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脱ハーレム勇者パーティ ~サラの王都滞在編  作者: kay
第三章 訓練場の乱
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3-6

 今回の軍議に集められたのは、前回と同じくSランク冒険者と騎士団関係者たちだった。

 勇者のパーティから抜けたクロエは図々しくも、ロビンの隣に座ろうとして私とレンカちゃんに阻まれて悔しそうな目でこちらを見ていた。

 本気で勇者に未練がないようだった。



 陛下が席に着く前に、兄様が見慣れぬ装束の老人と大男を連れて軍議に顔を出した。

 宰相と一緒に居る人物が誰だと、騎士団長からざわめきが起きている。冒険者たちに関しては、知っている様子の者もいれば、我関せずといったものまで様々だ。



「静粛に! 此度の魔王討伐に際し、空の勇と名高い竜族飛竜部隊が参戦することとなった!」


「わが国の騎士団も勇猛揃いであるが、飛行する魔物に対して有効な攻撃を与えられるものは限られておる。竜族の中でも強者の一族とされる赤竜族の長であるディクタトィール殿と、飛竜部隊を率いるウィクトーリオ殿だ」


「我は竜族の第4公子、ウィクトーリオだ。我ら竜族一同、此度は魔王討伐に参戦することと相成った。我が国の主戦力である、飛竜部隊を率いることになる」



 紹介を受けた竜たちは頭を下げることをせず、軍議に出ている面々を睨みつけるように見渡し、ある一点で止まった。同族であるクロエは、彼らの姿をとらえると顔面蒼白になり忙しなく視線を動かしていた。余程同族たちに見つかりたくなかったようだった。

 ウィクトーリオと名乗った飛竜部隊長は軽く挨拶をして、飛竜部隊の50名も冒険者と騎士たちに交じって訓練をすることになった。

 ただし、訓練と言っても飛竜を30頭も連れてきているため、王都の訓練施設には居場所がないとのことで、王都に5頭を残し各地の騎士団に分散することになった。竜族の国の主戦力を連れてくるだけでなく、兵站を担う地竜も遅れて到着するとのことで、騎士たちの間にはどよめきが起きた。

 兄様は竜族の国にどれだけ恩を売ったのだろうか……。





 軍議の後、彼らとの交流を深めるために冒険者と騎士たちは訓練場に移動することになった。訓練場には既に王都に残る5頭の飛竜がおり、慣れぬ場所故がかなり騒がしかった。

 紅竜族の長ディクタトィールは、軍議では何も発言せず顔出しだけで終わるのかと思いきや、訓練場にもついてきて冒険者や騎士たちには目もくれず、クロエの目の前で立ち止まった。



「久しいな。我が娘、クローティエスタ」


「な、何故ここに!?」



 ディクタトィール氏を視界に捉えたクロエは、彼から逃げるようにじりじりと後退した。

 紅竜族の長の深紅の瞳に宿るのは冷たい光。そこに実の娘に対する、慈しみはかけらも存在しなかった。



「私がお呼びしたのだよ、クローティエスタ殿。魔王討伐にはどうしても竜族の力が必要であったのでね、貴女がこちらに居るとお伝えしたのだ」


「き 貴様のせいか! ミケーレ・クライフ!!!」



 兄様がディクタトィール氏の後ろからやってくると、情報がどこからディクタトィール氏に伝わったのか理解したのだろう。途端に私の顔をにらみつけ権力云々と暴言を吐き捨ててきた。

 わぁわぁと喚くクロエは、敵視している私しか見ていなかった。


 兄様が来たことでクロエには公爵家で得た情報だと誤解させることが出来たが、元はと言えばサラが教えてくれた二つの情報だった。

 一つはクロエの本名。冒険者ギルドは偽名でも登録ができるため、本名を偽って登録をすることが出来る。そのため冒険者ギルドも名前を知らない者も多数居り、サラがクロエの本名を知っていたのは、魔眼のおかげと言ってもいい。

 そして、二つ目は探し人の依頼だった。名前と性別・年齢・外見の特徴と失踪したときの状況などが書かれているだけで姿絵すらないその依頼書は、所謂『塩漬けの依頼』と呼ばれるものだった。この依頼に関しては、受理した日付から既に三十年以上も経過しており化石と言っても過言ではなく、あまりに古すぎて目立っていたのではないかと思われるほどだった。


