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脱ハーレム勇者パーティ ~サラの王都滞在編  作者: kay
第一章 ロア公爵家にて
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1-4

 扉を開けていたから、私たちの話声が聞こえたから声をかけただけかも知れないけれども、晩餐の時の様子を見ていると、どうにもこの人からは悪意しか感じられない。ギルもこの言い分には腹を立てたようで、何か言い返そうとしたところで私が止めた。何があっても反論するなと目で訴えると、しぶしぶ頷いた。


 売られた喧嘩は買うしかないけれど、相手は権力者である。どのような話になっても、確実に追い出される未来しか想像ができない。

 元々宿屋に泊まろうかと考えていたことだし、追い出されたならそれでいいかと私は腹をくくった。



「私の母親が娼婦であることは事実ですが、それと今の状況は関係がないのでは?」


「ふん、どうだかな。元々色ボケしている勇者であったが、大金をはたいて娘の奴隷を買ったとの調べがあったが、大方その魔眼で誑かして解放されようとしたのだろう」



 まさか私が言い返すとは思っていなかったのか、先ず反論したことに宰相様は驚いたようだった。表情には出さずとも、反論に一瞬の間があった。

 何か話のきっかけになるようなものはないかと、私は目の前にいる人を観察するが、どうにも情報が読み取れない。

 ははぁ……、これは魔法の無力化関連の魔導具を使っていると見た。魔眼に対する抵抗としてはかなり有効な手段である。まぁ、私の魔眼の方が力が強いみたいで、目を凝らせば見えないことはないけれど。



「魔眼に対して随分用心をされているのですね」


「……何故分かった」


「あなたの情報が読めませんでしたから。それにしても、私の出自を詳しくご存じなら私の魔眼がどういう物かもご存じなのでは?」


「魔眼の能力は自己申告だからな、勇者やその取り巻きの証言は証拠にはならん」



 あー、そう来たか……。

 確かに魔眼の能力は私みたいに鑑定眼出ない限りは傍目では分からないしなぁ、宰相様の情報を読み取って、彼しか知りえない情報を話す手は無効化の魔道具のせいで使えない。

 魔道具の存在を指摘したら警戒されてしまった。まったく、どうやって説得したものか……。

 いっそのこと誰か助けに来てくれることを期待して怒らせてみようか、と考えている時だった。



「セヴラン様はここで何をなさっておいでなのでしょうか?」


「コ コレット?!」


「サラさんとギル君は、奥様が直々にお迎え致しましたお客様です。それで、セヴラン様は、ここで、何を、なさっておいでなのですか?」



 コレットさんがまとう空気がひんやりとしていて怖い。

 使用人なのに宰相様相手に有無を言わさず、ニコリと笑いながらも意見を言って、反論さえも許さないコレットさんが凄い!



「……このような時間に男を連れ込むとは感心しないと言っただけだ」


「っ、サラは俺を連れ込んでなんかない! 元々、宰相様がサラのことを悪く言うから心配で、俺が声をかけただけだ」



 なんだか悔しそうに言い訳を吐き捨てた宰相様。

 宰相様が言っていることは間違いではないけれど、私に対する悪意はそのままだったため、ギルがキレた。


 

「それに、サラの目は鑑定眼で魅了とかそういう類じゃない。勇者の奴隷になったのも、それが原因だと聞いている」


「お前にそう作り話をしただけではないのか? 女はすぐに嘘をつくからな」


「俺は混血とはいえ獣族だ。人間の嘘位なら鼻で分かる。それに、サラは俺の番だ。嘘をつくくらいなら黙っていることを選ぶ人だ、良く知らない人間が俺の番を悪く言うな!!」



 コレットさんがギルを驚愕の表情で見つめていた。これは、目上の人に対して拙い反応をしてしまったと思い、背中を冷たいものが流れるのが分かった。

 ただ、ギルを止めようにも番のことでキレた獣族はただの人間の手におえるものではない。

 私はギルをどうやって止めようか、後はこの屋敷を叩きだされた後のことをめまぐるしく考えた。

 っていうか、宰相様は女の人にトラウマでもあるの?!



 ギルが宰相様にキレてわいのわいのしていると、騒ぎを聞きつけた人たちがやってきた。その中にミケ姉さんがいるのを見つけ、いい加減この事態を収拾したいと思った。



「これは何の騒ぎ?」


「先生! こいつが、サラのこと悪く言う!!」


「は、兄様が?」

 


