閑話・謎のペルシア商人
本作はみどりいろ様から寄贈されたものになります。
後半から登場する3名の有機アンドロイドのうち2名の詳細な設定につきましては、閑話集内の拙作『バイオロイドのミーティング』をご参照いただけると幸いです。
side:とある漢民族の武装海商(倭寇)
わしは『万丹国』の港町にいる。2・30年ほど前のこのあたりの主な交易の拠点は『馬六甲』だったらしいんだが、白人の連中が馬六甲を占拠してしまってからは、海峡を通ったり港に入るだけでぼったくりな高い関税をかけるし、なにより連中たちは自分たち白人以外を人間以下だと見下してるから回教の商人やわしら明の商人たちは馬六甲を避けるようになって、ここ万丹のすぐ近くにある海峡を通るようになった。
最近ではその白人の連中も、耶蘇教の宣教師が海に嫌われているのと、本当かどうかは知らんが巨大な烏賊に船が幾つも沈められているらしいせいで少なくなったようだがな。
ここに来た目的はもちろん交易なんだが、今回の最大の目的は数年前からここで大層な回教風の館を構えている波斯商人との重要な取引だ。
なんでもそこの女主人が認める者じゃないとありきたりな取引しかしないのだとか。逆に言えばその女主人に認められれば特別なものが手に入るということで、わしは地道にここの波斯商人に取り入ってきたが、ようやくわしもその女主人との直接会うことを許された。会った上で取引を認めるかどうかは女主人次第なんだそうだ。しかし、回教の女っていうのは人前に姿を表さないと聞いたが、会って取引するっていうんだから姿を表すのかね?
その女主人というのが、何百年か前に蒙古によって滅ぼされたという花剌子模の王族の末裔であるらしく、今の王朝を打倒して返り咲くため商人となり資金を調達しつつ、ここ万丹に潜伏しているとのことだ。本当かどうかは定かじゃないがね。
近頃倭国から貴重な商材が流れてくるようになったんだが、どうやらその波斯の商人は倭国の商人とその貴重な商材を取引しているらしいんだ。紅茶とか真珠や赤珊瑚などの宝石、そして王珍というわしらと同じ武装海商が直接倭国から手に入れたという炒麺の醤は王珍がそれで大儲けしたと知るや、みんな血眼になって求めてるんだ。
本当は直接倭国で取引できるといいが、行ってもなかなか良い取引ができないらしく、そのうえ最近倭国の周りにいる黒い死神と噂の南蛮船に沈められた同業者も多い。わざわざそんな危うい場所に取引すらできるかどうかもわからず行くよりも良く訪れるここで倭国の商材が入るならそれに越したことはない。
波斯商人の館に入って取引で顔が知れている波斯人と挨拶を交わし、普段は入れない奥の間へ通される。途中で取次の波斯人に、同じく顔なじみの波斯商人に雇われている漢民族であるらしい通訳を介して『くれぐれも粗相の無いように』と念を押されるが、貴重な商材を手に入れるためならそんなヘマはしない。
・・・通訳は一緒に奥の間には来ないのか。ここでわしが話す呉語を理解できるのはあの通訳だけだというのに。
奥の間の、一段高い場所に豪華な椅子がある部屋に通される。灯りがいくつもあって明るいその部屋に入った時は誰もいなかったがしばらくすると波斯人の男が数名入ってきて跪拝をして待つように言われるのでとりあえずそうする。
・・・しかしこの部屋は蒸し暑いな。夏だから仕方ないが風が通らない部屋らしく余計に暑い。そんなに時間が経ってないのに汗が出てくる。
跪拝をして少し待っていると足音と衣服が床に擦れる音が聞こえる。どうやら複数いるようだ。
「顔をあげて楽にせよ」
女の声だ。波斯訛りはあるがわしと同じ呉語なので内心少し驚きつつも顔を上げる。同業者の噂で閩語を話せるらしいことは聞いていたのだが、呉語も話せるのか?
