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『ここだけの話』

作者: 遠藤芭土

あらすじは考えにくかったので

『この話を全ての25歳未満に贈ります』

というキャッチコピーにしました。

「ねえねえ、そこのお兄さん。ここだけの話があるんだけど聞いていかないかい?」


 人々が行き交う夜の繁華街。ビルとビルとの間にある小さな通路から、正幸を呼び止める声がした。最初は自分が呼ばれているのかわからなかったが、呼び声の主は明らかに正幸の方を見て手招いているように見えた。ただ、正確には顔は暗くてはっきり見えないのでなんとなくとしかいいようがなかった。正幸は自分を指差し、辺りを二、三度キョロキョロと確認した。確認してみたが、やはりこの声の主が自分を呼んでいるということがわかった。声のトーンからしておそらく男性で、暗くて顔は見えないが背格好はあまり大きくないようだ。茶色と赤紫の中間の様な色のスーツを着ていて、手には白い手袋をしている。明らかに怪しいと、正幸はすぐに感じた。だけどその手招く姿に妙な魅力があり、声からはとても優しい感覚を覚える。そして何よりも一番気になったのは「ここだけの話」というワード。正幸はなぜか無性にその話が聞きたくてしょうがなくなっていた。そう思うや否や、正幸の足は自然と声の主が手招く路地裏へと向っていたのだった。

 正幸が暗い路地裏に入ると、少し後悔したと思える物を見た。正幸を呼んでいた不思議な声の主の顔がさきほどまで暗くてよく見えなかったが、近くに来てみるとそこにいたのは魚のお面を被った男だった。余にも異様な格好に、正幸の心臓が異常な鼓動を奏でた。それと同時に思わず後ずさりしてしまう。

「うわっ、なんだおまえ」

 魚のお面は見れば見るほどリアルな作りをしていて、まるで本物のマグロの頭をつけているようにも見えた。幸いだったのがちゃんと耳が見えていた事と、ちゃんと髪の毛も生えていてお面は紐でとめてあった事だった。あまりのリアルさに、正幸は一瞬魚の怪物が現れたんじゃないかという感覚に陥っていたのだ。冷静になった正幸は立ち上がり、服に付いた汚れを掃った。それに、特別何か危害を加えてくる様子も無い魚のお面の男を見て「そんなお面どこで売ってるんだよ」と心の中で冷静な突っ込みをいれる。そんな正幸が落ち着きを取り戻した時、魚のお面の男は語りだした。

「すみません、驚くのも無理はないですよね。だけどこれは私の身の安全のためなのです。今からあなたにお話する事は、まさに『ここだけの話』なので絶対に他言無用でお願いしますね。それでもよろしければぜひお兄さんにお話したいのですが?」

 正幸は一瞬戸惑った。別に聞かなくても問題ない話なのに、他言無用という制約を付けてきたからだ。だけどその分話の内容に期待が持てるとも思えた。それに、きっとこの男ともう会うことも無いだろうし、話の内容がすでに知っている事かもしれないと思ったのだ。

「それは面白そうだね、聞いてみようかな」

「おお、それはよかった。お兄さんは見たところお若く見えますが、おいくつでしょうか?」

 正幸の心が再び足踏みをした。なぜ話を聞くだけなのに年齢を言う必要があるのかと思えたからだ。それに呼び止めたのは仮面の男の方からだ、なので自分の見た目が若い事も知っていたはずと考えた。なので正幸は仮面の男に探りを入れてみる事にした。

「おかしくないか? あなたが話しかけてきて、ここだけの話をしてくれると言った。それに年齢が関係あるのかな?」

 正幸の問に対し仮面の男答えは沈黙だった。その様子を見た正幸は、やはり何か怪しい雰囲気を感じ聞くのをやめようとする。だが、男は何かを確信したようにふふふと微笑んだ。実際には仮面をしているのでどんな顔をしていたのかは正幸にはわからないが、なぜか仮面の下から自信のようなものを同時に感じていた。

「いえ、無理に答えなくても結構です。それに今の反応でわかりました。お兄さんは今から私がする話を知らないですね」

 こうまではっきりと言われると、正幸からしたらバカにされているようでどうしても知りたくなったようだ。この仮面の男が自分の身の危険を犯してまで他人に話した『ここだけの話』、それがなんなのかが正幸には予想も付いていなかったのも事実だ。仮面の男は最終確認とも言える質問を正幸にする。

