それぞれの休息 その1 ~ガレオン船にて みたび~
本作はみどりいろさんから頂いたものになります。
side:雪乃
「何してんの?」
「何って、見ればわかるだろ。休憩だ。夏のカンカン照りのときの日光浴も悪くないが、陽射しがやわらかい小春日和の日光浴もいいものだ」
久遠諸島から尾張の蟹江湊経由で東北の希代子たちへの物資を持っていくついでにわたしたちも支援する事になって今向かっているところだけどその途中、離水航行を突然やめて通常航行になったので、操舵室に行くと自動操縦になってて誰もいなかった。何かあったのかと思ったらリーファが甲板で大の字に寝てた。本人曰く日光浴をしてたらしい。
その横で、両腕を頭の後ろにして枕代わりにして同じく仰向けになっているプロイがいて、さらにその隣でわざわざ大きな日傘を差してリモート端末でなにやら操作しているあいりがいた。今回プロイとあいりは神津島に行くというから乗せてあげてる。
「そうそう。どうせボクたちしかいないし上も脱いで日光浴してもいいんだけどね。今日は紫外線多いからやめた」
「そこは気にするんだ」
「するよ。ボクだってこう見えても一応肌を気にするうら若き乙女だからね。今もちゃんとUVカットのクリーム塗ってるし」
そう言ってプロイは歯を見せてニンマリする。その仕草と顔つきは『うら若き乙女』どころかどう見ても少年のそれなんだけど。
「あいりも日光浴?」
相変わらず端末で仕事してるあいりにも声をかけるとこちらをちらりと見て是と答えた。
「シルバーンに保管される膨大なデータの仕分けと、優先度によって圧縮したりかぶったデータを削除したりとかを自動判別で行うアプリケーションの構築をしてるんだ」
喋らないあいりに代わってプロイが答えてくれた。
「仕事してるんならこんなところでやらずに中のオペレーションルームででもやったらいいのに」
「ボクたちがいるここがいいんだってさ」
プロイの言葉に対してあいりも別に反応する様子がないので、そういうことなのね。まあどこでやっても変わんないだろうからいいんだけど。
「そういえば若菜と琉璃はどこいったんだ?」
「あの二人なら機関室横のシークレットルームでキャッキャウフフしてる」
「なんかその言い方は誤解を招くな」
リーファが聞いてきた通り、この船には若菜と琉璃も乗ってる。機関室の隣に小部屋があって二人はそこでVRゲームやってたから、少し扉越しに覗いてみたけど「琉璃!そこでありんす!」「それは若菜に任せたよ~」とかいってなんか楽しそうだったからそっ閉じしてきた。
若菜は駿河の府中や伊豆の織田農場などに行くつもりらしい。いつも若菜についてるいわゆる影の衆はわたし達が尾張を出る前に徒歩で情報収集がてら伊豆重須湊の集合場所に向かってるんだって。で、琉璃は若菜に頼まれてついてきたって乗船するとき言ってた。
若菜についてるいわゆる影の衆がいないのは若菜からそう聞いたからわかるけど、目の前で寝転んでいるプロイに普段ついている護衛兼山師候補の忍び衆はどうしたんだろう?
「ねえ、プロイの護衛兼山師候補は尾張に置いてきたの?」
「まさか。彼らは先行して神津島に行ってもらって、その後神津島以外の伊豆七島の調査もしてもらってる」
「へえ、なんでまた?」
「彼らの経験のため、かな。実際はそんな大したものは無いのはボクはわかってるんだけど、他の誰かに邪魔されることもなく調査できる環境があるから訓練には絶好の場と思ったんだ」
そんな話をしてたり他愛もない話を甲板で他のみんなとしていると、どうやらVRゲームの一区切りがついたようで琉璃と若菜が甲板に上がってきた。
「あれ?終わったの?」
「久しぶりにヴァーチャル古典シューティングをやりんしたら面白うござんしたので、つい夢中になってしまったでありんす」
ヴァーチャル古典シューティング?ああ、ヴァーチャルイ○ベーダーね。またえらく古いものやってたのね。VRで立体で臨場感あふれるものになってるらしいから本当に古典かといえば実際そうじゃないらしいんだけど。
シルバーンのレクリエーションスペースにVRゲームライブラリーがあって、昭和好きの春が昭和っぽいゲームをラインナップに加えてくれってごねたらしくてそれで入れた古典とも言えるゲームのVRシリーズが、他のゲームとともにそのままこっちでもプレイできるリモートシステムがあるのよね。私はVRゲームやらないからどっちでもいいんだけど。
「るりーは初めてやったから面白かったよ~」
琉璃はまだゲームの興奮から冷めやらぬ感じね。
「とりあえず落ち着いて他のみんなと一緒に日光浴でもしたら?」
「じゃあそうしようかね~」
そう言うと琉璃はそのまま甲板に横になるが、若菜はあいりの日傘の影になるところにビーチチェアのような椅子持ってきてそこに寝るように座った。
・・・ていうか、そのビーチチェアはどこにあったの?
