表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/34

4-1

 本日は晴天なり。

 王都にやってきてから初めて外出の許可が下りたため、ギルとヴィクトル兄様と三人で市民区画の商店街にやってきている。

 ヴィクトル兄様も一緒なのは、何かあった時に対処ができるようにとのことらしい。


 相変わらずいつもの鉄仮面っぷりなヴィクトル兄様とは異なり、ギルは隣を歩いている時に色々と突っ込みどころ満載な妄想を口に出していたりしていた。まぁ、私が不安をあおったせいもあるのだが……。



「ハッ!? まままま、まさか、サラを名実ともに伯爵家の一員にしたいから、嫁にするとかじゃないよな!?」


「……何を馬鹿なことを言ってるの」


「だって、最近よく公爵家にやってくるじゃないか……」


「父親が、自分たちよりも爵位が高いお家に頻繁にお邪魔をするから、連れ戻しに来ているだけでしょうが……」


「でもさ、サラかわいいし、お母さんがあんなに美人だから、将来絶対に美人になるよ?! それを見越して嫁にしたいと思ってもおかしくない!! でも、サラを嫁にするのは俺だから!!」


「あーもー……。わかったから、ちょっと黙って頂戴」



 ヴィクトル兄様が今回の外出に付き合ってくれたのは単純な親切心と、母曰く私と一緒にお出掛けがしたかったらしい。だが、ギルが深読みをしすぎてヴィクトル兄様が私を嫁にするのではないかとか、色々と言ってきて暴走しかけたが、背後が騒がしいことに気が付いたヴィクトル兄様が振り向いたことで、騒ぎは一旦終了となった。





 何故このタイミングで外出ができるようになったかというと、先日の竜族の国が魔王討伐に参加することがきっかけになったらしい。



 珍しく何時も突然やってくるモンターニュ将軍が、セヴラン様が一緒に屋敷にやってきた日があった。

 いつものような破天荒な様子は影を潜めており、真面目な話をしに来たようだった。


 長い時間をかけた話し合いは、ミケ姉さんやロビン兄さんも含めてロア公爵様の執務室で行われ、その話し合いの内容の大まかな内容は私たちにも伝えられた。


 何でも竜族の飛竜部隊が今回の魔王討伐に加わったことで、勇者を含む騎士と冒険者の混成部隊の実力を測りたいらしく、一時的に第四騎士団が管轄する砦に拠点を移すことになったらしい。



「じゃあ、お姉ちゃんたちもそこに行くことになるの?」


「今は行かないけれど、いずれは行くことになるでしょうね」


「先行隊はワシと勇者だ。あの者、女が関わらなければ特に問題も起こさんからな。聖女と一時的に引き離すのが良策と判断したのだ」



 思っていたよりも話し合いが長引いたため、晩餐にはモンターニュ将軍も同席していた。

 将軍は勇者と共に、先発部隊として入る騎士たちと一緒に行動することになるらしい。まずは、現場を見せて戦場を肌で感じさせることから慣れさせるつもりとのことだった。



「確かに、女好きという点ではトラブルを起こしていたが……」


「ああ、特に女と政治と関わりがある者は絶対に近くに寄せてはならん。あ奴の特殊スキルがどう反応するかわかったものではないからな。本人に直接的な影響がないから楽観視しているが、周囲に影響がありすぎる」



 モンターニュ将軍が言っている特殊スキルは、おそらく『バタフライ効果』のことだろう。私も勇者のステータスを視た時に、本人の周囲に関わりのある者に効果を及ぼすらしいが、具体的な内容までは分からなかったのだ。

 勇者に関わりが深くなるであろうセヴラン様とモンターニュ将軍に、こっそりと耳打ちしておいたのだが、一緒にいる時間が長かった将軍にはその特殊スキルが及ぼす影響が分かったらしい。



「奴め、どうにも戦いにおいて楽観的な考え方をするから、異世界での暮らしぶりを聞いてみたら、住んでいた国は魔獣の脅威すらなく戦争は他国で起きている情報を聞くのみときた。しかも、自国の戦争は既に70年近くもしておらんのだからな……」


「初めて会った時にその話は聞きました。なんと平和な国かと思いましたが、協力をしてくださるときいて考えを改めたのかと……。魔獣の討伐も問題なく行えたと報告もありましたし」


