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織田菩薩

本作はおもちぃ@望月 白様から頂いたものです。

 ある日のこと。


「殿~、お届け物です~」


 そう言って藤吉郎君が40㎝四方ほどの小包を届けてくれた。

 どうやら工業村の新製品らしく出来を見てほしいそうだ。

 聞くところによると彫刻師が作った船の置物らしい。


「どれどれ」


 風呂敷を解いて出てきた箱を開けると帆船(?)であった。

 分類を聞かれると何と答えればいいのか困るが。

 基本構造は安宅船なのだろう。広い甲板後部に館が乗っている。

 だが甲板中央部には大きさと高さが違うマストが3本並び帆が張られていた。

 そして甲板上に7人の人物が乗っている。


「これエルに似てない?」


 そう言って指さしたのは琵琶を持った人物。

 日本人離れした容姿でどこがとは言わないけどデカい。


「あらあら、ではこちらは旦那様でしょうか?」


 指さした先は大きな袋を抱えた太めの人物。

 確かにそこはかとなく似てるけどなんか納得いかない。

 俺はこんなに太ってないぞ。


「こっちの小槌と袋の人は信秀さん?」

「鉾を持ってるのはジュリアに似てますね」


 釣り竿と魚を持ってるのは……たぶん信長さんだ。

 そう、なんというか非常に見覚えのある特徴。

 だとするとケティに似てるのが福禄寿で義統さんに似てるのは寿老人かな。

 二人ほど女性になってるけど確かに七福神だ。


「だとするとこれって宝船?」

「かもしれませんね」


 どうやらこれを新しく売りに出したいらしい。

 暮らしがよくなったお礼に何かがしたいと思って作ったそうだ。

 信秀さんの統治の偉業を広く知らしめるんだと職人たちが語っていたらしい。


 とりあえず信秀さんのところに持って行ってどうするか聞いてみよう。



 side 工業村の職人


「久遠様と織田様のおかげで安心して暮らせるようになっただなぁ」

「んだ、織田様はまこと仏様だなや」


 囲炉裏を囲んで数人の職人たちが休憩している。


「思ったんだが、もしかしたら織田様はほんとに仏様の生まれ変わりなのかもしれんぞ?」

「んだ、きっとそうだ。おらは近江の方から来たがあっちの殿様は獄卒みたいにむしり取れるもんは取ってくからなぁ。そう思うとここが極楽みたいだや」

「んだば、久遠様方もどこかの神様の生まれ変わりだか?」

「んだぁ、久遠様はきっと福の神様の生まれ変わりだで」

「そういえばこの間和尚様が七人の福の神の話をして下さっただ」


 和尚の話を聞いていたという職人がその時のことを思い出しながら他の職人たちにも教える。


「だとすると久遠様は海から来たから恵比寿神様かや?」

「ばっか、おめぇ久遠様は尾張を貿易品で豊かにしたから布袋様でねぇか」

「じゃあ恵比寿様は佐治様かの? 大野煮は食べ始めると止まらねぇくれぇ旨ぇだ」

「ん~む、海の向こうから来た久遠様を最初に家臣にしたのは織田の若様だべ」

「とりあえず他の神様も考えてみるべ」

「弁財天様は大智の方様だな」

「んだ、間違いないべ」

「大黒天様は織田の殿様で、毘沙門天様は今巴の方様だろうな」


 そういった男を隣の者が小突く。


「馬鹿かおめぇ、毘沙門天様は男の神様だろうがよ。どっちにも怒られるだよ」

「今巴の方様なら笑って許してくれそうだがなぁ。毘沙門天様も今巴の方様ほどの武勇ならきっと許してくれるべさ」


 頭を掻きながら冗談だと返すと他の者が何かを思い出して言った。


「そういえば都では宝船ってぇ縁起物があるらしい、上洛についていったお侍様が話してただ。久遠様も船に乗っておられるしな」


 とりとめのないことを話しながらもそろそろ休憩が終わるらしく、職人たちはそれぞれの持ち場へと散っていった。

 その話を聞いていた他の職人が仲間内でさらに話を膨らませるのはまた別のお話。


 side とあるガイド


 ここは清洲城の近くに建てられた織田資料館。

 清洲城は被災や老朽化により現在は過半が再現されたレプリカとなっている。

 しかしながら代々の久遠家・織田家両当主により、修繕された際のオリジナルの建材や家具の大部分はこの資料館へと収蔵されていた。

 一番の目玉は当時の建材をそのまま使って復元された南蛮の間だ。

 片方の壁が外されて復元されたその部屋は、さらに強化ガラスで囲われ充填された窒素ガスにより劣化を抑えている。

 当時の情景でも浮かんできそうなその一角には小さな足跡が一つ。

 言い伝えによれば織田の末姫、市がぶどうジュースをこぼした際にできたシミだと伝わっている。


 他方、神仏像を収めたコーナーでは


「――このように仏の弾正忠と呼ばれていた織田信秀は民たちから非常に慕われており、それが神仏像にも伺えます。こちらの観自在菩薩は彼の人物を投影したものだと言われており、当時清洲城に飾られていた肖像画と並べると非常に面影が似ていることが分かります。

 また反対側には関ヶ原に安置された不動明王のレプリカがあります。通常『憤怒相』であらわされることが一般的な明王尊ですがこちらは口角が吊り上がっておらず、厳しい表情で睥睨するのみとなっております。

 これは敵には容赦しないと同時に道義をわきまえるのならば他国の者であっても手を差し伸べる姿を模ったものだと言われています。


 他にもこちらの地蔵菩薩は全国で見られるものと違い非常に特徴的な見た目をしています。背後に四角い出っ張りがありますね。これは久遠家の巡回薬師を模ったものだと言われています。つまり背中の出っ張りは薬箱を背負っているということですね。

 当時の文献には村から村への道中にケガで動けなくなった旅人に手当を施していたと記録があります。これに感謝した旅の職人が久遠家への感謝と道中の無事を願って彫ったのがきっかけとされています。


 このようにこの時代に尾張で作成された神仏像には随所に織田家の人々の面影がみられ、一種の信仰対象になっていたことが見受けられます。


 続きまして――」


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― 新着の感想 ―
[一言]  投稿、お疲れ様です。  久遠家を象った宝船ですか(笑) 一部、モチーフになった人達は職人にクレームを付けたかもしれませんね。 ナニにとは、言いませんがw
[気になる点] 清須城?清洲城? 清洲城じゃありませんでしたっけ?
[一言] 後の久遠家党首(本人)が良くにてますねと言われるわけかw
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