表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/42

閑話・それぞれの役割

本作はみどりいろ様より寄贈されたものです。

Side:あいり


 私はあいり。技能型の有機アンドロイド。


 私は宇宙要塞シルバーンのメインコンピュータルームで作業をしている。私の役割はシルバーンをはじめとしたコンピュータ制御システムのソフトウェアおよびネットワークの開発および管理で、ソフトウェア保守もする。


 私はこうやって自分の中では言葉にすることはできるけれど、滅多に自らの口で話すことはないし、感情を顔に出すことも無い。それは司令がわたしを作る初期設定時に無表情の無口であるようにしたかららしい。たぶん司令の趣味嗜好なのだと思うし、生み出された当初から私はそうなのだからそれに関しては別に何も思うことはない。

 最初、他のアンドロイドの娘たちとのコミュニケーションは大丈夫だろうかと思っていたが、アンドロイドの娘たちは察してくれるので、私たちの中では意思の疎通は問題ない。ただ、この世界に来て年末年始に尾張に行った際には他のアンドロイドの娘たちがフォローしてくれるとはいえ侍女や家臣の人達とは意思疎通が取りづらい。


 私は年に一度地球に降りて尾張で司令や他のアンドロイドのみんなと一緒に過ごす以外はずっとここに常駐している。それはギャラクシー・オブ・プラネットのときから変わらない。戦艦に半ば住んでいると言われるほど常駐していたリーファと同じかそれ以上に司令に顔を合わせなかったものだから、一度だけ司令に他のアンドロイドの娘を介して自分に不満があるのか、それとも自分のことが好きではないのかと聞かれたことがあった。答えるまでもなく司令に不満はないし況してや嫌いでもない。でも、それくらいのことは別に直接聞いてもらっても良かったのに、と今でも思う。敢えて言えばそれが不満といえば不満なのだろうか。


 司令は私の意思を尊重してくれている。私がここから滅多に離れないことを知ると、私のためにメインコンピュータルーム付で私用の生活スペースをわざわざ作ってくれたり、食事もここまで運んでくれるケータリング専用ロボットまで作ってくれたおかげで私はここで作業に集中できた。それらは司令の優しさもあるんだろうけど効率的にそのほうがいいと判断したのだと思う。ただ、できた生活スペースを初めてみた時にご丁寧にトイレまで作ってあって正直要るのかと思っていたが、この世界に飛ばされて私たちに生理現象が当たり前のように発生するので今となってはありがたいと思っている。


 ギャラクシー・オブ・プラネット時代はこのメインコンピュータルームには私が常駐している他に、交代制で2・3人の技能系アンドロイド、そして同じく交代制で20人のAI特化型バイオロイドがいて、サブコンピュータルームにもバイオロイドが同じくらいいたけど、今はほぼ私だけ。サブコンピュータルームは今誰もいなくて開店休業中だから、ルーム自体はクローズして使うときだけ私がこちらからリモートで運用している。

 理由は単純。敵がいないから。ギャラクシー・オブ・プラネット時代には敵からのネットワーク経由の侵入・破壊行為および窃盗行為、いわゆるクラッキングからメインシステムなどを保護したり、対抗しなければならなかった。私がまだ作られて間もなく能力的に高くない頃に一度だけダミー領域に侵入されて意味のないダミーデータを持っていかれたことはあったけど、それ以来は一度もダミー領域含めてシルバーンのシステムに侵入されたことはない。とはいえギャラクシー・オブ・プラネットの最盛期はそれだけ人員がいても敵からの防御とセキュリティ上の脆弱部分を敵より先に見つけてパッチを当てる作業に手一杯で、システム開発や更新になかなか手を付けることができないくらいだった。


 この世界に飛ばされてからしばらくは警戒レベルを最大にしたままだったけど、脅威と言えるものが存在しないとわかるのに時間はかからなかったから、バイオロイドは久遠諸島に降りてもらったりガレオン型戦船でリーファたちの下についてもらっている。交代で来てた技能型有機アンドロイドの娘たちもほとんどは久遠諸島や尾張に行ってしまったけど、一人だけたまに私と一緒にここで仕事をしている。

