閑話・オスマントルコの欧州遠征 2
本作はYVHさんからいただいたものになります。
時は遡って……
ーサファヴィー朝イラン・宮廷ー
side:ある廷臣
「ククククク……オスマントルコの奴柄、今頃は慌てておろうな……」
確かにシャー(君主)の仰る様に、奴らは慌てておろうな。
あの者らが欧州侵攻を計画していたのは、だいぶ前から掴んでおったが
まさかキャラバン達が我らに協力してくれるとは思わなんだ。
おかげで早期に準備が整い、今回の遠征となったが……
「我が軍の先陣。今は、どの辺りであろうな」
「はい。順調に行っておれば、そろそろ国境を越える頃かと」
シャーの問いに、控えている将軍が応えておる。
「そうか。今後こそ、彼奴等の手から聖地を救い
我が国の庇護下に置きたいものじゃな。クハハハハ!!」
-オスマントルコ帝国・トプカプ宮殿内-
side:ある高官
くっ! 忌々しい異端者共が!!
もう少しで我が軍が欧州に攻め入ろうという矢先に、サファヴィー朝イランが動いた。
奴らめ、嘗て我が国に在る聖地二か所の強奪を試みたが
その時は偉大なる神の恩寵のお陰で撃退に成功したが。
性懲りもなく、また攻めて来おったとは……
しかも、我が国が欧州に攻め入ろうという重要な時に!!
「対策は如何なっておる!!」
「は! 遠征軍に急使を飛ばして帰還を命じました!!
時は掛かりましょうが、何れ此方に帰還するものと……」
「急報!! ポーランド=リトアニア軍、国境付近に出現!」
なっ!?
ーポーランド=リトアニア軍ー
side:ポーランド=リトアニア君主
我らが動くのを気取られた訳ではあるまいが、彼の異教徒の軍が突如として引いた……
腑に落ちんが。精々、利用させて貰おう。
「西の国々に密偵を放て。そして、こう触れさせるのじゃ。
『彼の異教徒の軍は
ポーランド=リトアニアが動いた事で恐れをなして逃げ出した』と」
「はっ! 直ちに」
真に受ける者は少なかろうが
僅かばかりでも我が国に貸しを作ったと思わせられれば此度は上々。
後の事は家臣共に任せて、余は帰還するか……
ーウラル山脈近郊ー
side:ロシア軍の指揮官
「掛かれー!!」
;ウラー!!! ウラー!!;
いったい、何度目の突撃であろう……?
彼の山々(ウラル山脈)を越えて、手付かずの新天地を征服する筈が
新たなるタタール共の所為で、征服事業が一向に進んでおらぬ……
増援や必要物資の要求を出しても、最近は碌に返事も返って来ぬ。
我の前任の指揮官は計画進行の遅れを咎められて
ツァーリによって粛清されたが……このままでは我も……
side:久遠家、シベリア守備軍指揮官
ロシア軍も粘るな……
諜報からの報告で、既に何人もの軍人・官僚がツァーリによって粛清されているから
彼らも必死なんだろうが、付き合う此方も疲れるな……
ーロシア国内某所ー
side:ある官僚
「大変です!
遠征軍に送る筈だった物資が、また全て消えています!!」
またか……これで何度目であろう?
大征服に従事する軍の為に集積した物資が根こそぎ消えるのは……
彼の山々を越えるまでは順調に行っていた補給が山々を越えた途端
武器・食料も含めた諸物資が忽然と消える様になった。
調査をすれども原因・犯人は不明。
その所為でツァーリの逆鱗に触れて粛清された者達は数知れず……
このままでは私もツァーリに……
ークリミア=ハン国・宮廷ー
side:国王
「……以上で御座います。陛下」
「分かった。下がってよい」
ふむ……北の簒奪者共は、だいぶ疲弊しておるの。新たなるタタールか。
嘗ての祖土の地で、偉大なるチンギス=ハーンに滅ぼされたタタール族が復活したか?
まあ、よい。今はオスマントルコに服属している我らだが、この機に乗じて北に侵攻し
我が先祖、ジョチ(ジュチ)がハーンより賜った国土を復活させ、そして……
我の一族こそが、ジョチ・ウルス※の宗主になってくれようぞ!
※学校教育上のキプチャク・ハン国の事。
ー木星圏・要塞シルバーンー
side:ヒルデ
【……と、この様になっております。留守司令】
「分かったわ。この事は尾張の司令達にも、お伝えしておいて。モス」
【了解致しました。行きますよ。大牙、サワ】
;ガゥ; ;キキッ;
これで西欧・東欧・中近東は暫く膠着するわね。
後は、どれだけ潰し合ってくれるか、ね。
オスマントルコとサファヴィー朝との攻防戦は、現地部隊の暗躍でオスマントルコ側は
二か所の聖地防衛には成功したけど、多量の物資とアラビア半島の領土の一部を失陥。
サファヴィー朝側も聖地こそ得られなったけど、多少の領土を獲得。
これで両国に係争の種は蒔けたわね。ふふふふふ……
ポーランド=リトアニアの君主は食えない人物だから
此方が動かなくても舞台さえ整えれば、勝手に動いてくれそうだけど。
ロシアは……上手くいけばモスクワ大公国に逆戻りして、そのまま足掻く事になりそうね。
オスマントルコも、自分達に供給されていた物資がロシア産だと知ったら驚くでしょうね。
これで大蝦夷の開発の障害は減ったし
彼方はゾフィー※総括が適宜、開発を進めてくれるわね。
ムガール帝国が動かなかったのは意外だったけど、南下政策を採る様に誘導して
ゴアのポルトガル勢力を圧迫するのには成功したから、まずは上々ね。
こうしてシルバーンの暗躍により
欧州大陸・中近東は各勢力が鎬を削り、対立して行く事になる。
こうした中、先に派遣された神聖同盟連合艦隊敗退の報が各派遣国に伝わり
各国政府が恐慌状態となり、幾つかの国では政変・地方反乱が起こり
国が衰退していく事になる……
なお、工作部隊が住民を避難させた神聖ローマ帝国国境付近では
傭兵達が残された財貨・物資の略奪を行い
現地領主達・戻された住民達と諍いを起こしている。
※有機アンドロイド百二十人衆の一人。
スラヴ系の銀髪が特徴の美人、戦闘型。
通称は、その特徴的な銀髪から「白銀の方」と呼ばれる。
以上となります。御笑納頂けたら幸いです。




