五百話記念SS・日輪堂
本作はYVH様より頂いたものです。
元は久遠家孤児院の子供たちの社会勉強の為に、同院の御袋様こと
慈母の方・久遠リリーの発案で成立した、恐らく日本で最初の駄菓子屋。
最初のうちは孤児院の子供たちが主な来店者だったが、時が経つ毎に
それ以外のお客も来店するようになった。
決まり事は 来たら、最初に元気よく挨拶しよう。
貸して・奢って・頂戴はご法度。
(稀に「品のあるお武家様」が顔を出した時は例外で
この時ばかりは一人百点までは「お武家様」が
勘定を持つ事に。
後にこの日は「武衛さまの日」と呼ばれるようになる)
お店の人の言う事を聞きましょう。の三点。
料金は、まず隣接している両替所で持ってきた貨幣(鐚銭でも可)を
査定してもらって点数札に替えてから、それで買い物をする。
査定額は尾張で発行の久遠製・永楽通宝正銭なら百点。
それ以外は品質次第で点数が決まる。
因みに、ある特定の所で造られたものは査定次第だが
大抵は正銭でも十点を越える事は稀。
-両替所-
side 両替所担当の元・忍び衆
今日も良い日よりだ……
山城国での忍び働きの時の怪我が元で、今までのお勤めが出来なくなって
殿に申し訳なく思うていたが。
まだ、お役に立てる事があるとは。ありがたい事じゃて……
お、童たちが来た様じゃな……
「「「「「おっちゃん、こんにちはっ! 銭を点数に替えて下さいな!」」」」」
「おお、こんにちは。元気がええのう。どれどれ……
喜六坊は……六百点じゃな。なんぞ手伝いでもしたのかな?」
「うん!お城の普請場でお父の手伝いをしたんだ!」
「おお、そうかそうか!えらいぞ。ただ、気を付けるんだぞ。
はい、六百点の札じゃ。失くすなよ?」
「ありがとう、おっちゃん!」
「はい、次は……末松坊か。どれ……銭がこれだけで、鐚銭が、この量だから……
坊は三百五十点じゃな。はい、三百五十点の札。失くすんじゃないぞ?」
「(コクっ)……ありがとう、おっちゃん……」
今の日ノ本で童達が気軽に菓子が食えるのは、尾張くらいだろうて……
本来は高価な筈の砂糖がふんだんに使われている飴玉に金平糖。
琉球から伝わった黒糖を用いた焼き菓子、黒ん坊。水飴にきな粉を練りこんで作ったきな粉飴。
時々じゃが、清州のお城で祝いの時に食すという、ちょこれいと……
あまりに高価な物が多いので、殿に意見したお城の御重役がいたというが、殿が『社会還元ですよ』
と言った所、お傍にいた大智の方様が意味をご説明した所、納得して引き下がったという事じゃて。
そうそう。時々、手伝いにくる殿の御本領の御女中も面白い御方じゃな。
御上臈の万里の局様と言うのじゃが
普段はいかにもお公家様の御女中然としておるが気が高ぶると
『パオーン!!』と叫ぶものだから、童達が「パオーンの局さま」と
言うておるのを、ご本人はどう思うているのじゃろうな……
……そういえば、今日はお越しであったのう。どうなる事やら……
-日輪堂・店内-
side 元・忍衆の店員
今日も店は賑やかじゃな。わしも歳で、お勤めは出来んようになったが
殿がこうして働き口を用意してくれるとは、ほんにありがたい事じゃて……
故郷でかかぁと童を流行病で亡くして、望月様を頼うて
尾張に出てきたが、此処はほんに極楽の様じゃな……
わしの様な者も隔てなく、美味い飯が食えて病に掛かれば薬師に見てもらえる……
診て下さったのが殿の奥方のお一人、薬師の方様なのには魂消たが……
「おっちゃん! お勘定して下さいな!!」
おっと、いかんいかん……
「どれ…… はい。三十点のが、ひいふうみいの。お花ちゃん、幾つじゃな?」
「う~んとね……九十点!」
「うん、正解じゃ。では続けて。十点の飴玉が、ひいふうみい…で五つで五十点
足して幾つかな?」
わしの問いに、お花ちゃんは手の指を使って一生懸命に計算をしておる。
「う~んと……九十足す五十だから……百四十点っ!!」
どうやら正解のようじゃな。どれ。慈母の方様からの、お達し通りに応対するかの……
「はい、よくできました。お代は百四十点じゃ」
「はい、二百点」
「……はい、お釣りの五十点じゃ」
「……おっちゃん、違うよ~。お釣りは六十点だよ~」
おぉおぉ、お花ちゃんが膨れておるわ。済まんのう……
これもお方様のお言い付けじゃて、かんべんな……
「これはしたり、おっちゃんが寝ぼけていたようじゃ……済まんのう。
はい。今度は間違いなく六十点じゃ」
「ほんとにしっかりしてよね、おっちゃん!」
……お花ちゃんは将来、旦那を尻に敷きそうじゃな……
ん?外が騒がしいが……
;ぱ……パオーーンッ!!!;
-店外-
side 来店していた子供
あーあ……あのお武家様。パオーンの局様を怒らせちゃったよ……
普段はお優しいけど、決まりを守らないと若殿さまも叱り飛ばすからな……
前も京の都から来たお武家様を叱り飛ばした挙句、斬りかかってきたお武家様の
太刀と腕をへし折って、久遠病院送りにしてたっけ……
side 万理の局:モス
「仮にも武士ともあろう者が、童達でも守れる決まりを
守れないとは……恥を知りなされ!!」
全く、嘆かわしい……
身分をかさに着て列に横入しようとするとは……
司令や織田の大殿様の苦労が忍ばれますね……
「ぶっ無礼な!某は元・美濃守護職様の側近ぞ!
下賤な者たちの決まりなぞ知った事か!!」
これは……シルバーンのデータベースに、こんな側近がいたとは
記録がありませんでしたから十中八九、騙りでしょうね……ならば……
「貴殿のような方が、美濃守護様の側近にいたとは寡聞にして存じませんでした。
さぞかし優秀であられたのでしょうね、存在を秘されるくらいに。オホホホ」
「!女郎、斬り捨ててくれる!」
斬りかかってきましたね……これで、対処しても正当防衛でございますね……
side 来店していた子供
お局様に斬りかかっていったお武家様は、前の時と同様に太刀と腕を折られて
駆けつけてきた警備兵様に久遠病院に引き立てられていったけど……
お局様って、何者なんだろう……? 少し意地が悪いのは分かるんだけど……
作中の日輪堂は、自分の知っている駄菓子屋がモデルです。
奇声を発する人はいませんが(笑)