 そういえば尾張といえば、このルームも季節昼夜の区別がつくよう日照システムが存在していて、今は司令や他の娘たちがいる尾張にあわせてある。さすがに雨や雪まで降らせることはできないけれど天気や照度も合わせるように設定してある。それはいくら離れていても、やはり司令やみんなとともにありたいと思っているから。


「じゃあ、はじめよっかぁ」


 ・・・と、噂をすれば影が差すではないが、その一人がやってきた。


 彼女の名はプロイ。自分のことを『ボク』と言う、顔はちょっと少年ぽい技能型アンドロイド。専門は鉱物学で普段は小惑星に行ったり日ノ本に行ってたりと精力的に動いているようだが、ここにもたまに手伝いで来てくれる。

 今回は虫型偵察ロボットのオペレーションソフトウェアのアップデートを一緒にしている。ギャラクシー・オブ・プラネットの頃は数ある諜報手段の一つでしかなく重要度はそれほど高くなかったけれど、ここに来てから運用が劇的に増えているので、データのやり取りや動かし方などの全面的な見直しをしている。今回のアップデートでおよそ15%効率アップできる予定。とはいえハード的に改造をするわけではないので劇的に虫が早く飛べるとかそういうものではなく、データ転送効率とかのあくまで『足回り』の再構築、それも第一弾。

 ソフトウェアの開発自体は私が行っているがコーディングやテストは主にプロイに手伝ってもらっている。




 「よっし、入力終わりっと。・・・テスト環境はBレベルの第7ブロックを一時的にパージして使っていいでしょ?」


 どうやらコーディングが終わったらしくプロイがテストをする領域を聞いてきたので、是と答える。


 そういえば、シルバーンのメインコンピュータのリソースのうち一部は、仮想空間のデータの集まりでしかなかった私たちがどうしてどういう仕組みで実体化でき、それも過去に時間転送されたのか、そして帰れる手段があるかどうかなどの私たちに関する謎を調べるために常時稼働してある。ただ、どうやら司令も今となっては帰ることなど考えてないみたいだけど、一部の娘たちから気になるからということで調べてある。とはいえ、知ったところで『へーそうなんだ』の一言で終わりそうな気もする。


 「これで少しの間とりあえずこのまま動かしておくから、もし不具合とかで止まったらよろしく。んじゃあ、ボクは新しく織田家の領地になった場所に元の世界のデータ通り鉱物がある場所の確認と成分分析でも密かに行ってこようかな」


 プロイはそう言って座りながら伸びをした。なぜ密かになのかはわからないけれど、プロイなりに考えはあるんだろう。


 「二人とも揃って精が出るわね」


 その時、ルーム出入り口のオートドアが開いたと思ったら一人のアンドロイドがこちらにやってきた。彼女はレミア。医療型の有機アンドロイドで、設定年齢は18歳。黄色い髪を胸辺りまでのばしていて、トップスはへそ出しで肌に密着していないゆったりとした真っ赤なノースリーブと、厚めの生地で明るめの青緑のショートパンツを履いている。髪と服の色から信号機を連想させるがそれは本人には言わないでおこう。顔つきは逆ハの字の眉のせいで若干怒っているようにも見えるし服装とあわせると挑発的にも見えるけど性格は至って優しい娘。


 「今から神津島へ住民の往診に行くついでに寄ってみたの。ふたりとも少し施術してあげるわ」


 少し前に神津島をはじめとした伊豆諸島がうちの領地になって、ケティから定期的に検診に行って欲しいと依頼が来ていたようなので、シルバーンや久遠諸島にいる医療型のアンドロイドの娘たちが交代で往診に行っているけど、今回はレミアの番らしい。

 レミアの専門は指圧やリフレクソロジーとカイロプラクティックなどで、リラクゼーションのオイルマッサージまでやれる。もちろん医師としての技術もある。伊豆諸島への往診はもちろん医師としていくわけだけど。


 レミアはプロイの席で脈診を始める。私は変わらず自分の作業を続けている。


 「今日は足裏ね」


 プロイが少し顔をひきつらせて急に用事を思い出したとか言って席を立とうとするとすぐさまレミアが止めた。


 「はは、はははは・・・ボクもやんなきゃ、だめだよね?」


 「だめ」


 レミアは優しい娘だけど、施術、特に足裏の施術をするときだけは実はサディストなのでは?と思う時がある。でもそれだけ身体のためを思って真剣に行っているということの裏返しでもある。・・・と思う。