一段高い場所に三人いるがいずれも全身を覆って身体の線が見えない服装・・・いや一人だけ目の部分だけ見えるな。ただでさえ暑いのに全身を覆っているとはご苦労なことだ。これが回教の女の衣装か。
真ん中の豪勢な椅子に座っている女が女主人とやらで、左右にいるのは侍女だろうか。右側に立っているやたらとでかい女は全身を覆っていて、左側の女だけは目の部分だけ見える。もっとも左の女以外は全身が隠れちまってるから女かどうかすらわからんが。
「この度はシャーフザーデフ様への拝謁を許されましたこと、光栄に存じます」
最初だけは波斯商人に教えてもらい必死で暗記した波斯語で挨拶をする。
女主人は『シャーフザーデフ』という名らしいのだが、波斯語で王女という意味らしい。なんでも、直系の長女には代々王族の誇りを忘れぬようにとのことでその名前がついているとのことだが、そうは言ってもなんか取ってつけたような名だな。本当に花剌子模の王族の末裔かと疑いたくもなる。
「その疑念の顔は何だ」
すると目にも留まらぬ速さで細い突剣をわしの眼前に突きつけられ、思わずヒッと声を上げてしまい胸の早鐘が高鳴る。突剣を突きつけたのは右側のでかい女だ。女であることは低いながらも女声であることでわかったが、わしよりも頭一つはでかいな。
わしとしたことが疑念が顔に出てしまっていたのか。それも剣の恫喝に声を上げてしまうとは。しかしこの女、剣の心得があるのか?それも相当な使い手だ。わしも仕事柄それなりに武芸に自信はあったがそのわしでさえ一歩も動くことができなかったとは。
すると、椅子に座る女がでかい女を手招きで呼びなにやら耳語している。
「此度はお嬢様の寛大なる御心にて許すが、お嬢様にそのような疑念の顔を二度と見せるな。再びそのようなことあらば汝の首と胴は永別すると思え」
この女も波斯訛りがあるものの呉語だな。でかい女は突剣をしまい元の場所に戻ったので、わしも口を閉じつつも深呼吸してなんとか胸の早鐘を落ち着かせる。
「汝はお嬢様との直接の取引を望みとのことだが、お嬢様は取引の際には目に見える金と銀以外は信用なされない。汝が求めるものを欲さばその誠意をここに示せ」
次に喋ったのは目を隠していない女だな。左の女が取次の侍女で右のでかい女は護衛の侍女か?左の女は目の彫りの深さで波斯人であるらしいことはわかる。
少し落ち着いて思考を巡らせるが、女の身で、それも侍女の立場でありながらこれほどの武芸の腕前があり、複数の言語を使いこなせるほど教養があるということは、やはり何らかの貴族か、もしかしたら本当に王族の末裔なのかもしれないな。少々心してかからねば。
金と銀が必要であることは事前に聞いているので今回の取引のための金銀を船員たちにここへ運ばせている。布で覆っていた金銀を見せると、椅子に座る女が侍女らしき女を手招きで呼びよせ耳語しているようだ。わしには声は聞こえんが。
「お嬢様は重畳であると仰せである。汝が求むるはヒノモトの物品か」
「左様でございます」
「汝の誠意、確と見た。お嬢様との取引を認める」
「ありがとうございます」
その言葉で取引はできそうだととりあえず安心する。
「ヒノモトの物品をここに」
取次の侍女がそういうと、波斯人の男たちによって様々な物品がわしの前に並べられた。
商談を終えて、わしは波斯商人の館を後にする。あの部屋がうだるような蒸し暑さだったから陽は照っていても外の風が心地良く感じる。とりあえずはまずまずの取引ができた。真珠に紅茶や赤珊瑚など、そして噂の炒麺醤はごく少量だが入手できた。あとは予想外だったが質の良い波斯絨毯も手に入れることができた。持ってきた金銀の割には決して多くはないが儲けることは十分できる。
今日はとりあえず取引商材の目録だけもらった。物品は明日波斯人の運び手が護衛も付けてわしの船まで運んでくれるそうで、そのときに目録を見て商材が全数あるかを確認しろとのことだった。
しかし今冷静になって思えばあの取次の侍女に取引交渉でずいぶんしてやられた気がする。座っていた女主人や反対側のでかい女はほとんど口は出さずあの取次の女が仕切っていたから、実質あの女が遣り繰りをしているんだろう。次回来る時はあの女を商談でやり込めないといけないな。
side:ナザニン
「ふわーっ、あつかったぁ。もう下着までベチョベチョだよぉ」
