第91話 四天王ほぼ集結
四天王、アルジールを除き全員集合!
ブリガンティスとリルが会議室に入ると、部屋の中心にある大きな存在感を持つ大きな円卓を囲うように既に数人の魔人が席に着いていた。
「これはこれは四天王の皆様がお揃いで何の御用かな? ……いや、アルジール殿は来ていないのか」
ブリガンティスは魔王軍幹部がほぼ全て揃う錚々たる面々を前にして白々しく言うと、ブリガンティスから見て正面に座る数人の龍神族の中から冷たい視線が飛んだ。
「ブリガンティス、あなたはなぜ私たちがやってきたのか理解していないのですか?」
この世界ではあまり見られない白のワンピース、まるで現代日本の洋服屋からそのまま持ってきたようなそれを身に纏った炎髪の女性がブリガンティスに問う。
この女性こそ魔王軍四天王の一角にして四天王元筆頭魔人アルジールの実姉、魔人アルレイラである。
アルレイラが問うとブリガンティスはなおも惚けた様子で聞き返した。
「さぁ、分からないな。何かありましたか?」
ブリガンティスはそう言いながら円卓の右側に座っている集団にちらりと目をやった。
そこには何かを考えているのか目を閉じ、ただじっと席に座っている黒ローブで全身を覆い隠している小柄な女性の姿があった。
一見して戦闘力を持っているように見えないその白髪の女性こそ今現在の魔界においてブリガンティスがその行動に一番注視している謎多き魔人——四天王ミッキーである。
ブリガンティスが耳を澄ますとスースーと気持ちの良さそうな寝息がミッキーから聞こえてくる。
(……あの女、この状況で寝てやがる)
魔王軍の定例会議の際も魔王ギラスマティアを前にして寝息を立てているような女だが、ブリガンティスの独断による人間界侵攻に抗議しに来たこの場で寝るとは大した根性の持ち主である。
実際の所、ミッキーは自主的にこの場に来たのではなくアルレイラの要請を受けて、部下である魔人達に無理やり連れてこられたのが真相であるが、ブリガンティスはその事実を知らなかった。
ミッキーの気持ちの良さそうな寝息が聞こえる中、アルレイラが大きな声で言った。
「ブリガンティス! あなた、人間界に配下の者達を送り込みましたね! ギラスマティア様と愚弟のアルジールがいないこの機を狙って!」
「へぇ、ギラスマティア様とアルジール殿が? またいつもの放浪癖では?」
ブリガンティスは知っている。
魔王ギラスマティアと魔人アルジールがいつもの放浪癖によって消えたのではない事を。
念には念を重ねて調査した結果である。
そして、その末にブリガンティスが出した結論が魔王ギラスマティアと魔人アルジールの死亡というものだった。
「ギラスマティア様とアルジールが消えた事にあなたが気づいていないわけがないでしょう! 今すぐ部隊を引き上げなさい! さもなければ私にも考えがありますよ!」
アルレイラは更に厳しい視線でブリガンティスを睨みつけると、会議室の空気が一気に張り詰める。
だが、ブリガンティスはそんな事には気にも留めないのか平然とアルレイラに言い返した。
「とは言ってもなぁ、俺が送り込んだゾデュスとガデュスなんだが、あれらはどうにも脳筋でなぁ。遠距離通信魔法の類が使えないから連絡の取りようがねぇんだ。俺としたことがうっかりしていたよ」
ブリガンティスが言っていることは嘘ではない。
ゾデュスとガデュス、それに加えてその他20人の戦闘魔人。人間界に送り込んだ全魔人に遠距離通信を使用できる魔人は一人としていなかった。
確かに魔人自体遠距離を結ぶ通信魔法を使える者はそこまで多くはないが、22人も魔人がいれば1人くらいは使える者がいてもおかしくはない。
ブリガンティスはあえて通信魔法を使える者を人間界作戦の人員に入れなかった。——というよりも通信魔法を使える者を除外して部隊の人員を選出したのである。
他の四天王——つまり魔人アルレイラから人間界侵攻を止めるように言われるこの時を見越して。
デメリットとしてゾデュスから作戦の進行状況や作戦成功の成否の連絡が来ない等があるがそれはブリガンティスにとってなんの問題もなかった。
なぜなら作戦は占領の程度が多少変わる程度で成功が約束されているからだ。
「それならば、アルレイラ軍から部隊を出し、彼らに侵略を止めさせます」
「そりゃ無理だ。あいつらは俺に忠誠を誓っているからなぁ。俺以外の命令を聞くわけがない。俺から直接の命令がない限り侵略を止める事はないだろうぜ。……それともなにか? 力ずくで止めるか? 俺としても可愛い配下がやられちゃ黙っているわけにはいかないなぁ」
「ならば、あなたが直接行きなさい!」
「それも無理だ。ギラスマティア様とアルジール殿が消えたんだろう? そちらの捜索を最優先させなければならないからな。なんせ俺はギラスマティア様に一番の忠誠を尽くす魔人だからなぁ」
「心にもない事を言うな! あなたのどこにギラスマティア様への忠誠心などある? ギラスマティア様の統治に唯一失敗があったとすればあなたの愚行の数々を許し、魔王軍四天王の席に居させ続けた事だ!」
アルレイラがきつい言葉でそう言うと、ブリガンティスから笑顔が消えた。
「あぁ? 四天王に相応しくないだと? あらゆる種族を纏め上げ魔界最大勢力を誇る軍団を作り上げたこの俺がか?」
すると、アルレイラからではなく現在、主が所在不明になっているブリガンティスから見て左方にいるアルジール軍の魔人の誰かがぽつりと言った。
「魔界最大勢力? 弱小種族が適当に集めた寄せ集め集団の間違いじゃないのか?」
ブリガンティスが許せなかったのはブリガンティスが集めた魔人達の事を『寄せ集め集団』と言った事ではなかった。
ブリガンティスが唯一許せなかったのはブリガンティス自身の事を『弱小種族』と罵った事のみである。
そしてブリガンティスの中で何かがプチンと切れた音がした。
「おいっ、そこのお前、何か言い残す事はあるか?」
冷たい表情で問われたアルジール配下の魔人の一人である龍神族の男は何を言われたのか分からないのか怪訝そうな顔でブリガンティスを見ている。
「そうか、ないか、……じゃあ死んどけ」
ブリガンティスが何をやろうとしているか気づいたアルレイラがブリガンティスに制止を求め、叫ぶ。
「やめなさい! ブリガンティス!」
だが、頭に血が上ったブリガンティスをアルレイラは止める事ができず、ブリガンティスの第2級魔法『シャドウバイト』は行使されたのだった。
ブリガンティス様策士なんですねー(棒読み)
ワクワクの会議が始まりそうですねw
あ、話は変わりますが新作始めました!
七英雄伝 ~長すぎる序章 魔王討伐に出た女勇者、返り討ちに遭ってなぜか魔王に求婚されたが絶対婚約なんてしない~
↓
https://ncode.syosetu.com/n4460fn/
一応、この作品とも関連性がある作品なので興味があれば見てやってくださいね。関連が分かるのは大分先の予定なので、現時点では無関係感半端ないですがががが。




