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最後の1日

作者: 雪月花

12月31日。今年もまた、1年が終わる。

明日はきっと私の命日となるだろう。


私は物心ついた頃から自分がいつ死ぬのかを分かっていた。それははっきりとしていながらもとても感覚的なもので、なぜ、どうして死ぬのかは分からなかった。

だからといって今までの短い人生を、運命に逆らうために生きてきたわけでも怠惰に生きてきたわけでもない。ただごく普通の女の子として生きてきたーー他と違うところといえば、友達や周りの人との交友関係があっさりとしていたところだろうか。私がいなくなることで誰にも迷惑をかけないように誰とも深い関係は望まなかった。19歳の私は、せめて20歳にはなりたかったかなと思うが、成人式を迎えたところで友達はいないから丁度よかったのかもしれない。


人はいつか終わるのだ。人は永遠に生きられないから、人が造るものにも永遠などない。私は最後の1日をどう過ごすか迷った挙句、隣町に見つけた神社のような場所に来た。神社といえるのかわからない、鳥居と小さな建物があるだけの場所だ。とても古くて誰も来ている様子はなく、その辺りは静まりかえっていた。


「あなたもいつかなくなるんだよ」


建物の前でそう呟いた。いつか、何年後かもしくは何千年後かは分からない。でも確かにそれは人が造ったものであるから、なくなるのだ。


「悲しいことを言うなぁ」


どこからか女の子の声がした。振り向くといつの間にか背後に1人の同い年くらいの女の子が立っていた。


「いつなくなるのかなんて分からないから、いつかなくなるなんて考えても意味ないでしょ?」


「分かるよ、私は自分がいつなくなるのか分かる…」


咄嗟に答えてしまった。私の命日のことは誰にも言わないつもりだったのに。


「じゃあ命を延ばしてあげようか?」


私は最初頭が働かなかった。この人はここの神様なのかと現実的でないことを考えたりもした。でもどう見ても人間だろう。


「別にこれ以上生きたいなんて思わない…」


「しかたないなぁ、じゃあどうせ今日で使わなくなるんだから私にお財布貸してみて?」


意味がわからなかったけど、まあもうお金にも用はないと思い財布を渡した。すると女の子は躊躇することなく財布を開けて10円を出し、お賽銭箱にちゃりん、と入れたのだ。


「よし、10円貰ったからあなたの寿命を10年延ばしてあげます!」


「えっ、なんでそんな勝手なこと…!」


「10年生きてみて、まだ生きていたくなったらここに来ればいいよ!」


女の子の明るい声に反して暗い声で答えた。


「そう思うようになるはずない…」


「分からないでしょ、あなたが生きたくなったらお賽銭入れるだけで何年でも生きていられるんだよ!そう思ったら何でもできるような気がしてこない?」


ふと考えてみる。10年、あと10年生きられるならば。何でもできるとまではいかないけど、何かができるような気がしてきた。そういえば小さい頃から、時間がなくて何かと諦めてきた人生だった。まあこの神様が偽物であったら私は今日で死ぬのだけど。



もしまだ生きていけるなら…?



私は一刻も早く家に帰って自分のやりたいこと、なりたいものを考えたくなった。うずうずする気持ちを抑えて、落ち着いた声で女の子に言った。


「本当に今日で死ななかったら、また生きたくなったらここに来てあげるから待ってて」


女の子は笑顔で頷き、財布を返してくれた。私は家へと走った。途中で振り返った時はもう女の子の姿は見えなかった。走りながら、しょうがないなぁもう10年頑張らなきゃいけなくなってしまった、と思っている割には足取りは軽かった。










*

数年後働き始めた私の、一つ上の先輩がその時の女の子だったということは今はまだ分からない。私がその先何十年も生きていくことも今はまだ分からない。私も、誰も分からないのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ほのぼのテイストですね(^^ [一言] お時間があれば、私の小説も読んでみてください(^^/ https://ncode.syosetu.com/n4282ei/
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