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閑話・-ある日の京都~水無月-

本作はYVHさんより頂いたものになります。


  京の都



 side:ある公家の家司


 「お久しゅう御座います

  此度は時候の御挨拶に伺いました。

   こちらは。我が殿より託されし書状と

  ほんの心尽くしの品々の目録となりまする。

  どうぞ、お納め下さりませ」


 「……あい分かった。役目、大義。

  御所様は宮中に参内致しておる故

  戻られ次第。某から、お取次ぎ申し上げておく。

   遠路の旅で疲れておろう。暫し宿にて休息されい」


 「御配慮、かたじけう御座いまする。では。私めは此れにて」


 ふぅ……下がったか。

時候の挨拶と申してはおったが、本音は官位の無心であろうな。

彼の者が最後に来たは……はて、何時の事であったやら……?

比べても詮無き事じゃが

もう少し尾張を見習ろうて欲しいものじゃて……



 side:使者


 都には久しゅう参っておらなんだが、だいぶ変わったのう……

以前は公家衆の屋敷は荒れ放題。主上のおわす御所も、あばら家同然

大路には餓鬼と見紛う者達が座り込み、他国の流民が彷徨い

其処彼処に亡骸が転がっておったが……

 今は、それらも少のうなっておる。

三好が手入れをしておるのはまことの様じゃな……


そういえば……

先程、訪のうた御所様の御屋敷も手直しがされておったか……

うん?

周りが随分と騒がしいが……

丁度、目の前に町衆らしき男が居る。この者に問うてみよう。


 「これ、其処の者。ちと問うが、これは何の騒ぎじゃ?」


 「ん?これは、お武家様。

  はい。この騒ぎは武衛陣に尾張からの荷駄が到着しまして

  その噂をしておるのでございます」


 「左様か。尾張からの荷は多いのか?」


 「はい。折々の節目毎に禁裏への御献上を致しております故。

  今回、届いた荷駄も。大半は禁裏や公家衆への献上物と

  聞き及んでおりまする」


ふむ……それ程、度々か……狙いは何じゃ……官位か?

それにしても、節目毎……?

ちと多い気が……


 「ははは、それは剛毅じゃのう尾張は。

  さぞかし、禁裏や公家衆の御御覚えも目出度いのであろうな」


 「はい。それはもう……

  噂では、だいぶ前に御礼に官位をとの御沙汰が有ったと

  耳に致しましたが、斯波様も織田様も畏れ多いと

  丁寧に謝絶なさったとの事。

  都中で謙虚な方々と評判になっておりまする」


な!?

節目毎に進物を贈っておいて、官位を乞うのではなく

謝絶……断ったと申すのか!!


 「そ、それは……また、何とも謙虚な事だのう……」


 「真に。尾張の勤王の志の高さは

  都でも心ある方々が感銘を覚えておりまする」


なんという事じゃ……此度、我が殿が儂に託された進物は……

ええい!忌々しい!!

尾張め!

余計な事をしてくれるわ!!



 後刻、ある公家の屋敷


 side:家司


 「御所様。ただいま、お戻りで御座います!!」


おお、お戻りになられたか。


 「お戻りなさいませ、御所様」


 「うむ。いま戻った。

  吾の留守中、変わりは無かったか?」


 「それが。以前、訪のて参った者が、また参りまして。

  この様な物を御所様にと」


 「……此処ではなんじゃ。居間で見る。

  その方は先に参っておれ。吾も装束を改めてから参る」


 「は」



  -居間-


 side:公家


家司から受け取った書状と目録を見てみたが……これは……


 「ふーむ……尾張の者達以外は、相も変わらずという事か」


 「では?」


家司も気が付いておったか。


 「その方も気付いておったのであろう?

  思うたままじゃ」


 「やはり、官位の無心で御座いましたか……」


 「そうじゃ。以前に官位を与えたが、何か慶事がうた様で

  昇叙を望んできおったわ」


 「それは、また……以前、久遠殿に御子が生まれた際に

  祝いに官位を、と言うお話が内々で宮中で御座いましたが」


 「内示はしたが。久遠の一馬は

  お気持ちだけで十分と、丁寧に内々で謝絶してきたのう。

  やはり彼の者は鄙者とは言えんの。

  両殿下が高く評価なさる筈じゃ

  むしろ、この書状を寄越した者のほうが鄙者じゃ」


 「では、お断りになられまするか?」


 「そうもいくまい。それなりの礼物も持参しておるし。

  尾張からの品々には遠く及ばんが、礼物は礼物じゃ

  先例通りの官位で調整する様、お歴々と計る」


 「お疲れ様でございます」


こやつ……鹿爪らしく平伏しおったが、楽しんでおるな。

困った者じゃ……さて、仕返しといくかの……


 「本日、主上より御拝領の品が有った。

  その方始め、家人達も共に食せとの仰せでの」


 「は?」


おお!驚いておるな……この者の、この顔が見たかった……


 side:家司


なんと……我らの様な者にまで、お情けを……


 「これじゃ。水無月と言うそうな。

  米の粉を練って広げ、甘く煮た小豆を乗せて

  蒸した物を三角に切った物じゃ。

  

  なんでも夏越の祓の事を聞き及んだ久遠の者が

  氷の代わりになる様にと考えて創ったそうな。

  それを武衛陣の包丁人に伝え、其処から餅屋を介して

  主上に献上したそうじゃ。

  まこと。彼の者らは、雅・風流を心得ておる。

  菓子の名も好い。」


なんと……禁裏でも絶えて久しかった夏越しの祓の事を……


 「恐ろしゅう御座いますな……」


 「じゃの。牛の乳の茶と言い

  どれ程、古の知恵を持っておる事か……」


まことに恐ろしい……

氷を使わなんだは、主水司の※清原卿に配慮したのじゃろうが……


 「この菓子の事、清原卿は何と?」


 「とくに何も言うていなかったな。

  恐らく、清原卿には話が通してあったのであろう。

  かの家は主水司であり学者の家柄でもあるからの。

  尾張が進めし図書寮関係の事での面倒事を嫌ろうたのであろうよ」


御所様の仰る事が真ならば

久遠の者達は、有職故実を知悉しておるという事……

ほんに何者なのじゃ、彼の者らは……



 水無月


 今日、京都周辺で6月末に食されている和菓子。

元は宮中の行事であった夏越の祓の折

氷室で保管されていた氷を暑気払いで食していた故事に因み

久遠家の者が戦国時代に考案したと伝わる。

 戦国の当時は氷の入手が極めて困難で

朝廷の財政状況も芳しくなく、夏越の祓の行事も絶えて久しかったが

何とかならんかという相談が、近衛公からされた事から久遠家が思案し

氷の管理をしていた主水司の清原家も巻き込み作り上げたと

近年になって発見された、とある公家の日記に記されていた。

 今日では梅雨の時期の京都の定番の和菓子となっており

京都在住の人達に親しまれている。

米の粉を練って作った生地の物が主流だが

コンニャクを使った物も存在する。



※『枕草子』で有名な清少納言の実家の清原氏とは別系統。

  後に舟橋(船橋とも)家と名乗る。 



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[一言] さて今回で織田はどこの家中から恨みを買いましたやらw
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