4-8(ギル視点)
その日の俺は物凄く上機嫌だった。
理由なんて簡単である。サラがとうとう俺と番になってくれたのだ!
彼女の義理のお兄さん?であるヴィクトルさんとのやり取りで、半ば成り行きのような告白劇ではあったが、二人の時なら抱きしめても文句は言っても俺の腕の中に居てくれるし、顔を真っ赤にしながら好きとか言ってくれるからサラの可愛さには正直悶えた。
そんな可愛いサラの照れ隠しの塩対応もなんのその、将来はドミニク師匠の弟子として恥ずかしくない鍛冶師として働きたい俺は、王都にいる間の修行先をドミニク師匠に紹介してもらった。
師匠に紹介してもらったのは師匠の甥で一番弟子のゲラルトさんだった。髭もじゃで筋骨隆々としているゲラルトさんであるが、髭がもじゃもじゃしている所はどう見てもドワーフなのに、何故か見上げる程背が高かった。師匠が生粋のドワーフなのに何故こんなに背が高いのだろうかと思ったら、巨人族とドワーフ族のハーフとのことだった。
俺の自己紹介もそこそこに、短剣を打ってみろと鍛冶師の槌を渡された。
ドミニク師匠の教えを反芻しながら無心で鋼を叩き、鍛冶スキルによる製造促進効果である程度の形が出来たところでゲラルトさんからここで働いても問題ないとのお墨付きが出た。
そこから、鍛冶場の裏手にある試し切りスペースに連れて来られ、好きな武器を選べと言われ、使い慣れているショートソードを手に持ったら、今度は剣の稽古のような感じになってしまった。ドミニク師匠の『鍛冶師たる者、武器も使えねばならん』という方針のせいだ。ここは真剣に打ち合わなければならないと思い、ミケーレさんやロビンさん達の打ち合いを思い出しつつ、相手をした。
「なるほどな……、剣術に関しちゃ伯父貴が教えたわけじゃねぇな? 師は誰だ」
「基礎は師匠だけど、最近じゃ齢には勝てんと言って相手にしてくれないから、近くにある冒険者ギルドで教えてもらいました。今はSランク冒険者のミケーレさんとロビンさんです」
「がははは!! 随分と贅沢な師を持ったもんだ!!」
ゲラルトさんは豪快に笑いながら、背中を叩きかなりの衝撃が俺を襲った。見た目は寡黙で気難しそうなのに、意外と陽気な性格のようだった。
「本当に俺もそう思いますけど……」
「なんだ?」
「かなり荒唐無稽な話なので、普通は信じないんじゃないかなと」
「まぁな、伯父貴からの手紙になければ、馬鹿も休み休み言えと言うところだな。しかし、明日からきっちり働いてもらうが、大丈夫か? 偉い貴族様のところに厄介になっているんだろう?」
「話は通してありますので大丈夫です」
「気まずいならこっちで下宿先を探してやってもいいが」
「いえ、番が一緒にお世話になっているので、むしろ離れたくないです」
「そうかそうか、獣族は大変だがもう番う相手がいるのなら安心だな!!」
ゲラルトさん、いやゲラルト師匠にはこんな感じで受け入れてもらうことが出来た。
明日からの予定を確認して、今日は帰っていいと言われ、思っていた以上に早く帰ることになったなと思いつつ、ゲラルト師匠の工房を後にした。
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王都の街は慣れていないのだが、サラと出かけた際に大体の場所を教えてもらった。一番大きな通りをまっすぐ進めば大きな広場に着くらしく、そこから道が商業地区や貴族街等に進む道に分岐するらしい。
まだ日も高く帰るには早いため、この際先日行った露店街をのぞいてみることにした。
工房から差ほど遠くない場所にある露店街は、昼を過ぎる頃になると人もまばらになるようで、先日買うか悩んだ『虎族の短剣』が売っていた店もこの日はもう店じまいをしてしまっていた。
少し残念な気分になりながらも、まだやっている店を冷やかしながら歩く。途中でサラに似合いそうな淡い紫色の石を見つけた。店主に聞いたところ宝飾に使うには色が薄くて人気がなく、この辺りの鉱山が産地で且つ結構な量が産出するとのことで石だけなら結構安かった。どうしようかと考えてゲラルト師匠の工房で彫金も出来そうだったことを思い出し、後で場所を使わせてもらおうと思い、悩むことなく購入を決めた。
サラに似合いそうなアクセサリーを考えながら、ほくほくした気分で貴族街の方に歩いていると、急に後ろから衝撃を受けた。
なんだ!?と思っていたら、俺と同じくらいの身長の人物が背中から抱きついていた。新手の掏りかと思い、無理やり引き剥がして距離を取ると、今度は俺に向かって訳の分からないことを言いだした。
「やっと見つけたぁ! 私の旦那様!!」
「はぁ?」
「何を言いますか、私と貴方は番じゃありませんか!!」
会った瞬間に俺のことを番と言い出したが、俺の番はサラだ!