そう言って椅子に座っていたアンジェが着ていたブルカを脱ぎピンク色のタンクトップと赤いミニスカート姿になって、椅子の後ろに隠してたクーラーボックスに入っているミネラル入りの麦茶のボトルを取り出してがぶ飲みした。
アンジェは技能型の有機アンドロイド。正称はアンジェリカ。アンドロイドの娘の気質によってアンジェとアンジェリカで呼び方が分かれてるけど、マーガレットのように変な拘りもないみたいで本人はどっちでもいいみたいだね。
設定年齢は15歳で、髪色はミントグリーンのツインテール。なんかそれだけ聞くと司令の世界の『声が楽器の人』っぽいけど、アンジェはどっちかというと『甘い薄荷』って感じだね。
瞳は緑がかった黒。細身でバストはほとんど無いし、やや童顔で身長もアタシらの中では低い方だから設定年齢よりも若く見える。こっちの世界に来てから見た目は少しずつ年取るようにしてて、アンジェも年齢上では二十歳をとっくに越えてるはずなんだけど、今でも中学生の前半くらいに見える。
今上半身に着てるのはタンクトップだけど、普段はクリーム色の半袖ブラウスにピンク色のノースリーブベスト。下半身は今も普段も同じ赤いミニのプリーツスカート。さすがに日ノ本に行くときはそれなりの着物を着てる。着物の色は自分の髪色の補色に近いからと菖蒲色を気に入ってるみたいだね。
容姿設定のコンセプトがパメラとだいぶカブり気味なせいかパメラとは特に仲がいいね。なんか、ギャラクシーオブプラネットの時から『ツインテ同盟』とか言ってはしゃいでいた記憶がある。そういえばいつぞやの年末に那古野の屋敷で「日ノ本でツインテやいろんな髪型を流行らそうね」とか言ってパメラと二人で変にもり上がってたっけ。まあいいんだけどね。
ギャラクシーオブプラネットでは鏡花とともに戦艦などの設計に携わっていたけど、本来のアンジェの専門は工業デザインや流体力学。
使いやすさや安全性などの人間工学はもちろんのこと、心理学のスキルもあるから見る人の心理的影響も考慮した外見設計できる。流体力学に関してはギャラクシーオブプラネットでは宇宙流体力学のほうが必要だったからそっちが主みたいだけど水や空気の方も問題ないって本人は言ってたね。
ただ、こっちに来てからは鏡花が先に尾張に行っちゃってるし、今造ってる船には流体力学はともかく心理的影響とかそこまで考慮する必要もないからヒマしてるアンドロイドの一人だね。とはいっても蟹江で多忙な鏡花の代わりに、シベリアとか南洋とかで動かしてる船や機械とかをシルバーンで設計してるようで、ヒマであろうと設計の仕事してようとアンジェ自身はいろいろ楽しんでるみたいだからいいんだけどさ。
今回は、ここに貯まってる金銀をルソン経由で尾張に運ぶためにダウ船をルソンからここまでもってきてもらったついででアンジェに『女主人』役をちょっと手伝ってもらってる。ダウ船はここで商売始めた頃にアンジェに設計してもらってシルバーンで造ってもらったものだね。
『女主人』役は、椅子に座ってるだけで喋らなくていいからいつもはバイオロイドや擬装ロボットにやってもらってるんだけどね。その場合はアタシが小型の端末装置でブルカの中から指示操作をしてるけど、今回はアンジェが絶妙なタイミングで手招きとかしてくれたから、アタシは楽で助かったけどね。
アンジェは背が低くてその分座高も低いから、椅子の方に仕掛けをして今までの『女主人』と座高が変わらないように調節する手間はあったけど、小型の端末装置で擬装ロボットとかに指示出しながら自分で交渉するよりは楽だからね。
「だから言ったのに。アタシのように水冷スーツを装着しといたほうがいいよって。それでもクソ暑いんだからね」
暑いのでアタシもとっととブルカを脱ぐ。アタシのは正確にはブルカではないけどね。アタシだけ目の部分が開いているのは、交易相手の表情や仕草を細かく見たいから。それにアタシ以外は目の部分も隠してたほうが都合がいいからね。特にルフィーナは赤黒のオッドアイだし。アタシはペルシア人で通るからね。
「その『クソ』というのはやめろ」
「なんで?クソ暑いものはしょうがないじゃない。じゃあゲロ暑いとでも?」
「『ゲロ』もやめろ」