「本当に聞きますか? もしもここで聞かなかったら、あなたは一生この話を知らないで生きていくでしょう。反応を見る限り今までも選ばれていなかったのでしょうし、あなたはこの機会を逃したら一生選ばれる事もなく、一生この世の真理を知る事もなく死んで朽ち果てていくのでしょう」

 仮面の男は最終確認の中にかなりのヒントを埋め込んでいた。正幸もすぐにそれに気付く。『ここだけの話』のヒントとも言える二つのワード。『選ばれる』と『この世の真理』、正幸は頭の中で必死に答えに導こうと考えるが、まったく検討もつかず下唇を噛締めた。仮面の男が言うとおり、正幸はこの話を知らないようだ。何か悔しい思いを感じた正幸も、必死に質問に質問で返す。

「ほう、ずいぶん大きくでたな。俺が選ばれなかっただと? この世の真理がどうたらだと? わかった、聞いてやるよ。あんたの言う『ここだけの話』がどれだけすごい話なのかを俺が確かめてやる。だが、もしもたいした話ではなかったり、俺がすでに知っている話だった場合はどうしてくれるんだ? その場合、俺はすごく無駄な時間を過ごしてきた事になるよな?」

 この正幸の発言に対し、今度はすぐに仮面の男は答えた。

「はい、絶対に知らないと断言できます。なのでもしもお兄さんが知っている話だった場合、すぐにでも私はこの場で命を絶って見せましょう。これならどうですか? 私が命を賭けてまでお話する『ここだけの話』、これでもまだ聞きたくないとおっしゃいますか?」

 正幸は考えた。仮面の男が出した条件、これはまったく自分には良い条件とは言えない。むしろ、目の前で死なれたらかえって迷惑だと思った。だけど迷う必要もなかった。心当たりが無い上に、もしもの場合は嘘でも『知らなかった』といえば済む話。それに今は特別何かの用事があるわけでもなく、むしろ正幸は暇を持て余していたのだ。

 だが、同時に心に引っ掛かる事もあった。なぜこの男はそうまでして自分にこの話をしたがるのか、それが正幸には理解できなかったのだ。そして嫌でも気になった二つのワード。仮面の男が言うとこの、自分が選ばれていなかったとした場合は、選ばれていた人達はどうしているのか。選ばれた人と言うのは話を聞いた後も何食わぬ顔で暮らしているのかどうか。さらにこの世の真理。選ばれた人はそれを知っているわけで、なぜそれを選ばれなかった人に話さないのか。この世の真理を知った上で普通に暮らしているのかどうか。などなど、正幸の疑問が尽きる事はなかった。だが、もしも仮面の男が選ばれた側であった場合。選ばれなかった人間に命を賭けてまで話をしようとしているのなら、この話は絶対に聞いておきたい。それが正幸が出した答えでもあった。

「よし、教えてくれ。『ここだけの話』って奴を!」

「わかりました、それでは教えましょう! 選ばれた人間のみ知る話を!」



「俺は正幸でいいよ。お兄さんって言うけどたぶんあんたの方が年上っぽいし」

「分かりました正幸さん。私はマグーロとでもお呼びください。残念ながら本名はいえませんので」

「そのまんまだな……」

 簡単な自己紹介が終わると、マグーロは正幸を路地の奥へと導いた。

「そこでは一目に付きますので、もっと奥で話しましょう。ベンチも用意してあります」

 正幸は少し警戒しながらマグーロの後に続いた。そこの路地裏は外から見たよりも明るく、人が二人並んで通れるほどの幅があった。十メートル程奥に行った所にマグーロが言ったとおり青いベンチが置いてあった。ベンチの背もたれの部分には、白い文字で『私は人間』と書かれている。意味不明の言葉の書かれたベンチをマグーロは指差し、仮面の奥から「どうぞお座りわり下さい」と無言で訴えかけているようだった。正幸は言われるがままにベンチに腰かけた。マグーロも隣に座り、とうとう「ここだけの話」を語りだした。