「セヴラン殿。持って生まれた価値観なんぞ、そう変わりはせんよ。なんと言えばいいのか……。ワシが稽古をつけ始めてから気が付いたことではあるが、勇者は魔獣と戦いや剣を振るうことを一種の遊びと考えていた節があった」


「ああ、それは私も感じたことがあります。命のやり取りをするのだから、真剣に考えろと叩きのめしましたが」


「そうだろう、ワシもある種の戦闘狂の類かと思ったがあれは違う。単純に自分は死なないと思っているだけだ。命を懸けて戦うのだから、そこに遊びという要素が加わるのが可笑しいのだが、自分が死にそうな目に遭ったら脆いだろうよ」



 よくよく考えれば私にも思い当たる節があった。

 勇者は良く『ゲームと同じ』と言っていた。異世界には同じような遊びや娯楽があったらしく、それに自分たちを当て嵌めてレべリングをしていた。油断をしているのとは違う、違和感がそこにあったのだ。

 私は戦うことが出来ないから、ミケ姉さんやモンターニュ将軍が言っているようなことは詳しく理解できないが、言わんとしていることは分かった。



「ミケーレ達に聞いた限りでは一方的な情報しかなく、尚且つサラにした仕打ちを思い起こせばどれほど性根が曲がった人物かと思ったが、ワシから見れば政治的な思惑と特殊スキルに振り回された浅はかな少年だ」


「その辺りに関しては、私の不徳の致すところです……」


「いや、きちんとした教育係も付けていたのだろう? 勇者の特殊スキルに振り回された感も否めないが、自分を戒めることなく色欲に奔り味を占めてしまった勇者もまた問題だったのだ」



 その点に関しては誰も異論を挟めなかった。

 私は勇者が王宮に居た頃の話は聞いたことがなかったが、旅をしていた時の爛れた生活を見ていた限りだと容易に想像がついたのだ。

 後は、政治に関する話になり色々と他の話を聞きたくもあったが、子供はそろそろ寝る時間だと言われて、ギルと共に部屋に戻ることになった。



「なあ、サラ……」


「なに?」


「ずっと聞いてみたかったんだけど、勇者のこと聞いてもいいか?」



 部屋に戻る途中、ギルが申し訳なさそうに勇者の話を聞きたいと言ってきた。緊張した面持ちで耳がぺたりと寝てしまっている。そんなに緊張するようなことを聞きたいのかと思い、とりあえず部屋に入るように促した。



「あのな、サラは勇者のことをどう思っているのかなって……」


「え、嫌いだけど? なんでそんなことを聞くの?」


「将軍の話だと、そんなに悪い人じゃないみたいだったから」



 私とミケ姉さんたちが話している勇者と、モンターニュ将軍が話した内容がギルの中で一致しないのではないかと思ったら違った。

 なんというか、もっと根本的なことだった。



「別に悪い人じゃないよ? 今考えれば常識知らずだったとは思うし、異世界の常識なのかは知らないけれど、礼儀正しかったし」


「じゃあ、なんで?」


「なんでかって聞かれると、生理的に受け付けないっていうのが正直な所なんだけど……。女の子はやさしくすれば、俺に惚れるとか素で考える人で、私が奴隷商人から勇者の奴隷になれば、確実に待遇が良くなる! とか、そうなったら問答無用で惚れるだろうとか、頭の中がお花畑じゃないのかと思ったの。それに俺を取り合っている女の子かわいいとか思って、他人を害するほどの嫉妬を制御しないで女にうつつを抜かしていたから、それを全部含めて嫌いなの」


「そっか」



 ギルにそこまでの話をすると、少しは安心したようで、お休みと言って部屋に戻っていった。


 一人になった部屋で、モンターニュ将軍の話したことを反芻すると、ギルが思ったように、モンターニュ将軍の勇者の話は私が感じた印象と異なることに、まず驚いた。

 私やミケ姉さんたちは直接的な被害が大きかったために、勇者に対して良い感情を抱けないが、モンターニュ将軍の話を聞いた後では勇者に対する印象は、人によってがらりと変わるものなのだと思った。

 だからと言って、ギルに話したように私が勇者のことが嫌いなことには間違いはない。一緒に旅をして抱いた印象は撤回しがたいものなのだ。

 


 ただ、アサギさんとモンターニュ将軍の話を聞いたうえで、一つだけ確信したこともある。

 勇者は私にとっての脅威なのではなく、一番危険視するべきなのは聖女だと言うことだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