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チャカチャカチャッカ!!  作者: 山中一郎
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 次の日、学校に来た純は教室に入った途端、茜と洋吉にすごい形相で質問責めにあった。

「おい純! お前、あのニュース見たか!? “怪人フォマルハウト”!!」

「あれってさ、あれってさ! すっっっごく純くんに似てない!? っていうか、純くんじゃないの!?」

『やっぱり、バレバレじゃないですか……』

(ば、バカな……。いけると思ったのに……!)

 純は動揺していたが、極めて冷静な対応を取ってみせた。

「んな訳ねーじゃん。確か神奈川だろ? 福井から神奈川まで、何時間かかると思ってんだよ。俺は学校から家にまっすぐ帰って、だらだらしてただけだよ」

「そうか……。そうだよな。流石にあり得ないよな。いやなんか、何もかも無性にお前っぽいから、どうしても気になってさ……」

「あんだけ似てるともうあれじゃないの? 純くんのドンペリゲイナーなんじゃないの?」

「ドッペルゲンガーのことを言ってらっしゃる?」

 そんなこんなと話しているうちに、教師が教室に入って来て、朝のホームルームが始まる前に、純たちは話を中断して席に着いた。


 授業中、黒板に数式を書いていた教師が、思い出したように生徒たちの方に振り向いて、例のニュースの話をし始めた。

「そういえば、お前らニュース見たか? あのファマルハウトっていう仮面の男のやつ!」

『あーあ。今度こそ終わりですよ。絶対、純だってバレてますね。もうバレバレのバレですよ。どうするんですか? これ』

『うるせー。バレてねーっつってんだろ。疑いはされてもバレたりしねーよ。普通に考えたらあり得ないことだし』

 純は「またか」という気持ちで教師の話に耳を傾けていたが、教師の様子は何故か、彼が思っていたより興奮気味であった。

「お前らくらいの歳だと知らないかな~。ニュースのコメンテーターも言ってたけど、あの熱そうな仮面の男のセリフ、元ネタがあるんだよ!」

『元ネタ? あれは純が考えた物じゃないんですか?』

「……」

 純はエインセルに答えない。それどころか、教師の話すら聞きたくなさそうに、目を窓の外に逸らして、渋い顔をしていた。

「十年くらい前に、“フォマルハウト荒井”っていうミドル級のプロボクサーがいたんだよ。いや~、フォマルハウト荒井って言ったら、世界中でボクシング界を荒らしまわった伝説よ! 先生の世代からしたら、ヒーローみたいな存在だった訳! まあ、八百長に手を出してボクシング界から追い出されちゃったんだけどな。でも、八百長したのは最後の試合だけだって証明されてるんだ。強さは本物だったんだよ。なんで八百長なんかに乗っちゃったのかね~」

『フォマルハウト……、荒井って……。純の苗字と同じじゃないですか』

 エインセルは困惑して、純にどういう訳か説明して欲しくて仕方がないようだった。

「ちなみに、荒井は荒井でもこのクラスの荒井の親父さんじゃないからな? 入学式で荒井の親父さん見た時はびっくりしたね! “フォマルハウト荒井だ!!”って思わず叫んじゃったもん。な、荒井? 親父さん、“よく間違われます”って笑ってたもんな」

「そっすね」

 エインセルはフォマルハウト荒井という単語をネットで調べてみて、出てきた画像ですぐに気づいた。

 フォマルハウト荒井。八百長発覚でボクシング界を追放された、圧倒的な強さで伝説になった選手。

 本名、荒井正道まさみち。今この瞬間にも、家で自室に引きこもっている、純の父親であった。

「確か、うお座生まれだから、うお座の星のフォマルハウトから取って、フォマルハウト荒井って名前にしたんだよ。それで、フォマルハウト荒井が相手をKOした時のキメ台詞が、左手の人差し指を突きあげて、“死にたくなけりゃ、俺の名を覚えとけ! ふざけた野郎は、誰が相手でもこの俺がぶっ潰す!!”ってやつでさあ!」

 何故、純が自分のニックネームに“フォマルハウト”などという言葉を選んだのか、エインセルは誤解していたことを自覚した。

 エインセルは、てっきりファイアスターターに加護をもたらしている、旧支配者クトゥグアが住まう星、フォマルハウトから名を取ったのだろうと推察していた。

 けれど、純はそんなつもりでフォマルハウトの名を名乗ったのではなかったのだ。

「な? キメ台詞とポーズがまんまフォマルハウト荒井のと同じなんだよ! あの仮面の男、間違いなくフォマルハウト荒井のファンだって! いや~、何者か知らないけど、若そうなのになかなか良いチョイスだと痺れたね! 俺は!」

「せんせー。授業してー」

 純は、父のリングネームを継いだ。何か、彼なりの想いがあって。

 未熟なエインセルには、まだ深くは人の心の機微が分からない。だから、純が何故そんなことをするのか、理解できそうで、できなくて。ただ、軽率なことだけは純に言ってはいけないと分かっていたから、純のポケットの中にいるせいで、彼の顔を見ることすらできず。

 ――――エインセルはずっと、純の気持ちにひたすら想いを馳せることしかできなかった。


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