第35話 招集命令
俺達はアルジールと俺が取っていた部屋に戻ってきていた。
今後の相談をするためである。
とりあえず俺はベッドに腰を下ろして、アルジールとアルメイヤには備え付けの机についている椅子を引っ張り出してもらい俺と対面する形で座ってもらった。
「さて、これからの事を相談する前にだ。お前ら2人に言っておくことがある」
これからの俺達の行動指針を今から決めるわけだが、それ以前の大前提の話である。
「お前ら、俺の許可無しに第3級以上の魔法禁止な!」
「えっ、なぜでしょうか?」
問い返してきたのはアルメイヤだ。
俺の意図を全く理解できていないらしい。
シラルークの町がなぜ今こんなことになっているかご存知ではないようだ。
アルメイヤは知らなかったとはいえアルジールをけしかけてしまった所為でアルジールは第1級魔法雷神招来を発動してしまったのだ。
その所為で闇に包まれたシラルークや周囲の町にある冒険者協会やユリウス教は大混乱。
事態を重く見た冒険者協会とユリウス教は現勇者と聖者をこの街へと送り込んでいるらしい。
実際魔人が侵略しに来ているのならなんとか勇者達に魔人を討伐してもらえば事態は解決である。
だが、雷神招来を行使したのは今は人間であるアルジールだ。
つまりこの町周辺に魔人などいないのだ。
勇者がどれだけ強かろうが、いもしない魔人を討伐できるはずもない。
とはいえ、少し見つからないくらいで冒険者協会やユリウス教は魔人捜索を諦めることはないだろう。
魔人が——しかも第1級魔法を行使できる魔人が人間界に入り込んでいること自体が人間界にとって危機だ。
見つかるわけがない魔人の大捜索が始まるわけである。
そして俺達はその見つかるわけがない魔人の大捜索を黙って眺めているしかないのだ。
「お前らの所為で人間界を救うヒーローになるはずが、人間界に大混乱を巻き起こしたやつらのボスになりそうだからだよ……」
「なんとそれは素晴らしい」
「素晴らしくねぇわ!」
そういやこいつは俺の目的を知らないんだったな。未だに俺が人間界を征服するための策を巡らせているとか思っていそうだ。
「アルジール、後で俺が人間界に転生した理由をこのバカ娘に教えておけ」
「はっ、畏まりました!」
流石にそれくらいはできるだろうと俺はアルジールに丸投げした。
バカ娘と言われたアルメイヤはちょっとシュンとしていたがまぁいい薬だろう。
「とにかくだ。お前たちが高位の魔法を使えば目立つし、どうせロクなことにならない。ていうかE級冒険者に第3級魔法とか必要ないからとにかく禁止な!」
正直第3級魔法くらいなら問題もない気もするが、冒険者協会やユリウス教の目が集まっている現状では用心に越したことはない。
「クドウ様がそうおっしゃるのであれば」
アルジールも納得し、アルメイヤもアルジールがそう言うならと渋々了承する。
これでようやく本題に入れる。
「それでだ。これからの事についてだが、恐らく冒険者協会とユリウス教の魔人探しが始まるはずだ。が、絶対に俺達の正体を明かしてはならない」
何を当たり前の事を。と馬鹿にしてはいけない。
実際についさっき冒険者協会でアルジールはプリズンに雷神招来を使用したのは自分だとバラしかけていた所だ。
アルジールからすれば自分の得意とする魔法を使っただけという認識なのだろうが、人間にとっては魔人の侵略の兆候に他ならない。
アルジールは納得している風だが、あまり期待はしていない。これに関しては俺が目を光らせる必要があるだろう。
「それと冒険者協会から勇者が来るらしいが、できる限り友好的に、魔人捜索にも積極的に協力するように」
まぁいないんだけどね。
肩書上はE級冒険者の俺達に協力を求められるかは不明だが、もし求められれば積極的に協力すべきだし、もしかしたら昇級に繋がるかもしれない。
ていうかそうでも言わないとアルジール達は全然協力しない気がする。
人間界の危機にそんな態度では怪しまれてしまう可能性もある。
友好的にするというのもほぼ同じ理由。
こいつらそうでも言わないと勇者に喧嘩を売りそうだ。
E級冒険者が勇者に喧嘩腰など頭のおかしい奴である。
これも怪しまれる原因になるだろう。
「まぁそんなところだろう。これだけの事だ。簡単だよな? 大丈夫だよな?」
俺は2人に念を押す。
あまり多く言うと、理解しきれない気がするのでこのくらいでいいだろう。
魔人としてはとても優秀なアルジールとアルメイヤだが、人間としてはポンコツな2人なのだ。
「「分かりました! お任せください!」」
返事だけは良い2人である。
まぁ言うだけ言ったので注意しつつも基本的にはこいつらに任せるしかないだろう。
「あー、あー、テステス」
話が終わった途端アルメイヤが意味不明な事を言いだした。
難しい事は1つも言ってないのに頭がショートしたのだろうか。アルジールを上回るポンコツぶりである。
「うるさいぞ、アルメイヤ。何言ってんだ?」
無視してやろうかとも思ったが、俺はアルメイヤに文句を言った。
「えっ、私は何も……」
アルメイヤは白々しくとぼけている。
この部屋に女はアルメイヤしかいない。
ポカンとした表情で中々の演技である。
これくらい演技が俺以外にもできれば頼もしいんだけどね。
「あー、あー、冒険者諸君、聞こえるかの?」
「ん?」
明らかに俺がアルメイヤを見ていた時に声が聞こえてきたがアルメイヤの口は動いていなかった。
「これはメイヤの声ではありませんね。どうやら魔法のようです。私にも聞こえていますし、声の主の発言からして指向性を持たせず、不特定多数に声を伝える魔法の様です」
アルジールは冷静にそう分析する。
確かにそんな魔法があった気がするなと俺が考えていると、女の声がさらに続く。
「この声はC級以上の冒険者相当の魔力を有した者だけに聞こえるように調整しておる。シラルークの町民全てに聞こえてしまうと混乱が起きてしまうじゃろうからな」
まぁそうだろうな。
ただでさえ馬鹿が馬鹿な事をしたせいで町は混乱しているのだから。
「この声が聞こえる諸君らに頼みがあるのじゃ。ていうか命令じゃな。現在依頼を受けている者も強制参加じゃ。既にC級以上の依頼は全て中断措置が取られているので、無視して依頼をしようとしても無駄じゃぞ。今すぐ冒険者協会に集まってほしい。無視してもかまわんが、その時は冒険者資格の剥奪も覚悟するのじゃな。では待っておるぞー」
そう言って、女の声は途切れた。
「……舐めた真似を」
女の声が途切れたあとアルジールは呟いた。
確かに舐めているが、それだけの事態なのだろう。
まぁそんな事態は起こっていないのだが、それを知るのは俺達だけだ。
「それにしても思い切ったな。C級以上の依頼を全ては強制中断させて、来ない奴の冒険者資格剥奪とか」
資格はく奪もそうだが、C級以上の依頼を強制中断させるなど結構な事だ。差し迫った依頼もあるだろう。やはりかなり大事になっているらしい。事の真相はただの馬鹿な兄妹の兄弟喧嘩だというのに。
「行かなくてもよいのでは? 幸い我々はE級冒険者ですし」
確かにC級以上の者に聞こえると言っていたので、行かなくてもバレない気もするが、ついさっき協力的にと決めたばかりだ。
「協力するっていったろ、さっさと行くぞ」
そうして俺達はさっきまでいた冒険者協会にトンボ帰りすることとなった。
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