ルフィーナがブルカを脱ぎながらそう嗜めるけど、今更アタシに何を求めてるんだろうね?ていうかルフィーナ、よく見たらあんたこのクソ暑い部屋でブルカ着てたその下にサウナスーツ着て、ドリンクボトルまで背負ってたの?アタシにはとても真似できないししたくもないね。
「こんなに時間かかるなんて思ってなかったんだよぉ。ルフィーナも着けてなかったし」
「私の場合はトレーニングの一環で着けていなかっただけだ」
「それ、はやく言ってよぉ~」
麦茶のボトルを持ちながらげんなりとして内股で床に座り込むアンジェがちょっと可愛い。
「あ、ここ大理石の床だから冷たくて気持ちいいかも」
そう言って座り込んだまま床に手もつける。さすがに寝転びはしないね。服が汚れるから。
アタシがここバンテンでこんなコトしてるのは、とりあえずはヒマで仕方なかったからっていうのが第一だけど、交易で今まで日ノ本から流出した金銀を少しでも取り返すこともできるし、日ノ本から奴隷として連れてこられている日本人を確保収容もしてとりあえず久遠諸島に送っている。あとは交渉術の腕を鈍らせないためでもあるかな。いつ司令からお呼ばれされても良いようにしておかないとね。まあギャラクシーオブプラネットの時に折衝交渉した他プレイヤーの有機アンドロイドの連中に比べれば、アタシの交渉術ならさっきの倭寇程度の交渉なんてチョロいもんだけどね。
ホントはマラッカが拠点でも良かったんだけど、ポルトガル人が占拠して他の商人が寄り付かなくなってきているのが実情だから交易をするならここで拠点を構えることにした。今のところイスラム商人はマラッカ海峡じゃなくてこっちのスンダ海峡を通行してるからね。そういう意味でもこっちのほうが都合がいい。
近い将来マラッカを含むこのあたりもなんとかしなきゃいけないだろうけど、それはエルかメルティあたりが考えてるでしょ。アタシが考えることじゃないね。
この館もバンテン王国の高官にちょっと贈り物をばら撒いたら喜んで一等地の場所を確保してくれた。建物は元からあったものからだいぶ改築はした。見た目は時代なりでね。
内装やらはアタシたちが過ごしやすいように改造済みだけど、もし退去するときは退去前の状態に戻せるようにはしてある。
こっちにもってきている商材は全部シルバーンから久遠諸島を経由して持ってきたもの。特に真珠や赤珊瑚やオパールとかは以前シルバーンのバイオロイドたちが話していたのを聞いてもってきた。いわゆる在庫処分だね。とは言っても処分価格なんかで売らないんだけどさ。
そうそう、商材といえば『ペルシアの方でつくった』絨毯もある。ついでで出したらさっきの倭寇も喜んで買ってったね。明の高官は賄賂でたくさん銭持ってるし見栄っ張りだから売れるんだってさ。
ただヒマだからといってもずっといるわけじゃなくて、二~四ヶ月に一度の数日くらいだね。ここでこうしているのは。香辛料とかアラビアや東アフリカの物品とかのありきたりな取引であればイスラム商人を装ったバイオロイドにアタシが設定した交易プログラムに沿って動いてくれていればアタシが出てくるまでもない。
ヒマなら常駐してればいいだろうと思うだろうけど、アタシら女がそこまで出しゃばるのもなんだしね。まだそんな時代じゃないし特にイスラム商人を装ってるから。
アタシもこの世界に来て権威の見えざる力と恐ろしさを学んだ。だからここではその権威を利用してやろうと思って『女主人』がモンゴル帝国に滅ぼされたホラズムの王族の末裔と名乗っている。
もちろんそんなのは嘘っぱち。ホラズムが滅びたのも300年以上前の話だし今更そんなのまともに信じるやつなんていないと思うけど、それでもそれらしくしていて相手に『もしかしたら本当かもしれない』という思考がほんの少しでも浮かべば心のスキが生じるからそれにつけ込むことができる。
アタシが常駐せず直接交易交渉をする機会をわざと減らしていて、さらに交渉するアタシ自身が『女主人』役をしていないというのはそれを狙うためでもある。権威ってのは神秘性も大事だからね。
ちなみに言うとこの部屋がクソ暑いのもわざとだね。この暑さで相手の判断力を少しでも鈍らせるのが目的。もちろんアタシらも暑いんだけどアタシらはそんなことで判断力が鈍ることはないんでね。夏はもちろん有効だしここは冬でも暑いくらいだからね。よほど寒くなければ十分使える。
