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今回はヴィクトル兄様の引率である。
市民区画の商店街に出かけるため、私たちのお出かけの装いは持参したいつもの私服である。いつも張り切って衣装を準備してくれるコレットさんが、手持無沙汰気味だったのは見ないふりをすることにした。
廊下の前で待機していたギルと一緒に玄関ホールに向かうと、ディアーヌ様とミケ姉さんやら、アニスさんをはじめとした親しくしている使用人の面々もホールに待ち構えており、迎えに来てくれたヴィクトル兄様は何となく居心地が悪そうだった。
「サラ、何かあったら遠慮なくヴィクトル殿を頼りなさいね」
「うん」
「ギルベルトも自分だけで解決しようとは思わないことだ。今回は引率が居るから迷わず頼るようにな?」
「はい! わかりましたディアーヌ師匠!!」
「妹とギルを頼んだぞ、ヴィクトル」
「分かっている」
それから、見送りの面々の中には何故かセヴラン様も混ざっていた。多分、チラチラとコレットさんに視線を流していたからコレットさん目当てだと思う。
ギルと私は時々ディアーヌ様から自分の息子がヘタレで困ると愚痴を聞かされるため、何と返答すればいいのか困ったので、こういった機会に何となく仲を取り持つようにしているのだが、ヘタレと鈍感さで始末に負えない。
「こんな強面でも頼りになるから、遠慮なく頼ってやれ」
「強面とは何だ、セヴラン……」
「お前の顔が怖いのは事実だろう? 社交界で対面したご婦人がお前の無表情ぶりに何人泣いたと思っているんだ」
「……」
確かに、セヴラン様の言う通りヴィクトル兄様は父親似であるため、見た目が整っている割に雰囲気が怖い。しかも表情筋があまり動かないうえに、父親関連のトラブル処理のせいか眉間の皺が癖になっているようで怖さが五割増しくらいになっている。
っていうか、社交界でご婦人が泣いたっていうのは、はたして文字通りの意味なのかが妙に気になった。強面な割にモテるのだろうか?とか下世話な考えも頭を過ったが、そのあたりは深く考えないようにするのが正解な気がした。
それにしても、セヴラン様をはじめとして、会う人会う人に必ず何かあったら同行するヴィクトル兄様を頼れとも口を酸っぱくして言われた。
何故だろうと不思議に思っていたら、モンターニュ将軍の関連で多方面から頼りにされているため、貴族の知人が半端なく多いらしい。ちなみに現役宰相様のお墨付きで、モンターニュ将軍関連のトラブル解決で恩を相殺しているのかと思ったら、きっちりと恩も売り込んでいる手腕を持っている人だった。
セヴラン様に教えてもらうまで、そんなヤリ手とは知らなかった。それならトラブルに巻き込まれても切り抜けられるだろうとは思ったが、何かトラブルに巻き込まれないように自衛をするに越したことはないと思った。
久しぶりに訪れた王都の市民街は人であふれていた。
露店が並ぶ市場は特に人が多く、スリも多いから気を付けるようにとヴィクトル兄様にギルと二人で注意された。
なんだかんだと心配性なヴィクトル兄様であるが、今回の行き先が市民区画に貴族だと丸わかりの服装で行くわけにも行かず、質の良いシャツにスラックスといった騎士が私用で外出するときの服装をしていた。ただし、パリッとした糊のきいたシャツを着ていなければ、ガタイの良さと強面さでどこぞの用心棒だと思われてもおかしくないと思った。
「結構、お店が入れ替わっているなぁ」
「そっか、サラは来たことがあるんだっけ」
「うん。まぁ、その時は色々あったから見て回る余裕なんてなかったけど」
確か最後に王都の商店街に来たのは、勇者と旅をしている時であるから、二年ぶりくらいだろうか。記憶にあるお店が違うお店になっていたりして、市民街は結構な頻度で商店が入れ替わっているようだった。
露店などは基本的には蚤の市のようなもので、いらなくなった装備や自宅で使わなくなった魔道具やアクセサリーも売っている。
基本的には小物類を中心的に見て回るのだが、目につくものを一通り鑑定していくと価値のある物やガラクタ同然の物、少し通りから外れた場所にあるような露店には呪いがかかっていそうないわくつきの物が並べてあったりして見ていて楽しい。
ヴィクトル兄様もこの場所には初めて来たようで、興味深げに中身が抜かれた魔道具を手に取っている。
……え、まさか買うつもりじゃないよね?
