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ガレオン船にて

本作はみどりいろ様から寄贈していただいた作品になります。


Side:シグルドリーヴァ(リーファ)


 今日もいい天気だ。船も順調、問題なく航行を続けている。


 自分の名前はシグルドリーヴァ。この船の艦長ということになっている戦闘型有機アンドロイドだ。年齢は・・17の設定だったがこちらに来て4年だからもう21だな。ちなみに名前の由来は司令から『戦乙女の「勝利へいざなうもの」からつけた』と聞いた。自分にふさわしい名前をつけてもらい嬉しい限りだが、ただ如何せん少し長いので仲間たちからは「リーファ」と呼ばれている。


 見た目のことを自ら説明するのも少々気恥ずかしいが、髪はブロンドじゃない金色を三編みにして後ろに降ろしている。瞳は深い緑色で、顔立ちは年齢相応くらいだろう。背丈は190センチで数多くいる仲間たちの中でも背は高いからすぐ目立つ。体躯は背丈の割には細いと言えるだろう。・・え?胸か?・・・至って普通だ。普通。司令はエルのような胸が好みのようだが、あそこまで大きくはないもののケティには『私よりはマシ』といわれる程度にはある、というくらいだな。


 ギャラクシー・オブ・プラネットの中では主に艦艇の操舵および艦艇戦闘を専門としていた。戦闘型なので直接戦闘ももちろんこなすが、戦狂いの・・オホン・・直接戦闘が得意なジュリアには流石に敵わないし、軍団を動かすのもセレスに一歩譲るが、艦同士の戦闘や特に艦の操舵にかけては仲間たちの中ではトップであると自負している。


 この世界ではこのガレオン船に配属された。やはり種類は違えど船の中にいるほうが安心する。ギャラクシー・オブ・プラネットでも艦に居っぱなしだったものだからエルやメルティに『作戦会議のときぐらい要塞に戻ってきなさい』とよく言われたものだ。こちらに来てからは船に居っぱなしでも今の所文句も言われないからな。その点は気楽で良い。久遠諸島で物資の調達や補給をするときでも降りないし、もし船を代えるときは船間で移動するから陸には滅多に上がらない。陸に降りたのは清洲での結婚式のときか新年で仲間たちが集まる時くらいだろう。・・そういえば清洲での司令との結婚式のとき三郎殿に背丈のことを聞かれて6尺3寸ほどと言ったら『あの斎藤新九郎殿よりも大きいのか』と驚いていたな。



「おはよう、リーファ」


 眠そうな目をこすって自分に挨拶したのは相方の雪乃。万能型のアンドロイドだ。

年齢は自分の2つ下という設定だったから今は19。髪は雪のように真っ白で肌は白人よりも白い。瞳は深い紺色。瞼が一重で顔立ちだけなら日本人に見えなくもない。背丈は160cmだから現代の日本人女性の平均とほぼ同じだが、この時代の日本人に比べれば高い。

雪乃は副艦長としてミッションのスケジュール管理や船で働いているバイオロイドの管理もするし、各地での通商は自分や雪乃は表に出ず男性型のバイオロイドが商人のふりをして行うが、通商時の折衝などは雪乃が遠隔でバイオロイドを操作している。


「なあ、雪乃。船の中だけならいいが、その格好で陸に上るのは止めたほうがいい」


「どうして?」


「特に日ノ本でその姿だと間違いなく幽霊扱いされるぞ」


 雪乃は船の中であってもよく白装束に白い帯で過ごしている。自分はいつものことだから気にしないが知らない者が見たらまず足を確認するだろう。


「失礼ね。せめて雪女と言ってほしいわ」


「幽霊でも雪女でも人を怖がらせるのは変わらないだろう」


「まあ、いいんじゃない?通商も表に立つのはバイオロイドだからどうせ陸にはあがんないし」


 ・・とまあ、少し風変わりではあるものの万能型だけあって仕事は着実にこなしてくれるから相棒としては文句はないのだが。



 自分と雪乃が乗るこの船は久遠家私掠船という立ち位置ではあるが実際のところやることは多い。尾張をはじめとして久遠諸島やウラジオストク及び南の島々などの久遠領有地を往復しての物資の調達及び補充、日本国内の他家との通商、外国との通商、倭寇をはじめとする海賊の類の拿捕もしくは撃沈、南蛮人によって奴隷として売られる日本人の奪還など様々だ。まともに船で航行したら時間がいくらあっても足らないが、この船はオーバーテクノロジー満載だからな。離水航行すれば大幅に時間は短縮できる。もちろん他の船が見えないところでしか使わないが。それにそもそもこの船は構造的に船足が速い。このあたりは鏡花が水や空気の抵抗を考慮して設計したおかげだろう。


