閑話・遠くの地で憂える者と動く者
本作はYVHさんより寄贈されました。
2505~2506話を読んで咄嗟に思い付いた閑話だそうです。
side:山科言継
越中へ久遠家の大鯨船が多くの食い物を満載して
来航したとの報せを聞いて震えが来るのを抑えられなんだ。
院の内勅もあり吾は唯一、内匠頭の本領に赴いたから分かる。
此度は食い物だったが、いざ久遠が本気になれば
あれらが多くの兵と金色砲や鉄砲を始めとする
武器の数々になる事を……
あの者ならば此方が無用に追い詰めでもせぬ限り
短慮を起こしたりはせぬだろうが
大智を始めとする奥方衆や家中、彼の者達の本領……
いや、違うの。故郷の国が黙っておる筈がない。
慮外な事を申す痴れ者共は
近衛太閤殿下や二条内覧公が抑えておるが……
これは一度、お二方と話さなければならぬな。
「これ、誰ぞある!紙と墨を持て!」
殿下と公の御都合を伺うて、歌会の名目で
有志に御声がけを頼まねばならぬな。
手土産は……そうじゃな。
先ごろ尾張より届けし銘酒でよかろう。
あの者達を怒らせてはならぬ。尾張を怒らせてはならぬ……
side:近衛植家
内匠頭も途方もない事を致す……
多くの大鯨船で沢山の食い物を己の国から運ばせるとは。
鎌倉の御世の元寇とは真逆よな。
蒙古は日ノ本を欲し、大軍を持ちて攻めて来たが
彼の者達は他国の民の為に食い物を越中に寄越した。
此れで越中は尾張……いや、内匠頭の手に落ちたの。
そう考えると、あ奴もまた蒙古同様、油断がならぬな……
ふふふ……あの者が我が倅であれば
近衛の家も安泰であっただろうに……
いかんな。歳の所為か、どうも益体も無い事を考えてしまう。
こまったものじゃ……
「太閤殿下に申し上げます!
山科卿より書状と進物が届いております。
如何致しましょう?」
さすが山科卿、動きが早いの。
「此れへ持て!
吾自ら披見する!」
内匠頭や久遠家は自ら動く者を助ける。
御上や院、我が近衛家を残す為。
この老骨もいま暫くは努めねば相なるまいて。