「そういえば、かおりさんどうしたの?」
シルバーンで琉璃と同じ仕事をしていたせいでよく行動をともにしていたかおりさんが今回は琉璃と一緒じゃないので本人に聞いてみた。
「かおりさんはお腹に赤ちゃんできたんで父島で静養中だよ~。年末には司令に見せに行くって言ってたさ~」
琉璃の発言にみんなちょっと驚いてる。
「そうなの?」
「アルテイアが父島で診察して確定だって言ってたさ~。るりーも一緒に聞いてたから間違いないよ~」
「そりゃよかったあ。かおりさんだけ年上設定だもんね。ボクたちアンドロイドは年齢があってないようなものだけど、それでもやっぱそのあたりは気分的にナーバスになるよね」
「かおりさんはいたって元気だったよ~。食べ物が美味しいから食べすぎないようにしないとって言ってたくらいさ~」
「エルが子供産んでからみんな解禁したのは承知だが妊娠と出産ラッシュだな。とはいえ1対122だから現状のペースが多いのか少ないのかはわからんが」
「あちきたちはようござんすが、種は一つだけでありんすから司令も大変でありんすね」
「その『種』っていうのはやめようよ」
「船に乗れなくなるのは嫌だから自分は当分いいな。そのあたりの役目は他の連中に任すからな」
「リーファはギャラクシーオブプラネットのときから船一筋だもんね。司令も自分より船のほうが好きなんじゃないかって言ってた頃あったし」
「船好きは否定しないがメカフェチか船フェチみたいな言い方をするのはやめろ」
「そういうのは当たったら当たった時に考えればいいさ~」
「くじ引きか食あたりみたいな言い方はともかく、まあ巡り合わせみたいなものだしね」
そんな話をしたりして甲板でまったりとしていたが、バイオロイドから伊豆の重須湊到着が近いと知らせが入る。
「そうだ、どうせ忍び衆のみんなの訓練は時間かかることだしボクたちも重須で降ろしてもらおうかな。ついでに駿東の調査したいし。あいりはどうする?島の孤児院のことが気になるならやめとくけど。神津島直行にする?」
プロイがあいりにそう言うと、リモート端末の手を一瞬止めプロイを見て否と答えた。相変わらずリアクションのほとんどない娘ね。
そうそう、あいりって神津島に尾張と同じような孤児院兼牧場を立ち上げたのよね。伊豆や駿河で売られている子供を買い取っては神津島の孤児院で育ててるって。
ギャラクシーオブプラネットでは寝食を忘れて没頭するほどシルバーンのシステムのことばっかりでそれ以外は興味ないのかと思ってたんだけど、実は子供好きだってわたし含めてみんなが知ったのはこっち来てからだったのよね。本人は言わないし表情にも出さないんだけど。
「オッケー。じゃあボクらも若菜たちと一緒に降りるよ。あいりも降りる準備よろしく」
プロイの声にあいりが諾と答えると、リモート端末のクローズ処理を手早く済ませる。みんなも下船に備えて準備をし始めたので、わたしはリーファとともに操舵室に戻る。人工知能による自動操舵はしているけど目視も大事だからね。この時代は蟹江以外ガレオンが着く湊はないからさらに慎重になる。もっとも、喫水部や船底にもセンサーはあるから座礁はしないんだけどね。
湊に接岸はせず、バイオロイドが漕ぐ小船で4人は湊に上陸していった。バイオロイドだけになった小船が戻るとすぐに出発する。
「さあ、少し油を売ってしまったからここからは急ぎ目で行くか。東北で希代子たちが待っているからな」
「そうね。十三湊の近くまで離水ステルス航行でいいかもしれない。ステルスなら津軽海峡でも問題ないし」
「じゃあ行くか」
湊が見えなくなるまで通常航行した後、操舵室でリーファは離水ステルス航行に切り替えた。