人間相手であろうと海千山千の商人相手なんだ。決して手を緩めるつもりなんて無い。それはさっきの倭寇程度のチョロい相手であろうと変わらない。
商談交渉を少しでも有利に進めるためには権威だろうとクソ暑い部屋だろうと、使えるものは何でも使うっていうのがアタシの信条だからね。他にも色々と交渉を有利にする小技は使ってるけど、この世界だとギャラクシーオブプラネットの運営から警告されることもないし。まあやり方によっては司令やエルあたりからはお小言を少しくらいは食らうかもしれないけど、逆に言えばその程度で納める自信もある。
アタシら三人はクソ暑い謁見部屋の奥側にある控室のような部屋に移った。ここには空調装置を付けてるんだよね。
「ほえーっ、す~ずしいーっ!」
アンジェが冷風口に顔を向け眼を閉じて大の字で立っている間に、アタシとルフィーナは着替え始める。アンジェほどではないけどアタシもそれなりに汗はかいてるからね。不快な状態の下着を替えるついでにシャワーも浴びていつもの普段着に戻る。簡易だけどシャワー施設も造ってあるんだよ。こういうこともあるから。
「アンジェも早く着替えな。汗かいたんでしょ?」
「ううん。もう少しこうしてる」
「別にいいが、濡れたままでそんな事してたら身体が冷えきってしまうぞ」
着替えた後、アタシは冷えたハーブティを、ルフィーナが温い麦茶を椅子に座って寛ぎながら飲んでいるとアンジェがいそいそとシャワー室の方に行く。
「寒くなってきちゃった。シャワー行ってくる」
「私は忠告したはずだぞ、アンジェリカ。だから言わぬことではない」
しばらくすると普段着に着替えたアンジェが髪を整えながら戻ってきた。
「あー気持ちよかった。でもホントはシャワーよりも湯船のほうがいいなっ」
「湯船は蟹江か神津島にでも行って存分に入ればいいでしょ?」
「元よりそのつもりなんだけどさ、でもこのあたりも掘ってみれば出るんじゃない?火山もたくさんあることだし」
うちのアンドロイドは総じての傾向で風呂好きというのがあるんだけど、アンジェも御多分に漏れず風呂好きだね。まあそう言うアタシもシャワーなんかよりも湯船でゆっくりしたい派だけどね。
数日の間に何件かの直接取引を無事に済ませてバンテンの港から尾張に持っていく分の金銀を積んで出港した。アタシが数日間で稼いだ金銀だけでも多いけど、半年間バイオロイドたちが稼いだのもあるからね。ただ、日本人奴隷を買い戻すのにどうしても必要な分や交易で要る分はもちろん館に残してあるけどね。
ついでなんでアタシらも乗った。アタシらは深夜の人がいないうちに乗っちゃったけどね。なんせアタシはともかくルフィーナとアンジェは目立つから。
アンジェにもってきてもらったこのダウ船はイスラム商人に偽装していることもあって黒くしてない。中身はうちのガレオンとかと同じくオーバーテクノロジー満載なのはいつもの通りだね。そのダウ船でルソンまで運んでルソンにあるうちの港でいつものガレオンに載せ替えてとりあえず蟹江に運んで、余剰分は久遠諸島に運ぶって寸法だね。
「さあっ、ルソンへ向けてしゅっぱーつ!」
アンジェは技能型の工業デザイナーで船の設計自体もやるけど操船もする。ギャラクシーオブプラネットのときも戦闘には出なかったようだけど戦艦を動かすことはあったみたいだね。実際に設計したものの使い心地とか改良点とかを自分で確かめたいんだってさ。それはこの世界の船であっても変わらないみたいだね。
ルフィーナも操船はできる。ギャラクシーオブプラネットで戦艦の戦闘もしていたからね。ただ今回はアンジェが楽しそうだから任せてるって言ってたね。もし戦闘状態になったら代わるようだけど。
アタシ?アタシはやんないね。もちろん万能型だからできないことはないけど、面倒くさいし他にできる娘がいるなら任せたほうがいいし。そのあたりは司令からの受け売りだね。
今回は何事もなくカリマンタン島を東に見た後、リアウ諸島やスプラトリー諸島を抜けた。無事にルソンのうちの拠点に着けそうだね。
ついでなんで久しぶりというほどでもないけどガレオンで尾張まで行こうかね?アンジェが風呂風呂とうるさく言うんでアタシまで入りたくなってきたから、ちょっと蟹江の温泉でゆっくりしようかね。まあこっちの世界に来てからずっとゆっくりしてるんだけど。