 そう言ってニコッとするレミアは仮眠スペースのベッドにプロイを引きずって連れて行くと、そのうちプロイの意味不明の叫び声やら痛みを超えたのか『ウヒヒッ』といった変な笑い声まで聞こえてくるが、私は構わず作業を続けている。



 小一時間経ったくらいで仮眠スペースの方からレミアの私を呼ぶ声がしたので、作業を一旦止めて行く。仮眠スペースで精根尽き果てたようにうつ伏せになっているプロイを横目にその隣のベッドでレミアから脈診を受ける。


 「・・・やっぱり腰ね。指圧してあげるからうつ伏せになって」


 レミアに言われるままうつ伏せになると施術を受ける。確かに腰に指圧を受けると固まっているようで少し痛い。表現としたら『痛気持ちいいの若干痛い寄り』とでも言おうか。


 「あいり、最近ここから出て動いたりしてる?」


 言われてみたら、だいぶ前にプロイに半ば強引に連れ出されてリーファと雪乃のガレオン船に乗って以来ここから外には出てない気がするので素直に否と答える。


 「あいりのことだから寝食忘れて作業に没頭してるんでしょうけど、この世界に来てから普通に疲れるし肩や腰も痛くなるから、座ってばかりじゃなくちゃんと食べてちゃんと休んでちゃんと動いてね」


 腰に受ける指圧は少し痛いがレミアはそう優しく言った。このルームの近くにトレーニングスペースがあってそこで身体を動かすことはできるし、その気があればここでもストレッチくらいはやれるのだが、どうしても作業を優先してしまっていた。ギャラクシー・オブ・プラネットのときからの習慣なのでなかなか変えるのは難しい。でもレミアも親身になっていってくれているし実際この世界に来てから確かに疲れを感じることも出てきたので、レミアの言葉に諾と返事をする。


 少しすると、隣でよしっと言ってプロイが立ち上がった。


 「ふーっ。受けてるときはめっちゃ痛いけど、後で身体中がポカポカしてくるからやっぱりレミアの施術はいいね」


 「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しい」


 レミアが私に腰へ指圧しながらプロイと話をしている。


 「神津島にはそのカッコで行くの?」


 「まさか。ちゃんと向こうに合わせた着物で行くわよ。・・・もう行くの?気をつけてね」 


 レミアはじゃあねと言って出ていくプロイに声をかけた。



 一時間ほど施術を受けてそのあと腰に効く一人でやれないストレッチをやってもらった後、レミアは持ってきていた着物に着替えて、私に無理しちゃだめよと念を押した後にルームから出ていった。


 仮眠スペースからメインコンピュータルームのいつもの静寂を取り戻した作業場に戻ると、いつものように私だけしかいないこの場所で黙々と作業に入った。虫型偵察機のアップデートがとりあえずテスト中なので今度は違うシステムの見直し、そしていつか来るであろう侵入者への対策を仕掛けておくことにする。

 

 正直言うと尾張や久遠諸島で活躍しているみんなが羨ましいと思わないでもない。でも、私の性分では今のこの時代での活動は難しいと思う。

 私が役割を担って地球に降りるのは司令が『久遠一馬』としての活動を終えてから数えてもずっとずっと先の話だと思う。でもそれでもいい。みんながそれぞれの場所でそれぞれの役割を果たしているように、私はここで役割を果たしていく。


 そして、私は今日もこの椅子に座って作業を続ける。メインコンピュータの複数画面と設計チャートを映したサブ画面とにらめっこをして。・・・これが今の私のできることなのだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] あいりが活躍できる頃って、インターネット環境が整い始めた時になるけど、そこに至るまで当然続けるとして何年かかりそう? 今更ながら、「淡海乃海 水面が揺れる時」の朽木基綱と久遠一馬がタッグし…
[一言] >ていうかてぃしぃ様のライリさんは今回のサブコンピュータルームのオペレータというよりデータベース室にいるっぽい感じですが  うちだと世界各地の言語や習俗や伝承等の蒐集と解析でサブコンピュータ…
[良い点] 感想いただきありがとうございます。 [気になる点] 無口っ娘のあいりとボクっ娘のプロイは以前の閑話『ガレオン船にて その2』に出ています。同一人物なので今回は双方細かい設定の説明は省きまし…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