第4話 頭のおかしい貴族の従者は98点
「いらっしゃいませ! 宿のご利用ですか? 酒場のご利用ですか?」
俺たちが宿屋に入ると、受付にいた可愛らしい少女がこちらに笑顔を向け、挨拶してきた。
外観は素朴な感じの宿屋だったが、掃除は隅々まで行き届いているようで、かなり俺としては好印象だ。
入り口を入ってすぐ左の方には酒場のようなものが見える。
どうやら宿は2階の部屋だけで1階では酒場も経営しているタイプの宿屋だったようだ。
酒場もあとで行くかもしれないが、とりあえずは宿を予約せねばならない。
俺が笑顔の少女にそれを伝えようとすると、いきなりアルジールが俺の前に出た。
そして、少女を睨みつけるようにしてとんでもないことを言いだした。
「宿の予約に来た。この宿で一番のスイートルームを用意してもらおうか」
「……えぇっと、申し訳ありません。全て同じタイプのお部屋になっているのですが……」
アルジールの訳の分からない妄言に少女は申し訳なさそうに答えると、アルジールは衝撃を受けたような表情で更に怒鳴り声を上げた。
「なんだと? 貴様。よもや、こちらにおわすクドウ様を庶民と同じ部屋を案内するつもりか!」
ボカッ!
俺は後ろからアルジールの後頭部を殴りつけた。
「……何をされるのですか? クドウ様」
後ろから俺に後頭部を殴られたアルジールは驚きの表情で振り返る。
なぜ俺が殴ったのか理解できていないらしい。
庶民と同じ部屋に泊まるためにこの宿屋を選んだのだ。
だというのに、このままアルジールの妄言に付き合わされては少女が気の毒すぎる。
俺はアルジールの暴言によって困惑した少女に笑顔で話しかけた。
そんな事で挽回できるとは思わないが、とにかく笑顔でだ。
「2人部屋を1つお願いします」
「えっと、貴族様が泊まれるようなお部屋はうちにはないのですが」
怯えてこそはいないようだが、少女はとても困っているようだった。
貴族がこんな安っぽい装備では現れないと思う。
異次元空間に手を突っ込めば、貴族顔負けの豪華絢爛モードに移行する事も可能だが、今はその時ではない。
「俺たちは貴族ではないよ、駆け出しの冒険者なんだ」
「えっ、でもそちらの方が・・・」
「あ、うん。こいつ今日、魔物に襲われて意識を失って、頭がおかしくなったみたいで」
俺が笑顔で言うと、少女は心配そうに「お手当しなくて大丈夫ですか?」と心配そうに聞いてくれた。
ほんとに良い娘だ。俺も2回転生する前だったらこんな優しい彼女が欲しかったものだ。
こんな優しい少女に俺は嘘を吐けないので、正直に話す事にした。
「うん、大丈夫、もう治らないと思うから」
俺が笑顔で少女に言うと、後ろから「そんな! クドウ様!」などと聞こえた気もしたが気のせいに違いない。
「えーと、それで部屋の方頼めます?」
「えっ、では……空いてるお部屋は3号室になります。何日か予約して行きますか?」
「そうだな……では3日程」
「では2名様で銀貨1枚と銅貨80枚になります」
俺はあらかじめ異次元空間から取り出しておいた革鞄の中から提示された金額を支払い、部屋の鍵を受け取る。
「ありがとうございます。お荷物はお運びしますか?」
荷物は硬貨の入っている革袋くらいで他はすべて異次元空間の中なので大した荷物はない。
「いや、ほとんど荷物ないので大丈夫です。まだ外で用事が残っているので、済ませたらまた来ます」
「分かりました! ご夕食の方、お決まりでなかったらうちの父の料理を酒場で出してるのでよかったら!」
「楽しみにしてます」
俺は笑顔でそう答えると宿屋を出た。
馬鹿の挽回はできただろうか?
うん。出来たと信じよう。
「おい、アール! 次行くぞ! 次!」
「次と言いますと、冒険者協会ですね」
おっ、こいつもようやく分かってきたようだ。
そう、初心者装備が揃っている今、次に行くとしたらそこだ。
「その通りだ。冒険者協会に冒険者登録に向かう」
「基本で御座いますね、では早速向かいましょう」
そうして俺たちは迷う事もなく宿から歩いて数分くらいの所にある冒険者協会にやってきた。
建物の中に入ると、見慣れない俺たちに冒険者達の視線が飛んでくる。
「見慣れないやつだな」「プレートがないってことは新人か?」
視線と共にそんな小さな声も飛び交っていた。
完全に丸聞こえだが、気づかないふりをして、俺たちはギルトの受け付けのお姉さんに声をかけた。
「あの、俺たち冒険者登録したいんだけど」
カウンターの向こうのお姉さんが一瞬だけ俺を見た後、なぜか話しかけた俺ではなく後ろについて来ていたアルジールへと目が釘付けになっていた。
「あ、はい! 冒険者登録ですね!」
いい笑顔だ。でもなぜか俺とお姉さんの視線は全く合わない。
声だけを聞きながら、視線は全てアルジールへと向けている。
「あ、うん、お願いしていいかな?」
「お名前と年齢をこちらにお願いします」
お姉さんの視線が気になりつつも、俺はお姉さんに渡された2人分の用紙に名前と年齢を記入していった。
俺はクドウ、15歳。アルジールはアール、17歳。
なぜかアールの方が見た目が上に見えるので疑われないようにそう書いて、お姉さんに渡す。
すると、なぜかお姉さんは渡した用紙をじっと見始めた。
名前と年齢しか書いてないのに何をそんなに確認をすることがあるのかよく分からない。
少しして、俺とアルジールの名前と年齢を確認し終えたお姉さんがまたも俺ではなくアルジールの方を見て言った。
「受諾しました。アール様とクドウさんをFランク冒険者と認めます」
あ、試験とかないだね。結構お手軽。
ていうか今、アールだけ様付けで呼ばなかった? 気のせいだよね?
流石に俺の聞き間違いかと思っていると、今度は後ろからアルジールが声を上げながら俺の前に出てきて——。
「きさ——!」と何か言いかけたので——。
ボコッ!
とりあえず後頭部を殴ったおいた。
「まだ何も言ってません。クドウ様」
アルジールが振り向いてなんか言っているが俺には分かる。
どうせ「貴様! なぜクドウ様がFランクなのだ! 今すぐ訂正せよ!」だよね。知ってる。
あ、でもこの場合、言っちゃったほうがよかったのか? まぁどうでもいいけどなー
「ど、どうされました?」
受付の女は宿屋の少女同様、心配そうに俺たち——いや、アルジールを見た。
アルジールの気に触れることをしたのではないかと思ったのだろう。
どちらかというと俺の方を気にした方が正解ではなかろうか。
「いや、アールは奇策を思いついたようです。強い魔物を倒す奇策をね!」
「えっ、そうなんですか? 凄いですね! アール様は!」
やっぱ聞き間違いじゃなかったわ。よく分からんが俺なぜがフォローしないといけないのだろうか?
普通逆だよな?