 朝の定例でバイオロイドたちのコンディションを確認した後、とりあえず昨日あったことを宇宙要塞のイザベラに通信で報告をしておく。


「よう、イザベラ。そちらはどうだ」


「相変わらず何もなくて暇よ。今日は何?ってああ、昨日の件ね」


「ああ、チェックして知っているだろうが念の為報告だ。昨日奄美大島沖東シナ海で明船の挑発行動を受けてこれを撃沈。目視及びレーダーで確認したが生存者はいなかったためそのままミッション継続」


  するとマイク越しに軽くため息が聞こえる。


「この時代は特に舐められると碌な事がないからな。そもそも向こうが喧嘩を売ってきたんだからそれを買ってやったまでだ」


「まあほどほどにね。雪乃もいるし無茶はしないと思うけど」


 雪乃がいないと無茶をすると言われているようで少々心外だ。そう思っているとイザベラが話を続ける。


「そういえば思い出したけど、少し前に倭寇が商船沈めたのに偶然出くわしたことあったじゃない。あれ、ちょっと気になって最近調べてみたんだけどあの沈められた船ね、近江の六角の下にいる三雲家関連の外洋船だったようよ」


「三雲対馬守定持・・・か。滝川八郎殿や望月出雲守殿が尾張で重用されているのを妬んでいるという話は聞いたが」


「そう、その三雲ね。それが転じて久遠にも妬みの矛先が向いたというところかしら。いやよねえ、男の嫉妬って。ただこの件はうちは全く関係ないわ。いわゆる『第一発見者』ってやつではあるけどね」


 イザベラが話しだしたのは以前倭寇が商船の荷を奪った上沈めた件だった。場所は確か薩摩沖だったな。うちが偶然出くわして倭寇はきっちり沈めたがさすがに荷物を奪還する余裕はなかった。ガレオン船のレコーダーに一部始終が映像として記録されているが、これはさすがにこの時代では証拠として出せないな。倭寇に沈められた商船の話だけは司令に報告してあるが、三雲家が関わっているとなれば映像も念の為司令やエルたちには見せる必要はあるか。


「レコーダーにその時の記録が残っているから、今データを送る」


「オッケー。司令に伝えておくわ」


 イザベラが指でOKのジェスチャーをするのを見て、自分の隣りにいた雪乃がぼそっと言う。


「なんか最近ちょっかいかけられるの増えたね。四六時中というわけではないけど、わたしたちが海に出始めてから明らかに頻度は増えてるわ」


「そうだな。確かに倭寇あたりは率先して沈めているが、他籍船からの妨害行動もある」


 自分が雪乃のつぶやきに同意するとイザベラが少し真剣な面持ちで答える。


「そうね。パラセル諸島沖で南蛮船に妨害されたのも最近よね。たぶん久遠船の出方伺いか、手広く交易することへのやっかみとかだと思うけど、あまり重なると大事に繋がるからリーファも雪乃も慎重にね」


「わかった。なるべく自重する」


「じゃあ、鳥型監視カメラを増やして各レーダーの感度も上げておくわ。はじめから妨害目的の船に近づかなければそれに越したことはないし。まあこちらが万全に備えても偶発的な事象はあるからその時はしょうがないけど」


 雪乃の言葉を潮にこの話題は終わり、自分が話を続ける。


「ところで例の幽霊船の件は司令に話は通ったのか」


 実は大イカと白鯨に続く対南蛮船などへの第三の妨害手段としてイスパニアやポルトガルの南蛮船を完全コピーするか沈んだ南蛮船をそのまま流用して幽霊船を仕立て上げ、標的を怯えさせてかつ砲撃で撃沈する。向こうの砲撃は全く当たらないようにオーバーテクノロジーで弾道軌道を変える、とそんな案を持ち込んだ。


「一応エルには話しておいたけど今いろいろあっちはあっちで忙しいみたいよ。先日は浅井が不破関まで攻めてきてその対応で関ヶ原に行ってたし、それが終わったら今度は朝廷に請われて司令たちと一緒に京に行くって」


「そうか。太平洋はもちろん大西洋やインド洋もそれなりに広いからな。大イカと白鯨だけでなく他の手段もあっていいと思うのだが、まあ折を見てまた話しておいてくれ。もし採用されたら自分がそれに乗っても構わない」


「わかった。でもそれってさあ、実はリーファが南蛮船相手に弾撃ちたいだけなんじゃないの?」


 ディスプレイ越しのイザベラが意味ありげにニヤッと笑う。


「心外だな。いくら自分が戦闘型とはいえ、そんなバトルジャンキーでもトリガーハッピーでもない」


「そお?それならいいけど。まあどちらにしても司令やエルたちの判断待ちね。ただ、できるなら南蛮への干渉はこれ以上大きくしたくないってこの前エルが言ってたから、難しいかもよ」