「それでは、どこから話しましょうかね〜。正幸さんは未成年ですよね? 私の話の重要な所は『二十歳の誕生日に選ばれし者』についてなのです」

 今更年齢位はいいかと正幸は教える事にした。

「俺は19だよ。今年の七月で二十歳になる」

「おお、そうですか。それは間に合って良かったですね。さっきも話した通り、あなたは絶対に『選ばれません』からね。私と会ったお陰で人生が無駄にならなくて済みますね」

「気になってるんだが、選ばれるとか選ばれないとかがまずなんなのかわからないんだが。しかも今までも選ばれなかったと言ってたが、二十歳以外にもあるという意味だよな?」

「おお、なかなか理解が早くて私としても嬉しい限りです、はい」

「何歳で選ばれるんだ?」

「そうですね、そこから話すのもいいでしょう」

 そう言ってマグーロは立ち上がった。ベンチから数歩歩き、急に振り返って正幸を見る。魚のお面ではどこを見ているかが正確にはわからないが、正幸はものすごい目線を感じていた。

「まずは五歳、ここで選ばれる人はいわばエリートとも言えるでしょう。五歳という年齢ではきっとこの世の真理を聞かされた所で何も理解していないでしょう。だが、その分物凄い才能や能力を秘めているとも言える将来有望の人間。なので五歳の時点で選ばれた人はエリートなのです。まあ、エリートと言ってもその力を発揮することはないのですが……。例えば正幸さんが五歳の時、誰か突然引っ越した人や死んでしまった人などいませんでしたか?」

 マグーロが始めた話は、正幸からしたらいきなり突拍子も無い事ばかりだった。五歳でエリートだの、才能や能力を秘めてるだの、その力を発揮することはないだのとても意味の分からない事ばかりだった。それになぜ五歳でそんな将来の才能や能力がわかるのだろうか? という疑問が何よりも正幸の頭から離れない。それと、今更ながらなぜマグーロは五歳で選ばれる事を知っているのだろうか? 正幸が思い当たる答えは一つだけだった。

「いや、五歳の時の事なんて覚えてないよ。それに、引越しする人だっているだろうし、死んでしまう人だっているだろうよ。そんな選ばれるなんて話聞いたことないしさ。もしかしてだけど、マグーロがこの話を知ってるのは五歳の時選ばれた一人とか?」

 再びマグーロが沈黙した。何か引っ掛かる事でもあったのだろうか。

 魚の動かぬ表情のまま、何かを考え込み、そして話しだす。

「ん〜、やっぱ信じられませんかね? ですよね、こんな話普通聞いたこともないですもんね〜」

 マグーロは軽いテンポで言った。

「はは、なんだジョークかなにかだったのか? まさかこれで終わりとか言わないよな?」

 さっきまでの好奇心が少し冷めてきたのか、正幸も軽い言葉で返した。


「では、聞きますけど。逆に正幸さんは、こんな話が嘘だと言い切れるのでしょうか?」


 マグーロは今までに無く強い口調で正幸に訴えかけた。そして話を続ける。


「話を聞いたことないとしても、選ばれた人達が話してはいけないと言われていたらどうですか? そりゃあ知ってるはずないですよね。だって本当に話してはいけない事なのですから。最初に言った通り、この話を選ばれてない人間にしたら待っているのは『死』です。きっと正幸さんは、五歳の人間の将来の力なんてどうやって知るんだと思ったのでしょ? そんな事わかるはずない、と。だけど、もしも知る方法があっても公にされていなかったらどうですか? 選ばれた人間以外知らない方法があったら? それは選ばれてない人間は知ることが出来ない、それならなぜないと言い切れるのですか? さらに引越しや死についても同じです。普通に引っ越す人や命を落とす人もいるでしょうけど、正幸さんはそういう人たちのその後を全て知っているのですか? もし知らないのであれば、なぜその人たちが選ばれていなくなったという可能性を否定できるのでしょうか? それと……」


 マグーロは手を大きく開き、天を仰ぎながら大きな声で言った。


「正幸さんは勘違いしているようだ、選ばれた人間はこの事を誰にも話さない。なので私が選ばれた人間というわけではありません。そうです、そうなんです。私は『選ぶ側』なのですよ! だから正幸さんにこの話をする事が出来るのです。お分かりいただけますか?」