目深にかぶったフードで人相が見えないが、匂いからするとおそらく猫族の女。しかも微妙に薬臭くて嫌な感じがする。
「俺にはサラっていう可愛い番がいる! お前なんか知らん!!」
「そんなはずはない。こぉんなにいい匂いがするんだもの……。それに虎族なら私たち猫族を守るべきよ」
俺が反論して相手にしないでここを去ろうとしたら、今度はうつむいてブツブツと呟きだした。
これだけは確実に言える!
コイツ、絶対ヤバい奴!!!
この女のじっとりとした空気が心底気持ち悪い。さっきから背中がゾワゾワするのは殺気に近い気がする。直感ではあるがここにいるのはヤバい気がして、俺は迷わず女に背を向けて逃げた。
だが、全力疾走で逃げたはずなのに女は何処までもついてくる。ってか、めちゃくちゃ早い! 俺との距離を縮めているんじゃないのか!?
直感で裏路地に入ったら確実にヤバい。一直線に貴族街の城門までたどり着くと、尋常じゃない様子の俺を見た門兵が一時的に匿ってくれた。その後、礼を言って通行証を出してロア公爵家の客人と分かった門兵が上司に報告してくれたらしく馬車を出してくれたことで、一応は無事にサラの元に帰ってくることが出来たのだった。
ロア公爵家の屋敷に戻ると、一目散にサラに抱き着いた。
やっぱりサラは、いい匂いがする……。
腕の中で頬ずりしながら、俺の番はサラだとマーキングしていたら、冷やかされるのが嫌なのかすぐに腕から抜け出そうとしたから、逃がさないように瞬間的に力を込めてしまった。コレットさんがサラを離してあげてはどうかと言ってきたが、俺の番を盗られそうな気がしてなんかもう駄目だった。
最終的にはサラの息が出来なくなるくらい抱きしめてしまい、しこたま怒られた。
しかし、俺の様子がいつもと違うことを察してくれたようで、早よ言えと言わんばかりの視線を寄越すものだから今日変な女に遭遇したと訳を話すことになった。
直感的にヤバいと思い逃げて来たせいで、話せることなんかはあまりなかったが、匂いで多分猫族だと思うと言うとサラの顔色が変わった。本人は気付いていないかも知れないが、サラは猫族と何かあったのだろうか?
それから、俺とサラが本当に番なのかと微妙に疑っている雰囲気があり、全力で俺の番はサラしか居ないと訴えたら、心配していないから大丈夫と言われて頭を撫でられた。サラも俺との関係に横槍を入れられるのも面白くないと感じていたらしく『面白くない』と呟いたのを聞いてしまい感極まって抱き着いてしまったが、この時ばかりはサラも怒らなかった。
怖いお兄さんたちに負けずに、アピールし続けてよかった!
そして、サラは少し思案して俺の腕の中から抜け出すと、この前出かけた時に持っていた鞄の中をあさり、何かを俺の前に突き出した。
「面白くないし、ギルも心配だからこれを渡しておく。本当は研ぎに出して綺麗にしてから渡そうと思っていたんだけど。一応このままでも守護の力は変わらないし……」
「え、これって!?」
「一緒に出かけたときに買ったやつ。ギルが真剣に見ていたし、効果もよさそうだったし、それにこれは虎族の人が持つ守りの短剣なんでしょ? 他の人の手に渡るより、ギルが持っていた方が良いと思っただけよ!」
サラが持っていたのは、俺が探していた虎族の短剣だった。まさか、サラが買っていたとは思わなかった。呆気にとられて思わず受け取ってしまった。今の俺に一番必要だろうからと、最後の方は照れてしまい早口になっていたが、俺の心配をしてくれるのが分かってすごく嬉しかった。
ジュリアスさんにサラに抱き着いているところを目撃され、後になって照れ隠しで叩かれたが、ツンデレでもこんなにかわいい番が出来て幸せだと、叩かれながらも幸せをかみしめたのだった。




