!もう嫌だ!」
これまたイケメンが情けない声をあげながら走ってこちらに向かって来た。大量の昏いもの後ろに引き連れて。
「騰蛇!一人にしてごめんなー!そんな数の禍一体どうした?」
若草色の髪の美青年の名は、セイリュウというらしい。セイリュウ・・・ってもしかして四神の青龍かな?
やっぱり神じゃないですか。こちらに到着したトウダと呼ばれた情けないイケメンは髪と瞳が深紅色に淡く光っていた。トウダって十二天将の騰蛇かな?かの有名な陰陽師、安倍晴明が使役したとされる十二天将の名前が出てくるなんて。つらつらと考え事をしているうちに、禍と呼ばれていた昏いものが間近に迫っていた。
不思議と恐怖はない。青龍と呼ばれていた彼が落ち着いて返事をしていたからだろうか?それとも彼が傍にいるからだろうか?
「聞いてくれよー。それがさ、猖獗ができたんだよ!」
「それでこの数の禍が出てきたのか」
「ショウケツ?ってなんですか?」
「ていうかこの子だれ?」
「はいはい。質問に答えるのは結界を張ってからね」
そう言って右腕を肩の高さまで上げる。まるで鷹匠みたいな動きである。
「おいで、トラ」
と青龍が何もいない右腕に向かって呼びかける。するといつの間にか彼と同じ若草色に光るとても綺麗なトラが、右腕に掴まっていた。・・・これは、聞きたいことが増えたな、と少し遠い目になる。
風が青龍を中心に同心円状に広がっていく。髪と瞳の輝きが増している。
《守り給へ、清め給へ》
-その声はどこまでも高く広く、天に響く
《我は十二天将が一人、青龍の名を継ぐもの》
手を二回叩く
―厳かに空気が張り詰める
《虎嘯風生》
今にも掴みかかってきそうなほどに迫っていた禍が、細切れになって消滅した。
―すごい。結界の内側は風一つ吹いていないのに、外側はまるで風が刃のように群がる禍を細切れにしている。
これが彼らとの出会い。その始まり。千年前に交わした約束を果たす物語である。
読んでくださってありがとうございます。
次話も読んでくださると嬉しいです。
1日1話いき、、いきたい、、、です。