表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/19

ー郷愁ー




身の内からあふれ出した霊力が部屋全体を包み込んだと思ったら、客間だったそこはいつの間にか金色の麦畑だった。どこか懐かしさを感じる場所だ。近くにはアカリン達も一緒にいるが、この不思議な空間にいるのはどうやら私たちだけではないらしい。ゆっくりと後ろを振り返る。


「こうやって面と向かって会うのは初めまして、だね」

「そうですね。ずっと一緒だったのに不思議な感じです」

「そうだね。それに、君たちも」


そういって、彼ー安倍晴明(あべのせいめい)は十二天将の4人を見る。その目には寂しさが確かにあった。彼らを通して思い出しているのだろうか、自身が召還した十二柱の神のことを。


「・・・まさか本物の晴明様に会えるなんて」

「というか、ここどこだよ、ですか」


連吾が晴明にへたくそな敬語で聞く。たしかに、ここどこだろう。さっきまで客間にいたはずだが。


「楽な話し方で構わないよ。ちょうど見た目も君らの年齢に合わせているしね」

「それなら遠慮なく」

「それで、ここはどこか、って話だけど。ここは夢と(うつつ)の狭間の世界、かな。君らの肉体はそのまま現実にあるけれど、精神だけをこちらに呼ばせてもらったんだよ」


やっぱり、すごい人だなーとどこか他人事のように思う。自分の前世の姿なのだが、近しい他人くらいにしか思えない。というか、見た目とかも変えられるんだ。晴明の優しい顔はどことなく竜太郎に似ている。


「きちんと俺自身の口から伝えたかったから」

「先に言っておきますけど、謝らないでくださいね晴明様」

「あぁ、わかってるよ」


彼らに伝えるべきは謝罪ではない。それは私も、彼も理解した。謝罪は許しを請う行為であり、私たちは許されない行為をした。きっと彼らは、そういうことじゃない、と言ってくれるだろうし、望めば許しだって与えてくれるだろう。だが、私たち自身がそれを許さない。彼らの好意を、理解はしても、納得はできそうにないから、自分自身を許さないことで落とし前を付けた。だから、伝えることは、別のこと。


朱莉(あかり)竜太郎(りゅうたろう)連吾(れんご)(あお)、本当にありがとう」


彼の横に移動し、共に頭を下げる。


「今まで、受け継いできてくれて、ありがとう」


命を懸けて守ってきてくれた。彼らはずっと、千年もの間。この土地を、術を、そして約束を。その代償に、夥しい(おびただしい)ほどの血を流し、命を散らして。


「もし、晴明様に会えたら言おうと思っていたことがあるんです」


頭を上げて、アカリンを見る。罵声でもすべて受け止める、その覚悟で続く言葉を待つ。アカリンの表情は驚くほど凪いでいて、心情を窺い知ることはできそうにない。


「あたしが、というより力を与えてくれた朱雀からの伝言というか」


ということは、晴明が召還した神様の方の朱雀から、ということだろうか。


『今度こそ、長生きするのよ』


10歳くらいのポニーテールの溌溂(はつらつ)とした女の子の姿がアカリンの姿に重なって見えた。朱雀と最後に交わした言葉が頭の中に甦る。


『お前らには最期の最後まで世話かけるなぁ』

『本当よ。あんた、最後まで人の話を聞かないんだから!人間の寿命がこんなにも短いなんてっ』


悲痛な声で泣いていた彼女が、自らの力とともに後世に継承した言葉。その想いに鼻の奥がツンとする。ふと横を見ると晴明は懐かしそうに笑っていた。


「その伝言、しかと受け取った。ありがとう、当代の朱雀」


当代の朱雀、アカリンは嬉しそうに笑った。一体何人の朱雀たちがこの言葉を受け継いできたのだろう。いつ現れるかもわからない主を待ち続けて。どんな思いで次代に継承していったのか。


「その、僕たちも伝言を預かっているんですけど・・・」


晴明と顔を見合わせる。


「彼らは心配性だね」

「本当に」


六合()が言葉を紡ぐ。


『あなたの思い付きの術式、完璧に完成させましたよ』


知ってるよ。あの六芒星の術、完成させてくれてありがとう。


青龍(竜太郎)が言葉を紡ぐ。


『無理をするなって言っても聞かないだろうから、死なない程度の無理をするように』


最期まで無理をするなって言われても、聞かなかったからね。折れてくれてありがとう。


騰蛇(連吾)が言葉を紡ぐ。


『今度は周りを頼れ』


一人で決めるたびに、昔はよく怒られていた。怒ってくれてありがとう。約束する、今度こそーー。


「本当に、俺には勿体ない友だよ。もう少し君たちと語らいたいが、そろそろ時間だ。本来俺は死んだ人間。今を生きる君たちに託すとするよ。もちろん陰ながら力になるけれどね」


私と彼の境が曖昧になっていく。横を見れば彼の姿は半透明に薄れていた。


「他の十二天将も伝言を授かってますから、きちんと聞いてあげてください」

「ははっ、そうか。ほかにも伝言が。4人ともありがとう」


ーまた、いつか


と晴明が囁いた言葉は、麦畑を揺らす暖かな風に流されていった。

いつの間にかこの空間には晴明と私の二人だけになっていた。


「麻結莉、()()()記憶を封印してしまって、済まなかった」


やはり記憶を封じていたのは目の前にいる彼だったのか。

いいえいいえ、と首を横に振る。


()()()記憶を封じてくれなかったら、私の心は壊れてた。だから、ありがとう、守ってくれて。でももう大丈夫だよ。私にも頼りになる友達ができたから」

「子供が成長するのは早いな」


しみじみする姿は同じ年の少年なのに、どこか老成したおじいちゃんのようで少し笑ってしまう。


「今のお前なら、自力で最後の封を破れるはずだ。けど、さっきも騰蛇に言われてしまったが、耐え切れなくなったら頼ってやれよ」

「うん、わかってるよ」


徐々に姿が見えなくなってきた。


「・・・あぁ、お前の友が呼んでいるぞ。引き留めて悪かった。早く行ってやれ」


その声を最後に、彼の姿は見えなくなってしまった。瞼を閉じると、彼らの自分を心配する声が聞こえてくる。


「麻結莉、聞こえるか?」

「まゆりーん、戻ってきてー」

「そろそろお仕事の時間だよ」


彼らをもう二度と失いはしない、そう決意した。そのための力も手に入れた。守ることができる、この時はまだ、そう信じて疑わなかった。



更新が遅れてしまって本当に、ほんっっとうにすみませんでしたぁぁあああ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