「そうか・・。ただ、あれだけ宣教師やら南蛮人の船乗りやらを魚の餌にしておいて今更だとは思うが」


 その後イザベラと他愛の無い話を少しした後回線を切るとすぐに津島のリンメイから通信が入った。


「ふたりとも揃っててちょうどいいネ。近日中に南の島へ流刑人を運ぶ船が出るネ。不慮な事あっても困るから護衛してほしいヨ」


 リンメイからの要請を聞いて自分がちらりと雪乃を見るとこちらを見て軽くうなずいてリンメイに答えた。


「どうせ尾張には寄るつもりだったからいいんだけど、交易の途中だったから積載スペースが17%ほど空いててちょっともったいないけどいいの?」


 この船に限らず自分たちが運用しているガレオン船やキャラベル船などについては経費等を考える必要はなく、必ずしも他の船のように積荷を満載しないといけないわけではないが、積載物を管理している雪乃にとっては空いてるスペースがもったいないと思うのだろう。


「アイヤー、それは確かに少しもったいないネ。でもそのくらいのロスならこちらを優先して欲しいアルヨ」


「わかったわ。じゃあ今から蟹江に向かって着いたら積載物の揚げ降ろしがあるから、それ終わったら津島の河口で待ってるわ」


「しかしリンメイ、南の島の便は通常蟹江だろう。どうして今回は津島なんだ」


「蟹江は今交易船の扱いやらで手一杯ヨ。少しでも蟹江の負担を減らすためネ」


 蟹江の港は今も拡大中で、しかも交易量の多さはもちろんのこと防疫やら船舶専門学校やらでさすがのミレイやエミールでも手一杯なのだな。津島も伊勢湾から川を上ってくる船もあるが美濃からの荷や物資が来るからそれなりに忙しいはずなのだろうが、それでも超多忙な蟹江よりはましなのだろう。


「わかった。蟹江の積み下ろしが終わりそうな頃にそちらに通信を送る。どうせ南洋まで行くのだから何かしら交易品を持っていかないと、それこそ雪乃ではないが『もったいない』からな」


「そのあたりはそちらの案件だから任せるヨ。じゃあよろしくネ」


 リンメイからの通信はその言葉で切れた。


「では尾張に戻るか」


 各々の持ち場に戻り尾張へ帆を向けた。要塞から打ち上げている気象衛星からのデータを確認し航路を決めるが、今日は天気の急変もなさそうだから何もなければ早く着くだろう。そう思っていたら昼過ぎになって熱田から連絡が入った。


「どうした、シンディ。何かあったのか」


 自分がオペレート室の椅子に座らず立ったままシンディに応える。


「リーファにお願いがありますの。今尾張に向かってるのでしょう?ならついでに大湊に寄って頼んである物資を熱田に持って来て欲しいのですわ」


 するとオペレート室に座っている雪乃がそれに答える。


「こっちもそれなりに積荷があるからそんなにたくさんは運べないわよ」


「雪乃がそういう言い方をするということは積載スペースが少し空いてるという認識でよろしいのかしら?」


「あと17%ほどよ」


「十分ですわ。大湊の湊屋殿に話はついてるから後は頼みますわよ」


 そう行ってシンディは一方的に通信を切った。


「なんか本当に便利屋みたいだな」


 自分が少し苦笑すると雪乃もそれに苦笑で返した。


「それだけ必要とされてるってことでいいんじゃない?・・そうだ、どうせ大湊に寄るんだったら商人役のバイオロイドに伊勢茶を少し頼もうかしら」


「なんだ、どこかでお茶が必要なのか」


「え?わたしが飲むのよ。いけない?」


 さも当然というように雪乃が言うのを自分は苦笑して見る。他の船と違ってこの船なら飲料水は豊富にあるし茶を沸かすことも難しくはないからな。まあそれで雪乃がリラックスできるのならいいだろう。



 その後、四国や紀伊半島を遠目に見て志摩半島から伊勢湾に入り大湊、熱田、蟹江と巡り、津島の河口で流刑人を載せた船と待ち合わせた後また沖に出る。多少の天候の変化はありそうだが概ね順調に行くだろう。今回は往きに関しては離水航行は使えないから少し長くなるな。そう思い空と海を見つめる。そこにはいつもと変わらない空や雲、水平線が自分の視界に入っていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 雪乃さん、松永弾正と合ってほしい。 松永さん、奥さんの幽霊にあって、腰抜かしたそうで、案外と怖がりなのかも。  
[一言] 柾木 神々様 誤字のご指摘ありがとうございます。 作者様に修正をお願い致しました。
[気になる点] 先日は浅井が不破関まで攻めてきてその対応で【関が原】に行ってたし、 ではなくて、【関ヶ原】 だと思います。
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