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第95話 ミッキーの魔法

会議室に入ったゾデュス達に向けて会議室内にいた錚々たる魔人の視線が殺到していた。


一番手前の席に座っていたのはゾデュスの主でもある四天王ブリガンティス。


奥の席には残る四天王の中ではブリガンティスに最も敵対的な龍神族の長、四天王アルレイラ。


左手に見えるのは四天王アルジールと軍団長アルメイヤが不在のアルジール軍の龍神族の有力魔人達。


そして右手に見えるのが、謎多き女魔人四天王ミッキー。


これほどの面々が集まったのは数年前にあった会議以来だろう。


その時でさえゾデュスは魔王城の会議室に座る魔人の一人でしかなかったが、今は違う。


魔王軍を代表する錚々たる面々の魔人達の注目を一身に集めているのだ。


状況が状況なだけに普段緊張とは無縁のゾデュスも身を固くさせていた。


そんな緊張状態のゾデュスにブリガンティスが大きな声で語り掛けた。



「ゾデュス、お前、人間界侵攻作戦の作戦行動中だったろ? なんでもう帰ってきた? もう粗方の占領は済んだのか?」



ゾデュスが帰還したとだけ聞いていたブリガンティスはゾデュスにそう尋ねた。


人間界侵攻の第一段階の目途がついたから配下の魔人に後を任せて、ゾデュス達だけがブリガンティスへの報告の為に帰還した。——そうブリガンティスは考えていた。



「い、いえ、それが」



口ごもるゾデュスにブリガンティスだけではなく、他の四天王たちも訝しむようにゾデュスを見る。


他の四天王や配下の魔人達も賛否はともかくとしてゾデュスが人間に後れを取るなどとは露にも思っていなかった。


そんな中にあってもその可能性に最初に思い至ったのが四天王ミッキーだった。



「そう、敗北したの」


聞き逃しそうな小さな声だったが、ブリガンティスは聞き逃すことなくミッキーに聞き返した。



「ミッキー殿? 今なんと言いました? 敗北? ゾデュス達が人間に?」



ブリガンティスの発言に陣営を問わず、小さな笑い声が漏れる。


ブリガンティスを笑ってのものではない。


ミッキーの突拍子もない発言に対しての笑いだった。



「ミッキー殿、いくらなんでもそれはないでしょう。いくら人間が力をつけてきたとはいえ、軍団長と部隊長が部隊を揃えて人間界へ出向いたのですから敗北など……」



人間界侵攻反対派であるはずの四天王アルレイラですらゾデュスが敗北するなど微塵も思っていなかった。


ブリガンティスがどの程度の規模の部隊を送ったかは詳しく知らないが、仮にアルレイラの想定以下の数であっても失敗などありえない。


そもそも軍団長と部隊長であるゾデュスとガデュスだけでも人間界側が侵攻を止める事など至難である。


2陣営から異議を唱えられる状況の中でも顔色一つ変えることなかった。


そして、ミッキーは決定的な言葉を口にする。



「……違う? じゃあなんでその後ろの魔人は左腕を失うほどの傷を負っているのかな?」



ミッキーがそう言った瞬間、笑い声がピタリと止んだ。


その後、ゾデュスの後ろにいたガデュスとセラフィーナに魔人達の視線が集中し——。



「おいっ、ガデュス、それどうした?」



アルジールに切り落とされた左腕が見えないようにロープを羽織り隠していたガデュスに違和感を感じたブリガンティスが質問すると、ガデュスは観念したかのようにローブを脱いだ。



「……な、なに?」



ローブを脱いだガデュスの左腕が途中から無くなっていた。


出血こそ止まっているが何とも痛々しい姿のガデュスの姿に魔人達は静まり返った。



「おいおい、まさか……人間にやられたのか? ……負けたのか? お前ら」



驚きを隠せないブリガンティスが問いかけるがガデュスからは返事ない。


ガデュスに変わってゾデュスがブリガンティスの質問に答えた。



「申し訳ありません、ブリガンティス様。預かっていた魔人20名は全滅し、ガデュスは深手を負いました」



そこまで言われてゾデュスの言葉を理解できない者はこの場には1人としていなかった。


魔人ゾデュスガデュス率いる人間界侵攻部隊は2人を残して全滅した。——つまりゾデュス達は人間相手に敗北したのだ。


驚きと怒りの表情を浮かべるブリガンティス。


驚きの表情を浮べつつ、何かを考えるかのように黙り込んだアルレイラ。


そして、残る四天王ミッキーはというと、何も言わずに席を立ちガデュスの元へととことこと歩き始めた。



「……痛い?」



目の前に立つ小さなミッキーを見下ろしながらガデュスは訳が分からないまま、「え~、はい」と答えると、ミッキーは1つの魔法を行使した。



「——天使の息吹」


ミッキーが呟くように言うと、ミッキーの身体が光を帯びて、その光は次第にガデュスの身体へと移っていく。



「ミッキー様ぁ~?」



何をされているか分からないガデュスはミッキーに問いかけるが、返事はなかった。



少しするとミッキーは無表情で「はい、終わり。お大事にね」と言って、ガデュスの元から離れていった。


ガデュスは訳も分からず、ふとゾデュスの顔を見るとその顔は驚愕に染まっている。



「おいっ、ガデュス、お前、腕!」



ガデュスのないはずの左腕を指差して、ゾデュスは目を見開いている。


そこでガデュスは遂に自分に起きた事態を把握した。



「……えっ? う、腕が?」



ガデュスが無いはずの左腕を見ると、そこには確かに左腕があった。


いくら見てもそこには傷跡の一つもなく、ガデュスが意識して動かしてみると腕はスムーズに動いたのである。



「おいおい、マジか」



驚いていたのはゾデュスとガデュスばかりではなくミッキーの魔法はブリガンティスにも決して小さくない衝撃を与えていた。


ゾデュスの敗北発言にも驚いたが、ミッキーの魔法にもブリガンティスはそれに近い衝撃を覚えていた。


回復魔法が得意な魔人が少ない中でもブリガンティスの配下の数多くの魔人の中には回復魔法を得意とする者はいる。


だが、その魔人のいずれもが多少の傷を塞ぐ程度の回復魔法しか使えない。


ブリガンティスにとって回復魔法とはその程度の魔法だという認識だった。


その回復魔法でミッキーはブリガンティスの想像を超え、ガデュスの腕を元通りに再生させるという奇跡ともいえる結果をもたらしたのである。


ミッキーさんは回復魔法が得意なようです。

ロリだから仕方ないよね?

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