ーもう一人ー
どこまでも青い空、暖かな優しい風、咲き誇る桜。
入学式にもってこいの最高の日に、私たちは桜並木の間を歩いている。
ここまでだと普通の高校生活の初日の風景。しかし、普通とは程遠い現状に冷や汗が止まらない。周りの生徒の視線がこちらに集まっている。
「なんでみんなこっちを見ているんだろうね」
にこり。
「「「キャーーーーーッ!!!」」」
なんでってそりゃあ、あなたが超ド級のイケメンだからですよー!自分の顔の破壊力を理解して!女子からの視線のレーザービームで穴が開きそうだよ!
「あの、やっぱり離れて歩きましょう?寅若くん」
「ねぇ榊さんのこと、麻結莉さんって呼んでもいいかな?僕のことも名前でいいよ」
「へ?あ、はいどうぞ」
「やった!」
にこにこ。まっまぶしーー!目がつぶれる!
「「「イヤァーーーッ!!!」」」
王子様スマイルを見た女子の何人かが倒れた。恐るべし美形のスマイルの破壊力。
というか、私の話そらされた?
そうこうしているうちに高校に着いてしまった。
「新入生の方はクラス表を見て、体育館に向かってくださーい!」
在校生が新入生を誘導している。クラス表は十枚あるから全部で十クラスあり、進学コースが2クラス、普通コースが5クラス、残りの3クラスがそれぞれ芸術コース、情報処理コース、会計コースに分かれている。私は進学コースで、1組のクラス表に名前があった。
「これから3年間よろしくね。麻結莉さん、連吾」
「朝から注目浴びすぎだろお前ら」
連吾があくびをしながらやってきた。制服のネクタイをもう緩めているのがなんとも彼らしい。
「おはようございます、連吾」
「うっす、まさか俺ら4人全員が同じクラスなんてな」
「もう一人の方はどんな人なんですか?」
「会えばわかるだろ」
「そうだね」
3人で話しながら体育館に移動する。会えばわかるってどういうことだろう?そんなに強烈な人なのかな?
「ねぇ見てよあの3人!」
「すごい、美男美女じゃないか!」
「あの子すっごい美人だなー」
という会話が彼らの周囲で発生していたが、もう一人の十二天将について考えこんでいる麻結莉には聞こえていない。もちろん、そんな周囲の会話に目を光らせている連吾と竜太郎の姿にも気付いていない。
厳かな雰囲気で入学式が始まる。ここから、私は普通の女子高生になる!心の中で静かに決意していると、隣からすー、すー、と寝息が聞こえてきた。
あ、隣の子寝てる。しかも、めっちゃ可愛いんですけど。もしかして、この子が?にしてもめっちゃ気持ちよさそうに寝てるなぁ。起こした方がいいのかな?でもすごい気持ちよさそうに寝てるし、どうしよう。悩んでるうちに長々とスピーチをしていた校長と目が合った。すごい見てる。あ、校長ちょっと涙目になってる。なんだか罪悪感を感じる。寝てるの私じゃないけれど。やっぱり起こそう。
「あの、起きてください」
反応なし。軽く揺さぶる、反応なし。ダメだこりゃ。ごめんね校長、私には無理だったよ。
―――仕方ないよ。君のせいじゃない
そう言われた気がする。どうして校長と目で会話しているんだろう。これは普通なのか?
「これにて入学式を終了いたします。それぞれ担任の先生に従って教室に移動してください」
いつの間にか校長の話どころか入学式まで終わっていた。担任の先生の紹介もあっただろうけど、聞き逃してしまった。名前すらわからない。
「1組の奴らはついてこ~い」
式典だというのに髭が生えて寝癖がついている。担任この人・・・?
「ふわぁ~、やっと終わったぁ~」
背伸びをしながら隣の女の子がようやく目を覚ました。ん?なんだろう?周りがざわざわしている。
「あの子、アカリンじゃない!?」
「アカリンってあのモデルの?」
「すごーい!かわいいーっ!」
なんと、モデルだったとは。どうりでかわいいわけだ。
「あのー移動始まってますよ?」
「ありゃー置いて行かれちゃったかー同じ1組だよね?行こ、まゆりん!」
「まゆりん?」
「そ、まゆりちゃんだから、まゆりん!嫌だった?」
「あだ名なんてつけてもらったことなかったので、嬉しいです」
まゆりん、か。嬉しい!初めて蔑称じゃないあだ名をもらった。これは順調に普通のJKライフを送れるのでは?私やればできる子!何もやってないけど!
アカリンに引っ張られて(手を握られるのも初めてで嬉しい)なんとかクラスメイトに追いついた。
「何とか追いついたねー」
セーフセーフと言いながら笑う彼女はとても可愛かった。もしかしたら彼女と友達になれるかな?がんばれ私!勇気を出して名前を聞くのよ!
「あの「ここが1年1組の教室だー忘れんなよー入ったら出席番号順に座れー」うぅ」
被った・・・。タイミング悪すぎた~。諦めない、きっとチャンスは来るはず。
「そんじゃあ自己紹介からなーさっきも紹介されたが、今日からお前らの担任になった藤岡徹也42歳、独身彼女無しだれかいい奴いたら紹介頼むわ~」
えぇ~3年間この人が担任で大丈夫なの?なんでこの人教員やってんの?クラスメイト全員引いてるよもうドン引きだよ
「次お前らの自己紹介なーじゃあ井上からー」
「はーい」
さかき、だから割とすぐに自己紹介の順番が来る。自己紹介に私の高校生活の命運がかかっていると言っても過言ではない。ちなみにアカリンは私の前の席である。
「牛頭朱莉です!」
「アカリンだー!」
「本名もあかりなんだー!」
「かわいいーっ」
なんか外野が盛り上がっているけど、アカリンは困り顔である。君たち勝手に喋りまくっているけど、アカリンの話遮ってるの気づいてののかー?
「お前ら人の話を聞け」
おっ静かになった。意外と良い人なのか?藤岡先生
「みんなの言うようにアカリンという名前でモデルをやってます。けど、今は牛頭朱莉で、みんなと同じ高校生です。モデルとしてではなく、クラスメイトとして仲良くしてくれると嬉しいです。3年間よろしく!」
「つーことだ。写真とか勝手に晒すんじゃねぇぞー」
私の中では完全に藤岡先生が良い人になった。それにしても名前を聞いて、そこから友達になろうと思ったのに、計画がパーになっちゃった。
「つぎー」
はっ私だ!やばい!何も考えてない!
「榊麻結莉です。えと、3年間よろしくお願いします」
すっと座る。沈黙が痛い。周囲からのえ?それで終わり?みたいな視線が刺さる。無理です、もうこれ以上は私には無理ですぅぅぅ最近十二天将のみんなと普通に話せてたからいけると思ったんですぅぅこの空気から早く解放してーー!
「つぎー」
やっぱいい人!
・牛頭朱莉
アカリンという芸名でモデルとして活動中
・藤岡徹也
麻結莉たちの担任。ひげ、寝癖が基本装備。独身彼女募集中