並べてある商品を鑑定しつつ眺めていると、別のお店から客引きが入ったりもする。
まぁ、順番に見て回っているから次に見に行ってもいいかなと思うのだが、客引きのセリフの中に私の容姿を褒める枕詞がついているとギルがあからさまに威嚇する。ヴィクトル兄様もなんか雰囲気が怖い。
「そこの可愛いお嬢さん、このアクセサリー買っていかないか? 綺麗な髪にぴったりだよ」
「そんな古びたのより、こっちの方を見て行ってよ!」
「あ、そっちの古めの方を見たいので、見せてください」
古いもの好きかと思われたようで、古びたものを扱っている人たちが次から次に声をかけてきたりするが、私は別に古い物が好きな訳ではない。
「サラ、これはどうだ?」
「精巧な刺繍の入ったレースですが、申し訳ないですが質が悪いですね」
「なら、これは?」
「ごめんなさい。ヴィクトル兄様。私は特別古い物が好きという訳じゃないんです」
客引きが私に古いアクセサリーを見せて回るため、ヴィクトル兄様に勘違いされたようでしきりにこれはどうかと古びたレースやら、宝石の質だけは若干良い錆びた銀のアクセサリーなどを持ってこられたが、何度も言うようだが私は特別に古い物が好きな訳でない。
オブラートに包んで断ると厄介なことになると思ったので、ヴィクトル兄様には申し訳ないが、ここははっきりと断らせてもらった。
あからさまに落ち込まれてしまったが仕方がないと、心を鬼にした。
その後も露店を見て回り、以前見たことがあった魔力切れのアクセサリーなどを中心に見て回り品質が良さそうな物をいくつ購入した。
たかが魔力切れのアクセサリーといえども侮ることは出来ない。魔石化している宝石に宿っている効果と品質が良ければ武器や防具を新調するよりも手軽に自身の強化が出来る。きちんと魔力を補充してあげれば元のように効力を発揮するので冒険者たちに高く売れるのだ。
いくつか気になる店を冷やかしつつ、自分の中の相場の情報を更新していく。気になる店があれば、ギルも行きたいと言ってくれるのでこちらも付き合いやすい。武器や防具に関しては、私よりも本職のギルの方が相場に詳しいくらいでこちらも話をしていて楽しい。
その中でギルが熱心に見ている短刀があった。
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名称:闘虎族の短刀
状態:D(A+)
効果:守護Ⅱ
虎獣族が作った短刀。一族の守り刀として珍重される。鞘に魔力を込めた琥珀の装飾がある。錆びついてしまって鞘から抜けない。
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闘虎族の短刀か、ギルに丁度いいかもしれない。
残念なことに刃が錆びてしまっているようだが、素人の考えではあるがどうにか研げば何とかなるのではないだろうか。そうでないなら、家に帰った後でドミニクさんに相談すればいい気がする。
効果である『守護Ⅱ』は錆びていても発動しているようだしと、少し考えて値段次第で買うと決めた。
「おじさん、この短刀はいくら?」
「銀貨5枚だね」
「短刀にしては安いんだね」
「ああ、これな錆びついちまって抜けねえんだ。まぁ、装飾は綺麗だから、いわば処分品だ」
この金額なら処分品としては少し高いが問題ない金額だった。ギルとヴィクトル兄様が別の店に行こうとしているところで、お店の人に話を聞いて即購入しておいた。
後で渡せばいいやと思いつつ、鞄の中にしまっておいた。