 マグーロのあまりにも急な力説に、正幸も考えざるを得なかった。

 正幸は考えた。必死にマグーロの言う事可能性を考えた。いや、否定した。必死にマグーロの言う可能性を否定した。だが、正幸の否定は負けることになる。マグーロの言う可能性に……。

 必死に考えた正幸だったが、マグーロの答えを否定するだけの根拠がなかった。それに、マグーロの言っている事が本当とは思えないが、もしもの場合は話の辻褄が全て合うのだ。けど、これなら怪しい集団かなにかの勧誘と対して変わらないとも思った。話の続きを聞いたからといって損はないと思った正幸は続きを聞くことにする。


「まあ、それでいいから。話を先にすすめてくれよ」

「はい、では続きを。この話の通り、選ぶという行為があと十歳と十五歳で行われます。その時も同じように、選ばれた人間は選ばれてない人間に話してはいけないというルールがあるので、選ばれてない人間は知ることは絶対にありません。そして、最後が二十歳です」

 ここで正幸に再び疑問が持ち上がる。

「ちょっと待てよ? いくら話してはいけなくても、マグーロのように誰かに話す人が出てくるんじゃないか? 話した相手が他人に言わなければばれないわけだろ?」

 マグーロはまるで「呆れたもんだ」と言わんばかりに、額に指を立て首を振った。

「その人達が話して何の得があるんですか? わざわざ命の危険を冒してまで、選ばれなかった人間に話すと思いますか? って私が言う事ではないか、ははは」

「そうだよ、それも聞きたかったんだ。マグーロはなぜ俺に話すんだ? 何にも得がないだろ?」

 マグーロは人差し指を立て、正幸の方に腕を伸ばした。そしてチッチッチッと指を小刻みに何度も左右に振った。

「わかってないですね。私は選ぶ側なんです。選ぶ側が選ばれて無い人間に話して何か得があるのかどうかについて……。はっきり言って答えは『無い』です。それなら話さなかったらどうかと言えば、やはり答えは『無い』です。それなら一緒じゃないですか? 私は少しでも楽しみたいんですよ。だから正幸さんに今こうして話していると言う事です。 私だってバレたら死んでしまいますが、正幸さんはバラさないでしょ? それなら何の問題もないじゃないですか」

「それはわからないよ、俺がバラすかもしれないぞ?」

 マグーロの動きが止まる。そしてゆっくりと正幸の所に近寄った。正幸もベンチに座りながら、もしもの時のために身構えた。マグーロが正幸を見下ろし、魚の口の中から本当の目で睨み付けた。その目を見た正幸は、まるで金縛りにあったかのように恐怖で体が硬直してしまう。正幸からもはっきりは見えなかったが、とても怖い目でマグーロは正幸をにらみつけていた。

「最初に他言無用って言いましたよね? あれは嘘だったのですか? まあ、バラしてもいいですけど一つ言っておきますね。」

 マグーロは軽くジャンプし、ベンチの上に飛び乗る。


「もしもその話した人間が『選ばれた人間』だったらどうなるでしょうか?」

「もしそうだったら、俺は死ぬんだな……」

「正解です! この話を聞いた時点で、正幸さんが他人に話す事の利点を全て失っているのです! 私の話を聞いて、命を冒してまで誰かに話すのもいいでしょう。だけど、自分が知ってればいいじゃないですか? 選ばれなかったのに選ばれた人間と同じ知識を持てるんですよ?」


 正幸はなにか騙された気持ちになった。それと同時にすごく後悔していた。こんな怪しい男にほいほい着いてきてしまい、しまいには嘘か本当かもわからない話で縛られる事になるからだ。それにこの話を誰かにして、その人が選ばれてない人間だったとしても、はたして信じるだろうか? 答えはきっと『ノー』だ。正幸自身がそれを証明している。いまだに正幸はこの話が信じられないのだ。


「まあいいさ。誰にも話さなければいいんだろ? さあ、続きを教えてくれよ」

「わかりました、続きですね。そうだ、ここまで話を聞いてみて、正幸さんはどんな話だと思いました?」

「ん〜……。選ばれた者が誰にも言わないような事で、選ばれるのは才能や能力のある人なんだよな。しかも選ばれた者はその力を発揮できないと、しかもそれはこの世の真理……。全くわかんないや」

