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4-6(セヴラン視点)

 目の前にいる友人がおかしい。

 いつものように執務室で書類に目を通していると、執事のクレマンがヴィクトルがやってきたと声をかけてきた。特に約束事もなかったのだが、いつものことだと思い執務室に通すように指示を出した。



 標準装備で顔面が麻痺しているのではないかと思うほど、表情が変わらないヴィクトルゆうじんなのだが、この度可愛い妹が出来たと興奮していたのは記憶に新しい。

 そのヴィクトルに出来た義理の妹というのが、私の妹であるミケーレが連れてきた娘であると聞いた時には大層驚いたものだった。

 本当に世間は狭い。



 そんな中、冒険者をやっているミケーレとその夫であるロビンが王城に召喚されることになり、保護者が居なくなると言う理由でサラとその友人であるギルを連れてきたのだ。

 侍女であるアニスを派遣するまで家事能力が死滅している妹夫婦の面倒を見てくれた恩もあり当家としては彼女たちを快く迎えたのだが、自分の義妹になるはずが何故ロア公爵家にいるのだと目の前の友人が少々荒れた。



 長い付き合いであるし、自分も妹を持つ身であるから分からなくはないが、会ったこともない妹に対して、ここまでシスコンがこじれることだろうかと首を傾げたくなる。

 ついでに、でかい図体が執務室に居座っているといい加減ウザくなってきた。

 父曰く、こいつの父親であるモンターニュ将軍も同じような状態らしいが、そこはサラの実母であるソフィア殿が上手く手綱を取ってくれているようだ。

 だが、こいつは手綱を取る相手が居ない。恋人の一人でもいれば違ってくるのだろうが、居ないものは仕方がない。

 埒もあかない仕方なくサラと出かける機会を作ってやったのだが、モンターニュ伯爵家に入りたくないサラと、なんとしてでも自分の妹として伯爵家に迎えたいヴィクトルを二人で出かけさせるのは何となく拙いと思い、サラの友人であるギルベルトを混ぜて三人で出かけさせることにした。




「……ヴィクトル。いい加減仕事の邪魔だ」


「サラが…サラが嫁に行ってしまう……」


「おいおい、嫁って……。サラはお前の義理の妹であって、娘ではないぞ?」


「そんなこと分かっている」


「現時点でサラは庶民だし、彼氏が居てもおかしくはないだろう」


「だが、彼氏なんて早すぎる!」



 三人で出かけさせたのは良いものの、この機会にギルベルトが思いのほか健闘したようで、なんとサラとギルベルトが恋人同士になってしまったのだ。

 これには驚いたが、私の母が言うには二人はいつ恋人同士になってもおかしくなかったようで、初々しい二人は私が見てもお似合いのカップルに見えた。

 ミケーレたちから見ても焦れていたようで、丸く収まって良かったじゃないかと思ったのだが、外出の最中に起きた告白劇に友人の方が真っ白になってしまい。二人が気まずそうな顔をしながら、真っ白になった友人を連れて帰ってきたのにも驚いた。

 真っ白になった友人は、我が家の手配した馬車で帰宅後にようやく我に返り、自分は認めんぞと言わんばかりに私に対して愚痴を言ってくるのである。始終こんな調子であるから鬱陶しいこの上ない。

 まぁ、父親であるモンターニュ将軍に言わなかったことだけは評価する。サラとギルベルトが付き合い始めたと知った瞬間に、ギルベルトを殺しに行きかねない。



「何を言うか、ミケーレは5歳でロビンと結婚すると言い張ったぞ?」


「それとこれとは違う」


「どこがどう違うと言うのだ?」


「お互い貴族同士だった」


「それを言うならサラとギルベルトは何の障害もない庶民同士だろう。まったく何度も言わせるな……」



 投げかけた問いの苦し紛れな言い訳に私はため息を付いた。

 脳筋の父親のフォローをする手腕は何処にいったのだ。見た目によらず柔軟な対応をするのがこいつの持ち味だと思っていたのだが、サラに関わると堅物になってしまうらしい。



「……」


「一応釘を刺しておくが、無理やり伯爵家の養女として迎えるようなことをしたら、確実に逃げられると考えた方が良いぞ?」


「……何故分かった」


「お前が考えそうなことを私が分からないとでも思ったのか?」



 私が言ったことを反芻しているのか、友人は何か思案しているようだった。まさかとは思うが、なんとなくこいつの考えが読めたため一応釘を刺しておくことにした。

 案の定、サラの預かり知れぬところで養子縁組を考えていたようで、無言になってしまった。


 サラ自身が伯爵家に入ったら自分の思うように働けないと言い切っているため、私には無理やり伯爵家に入れようとしたら確実に逃げるだろうなと容易に想像が出来た。

 何せサラには実績がある。元の経歴を見れば勇者のパーティに居た奴隷の身分だったが、周りに悟られることなく策を練り、長い時間をかけて準備を重ね、奴隷の身分の返上、勇者パーティからの逃亡の成功を果たしている程なのだ。

 おとなしそうな見た目の割に、意外と行動派。幼いながらも大人顔負けの策を練るのである。個人的に詰めは甘いが、世間知らずの勇者一行の裏をかくくらいは難なくやってのけるのである。個人的に将来が楽しみな人材であり、ゆくゆくは私の補佐に付くことも考えてくれないだろうかと考えたことも有るほどだ。

 話は反れたがそんな実績がある以上、ギルベルトを連れてモンターニュ伯爵家の権力が及ばない場所に逃亡しかねないとも思っている。



「だが、サラには分からんだろう?」


「いやぁ。無理に申請を出したら私が差し止めるから無理だろうな」


「お前は、どちらの味方なんだ!」


「ははは、何を言っている私はサラの味方だ。ミケーレの妹分である以上、あの子は私の身内でもあるしな」



 はははと笑って自分がサラの味方であると告げると、友人は本格的に頭を抱え込んだ。

 可愛げのない図体ばかりでかい男よりも、書類の整理から経理的な処理に至るまで王宮の秘書官よりも使える人材の方がよほど大事だ。

 今回の友人が仕掛けようとした養子縁組の件はオマケで解決しておいた方がサラの心象は良いだろうと思った。

 完全なる私情であるが、この機会にサラを通じてコレットとの仲を進展させておきたいために、サラほど強力な助っ人はないと断言できた。



「まぁ、なんにせよギルベルトはサラ一筋だ。サラを泣かせるようなことをしたら、殺しに行くような人物が周りに沢山いることも知っているから、泣かせるようなこともすまいよ」


「……だからと言って、サラを守るには奴は実力不足だろうが」


「それはそうだろう。私の母が認める程の剣に関する才能があるようだが、まだ成人前だぞ?」



 全く何を言い出すのかと思ったら、実力が足りないときた。

 ギルベルトに関しては、母の剣の才能を全く受け継がなかった私から見ても、同世代の少年に比べれば大分強い方だと思われる。嬉々としてギルベルトに稽古をつけている母の折り紙つきである。



「それにサラを守るに力不足であるなら、お前が稽古をつけてやるなりしてやればいいだけだろう?」


「敵に塩を送りたくない」


「馬鹿か」



 素面でくだを巻く友人に酒を勧め、へべれけになったところで執事を呼び自宅に送り届けた。

 なんにせよシスコンな兄たちが多いサラと恋人になったギルベルトは、今後が大変だろうなと思いつつ押しかけてきた友人のせいで進まなかった仕事に目を移したのだった。



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