 勇者のパーティに居たサラはその古びた依頼を見つけた際、長命な種族でない限りはとっくに死んでいるか、生きていても三十年も経っていたらお婆さんだなと思っていたらしい。

 そんな中で、クロエが仲間に加わり、鑑定眼で視てしまったクロエの実の名前が依頼書の中身と一致。まさか本人ではないだろうと思ったらしいが、クロエ自身がこぼした旅の理由を聞いて、これは本人に間違いないと確信を得たらしい。

 他のハーレムメンバーのようにクロエと何かトラブルがあったら、冒険者ギルドに情報を提出してしまおうと温めていたネタらしいのだが、無関心(クロエ)人間不信サラがそこまで積極的に交流するわけもなく、お互いがハーレムメンバーの中ではまぁマシ程度の関係であったため、サラはギルドに提出することもなく債務を返済し終わり、パーティから抜けて二人の関係が切れたということだった。



「たわけ者めが!!! 第二公子殿との婚約を反故にしたばかりか、こんな場所で男漁りをしているとは思わなんだ! しかも、人族とはいえ国の重鎮である者の夫に手を出そうとするとは、この一族の恥知らずが!!!」


「っ、 しかし、父上には以前からその婚約は受けられぬと言っていたではないか!! それを聞き届けられないのであれば、他国に逃げるしかないだろう!!」


「我が、娘ながら呆れたものだな……。我が一族から公子の一族に娘が嫁ぐのは、昔からの決まり事。幼い子供ですら知っておる。年の近い男女が居るのであれば、なおのこと守らねばならぬ盟約である。さもなくば紅竜の一族は古竜の加護を失うのだ」



 既にディクタトィール氏の中では、娘は死んだも同然なのだろう。あまりに馬鹿げたことばかりを口に出しており、クロエが口を開くたびにディクタトィール氏の目から感情が消えていくのが分かった。

 プライドの高い竜族が人族の国の主体で魔王討伐に助力しなければならなくなったのも、目の前に居る自分の娘の不始末故であるため、それが許せないというのもあるだろう。


 事情は分からずとも、クロエの婚約は一族同士の契約だったらしい。

 話をつなぎ合わせて推測する限り、政略結婚が嫌で国から逃亡したのだろう。ディクタトィール氏の雰囲気からすると、最悪の手段であったことは明白だった。

 身分故に政略結婚を迫られる辛さは分かるが、クロエが私に対して権力云々と突っかかってきたのは、そういった背景があったからだろうか。諦めるか説得するかという手段が取れなかったのであれば、私の立場は妬ましかっただろう。

 だが、それらは私たちに対する暴言の免罪符にはならない。



 ディクタトィール氏は傍に控えていた竜族の男たちにクロエを拘束するように命じた。

 男たちはいとも簡単にクロエを捕縛した。男女の体格差はあれども、捕らわれないように身構えていたクロエは、曲がりなりにもSランクの冒険者であるのに、それほど呆気なかった。

 戦闘を得意とする長命な種族の実力を目の当たりにして、私たちはただ驚くしかなかった。



「宰相殿、此度は我が一族の恥が大変な迷惑をかけ申し訳なかった。この者は自国に連れ帰り、二度とこの地には足を踏み入れることはないだろう」


「いえ、我らは事情が事情でしたのでお伝えしたまで……」


「では、此度のことは水に流すと?」


「ええ、今回のことは偶々・・掴んだ情報にご息女の名があったため、お伝えをしたまで。空の覇者である竜族の国との結びつきを作ることが出来たのは、誠に僥倖でした」


「……第二公子殿は此度のことで婚約者を取り戻せたことでさぞかしお喜びであった。この国に力を貸してやれと言ってきたほどにな」


「ありがたいことでございます」


「ふん! 食えない若造が……。我はこの者を連れて国に戻る役目がある故、これにて失礼をする」



 呆然としている私たちをしり目に、兄様は淡々とディクタトィール氏と話を進めた。

 拘束されたクロエはこちらを睨みつけ呪いの言葉を吐きながら暴れていたが、うるさいと判断されたようで男たちに意識を刈り取られ、そのまま最終的に飛竜に乗せられてディクタトィール氏と国に戻っていった。



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