「そうです、それが普通なんです。そんな話を今から教えるんですよ、着いてきてよかったと思いますよね?」

「そうだな、早く教えてくれよ」

「そうだ、二つ言い忘れてました。最初に選ばれる子供は、その年に五歳になる5パーセントで、次が10でその次15です。そして二十歳で20%減らされます。そしてもう一つ重要なこ事があって、二十五歳の誕生日に『選ばれなかった』人間に……いや、こっちは後で話しましょう」

「何だよ、気になるじゃないか。まあ、片方の話はそれだと、選ばれないのは全体の約五十パーセントか。逆に考えれば半分は選ばれるんだな」

「そこはあっさり片付けてはいけないポイントですよ」

「え?」


 マグーロは初めて見せる暗い雰囲気で語りだした。


「選ばれた者の子供は、最初から選ばれているのです」

「それはなんとなくわかるな、子供に秘密にするのもあれだしな」

「本当にそれだけですか? それではこの話はどうでしょうか、私が話すここだけの話の始った年がいつかわかりますか?」

「わかるはずないだろ、今日初めて聞いたんだから」

「この制度ともいえる仕組みが始ったのが、今年で実はまだ二十年しか経ってないんです。これが何を意味するか分かりますか?」

「二十年って事は、今年二十五歳の人が最初ってわけか」

「そうです、今二十六歳以上の人と四歳以下の子供はこの話を知ってる人は誰もいません」

「それが?」

「毎年選ばれる子供はでます。それが二十歳で五十パーセントになります。二十歳以上で子供を生んだ親で知ってる人はいません。つまりですね、五十パーセントの人間の子供はすでに選ばれていて、それがずっと続いているわけです。これから先も続くでしょう」

「だから?」

「わかりませんか? このまま続けば、選ばれてない子供は最初から五十パーセントなんです。ようするに、毎年毎年選ばれた人間が増えていくんですよ? ちょっと計算すればあと何年経てばほとんどの人間が選ばれた人間になるかわかりますよね? 現在二十五歳以上の人達が子供を産めなくなった時、選ばれてない子供の数がどうなるかを想像してください」

「ん〜、言ってる事はわかるよ。つまりこのままずっと続けば、いつかは選ばれた人間だけになるんだよな? で、選ばれない人間はどんどん減っていくということだな」

「半分正解で、半分ハズレです。だけどハズレたのは正幸さんのせいじゃありません。なぜなら私がまだ話していない話が重要なんです。先程言いかけた、今年二十五歳になる選ばれてない人間がどうなるのかという話です」

「どんな話なんだ……?」


 正幸は思わず唾を飲み込んだ。

 最初は軽い気持ちで聞いていた『ここだけの話』だったが、だんだん聞いていくうちに罠にはまり、しまいには大規模すぎて恐怖すら感じるようになっていた。それが何に対しての恐怖なのかは正幸はまだわかっていない。


「実はこの話をしたとたん、さっきまで話していた計算などがすべて無駄になります。いや、すべてって訳ではないかもしれませんが、大半は無駄になりますね」

「なるほど、それでどんな話なんだ? 早く教えてくれよ」

「今から話す事が起こった場合どうなるのか、私の簡単な計算だと長くても百二十年程ですべての人間が『選ばれた人間』になります」


 正幸でも分かる矛盾点があった。すぐに分かった正幸が疑問を投げかける。


「それはおかしいだろ。マグーロの言う二十五歳の時何が起こるかはまだわからないが、おかしい事だけはわかる。今一歳の子供が二十歳で子供を生めば、それだけで二十五年は選ばれていない人間がいる事になるだろ? さらにその半分がまた二十歳でってのを繰り返せばすぐじゃないか? 今二十六歳以上の人達が百歳まで生きるとしても、三代に渡って選ばれない者が子供を生めば、百二十年を超える計算になるぞ? もしもそれが百二十年になるとしたら、方法は限られるよな? もしかして二十五歳で全員選ばれるのか?」


「はい、すごいいい計算だと思います。正幸さんの言ったとおり、ある方法を実行しないと百二十年って事はありえません。だけどその方法は正幸さんの言う『全員が選ばれる』方法ではありません。あえて言うならその逆ですね」


