第3話 俺の名は
初の感想頂きありがとうございました。まだまだ感想ご意見お待ちしています。
俺たちは思っていたよりも早く始まりの街に到着した。
俺は紙の地図や方位磁石なんて時代遅れなものは持っていない。
一応マッピング機能がついたハイテク魔法アイテムは持っているが、そんなものを持ち出さなくても俺暗いともなれば近くの人の魔力を探るだけで町がどこにあるかくらい手に取るようにわかるのだ。
まぁでも初心者冒険者らしく、紙の地図も買っておいた方がいいかもな。
ちなみに金など腐るほどある。
魔界で使われる通貨はもちろんだが、人間界の通貨も異次元空間にしこたま放り込んである。
魔王時代に戦いを挑んできた勇者や聖者などからかっぱらったり、人間界に遊びに行った時に小遣い稼ぎ等をして得た金だ。
ちなみに違法なことはしていない。勇者などからかっぱらったのもいきなり襲われた精神的慰謝料としてだ。
何度でも言うが決してやましい金ではない。
まぁそんな話は置いとくとして、記念する始まりの町はシラルークというらしい。
魔界からそこまで離れていない上に、まぁまぁ規模の大きな町で冒険を始める最初の街としては微妙な所だが、まぁそこは妥協する事にする。
宿屋や武器屋が充実しているのはもちろん、冒険者協会やあの高笑いを上げるアホっぽい神を信奉している教会もあるようだ。
「さて、アルジール、町に来たらまずすべきことは何か知っているか?」
街に入って少ししたところで、俺はテスト代わりに初歩的な質問をアルジールにぶつけてみた。
アルジールは少し考えるように手で軽く顎を抑えた。
「人間の街に来てまず行うこと……人間界征服の為の足掛かりとしてまずこの街を征服する事でしょうか?」
よくよく考えて出した結論とは思えない程、訳の分からない事をアルジールはほざき始めた。
どうやら転生の後遺症で頭がイってしまったらしい。
仕方ないので俺はアルジールに正しい答えを教えてやった。
「……違うぞ。宿をとるんだ」
「宿を取る? まず宿屋の征服という事ですね!」
納得したようにアルジールは宿屋街に向かおうとするので俺はガシっとアルジールの肩を掴んだ。
どうやら思っていた以上にアルジールには常識がないようだ。
「……もういい。お前は黙って俺の後ろについてこい」
「はっ! このアルジール、どこまででも魔王様の後をついていきます!」
大声で言ったアルジールの宣言に俺は一瞬ドキっとしながら、周囲の人を見渡した。
そして、誰もこちらを見ていないのを確認してからアルジールの肩を掴み、囁くような声で耳打ちした。
「それと魔王様は禁止な」
「……えっ? なぜでしょうか?」
アルジールはこの世の終わりが訪れたみたいな顔をしている。
魔人時代から薄々気づいていたが、こいつは馬鹿ではないが、頭がおかしいのだ。
俺からしたら始まりの町で全てが終わったかと思ったのに気付きもしていないらしい。
「1つ、俺はもう魔王ではなく人間だから。もう一つは俺が人間だろうが魔王だろうが、町中でお前が「魔王様ー!魔王様ー!」などと連呼しようものなら、俺の主人公ライフがそこで終了の可能性が高いからだ」
「それではなんとお呼びすれば?」
あれ? 意外と素直だった。もう少しごねるかと思ったが、俺の命令には絶対服従なのはこういう時にはありがたい。
どうせならもう少し頭がまともならありがたいのだが、こいつにそれを期待するのは無理なのかもしれない。
俺は少し考えた。
「そうだな、クドウ。これからは俺の事はクドウと呼べ」
「……クドウ様ですか? ギラスマティア=メルボラス=グリム——」
「そっちは長ったらしくて、魔王感しか出ないから却下な」
魔界での俺の本名は使わないのかと言いたかったのだろうが、自分ですら覚えていない呪文のようなクソ長い名前を最後まで聞くつもりはない。仮にギラ様と略して呼んだとしても、そこから俺が魔王と感づかれることは避けたい。
ちなみにクドウとは俺は魔王をやる前に人間をやっていていた時の名前だ。そっちを使えば俺としてもしっくりくる。
「……分かりました」
あまり納得していなさそうな表情だが、クドウはそんなにダサい名前なのだろうか?
世界中のクドウさんに謝れと思いつつ、俺は更に続ける。
「あとお前の名前は今からアールだ。流石にそのままじゃ色々とまずいからな」
こんな馬鹿でも一応は四天王筆頭で俺の側近だった男だ。人間界にもその名は轟き、味方であった魔人達にすら恐れられていた名だ。
俺の名と同様隠す必要があった。
「分かりました。これからは四天王筆頭アールと名乗ります」
「四天王も禁止。冒険者を名乗れ」
「……畏まりました」
その後も俺たちの人間界における設定をアルジールに教えた後、俺たちは宿屋へと向かう。
そして、いかにもごく普通の一般的な初心者冒険者が泊まりそうな素朴な宿の前に俺たちはやってきた。
「クドウ様、まさかこちらに泊まるおつもりですか?」
「あぁ、そのつもりだ」
「先程あった屋敷の方がよろしいのではないでしょうか?」
「あれは人ん家だ」
アルジールはこともあろうにここに来る途中で見かけた大豪邸に泊まりたいとか言い出した。
恐らく貴族か商人の家だろうが住人はどうするつもりだったのだろうか? 恐らくまた「征服致しましょう!」とか訳の分からない事を抜かしたに違いない。
俺たちは駆け出しの冒険者。——まぁまだ冒険者協会に行ってないので駆け出してすらいないのだが。
そんな冒険者の1人であるアルジールの征服癖は早いとこどうにかした方がいい気がする。
「それでは、あちらなどはいかがでしょうか? あれならばクドウ様に相応しいと言わないまでも一時の宿としてはぎりぎり及第点かと」
アルジールはそう言って、目の前の宿屋から少し離れたごく普通の一般的な冒険者が泊まれるはずのない高級宿を指差す。
「あれもダメだ」
あれは貴族か大商人が泊まるような宿だ。最上級の冒険者でも見栄を張る時に位しか泊まる事はないだろう。
実際問題、金銭的には余裕で泊まれる。俺はそんじょそこらの貴族よりは金は持っているからな。
だが、俺たちはまだ冒険を始めたばかりの冒険者なのだ。そんな目立つことはできない。
「いいからここにする。行くぞ!」
そう言って俺達は庶民的な普通の宿屋へと入って行くのだった。