 キレて敬称を付けることも忘れたギルが、ミケ姉さんに言いつけた。

 うん、言いつけたっていうのが正しいね。

 っていうか、ギル。言いつけるだけじゃなくて、少しくらい事情を説明しようよ……。


 どういう状況でギルがキレているのか分からないミケ姉さんは怪訝な顔をしたが、一部始終を見ていたコレットさんが事情を説明すると、深いため息を付いた。



「あのね、兄様。王宮で勇者に振り回されて、奴らの事後処理が面倒になり疲れ切っているのは分かりますが、こんな小さな子に八つ当たりは良くないと思うの」


「や 八つ当たりではない!」


「いいえ、八つ当たりです。 勇者に関係する物が全部嫌になるのは分かるけれども、この子は被害者よ? 私が過去視で見たから間違いないもの」


「……む」


「それに、サラはまだ13歳よ? 勇者のパーティに居た時に10歳だったのに、そんな幼い子が勇者を誘惑すると思いますか?」



 そういえば、ミケ姉さんは私の過去をスキルで見て知っている。

 国境の町でミケ姉さんに抱き枕にされながら寝た時にスキルが勝手に発動して私の過去を垣間見ちゃったんだっけ……。



「宰相様、一言申し上げてもよろしいでしょうか?」


「なんだ」


「勇者のパーティに居たのは事実ですが、あのパーティに居たことは私の中の黒歴史です。さらに申し上げるなら、恨み辛みをここで話そうと思えばおそらく三日三晩では足りないほど大嫌いです」


「そ、そんなにか!?」


「うふふふ、現在進行形で勇者たちに迷惑をかけられているのが宰相様なら、私は過去2年間毎日迷惑をかけられていましたからねぇ。被害の規模はそちらの方が大きいでしょうけど、年季が違いますよー、年季が」



 勇者に対する負の感情を表に出して不敵に笑うと、宰相様がドン引いた。

 ミケ姉さんは苦笑いをしているけれど、仕方ないじゃないか大嫌いなんだもの!



「そうだ、兄様がサラの魔眼を疑うのであれば、ここで兄様のステータスを鑑定してもらえばいいのよ」


「なに?!」


「ほら、その眼鏡外して!」


「あ、それは外さなくても目を凝らせばなんとなくわかります。スキルは……、ここで話すのも拙そうなので称号の方がいいかなぁ、誰にも知られてなさそうなのとかありますし?」



 魔道具があってもなくても、私には無意味だったことを伝えると、宰相様の顔色が悪くなった。見ようと思えば見られるけど、意図的には見ないようにしていたのに、失礼な!

 スキルを知られるということは、相手に手の内がばれるようなものだから、そちらはスルーすることにした。王国の中枢にいる人だから、どこで情報が洩れるか分からないしね。



「なんていうか、……こじらせてます?」


「なっ!?」


「むぐぅ……。わかりましたよ別のにします。……あと数年で魔法使いになれそうですねぇ」


「ええっ!?」



 宰相様は色々な称号をお持ちだったが、一つだけ直接言うのも憚られるような称号があった。なんか、こじらせていそうだったので、それだけ口にすると宰相様は顔を真っ赤にして私の口を押えた。

 これ以上、余計なことを言うなと言わんばかりに睨みつけられたので、仕方ないから違うのにするか……。

 ただ、少しだけ私に八つ当たりをした仕返しをすることにした。宰相様とミケ姉さんとコレットさんは育ちが良いから分からなかったみたいだけど、庶民のギルは分かっちゃったみたい。

ま、いいか。



 うーん、別のか。称号も無理だから、どうするか。本人的には、無効化してまで隠したいものみたいだけど、この場に居るのは、ギル以外は昔から宰相様を知っている面子だから、言っても大丈夫かなぁ?



「コレットさん、一つ聞いてもいいですか?」


「なんでしょうか?」


「宰相様の眼鏡を外したところって見たことありますか?」


「え、ええ。何度もございますよ。私は幼いころからアニスと一緒にミケーレ様の侍女をしておりましたから」


「じゃあ、宰相様の目も私と同じく魔眼ですね?」



 宰相様の眼鏡は、おそらく自らの魔眼の力を無力化する魔道具なのだろう。通りで魔眼についていちゃもんをつけてくると思った。

 私と違ってそれほど強い力があるわけじゃないから、魔眼を無効化することで魔眼特徴である色を違った色に見せることが出来たのだ。



「あまり強くはないですが、思念を読み取ることが出来る能力でしょうか?」


「正解だ」


「宰相様はそっち色の方が断然素敵ですね」



 宰相様はそう言うと、眼鏡を外して初めて私と視線を合わせた。

 眼鏡をしているときは、冷たい感じの灰色の瞳だったのが、本来の淡い菫色の瞳があらわになった。こっちの色の方が断然いいなと思い、私が微笑むと嫉妬ギルが私に抱き着いてきた。



「サラは、俺のなの!」


「ああ、もうわかったから。ギルが一番だってば、私は宰相様の目の色を褒めただけだから!」


「ならいい」



 じゃれ合う私たちを呆気にとられた様子で見ていた宰相様が、深いため息をついた。



「だから言ったでしょう。兄様。この子たちはいい子だって」


「そうだな。視野が狭くなるとどうにも駄目だな、余計なことを考えすぎてしまう……。サラとギルといったか、我が家の客人に大変失礼なことをした。すまなかった」


「あ、いえ。私たちも無礼なことを沢山言ってしまったので……」



 なんだか毒気が抜かれた宰相様が、妙にすっきりとした表情で私たちに謝罪をしてくれた。

 今考えると、私もギル(特にギル)も宰相様に対してものすごく失礼なことを沢山してしまった気がする。

 口を濁していると、宰相様は元はと言えばこちらに非があるからと苦笑いをしながら言ってくれて、私は心底ホッとしたのだった。






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