「逆って……」


 正幸はとても冴えていた。冴えていたがためにすぐに逆の意味がわかってしまう……。


「逆ってまさか……」

「そうです、そのまさかです」


「選ばれてない者は二十五歳で全員死ぬのか……」


「正解です。この方法を使うと、大雑把な計算で百二十年です。もちろん若い時子供を生んだり、沢山子供を生んだりと不確定要素は沢山ありますので、たぶんもう少し伸びると思いますが。だけど、それは違う事にも適用される事でして、私の用に話す人がいてその話を聞いた人が言い触らせばいくらでも加速します。現に、良くある事なんですよ〜、ついついバラしちゃう人がいましてね」

「一番大事な事を聞いてないよな」

「そうですね」

「いったい『誰』がこんな事を計画しているのかをまだ聞いてないよな」

「そうですね」

「教えてくれ」

「もちろん教えます。なので最後に一つお聞かせください。正幸さんは誰がこの計画を実行しているかを知ったとして、どういう行動を取るつもりですか? わかっていると思いますが、今から言う相手を倒すとかそういう子供染みた考えはお辞めくださいね。もちろん街中で叫んだところで加速するだけなのは言うまでも無い事ですよね。さあ、どうしますか?」


「何もしなければ二十五歳で死ぬ、その相手はこんな計画を実行できてしまうほどの力を持っていて、選ばれた人間もほとんど逆らわないほどだよな。選ばれない人間に話せば、計画が早まるだけだし……。ダメだ、やっぱり最後のピースがわからないと何も考えられないよ! 教えてくれ、こんな事をやっているのは誰なんだ!」



 マグーロは正幸の耳元で囁いた。

 そして正幸は空を見つめながら立ち上がった。


「ははは、ここまで話しておいてオチはそれかよ! なんだ、せっかく面白い話だと思ったのに嘘かよ! そうだ、嘘なんだからお前は今ここで命を絶て! まったく、時間の無駄だったよ」



「嘘ではないので、私は死ねません」


 そう言ってマグーロは、顔につけていた魚のお面を外した。

 そして正幸と顔を合わせる。



 マグーロの顔見た正幸は、まるで死んだ魚の目をしながらふらふらと街へ戻っていった。

 そして、仮面を取ったマグーロが最後に言った。



「あと五年の人生をお楽しみください」



 正幸は人の行き交う繁華街に消えていった。


 どうやらベンチに書かれていた文字はまだ乾いてなかったようだ。

 正幸の背中には『私は人間』という文字が白く書かれていた。


 だが、その文字はもちろん反対になっていた……。



 正幸が最後に聞いた答え、そして最後に見たマグーロの顔は……。










 マグーロは外した魚の仮面をもう一度付けた。















「おや、そこのあなたもこの話を知らないのですか? そうですか、それでは選ばれなかった人なんですね。でも、世の中には知らないほうがいい事ってのもあるんですよ。それがもしかしたら世の中の真理って奴なのかもしれませんよ?」


 てくてくとマグーロは再び路地裏の入り口に向う。



「え? どうしても知りたいんですか? もしもあなたがすでに二十五歳以上なら、聞かないほうが幸せです。もしもあなたが二十五歳以下で誕生日がまだなら、誰かに聞いてみるのもいいかもしれませんね。そのかわり命の保障はしませんよ?」




 マグーロは路地裏の入り口に立ち、話かける相手を探しているようだ。




「え? 一気に二十五歳が死んだら不自然だって? そんな事いったら、他のすべても不自然じゃないですか。そういう事を平気でやってのけるんですよ『私達は』ね。それに、どうせ嘘だろって声が多いようですね。まあ、嘘だと思うならそれでいいんじゃないでしょうか? それはあなたの自由ですから」




 マグーロは路地裏の入り口で手招きを始めた。




「あなたはもう忘れてしまったのですか? この話を他人に聞いてみるのもいいでしょうけど、信じてくれると思いますか? 信じてくれない相手はあなたと同じ選ばれなかった人間だからむしろ良かったと言えるでしょう。だけど、もしその相手が選ばれた人間だった時……」







「お、あの人間に話したら面白そうだな」













 

どうでしたか?

どんだけ妄想してんだって思われた人も多いでしょうね。


まあ、小説ですから・・・・・・たぶん。

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